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プランB 15


ヒロとジュンが搭乗するタンカーの航宙は順調で、地球圏に向かってガニメデを出発してから3か月が経過した。

航宙予定期間の約半分を無事に消化したことになる。


人類(・・)が保有しているタンカーは20隻あり、全てのタンカーは人類共通の財産として運用されている。

建造費用や運航費用など諸々の費用は全ての国家が拠出しており、拠出金に見合った量のヘリウムを入手できる。


拠出金を十分出せない国でもその他の国から融通されているから、エネルギーに関しては不足していない。

拠出金が少ないからタンカーの運営に関しての発言権は無いのだが、エネルギーに関しては不足していない。



ヒロとジュンの国では、経済大国なのだから余分に出して当たり前だと言った政治家達もいたのだが、今では政党ごと消滅している。

拠出する資金は国民の税金で政治家のポケットマネーではない、どうするかを決めるのは国民で、政治家の見栄で決めるものではない。

消えて当然だろう。


おまけに、最大政党の中の影響力が高い極々少数を把握できれば国会全体を自由に操れるという、民主主義の真逆に向かって爆走していた派閥主義も取り除かれた。

地球の温暖化と急激な気候変動が収まったのに比べれば、極々些細な話ではある。

民主主義万歳。


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20隻のタンカーは積み込み・積み下ろしや、メンテナンスでドッグ入りしている船を除き、(地球とガニメデの位置関係で多少増減はする)概ね10隻が地球圏とガニメデ間を航宙している。

タンカーで緊急事態が発生して船を捨てて脱出することがあっても、しばらく待っていれば別のタンカーに救出してもらえる。

可能性がある。


ヒロとジュンが乗るタンカーも、三日前にガニメデステーションに向かうタンカーとすれ違った。

地球 - ガニメデ の位置の関係で二隻の距離はかなり離れているのだが、すれ違う船同士は定型のメッセージを送信しあい互いの無事と位置を確認した。

だから安全と言う訳でもないが孤立無援と言う訳でもない、タンカーの運航には十分に配慮がされている。



そのヒロとジュンが搭乗しているタンカーの食堂には非番の者が全員揃っていた。

食堂には、遠心力と加減速の慣性を利用した疑似引力がある。

ヒロとジュンはもちろんとして、非番の兵士やタンカーの乗員も揃っている。

非番でないのに食堂に居るのは、ヒロとジュンを除けば二人を護衛している兵士だけだ。



食堂に備え付けられている大型モニターには、男女一人ずつのアナウンサーが映し出されている。

二人は各国のテレビ局が懸命に競った中で選ばれた、実力と幸運の持ち主だとされている。


実際はシュタインリッヒ博士が適当に作った日本式アミダくじで当選しているだけだが、ここでそれを知っているのはヒロとジュンだけ。

そんな事が許されたのも、それ以前に充分審査が行われているからだ。

アミダくじに名前が載る前に、厳密で厳格で慎重な審査が実施されており、その後なら誰がどんな方法で選んでも大差なかった。


事前の審査をどこの誰が実施したのかヒロとジュンには知らされていないが、彼の国の関係者は全て排除されている。


ちなみに彼の国は、日本のメディアに資本を入れることで日本叩きや日本をディスることに熱心だ。

『 日本でもっとも食されている鍋料理はキムチ鍋 』 と放送した番組が在るほどだ。

台本に書いてあるからとそのまま読み上げた司会者も含めて、それで何をしたいのか分からない行動だが彼の国の人々には重要な事らしい。


ヒロとジュンは日本人である。

彼の国の資本が入っているメディアや、彼の国の意向に沿った偏向放送をするメディアは初期の段階で選考対象外となっている。

三人中二人が日本人だということを考慮して今回の処置がなされている。

逆のパターンなら間違いなく日本人は排除されるだろうから、お互い様と言ったところだろう。




二人のアナウンサーの背後には窓と壁が映し出されていて、二人ともスーツを着ている。

スーツと言っても宇宙で着るスーツで、間違っても地上で言うスーツではない。

いわゆるフライトスーツと言われるものだ。


地上を離れる際に着用する与圧服やフライトスーツに男女の区別はそれほど無いが、二人は上手く自分流に着こなしており、さすがに実力派のアナウンサーと言えるだろう。

服がニュースを読むのでは無いが、見た目は重要である。



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『 ・人類は新たな世界へと踏み出そうとしています! 2年前、シュタインリッヒ博士が提唱したワープ理論は、今日! 今! まさにこの瞬間に現実のものとなります! 』


『 ・そうですね! 人類の長年の夢であった光速を超える航行であるワープが実現します! 私たちはこの目で、人類の歴史の新たな一歩を見ることが出来る訳です! 』


モニター内の二人のアナウンサーは顔を赤くして、テンション高く喋り続けている。

無重力空間に来るとしばらく頭部へと血液が集まる現象、ムーンフェースが原因だけで顔が赤いのではない。


「 司会の二人、テンションが高過ぎじゃないか? 」


「 でも地球圏じゃ、みんなお祭り騒ぎみたいよ 」


食堂のモニターの前列、一番の特等席にはヒロとジュンが座っている。

今日の主役の内の二人(・・)だから当然と言えば当然だ。


別にモニターに近いから特等席と言う訳ではない。

現にモニターの両サイドには複数の兵士が銃を構えて立っているが、彼らのいる場所を特等席と呼ぶ者はいないだろう。

むしろ特等席とは正反対の場所になる。

ちなみに兵士は食堂の4隅にも立っている、もちろん安全装置を外した銃を持ってだ。



二人のアナウンサーはテンションが高いまま、これから行われる実験の内容と二人の科学者、シュタインリッヒ博士とジュン博士のプロフィールを紹介している。

ヒロの事もついでに紹介している、チョコとだけだが。


これから行われる実験は、月近傍宙域から火星近傍宙域への短距離ワープである。

初回(・・)だからもちろん無人で、あらゆる生命体は搭載していない。

ワープを主な要因として、おかしな病原体や人類に害を及ぼすナンチャラ生命体を生み出す訳にはいかないからだ。

と解説している。


徹底的にバクテリアやウイルスも除去はしているが、絶対ではない。

絶対を信じているのはお子ちゃまと、ゲームをやり込んでるから俺は最強だと言ってるヤツだけだ。

最強なのは中の人一択なのだがそれが理解できないのだ、困ったものだ。



ムーンベースに居る司会者からの質問に適当に返事をしつつ、ヒロはそんな事を考えていた。

彼はエンジニアで、アイドルでもなければ科学者でもない。

ニュースの主役になって目立ちたいなどとは思っていないから、インタビューは面倒なだけだった。


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