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プランB 14


最初のムーンベース出張が終わり、ヒロが自作のワープ機関の模型(ホール通信装置の原型の事だ)を自宅に飾り終わったころ。

ヒロは上司から、もう一度ムーンベースへの出張を命じられた。


『 上が決めたことだ 』


ムーンベースへの再出張を命じられたが、タバコが吸えず、オマケに科学者の溜まり場になっているムーンベースへ長期出張になんて行くつもりがなかったヒロは上司の態度に反発した。

以前から上司や会社に不満がつのらせていたヒロは、その場で上司に退職届を叩きつけて総合電機会社を退職した。

前から用意していた退職届はところどころ傷んでおり、彼が我慢に我慢を重ねていたことを表していた。


その日のうちに総務課で届出を完了し、彼は会社を去った。

上司は引き止めなかった、会社にとってヒロは大勢いるうちの一人でしかない。

エンジニアの代わりはいくらでもいるのだ。


会社が引き止めてもヒロは従わなかっただろうが、それは関係ない。

法律上は30日間は退職を延期できるのだが、それは有能な人間が辞めてしまうと業務が滞ると言ったやむを得ない事情がある場合だけ適用される。

ヒロの評価は低かったし(ボーナスの査定は常に1.00以下だった)、会社が訴えても許可を出すとは考えにくい。



ヒロが退職したと聞いて、ムーンベースでヒロを待っていたジュン博士とシュタインリッヒ博士は慌てた。 

ジュンが退職を取り消すように、わざわざ月から地球に来て説得しに来たが聞き入れず、ヒロは地元の実家に帰ってしまった。


ヒロは両親が遺した実家で、それなりの額になった貯金を使ってしばらくの間ゲーム三昧の日々を送ることになる。

ヒッキーなニートの完成である。

貯金がそれなりの金額になっていたのは会社がヒロを優遇していた訳ではなく、使う時間もなく仕事に忙殺されていたからだ。


ストレスにさらされ続けたヒロの胃は、豪華な食事なんかは受け付けない。

贅沢と言えば、牛丼並盛、卵、お新香、みそ汁付き、その程度だ。


ゲームを買ったり課金したり、フィギュアを買ったりもしていない。

時間が無くてやらないゲームは勿体無いから買わないし、フィギュアには興味が無い。

ヒロはアルコールが飲めないし、飲めても飲まないだろう。

彼はアルコールは効果と副作用が小さい麻薬でしかない、そう考えている。


そんなこんなでたまった貯金で、田舎で数年なら暮らしていける。

わずかな退職金と失業保険があればもう少し行ける。


ヒロは 「 一日8時間も働いたら、友達と遊ぶ時間が無くなる! ブラックだ! 」 何てことは言わなかった。

「 希望する仕事じゃない! 」 も言わなかったし、「 人間関係が無理! 」 も言わなかった。

そんな新入社員のクレームを、彼はアホになって聞き流していた。


入社したばかりの会社の将来性が判断できるのなら、自分で企業すべきだと思う。

会社の将来性が不明な状態で、会社の組織内の自分の将来性が判断できるのなら占い師になるべきだ。


だが、ヒロ達中堅社員はそんな新入社員より給料が低いのだ。

会社の人件費総額を抑えて新入社員の初任給を上げるには、どこかの給料を下げるしかない。

そしてそれは中堅社員になる、総合家電会社はそう判断した。

会社の利益を減らしてなんて案は、上層部の脳内に存在しない。

それが会社の上層部、経営陣と言うモノだから。



良く続いたよな、と自分ながらに思うヒロ。

後悔していないし達成感もない、解放感も無かったりする。

転出届に転入届、免許の住所変更も必要だ、やらなきゃいけない事は多いのだ。


ヒロは頑固であった、加えてエンジニアと言う人種は頑固である。

こだわりがあるとも言える。

ヒロは退職を決めた、彼は会社と決別することを決めた。

誰にも撤回できないだろう。


そんな彼だが、やがてジュンと一緒にガニメデステーションに出張になるのを知らない。

ジュンにお願いされたし、騙されたのもあるし、NASAの臨時職員の肩書にも釣られた。

誰にも撤回出来ないが、実は本人だったらあっさり撤回したりする。

それもまたエンジニアだ。


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ローズからの依頼、空間安定化装置のフィールド形状を変えて欲しいとの依頼。

最終的にヒロとジュンが選択したのは、空気を入れすぎたラグビーボールというか、中央が極端に太い葉巻型というか、それに似た形状だった。

凸レンズ状の極端に潰した形状にもできたが、それら2つの形状以外の任意の形状への変形は無理だと結論付けた。


「 ローズは満足するかな? 」


「 たぶん大丈夫だと思うわ。 あの娘が設計したカッコイイ宇宙船を見た訳じゃないけど、真ん丸よりは納得すると思う 」


「 だったら良いけどさ、変形させるのに余分なエネルギーを使うのが気になるんだよな 」


カッコ良さの代償として、無駄に消費されるエネルギーが在るのを気にするヒロ。

ローズは必須だと考えているし、ジュンは必要経費だと考えている。


「 今日中に結果をまとめてローズに送っておくわ。 ヒロは先に寝ててね 」


「 さんきゅ~。 でもまだ寝るつもりは無いから、コーヒー飲みながらゲームしてるよ 」


ヒロにとっては、無駄に分類される変形させる為のエネルギー。

ヒロはそれを少しでも削減するつもりでいるが、それは明日以降の作業にするつもりのようだ。

どうせ残業代が出ないのだ、NASAの予算は何時もギリギリらしい。


宇宙船内であっても、仕事が終わればプライベートな時間である。

タンカーの船員も、同乗している兵士も、シフトが終われば休憩時間でプライベートな時間だ。

嫌々参加しているヒロはその傾向が強く出ている。


ジュンに手を振ってから部屋を出ようとするヒロ。


実験室はタンカーの最外縁部に位置している。

実験で何か不都合があった場合は、部屋ごと射出して投棄出来るような設計になっている。

中で働いているヒロとジュンには何とも不安しかない構造だが、外の様子を直接肉眼で見えるのでヒロは気に入っていたりする。


実験室の窓から見える景色は色とりどり星々が、光の線を引きながら高速で流れる、なんてことは無い。

星々までの距離が遠すぎるし、光速で移動してるんでもないから。

それでも、太陽圏の惑星近傍を通り過ぎる時は別だ。

見たこともない風景を肉眼で見ることが出来る、(専用の喫煙室からも見えるが)ヒロはそれが気に入っていた。


喫煙室もやはり何か問題が在ったら中の人間ごと( 専用(・・)だからヒロの事だが )放り出されるのだが、それでも地球では見られない風景をヒロは気に入っている。


窓から見える風景を確認してから、もう一度ジュンに手を振って部屋へと移動する。

彼は部屋に戻ったら早速ゲームをやるつもりだ。

ゲーム専用の反応炉を持ち込み、専用のホール通信を利用してである。

家庭用とは比べ物にならないほど贅沢な初期投資で、電気代など問題にならないほど通信費用が掛かるのだがお構いなしだ。


それに、部屋に戻る前に疑似重力環境でコーヒーを淹れるまでがセットになっている。

コーヒーを淹れるのは勿論プライベートエリアでだ、

実に贅沢過ぎるゲーム環境なのだが、ホール通信のノイズが原因でゲームの進行が多少モタツクのが気にいらないとボヤくヒロだった。


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