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無人島生活三日目 貝のグリルと明日の予定

 熱されたPCの上で、じゅうじゅうと貝が焼けていく。

 連日、メタルボディのPCを酷使しているので、そろそろくたびれてきた気がする。

 焼き物に使える鉄板や金網を入手しないとな、と考える。

 

「なあ、ズーガー。焼く用の網とか鉄板とかさ……」


『ピピー』


 分かってますとも、とでも言いたげな乗りで、ロボットが相槌を打つ。

 むむっ、こいつ何か策があるな?


「アマチャ! ニー! レ、ニー!」


 ミュンが地面をぺちぺち叩きながら騒ぎ出した。

 おお、もう食べごろかな?

 一旦、冷ました温泉の湯で砂を吐かせたあと、こうして焼いている。

 貝の殻がパカっと開くと、中にはグツグツと煮えた肉が、丸々と太って……。

 これは美味そうだ。

 俺とミュンの腹が、ぐう、と鳴った。


「難しいことは抜きにして……食うか」


「ン!」


 PCの上から、アチ、アチ、と言いながら貝殻を取り上げる。

 これがまた、塩味しかしてないのに、貝の身が自分から旨味を出してくるので、大変味わい深い。

 もう、旨さしかない。

 はふはふとしながら、汁を吸い、肉を食う。

 ああ、この、弾力がある歯ごたえと、噛むほどに湧き出してくる旨味。

 今、肉を食っているという圧倒的な満足感……!!


「ムニュ! ン────!」


 さんざんふうふうと冷ましていたミュンが、一気にもぐっと口に入れて、ほっぺを押さえながら悶えた。

 気に入ってくれたらしい。

 やっぱり小さい子には肉もちゃんと食べさせないとダメだよな。

 

「アマチャ!」


「ほいほい。次行こうか!」


 どんどん乗せていくぞ。

 じゅうじゅうと焼けていく様を、二人並んで固唾を呑み、見守る。

 そんなことをしていたら、ズーガーがどこかに行ってしまった。

 彼は食事をする必要が無いのだ。

 日差しが強い時間帯は、わざと日が当たるところに出てきてまったりしている姿をよく見かけるから、多分太陽熱で発電しているのではないだろうか。

 俺が知るソーラーパネルは、相当電気への変換効率が悪いもので、屋根に設置しても無いよりはましだが、設置のコストと壊れやすさ、整備や撤去のコストを考えるとどう考えても大赤字になる代物でしかない。

 だが、ズーガーはちょっと日向ぼっこをすると、一日中もりもりと動き回ることができる。

 どういう技術なんだ。


「ニー!」


「煮えたか!」


 ミュンの合図を受けて、また貝を取り出す。

 さっきのは、アサリのでかい奴みたいだった。

 今度のは、細長い貝だ。

 棒みたいな貝殻が組み合わさっていて、どういう味がするか全く見当もつかない。

 ズーガーが毒なしと判定したから、安全なのだろうが……。

 俺がどう攻めたものか考えていると、物怖じしないミュンが勢い良く貝殻を開けた。


「チャ! ……オー!」


 どうしたんだろう。

 感嘆の声を漏らしている。

 俺がミュンの貝を覗き込むと、細長い貝殻にみっしりと、細長い肉が詰まっていた。

 丸っこい貝柱とは全然違うイメージだな。

 ミュンはまた、冷ますためにふうふうやり始める。


「よし、俺がやってやろう」


 俺はミュンの貝を、ふうふうと冷ましてやる。

 肺活量が違うからな。

 すぐに、貝は程よい温度になった。

 細いから、冷めやすい気がする。


「アーン」


「食べさせて欲しいの? いいだろういいだろう。アーン」


「ンッ! ンー!」


 細い貝をちゅるっと吸うように口に含んで、幸せそうな顔でもぐもぐと噛みしめるミュン。

 彼女の表情を見ているだけで、胸の中に湧き上がるこの満足感。

 守りたい、この飯の顔。

 俺も貝をいただくことにした。

 妙に細長い肉を、つるりと吸う。

 こいつは汁気が少ないと見たら、ねっとりとした餡状の汁をしているのだ。

 焼くだけで餡かけの貝肉になるとは……。細長い貝、実に罪深い。

 うっ……、肉の味が濃くて、こう……。


「ビールが欲しくなる味だなあ」


 俺は遠い目をした。

 だが、この無人島で、お酒など望めるものではないのだ。

 よし、いつか自分の手で酒を醸造してやろう。

 酒の作り方なんか全然知らんけど。


『ピピー』


 二人でわいわいと、貝の味で盛り上がっていたら、ズーガーが戻ってきた。

 何やら頭の上に乗せてくる。

 なんだなんだ。


『ピー』


「おや……それ……。ヤシガニに壊されたお前さんのボディじゃないか」


 まさしく、俺たちがズーガーとドリルを拾った時、回収しなかったボディだった。

 一見して、これは金属には見えないが……。

 きっとまた不思議な技術で作られたものなんだろう。

 明日からはこいつも活用して、焼いていってみようじゃないか。


「プウー」


 ミュンがお腹を撫でながら、後ろの砂浜にごろんと転がった。

 お腹がぽっこり盛り上がっている。

 いやあ、食べに食べたなあ。

 俺がつんつんとお腹を突っつくと、彼女は「ミュエ~」とか変な声を出した。

 お腹がいっぱい過ぎて動けないのかな?


「ありがとうな、ズーガー。そんじゃ、それを持って家に帰ろうか。どっこいしょっ……と!」


 ミュンを抱き上げる。

 すると、俺にムギュッと掴まってきた。


「アマチャー。ムフフフ」


「そっか、そんなに美味しかったかあ。これはちょくちょく、肉を食べないとな!」


 いつまでも貝の味を思い出して、にやにやしているミュン。

 彼女の頭を背中を撫でながら、帰途につくのであった。

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