王達の屹立(5)
なんだかんだで第2章〈王達の屹立〉も予定の半分近くになりました。
なんかもうちゃんと小説にもなっていないプロット文章を、ここまで読んで下さる奇特な読者様には感謝感激雨あられです。
プロットでもいいや、兎に角先が読みたいと言う人は本編をどうぞ。
追伸、ぽてふれさん感想有難うございます。
―第16話:王達の屹立(5)―
-1-
虚空に浮かぶセルデシアの月。
そこはとある存在によって統べられていた。
崑崙の女王、西王母。
ティル・ナ・ノーグの女王、ダナーン。
月の女神、ルナ、もしくはアルテミス。
妖精界の女王。
月の女王、輝夜。
他にも各神話に合わせた様々な呼び名はある。
それはその全てであり、同一の存在であった。
月界を統べる〈エンプレス〉。
月では主に只そう呼ばれている。
〈合致〉以来、〈典災〉こと〈採取者〉のリーダーが受肉したNPCの名だ。
彼ら〈典災〉は〈ランク2〉の〈航海種〉である。
彼女、〈エンプレス〉は〈典災〉の中でも最も合理的で理性的であるが故に、延命に延命を重ねて指導者であり続けている。
だが彼女こそ劣等感に苛まれていた。
本当に合理的で理性的なのは〈ランク3〉たちだ。
なぜなら彼等は合理的で理性的過ぎ、〈典災〉たちが種族的に持つ強い恐怖や憎しみや被害妄想や攻撃闘争衝動を、本質的に持たぬが故に理解できない存在だからだ。愚かしさと言うものが分からないのだ。
創造者の社会も〈航海種〉も、〈ランク3〉と〈ランク2〉に分かたれてから随分と長い年月が経つ。
戦争も犯罪も無い社会を築いた星で暮らしながら、合理的過ぎて停滞した〈ランク3〉。
〈ランク3〉から追いやられたそれぞれの辺鄙な居住星(〈ランク2〉は基本的に星の所有権を許されない)で、戦争や犯罪を繰り返す、〈ランク2〉。
そのどちらもが〈共感子〉の不足にあえいでいる。
情動の共有こそが〈共感子〉を生む。
合理的であれば合理的であるほど情動は薄まり、互いの理論の衝突すら、AI〈裁定者〉に結果を任せる事を選び、より情動を喪って行く〈ランク3〉。
情動の衝突ばかりを繰り返し、己の情動のみに固執し、それを屁理屈で武装し、他人や他人の言葉に興味が持てない空っぽの存在になり果て、結局衝突による戦いの団結でしか情動の共有を見いだせず、〈共感子〉の浪費を繰り返す〈ランク2〉。
だがそれでも彼女は浪費と非効率を承知の上で、この〈共感子〉の溢れるセルデシアに於いて、戦いの団結によって〈共感子〉を採取する事を選んだ。
そしてこの〈採取〉はまた〈監察者〉によっても観察されている。
彼等〈ランク3〉は彼等でやはり〈共感子〉の不足に悩む者達だからだ。
自分達の試みから漁夫の利を得ようとしている浅ましい奴等と思い、またそんな悪意に満ちた偏見を抱く自らは愚かであるな、と、女王は自嘲し皮肉気に唇の端を上げ歪に笑う。
彼等は戦争も犯罪もほとんど無い世界を築きながら、貧富の差や職業等の差異によって理解の乖離が生じ、〈共感子〉が減少している。
平たく言えば、貧乏人には金持ちの思考も現状も分からないし、逆もまたしかりだ。それによって起る〈共感子〉の減少は社会の停滞を招いている。無理解は互いの望まぬモノを供給し合う、発展の無い精神的に貧しい社会を招く。社会の停滞を辛うじてAIで補っているのだ。
彼等は合理的に理性的に〈ランク2〉とセルデシアを観察しているに過ぎない。
だが彼女にしてみれば死肉に群がる禿鷹だ。
セルデシアからの部下達からの報告は順調だ。
〈採取〉計画は着々と進んでいる。
しかしその心に喜びは無い。
これで延命できたとしても、自分達が往々に星を滅ぼす本質的に愚かしい〈ランク2〉である事に変わりは無い。
いっそ本当に魔法でもあればと思う。
自分達を〈ランク3〉に生まれ変わらせる魔法でもあれば、と。
-2-
アキバの街では新たな問題が発生しつつあった。
所謂五月病である。
折角やる気を出した低レベル冒険者や、新たな職に挑んだサブ職チェンジ者たちが、壁にぶつかり停滞する現象が起きていたのだ。
トウヤ達があの歌を定期的に歌い続けている事もあり、脱落する者は少ないが、鬱に近い症状になる者は少なくなく、トウヤ達互助会も、またアインス達円卓会議も頭を悩ませていた。
「はあ、まいるよなー」
互助会のソファーでだらしなく寝そべりながらトウヤがぼやく。
「それだけじゃなく、兄ちゃんも最近元気が無いってセラ姉から聞いて心配なのにさー」
「アカツキさんが人質に取られたから仕方ないよね」
ミノリも溜め息を吐く。
「好きな人と離れ離れになるなんて辛いよねー」
五十鈴はそう言ってなんとなくルンデルハウスを見た。
するとルディも同時にチラ見をしており、視線がぶつかり合う。
二人顔を背けてどぎまぎする。。
「青春だね~」
二人を見てにひひと笑うてとら。
「若いっていいね~」
溜め息を吐く直継。
「ん?」
そんな時、トウヤに念話が入る。
『やあ、トウヤ』
それは待ち望んだ人からの物だった。
「兄ちゃん? もう平気なのかよ!?」
「シロエさん?」
「えー、マジ?」
「本当にシロエ殿なのか?」
『心配かけて悪かったよ、トウヤ』
懐かしい元気そうな声が心に染み入る。
「ホントにホントに心配したんだぜ!?」
『ごめんね。それより、アキバの街が困った事になってないかな? そろそろそんな時期だと思うんだけど』
次の日。
トウヤ達は定期的なライブを開いた後、その場でまたシロエの言葉を聴衆達に語った。
『貴方達は今、壁にぶつかっている事でしょう。
好きな事をしているのに、思うような結果を出せなくて。
でも、貴方は貴方を間違いごと信じて下さい。
自分が思ったほどでは無い、間違っていたと思えるのは、自分が好きな事の美しさを知っているからです。
その美しさが分かる自分の感覚を信じて下さい。
僕がやっていた弓の言葉に〈当たり前〉と言う言葉が有ります。
『前』とは弓を半身になって打つので、身体の前側、つまり右の事です。
矢が外れた時、〈前〉に10センチ足りないとか行き過ぎているとかを正直に認め、自分の心と身体の物差しの目盛りがそれだけずれていた事を認め、物差しの目盛りを何度も、自分の感覚を信じて刻み直す事です。
そうすると、やがて正しい物差しになり、当たるのが『当たり前』になる。そう言う言葉です。
自分の間違いごと、自分の感覚を信じると言う事です。
貴方が好きな事を美しいと思う限り、貴方の感覚はそれにおいて絶対に正しい。
自分が駄目だと思えば、自分がもう努力しなくて済むと言う、自分と好きな事の美しさへの侮辱にどうか逃げないで下さい。それはとても楽な事ですが、とても苦しむ事です。
どうか苦労しても、楽しいと思える事をしてください。
苦労しながらもゲームを好きで楽しんだ貴方自身を信じて。
それが〈好きこそものの上手なり〉と言う事です』
シロエは他に同時に幾つかの指示をミチタカやリーゼたちにも送っていた。
それもまるで現在のアキバの街がシロエには見えているかのようなものだった。
ミノリはふと地球で読んだSF漫画を思い出す。
それには〈心理歴史学者〉と言う概念が有った。
それは数学的計算によって、未来を正確に洞察し干渉する事である。
ミノリは最近リーゼとシロエの全力戦闘管制について意見を交わした事が有る。
シロエはゲームの攻略に3DCAD(機械設計ソフト)を使用している。
そしてミノリやリーゼは、ヘイトやリキャストタイムの管理を数値を計算して使っているが、今のシロエの脳内にはそれらが計算を飛び越えて、CADの様に立体構造物やエネルギーの流れとして見えているのではないか?と。
そしてそれは、アキバの街の政治経済や、大衆や個人の心理までそう見えているのではあるまいか?
未来が見えていて、自在に介入できるとしたら?
きっとそれは異世界に放り込まれたシロエが、ただ己を頼りにし、築き磨き上げた異能。
ミノリはぞっとした。
シロエはその気になればヒトラーのような存在にさえなれるのではないか、と。
ああ、だからシロエにはアカツキが必要なのだ。
目的のためにはどんな手段さえもとる〈ハラ黒〉な彼には、彼女の辛辣なまでの生真面目さが、道を踏み外さない為の道を照らす星なのだ。彼女がシロエに寄せる健気で絶対の信頼と忠義こそが、彼を善に繋ぎ止める、良心の重し、錨なのだ。
シロエが『主君』であるために必要なのだ。
シロエとなまじ似た者同士の自分には、そうはなれない。
やはり憧れだったのだなと、常蛾に挑む少し前にわかった事を改めて認め直す。
ヘンリエッタもまた似た者同士だから憧れと気付き、身を退いたのだろう。
憧れと必要は違うのだと。
恋人では無く兄や先生、先達として慕ったのだと。
ああ、どうかシロエとアカツキの二人が、一日でも早く、再びまた会いまみえますように。と、ミノリは神では無くこの世界、〈セルデシア〉に祈った。
-3-
数日後、水楓の館。
「やっ! たあっ!」
「はっ!」
イセルスとマインバッハが激しく木剣を打ち合わせる。
「頑張ってー!」
サリーシャは順番を待ちながら二人を応援する。
「なあ」
それを見たミチタカが師範役のアイザックに語りかける。
「イセルスの剣、ますますお前にそっくりになって来たな」
「……おう」
「どした? 赤くなって」
アイザックもそれに気付いて昨日、イセルスに訊ねた。
すると返ってきた答は―――
『当然です! 僕にとって一番美しい剣、カッコいい剣はアイザック君の剣ですから!』
イセルスは例のシロエのメッセージをそう受け取ったのだ。
何度も何度も鏡の前で繰り返したのだと言う。
(こっぱずかしいったらねえぜ)
だが同時に誇りに思う自分もいる。
もし、あの時シロエが円卓を設立しなければ、こんなに真っ直ぐなイセルスの憧れを受け止めれたろうか?
(多分、無理だろうな)
自分達と取引していた〈ハーメルン〉には、イセルスほど幼くは無くとも十分にいたいけな子供が囚われていたのだから。
「マインバッハの方も同じ様に上達しているが、こっちは最初から自分の剣が有る感じだな」
「ああ。俺より、どっちかっつーと顔も合わせてねえだろう、サド眼鏡に剣筋が似てやがる。いやらしくてねちっこい剣だ」
「勉強も最初から自分の考えがある。そんな所もクラスティやシロエにも似てるな」
「確かに、似てるな」
「養子に出されるくらいだ、さぞ苦労したんだろうな」
「ふーん、って? 苦労性のシロエはともかく、クラスティが苦労なんかするタマか?」
「……あー」
「何だ?お前にしちゃ歯切れわりーな?」
「誰にも言うなよ」
「……イセルスに顔向けできねえ事はしねえよ」
「クラスティは妾の子だ。そんな奴は自分だけを当てにして、自分自身を剣にして生きるしかない」
「……んなのは男なら当たり前だろうが」
「今時そう言い切れるヤツは、お前の他には数えるくらいしかいないよ」
「ケッ、黒剣以外の奴等が軟弱なんだよ」
「ハッ。本当脳筋だな」
「やる気か?テメエ」
「褒めたんだよ」
「ならそう聴こえるように言えっての」
そんな会話に遠くから割り込むリーゼの叫び声。
「脳筋ゴリラー!」
「テメエ、縦ロール! その喧嘩買ってやんぞコラ!」
「そんな場合じゃありませんわ! 黒剣にも出動要請です! イセルス様もセルジアッド様の元へ! 遂に<典災>が〈レギオン〉規模で侵攻してきたんですわよっ!」
「「何だとぉっ!?」」
「「「ええっ!?」」」
そして青天俄かに掻き曇り、暗雲が立ち込める。
そしてヤマト中に響き渡ったと言うその声。
『我は狂王ダノーブ。
神代にヤマトを統一せんとして一度は滅びたが、今ここに〈典災〉の王として復活せり。
ヤマトの民よ、恭順せよ。
冒険者よ、眠りに就きて〈共感子〉を差し出せ。
さもなくば我一切の容赦なく、このヤマトを打ち滅ぼし、月におわす〈典災〉の女王にその御魂捧げ尽くすであろう』
その報と声はアキバ郊外で低レベル冒険者の訓練をしていたアインスや櫛八玉の元にも届く。
「何だって?」
「大変だ、助けに行かなきゃ!」
「脊髄反射しないでよ、クシ」
櫛八玉の親友の〈妖術師〉、ヤエが頭を抱える。
「あ、そうか。まあ、リーゼがどうにかするわよね」
「―――っ」
「大丈夫ですか、アインスさん、顔が蒼いですよ」
「……正直に言う。円卓には君達程の戦力が無いからだ」
円卓は大地人貴族から大量の借金をしている。当然、その代金分の戦力を要求されるだろう。
だが、〈レギオン〉クラスの戦力を揃えられるギルドは〈ホネスティ〉しかない。
誤解しないように説明するが、資金力も構成人数も、円卓の方が互助会よりも幾らか大きい。
何故なら互助会は〈黒剣〉〈D.D.D〉〈西風〉〈海洋機構〉〈ロデ研〉〈第8商店街〉と言う、壮々たるギルドで成り立っているが、逆に言えば、そこまでの有力ギルドで無ければ、円卓から経済的に自立する事など不可能だからだ。
後は例外である弱小ギルドの〈記録の地平線〉を除けば、残り全てのギルドが未だ円卓に所属している。
だがこと大規模戦闘、しかも〈レギオン〉クラスのまともな戦力を揃えられるのは、互助会参加ギルドだ。
円卓が戦力を揃えようとすると、どうしても〈レギオン戦闘〉練度の低いただの寄せ集めになってしまう。
「大丈夫。私がトウヤ君を説得して上げる」
「クシ、冷静になって。また脊髄反射してるわよ!」
「大丈夫! 私は冷静にトウヤ君を説得するつもりよ」
「あーあー」
ちっとも言いたい事が分かってない。
「でもまあ、こうなるわよね」
三羽烏の一翼、〈突貫〉は相変わらず〈突貫〉だった。
-4-
翌日。互助会本部。
「と言う訳で、御願いよ、トウヤ君!」
両手を合せて頭を下げる櫛八玉。
「こんな事を言えた義理ではないのは分かっている。だが、どうか戦力を貸してくれないか。でなければ円卓から大地人貴族の投資は引き上げられ、円卓は破産する」
アインスはより深々と、腰の位置まで頭を下げた。
黙ってそれを見るトウヤ達と、それをさらに後ろから見守るアイザック、リーゼ、ドルチェ、ミチタカ、ロデリック、カラシン、マリエール、直継達ギルドマスターやその代理。
やがてトウヤは口を開く。
「いいですよ」
「「「――――――――っ!!!!」」」
「僕からもアイザックさん達を説得します。いいですよ」
「おいおいおい」
「いいのか?」
「彼らの言う通りだ」
他ならぬアインス自身がアイザックとミチタカの言葉を引き継いだ。
「本当にいいのかい?」
「うん」
「……何故だ? 何故なんだ?」
「シロエ兄ちゃんは、アインス先生と袂を分かったけど、先生を責める言葉を言わなかった。先生だってアキバの街の為に一生懸命だって、きっとわかってたからだと思う」
「………」
「兄ちゃんが先生と袂を分かったのは、例え低レベル冒険者を救う為でも、今あるアキバの人の幸せを犠牲にしたくないからだって言ってた。でも、だからこそ、俺達の対立なんかで円卓を破産させて、今やっと希望を持ち始めた低レベルの人達の幸せを犠牲になんかしちゃいけないんだ。そうだろう? アイザックさん、ミチタカさん、みんな――――」
「そうだよ、そんな事になったら、みんな素直にゲームを楽しめなくなるじゃんよっ!」
櫛八玉も訴える。
「――――済まない」
アインスは再び頭を下げる。
「条件はどうすればいい? ギルド会館の返却か?」
「それなんだがな」
ミチタカがロデリックとカラシンに目をやる。
「シロエさんに言われてたんですよ。もしアインスさんが協力要請を申し出たら、その時の条件は、我々互助会の会館経由のギルド税収の使い道を、我々自身に決めさせてもらうだけでいいだろう、と」
「それどころか、もしその時には、例のチケット制だって円卓にも許可して、街の人が自分がより受けたいサービスを受けたいギルドから受けれる方がいいって。結局そうした方がチケット自体の売り上げの活性化につながるからってですよ」
「後は〈レギオン〉運用にかかる実費でいいんじゃないんですか?」
「―――――っ」
「まったく、〈ハラ黒眼鏡〉の癖に、こういう時だけは妙に潔癖なんだよな、アイツ」
「ケッ」
アイザックは舌打ちする。
「糞野郎が。これで俺だけ反対したら、俺が格好悪いじゃねえか。やっぱハラ黒だぜ」
(……もうイセルスに顔向けできねえことは出来ねえしな)
「何か言ったか?」
「なんでもねえよ」
「まあでも、問題は残ってますわよ」
「何? リーゼ」
「互助会にだってすぐに用意できるのは〈レギオン〉4部隊。〈D.D.D〉が3部隊。〈黒剣〉が1部隊ですわ」
「俺の〈黒剣〉はイセルス直轄だ。動かせねえ」
「うちの3部隊もセルジアッド公からの要請で先約済みです。レイネシア姫をアキバに下さる代金と云われれば、断れませんもの」
「えー、リーたんのけちー」
「心配はいりませんわ。他ならぬ櫛八玉お姉さまがお声掛けをなされるなら、精鋭〈レギオン〉の2~3部隊位すぐに集まります」
「ちょちょちょっと待ってよ、何その無茶振り?」
「ああ」
「そりゃ心配ない」
「ちげえねえ」
「か弱い乙女に何言ってんの!?」
「鏡見ろ」
「お前、もう少し自分を知れよ」
「無自覚にも程が有ります」
「玉ちゃんなら大丈夫だぜ祭りっ!」
「せやせや~」
「そうよね~。応援してあげるわよ~」
「え~っと、そ、そうだシロエだ! あいつなら協力の件だけでなく、こういう時のアドヴァイスだって残してるでしょぉ!?」
「それがお姉さま、こういう時のお姉さまには、何も邪魔したり入れ知恵したりしない天然の方が上手く行くと託っておりますわ」
「あんのハラ黒ぉおっ! 後で泣かすっ!」
「そりゃしょうがないな。天然だから」
「まったくだ」
「五月蠅いッ! この天然脳筋万年少年! アンタにだけは言われたくないっ!」
「へっ! そいつぁまんまブーメランだこのバーカ!」
「クッ」
アインスは笑った。久しぶりに。
「ハハハハハハハハハ」
大声を上げて、涙さえ流して。
一同は最初ぎょっとして黙ってそれを見ていたが、やがて皆に伝染り、一斉に笑い出した。
―第17話に続く―
筆者(以下:筆):「なんか色々ありましたが、やっと通常運転に戻ったあとがきです」
アカツキ(仮名、以下:あ):「で、今回のテーマは何なのだ?」
筆:「SMです」
マヒル(仮名、以下:ひ):「ちょっと待てテメエ、何でそのテーマで俺達がゲストなんだ?」
ソウジロウ(仮名、以下:そ):「まあまあマヒルさん」
筆:「叱るのが好きで叱られるのが好きでしょう? だからSとMです」
ひ:「ぬうっ」
そ:「それはちょっと極端すぎませんか?」
筆:「言ってしまえばそうなんですけど、SMって根本的に誰しも持ってる心の働きが極端に出ただけの事なのは事実ですよねえ」
ひ:「そうなのか?」
筆:「人間基本的に叱られるのは嫌です。でないと叱られる事を何度も繰り返してしまうのでそれは正しい。でもそれが自分を想って叱ってくれているのが分かると、叱られるのが嬉しいと言う心理が発生します。それは別に異常でも何でもなく、社会性動物ならすべて持っている本能」
そ:「ですよねえ」
あ:「主君は叱るのも叱られるのも好きだな」
筆:「そう見えるかもしれないけど、どっちもあまりしたくもされたくも無いよっ!」
そ:「でも僕なんか先輩やマヒルさんに構ってもらえるなら、叱られてもいいって思います」
一同:「「「…………(ガチだ)」」」
筆:「ま、まあ逆に構いたい相手をつい苛めちゃう小学生心理を持ち続ける人もいます。受け身の方も、苦痛を感じた時にそれを和らげるための脳内麻薬物質が出るのは自然な事で、それがたまたま早く多めに出る人もいます。で、その需要と供給が合うとSM関係が出来る訳です。それほど極端でなくとも、そんな一面は誰しも持ってるものですよねえ」
ひ:「女王様と豚とか言う関係もあるぞ?」
そ:「先輩達なんかその逆じゃないですか?」
あ:「なっ、違うぞ!」
筆:「えーと、マウントを取り合うと言うのは、人間が社会を形成する上で自然に行われてるんだよっ!」
ひ:「はあ?」
筆:「自分の得意分野では支配権占有権を主張確保し、逆に自分の不得意分野は他人に支配占有を丸投げする。つまり職業役割の分担ですね。支配と云う字が、社会の『支』えを『配』分すると書かれるのはこの事に由来します」
そ:「まあ、人間誰しも、自分の得意な事楽しい事ばかりして、苦手な事は他人に任せて楽したいですからねえ」
ひ:「世の中ってうまくできてるよな」
あ:「そう、そう言う事なのだぞ! ソウジロウ(仮名)」
そ:「だからうっかり向いてない事や嫌いな事を仕事に選んじゃうと大変な事になりますね」
ひ:「自殺者やうつ病が無くならない訳だぜ」
あ;「最近は好きな事だから頑張れるだろうと言われ、キャパ以上の仕事を押し付けられてうつ病になると言うのも多いそうだぞ」
そ:「ブラック企業のやり口ですね。アニメ制作会社なんか資金難でこれに陥るパターンも多いそうですよ」
ひ:「制作形式がアメリカ的になり過ぎて、余剰利益は全部制作委員会が持ってっちまうからだ」
そ:「お蔭で質が下がって中国に追い抜かれるって冨野監督が嘆いてましたよね」
筆:「まあ、そう言う例外はさておき、役割の自己主張としてのマウントは極めて自然です。ただまあ世間一般で言うマウント取りたがりの人と言うのは、自分が議長役に向いているとの自信を持つ人か、実は議長なんてやりたくないのに権利(役割)が脅かされるのが不安でとか、見栄で威張るとかで虚勢を張る人ですね」
そ:「普通の人は議長なんてやりたがらないですもんねえ」
ひ:「俺はやりたい時はやるぞ」
そ:「マヒル(仮名)さんはそこが魅力ですっ!」
筆:「なので女王様と豚も、議長を女性がして男性が受け身なだけと言ってしまえばそれまで」
そ、ひ;「「―――――――」」
あ:「ふっ、墓穴を掘ったな」
筆:「まあ、そこにお互い(ここ重要)の愛があれば何でもいいんですけどね」
あ:「そう言う相手こそ、滅多には『有り難い』と言うのだぞ。ではまた来月」
筆:「じゃあっねー(^^)/」