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術式は程なく完成した。
「テオのマナの扉は一度鍵を壊しているから新しく鍵を作る。またマナが流れ出すと思うけど出来るだけ耐えるんだよ。必要な分を取り出したら扉を閉めてまた鍵を壊す。最後まで気を抜いちゃ駄目だからね」
アロイスは柔らかな口調ながらに場の緊張感を高めさせた。
「練成は精密作業だから、マルクス君はすまないけど離れておいてもらえるかな?」
マルクスは自分だけ役に立てないことを気にしながらも顔を上げて答える。
「わかりました」
そして練成が開始された。
まず練成術式をテオが展開するその中にブルクハルトが魔力を送り込む。
アロイスはテオの体にマナを取り出すための術式を展開させ扉を開く。
「くっ!」
扉が開かれた途端全身の血が沸騰したように体が熱くなり、眼球から水分が飛び視界がかすむ。体中から力が流れ出し意識も外へ流れ出してしまいそうになる。
「テオ、しっかりしろ!あと少しだから!」
「負けんな、テオ!」
2人の父親の声がテオの意識を体に結び付けてくれていた。
「おつかれさま。ようやく準備が整ったね。あとは練成だよ」
練成に必要なのは肉体を構成する素材に人格を形成するための記憶情報、生命活動を行うためのマナそしてこれらを繋ぎとめるための魔力である。問題は必要なものしか入れないこと余計なものがほんのわずかでも混ざれば練成は失敗する。
練成は一瞬で終わる。しかし余計なものが混ざらないように細心の注意を払う必要がありアロイスがミアを練成したときには1時間、術式の空間内で異物と格闘したという。
「テオ、ここからが正念場だよ。ブリッツ魔力量は常に同じに保ってね」
テオは空間内の異物を払い、ブルクハルトは必要な魔力量を保ち続ける、アロイスはテオの作業をカバーし異物を探していた。
全員の意識が術式空間に集中していたときだった。
カチャ、というおもちゃでも取り出したような音が静まり返った部屋に響いた。
「まだ終わりじゃないよね?」
テオの視線の先に居たのはプラスチック製の護身用の小型銃を手にしたゲオルクだった。
「くそっこんなタイミングで!」
テオは慌ててゲオルクを撃退しようと手を動かそうとした。
「駄目だ!」
しかし、それはアロイスの声によって制止される。
「今術式を解けばミアは一生戻らない」
「何だよそれ!どうすればいいんだよ!」
練成が完了してしまえば魔力のないゲオルクなど即座に捕縛出来るというのに異物がまだ残っている今テオたちは弾道から外れることも出来なかった。
「ははは、最後の最後にツキが回ってきた。その本さえあれば私は魔力を持たずとも居これまで以上の地位と名誉得られる!さあ、私の栄光の礎となってもらいましょう!」
ゲオルクの小型銃はその銃口をテオへと向けた。テオは最後まで練成に集中した。
ゴスン。
しかしテオが耳にしたのは銃声とは程遠い鈍い打撃音だった。
「兄さんの邪魔をするな、ゴミ野郎」
「マルクス!」
練成の邪魔にならないようにと部屋の隅に居たマルクスがアロイスが私用していた工具でゲオルクに止めをさしていた。
「兄さん、集中!」
「お、おう」
テオが向き直り異物を払いのけた瞬間アロイスが叫んだ。
「今だ、テオ!」




