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無人島生活三日目 えっ、俺のシャツがくさい!?

「エヘヘー」


 パンツを見せびらかすことに満足したのか、ミュンがにやにや笑いながら、俺に寄りかかってくる。

 外から見えるものではないが、新しい下着を作ってもらえて嬉しいみたいだ。

 彼女の考えていることは、大変分かりやすいのだ。

 俺も、頑張ってパンツを作った甲斐があったと言うものだ。

 さて、次はミュンのワンピースだが、これは大物だぞ……と俺が腕まくりをした時。


「ンムー」


 ミュンがころりと俺の背中から離れた。

 おや、と思って目線をやると、鼻を摘んでいる。

 そのジェスチャーは何だろう。ミュンの生まれ故郷の習慣か何かで……。


「アマチャ、ヤー!」


 あっ、ミュンが俺から距離を取った!

 なんだ、どういうことなんだ……。

 いや。

 薄々俺は感づいていた。

 着たきり雀で三日目に突入したワイシャツである。

 そうだよな、臭いよな……。

 あの鼻を摘むジェスチャーは、万国共通で臭いという意味を示しているのだ。

 くっ、ショック。

 分かってはいたが、ミュンに言われるととてもショックが大きい。


「よし、次は俺の下着だ……!!」


 そういうことになった。

 ワイシャツは、うん。

 ばらして雑巾にしよう……!

 そういう事になった。

 新しい生活には、まっさらな衣服で望まねばならない。

 俺は、古いシャツやパンツと決別することを決心したのである。


「そうなれば、シャツはポイだ!」


「ポイー!」


 俺がワイシャツを投げ捨てたのを見て、ミュンが大喜びする。

 真似してワンピースをポイッと脱ぎ捨てたので、俺は大慌てになった。


「お、女の子がパンツ一丁になったらいけない!」


「チャ?」


 いかんいかん……!!

 下手なことをしたら、ミュンが真似してしまうではないか。

 俺のパンツと、ミュンの当座着られるワンピース。

 これを並行で進める他ない。

 パンツを作る時に、要領は掴んだ。

 これをサイズアップしていく……。


「あっ」


 コントローラーの力と、ズーガーの助力で完成したワンピースである。

 俺は思わず声を上げていた。


「これはワンピースというか、貫頭衣では無いか!!」


 出来上がった服を掲げて、わなわなと震える。

 何ということだ。

 よく考えれば、俺はワンピースの構造など知らないのだ。

 そもそも女子の服をまじまじと眺めたことなど一度も無かった。

 そうしたら犯罪になりかねない社会で生きてきたからでもあるし、俺がそこまで気を使える人間では無かったからでもある。


「ぬおおお、お、俺のセンス、ゼローッ……!!」


 のたうち回って俺は悲しんだ。

 張り切って、ミュンに可愛い服を着せてあげようとしたら、縄文時代の香り漂う本格的貫頭衣が完成してしまうとは!!

 何をしているんだ、篤城数多! 今は新世紀だぞ!! 新世紀にこんなクラシックを極めた貫頭衣を着ている女子がどこにいるというのだ……!


「マー!」


 と思ったら、ミュンは貫頭衣を手に取るや否や、スポッと被ってしまったではないか。

 単純な構造なので、頭を出して、腕を出して。

 ちょうど、ミュンの太ももの半ばまでの長さ。

 サイズだけはバッチリである。


「アマチャ、アマチャ! レ、レー!」


 そして、くるっと回って俺に見せびらかしてくる。

 あれっ、もしかして気に入ってくれた……?

 まさか俺を気遣って……。


「ムフー」


 あ、いや、あのドヤ顔は本当に気に入ったっぽい。

 いやあ……良かった……!


「アマチャ、レ、チャー!」


 ミュンは何か言うなり、出来たての俺のパンツを引っ掴んで、こっちに押し付けてくる。


「これをこの場で穿けと言うのかな」


「ン!」


「俺にパンツを脱げと」


「ン!」


「……仕方あるまい。風呂場ではすっぽんぽんだったしな。どれ……」


 俺は勢い良くパンツを脱ぎ捨てた。

 いや、いかんいかん。またミュンが真似をするじゃないか。

 パンツを脱いだあと、丁寧に畳んで横に置いた。


「オオー」


『ピピー』


 ミュンとズーガーが、俺の所作を見て感嘆の声をもらす。

 いや、大したことしてないのに何で注目するんだ。

 そして、素っ裸になった俺は、しずしずと出来たてのパンツを穿いたのである。

 あっ、こ、この感触は……!

 なかなか肌触りがいいぞ。

 それに、通気性も悪くないようだ。


「このパンツはいいものだなあ」


「マー!」


 横にミュンが並んで、貫頭衣をまくってパンツを見せてきた。

 いや、見せなくていいから。

 え?

 お揃いってこと?

 そうだな。全部メイド・イン・この島だし、製作者は俺なのだから、お揃いだ。

 だが、ミュンにとっては、一緒のものを身に着けているということがとても嬉しいことらしい。

 ならば、いっそ俺も貫頭衣を身にまとって、お揃いで島を行脚(あんぎゃ)してやろうではないか。


「よし、ミュン、俺も同じのを作るぞ」


「ンー?」


「ミュンと、同じ服」


 ミュンの貫頭衣を指差して、俺の体を指差して、残った綿の山を指し示す。

 どうやら理解したらしくて、彼女の表情がみるみる輝き出す。


「アマチャ! ミュン、ナジー!」


「うん、同じだ! お揃いだな!」


「オソロ!」


 よーし、今日は一日、お揃いの衣装を作るとするか。

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