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「そう言えば、今日帰ってくるんだっけあの子?」
訓練後にとマルクスが持ってきていたアイスキャンディを3人で並んで食べているとブルクハルトが突然話し始めた。
「まあなー」
テオはあえてそっけない返事を返した。本当は彼女が帰ってくるのを心待ちにしていた。今だって心臓は高鳴り心は駆け出そうとしている。だけどそれを父に知られれば間違いなく笑いのネタにされるに決まっていた。だからこそのあえてだった。
「ちょうど1ヶ月か・・・随分と長かったな」
「それは仕方ないんじゃねえの?他人に無理やり命引き抜かれるなんて、どう考えたって普通じゃねえことだし。色々検査とか調整とか必要なんだろ」
アイスの棒に残った甘い汁をしゃぶりながらテオはまた無愛想に答えた。
「でもさ、帰ってきたら何かしらあるんじゃないの?ほら、体を使ったお・れ・いとか」
「ぶっ!」
テオは口に咥えた棒を思い切り噴き出してしまった。
「ばっかじゃねえの、あんた?んなことあるわけねえだろうが!あの子はオレの元母親で現妹だぞ!んなことあってたまるか!」
テオは自分でも顔が真っ赤になっているのがわかった。それが一層恥ずかしさを加速させる。
「でも兄さんは命削ってまで生き返らせたわけだし・・・確かにあるかもしれないね。あの人一般常識とか足りてなさそうだし」
「ちょっと待て、マルクスまで何言い出してんだよ」
「でも兄さんも満更でもないんでしょ?顔真っ赤だし」
弟にまでからかわれテオは耳まで赤くなり夏にも関わらず顔から湯気が出そうなほど熱くなった。
「おつかれさま~。訓練はもう終わったの?」
「お、おお、母さん!うん、そう終わったよ。今終わったとこ!母さんは何でここに?」
突然声をかけられたせいでなんとも恥ずかしい応対をしてしまった。ブルクハルトとマルクスもテオの挙動不審さに口を押さえて笑いを堪えていた。
「どうせあんたたちのことだから昼食のことなんか何にも考えてないだろうと思ってお弁当作ってきたのよ」
「さすがはマイハニー!オレと君の間にはすでに言葉さえ無粋だね」
抱きつきキスしようと飛びつくブルクハルトに対しレオナは見事なカウンターパンチをプレゼントしていた。
「テオ、あんた本当にありがとうね。この子のことはもちろんだけど。この馬鹿のこともあの子のことも。本当によくやってくれたよ。」
レオナはそう言うとテオの頭を抱きかかえ力一杯撫でてくれた。気恥ずかしさで一杯になりながらもテオはそこに確かな温もりと幸せを感じることが出来た。
「それで、結局ゲオルクはどうなったの?」
「あいつは殺人、強盗、暴行、その他色々の罪で無期懲役になったよ」
ゲオルク・バーナーは名家の出身ゆえに表向きには政治資金の不正運用や麻薬取締法違反などで逮捕されたことになっていた。殺人強盗に強姦未遂、魔法魔術の不正使用、他にも10件もの罪を重ねながら終身刑ではなく無期懲役となったのも実家の後ろ盾があったからだろうとブルクハルトが言っていた。
「ならいつかまた出てくるかもしれないのね」
「そうなるな。でも出てきたってもう何も出来ねえよ。気絶してる間に父さんがあいつの魔力器官全部絶っちまったから」
「意外とえげつないことするのね、アロイス君」
レオナは旧友の思いがけない進歩に顔を引きつらせた。
「で、そのアロイス君とミアちゃんは?昨日の話だとそろそろ着くころよね?」
ミーアキャットのように首をシュッと伸ばしてレオナは周囲をきょろきょろと見渡した。
「そうなんだけどな・・・おっ、噂をすれば。さっきテゴに入ったってさ」
テオは端末に届いたメールから情報を共有すると『了解』と当たり障りのない返事を返した。
そんなことをしていると遠くから一人の女の子が1体のぬいぐるみを抱えて歩いてくるのが見えた。
ツギハギ模様ブリキ柄のクマのぬいぐるみを抱いて歩く彼女。赤みがかった茶色いくせ毛は肩先まで伸びたが凹凸のない小柄な体はいくらも変わらない。だがいつもどおりのはずのやる気のない瞳は夏の日差しのせいか何かを待ちわびていたかのように楽しげに輝いている。
彼女はテオの目の前で立ち止まると期待に満ちた表情でテオの言葉を待つ。
「おかえり、ミア」
「ただいま、テオ」
テオがずっと見たかった顔が、ずっと聞きたかった言葉がそこにはあった。
これにて「ゴミ溜め育ちの魔術喰らい」は完結となります。
ここまでお付き合いくださった皆様本当にありがとうございます!
続編を書く予定は現時点ではありませんが、また新作を年末に出せればよいかなと思っております。
ぜひその時はまたお立ち寄り下さいませ!




