幸せへのチケット(11)
もうじき梅雨となる6月、暑い中、皆様いかがお過ごしでしょうか?
第一章「幸せへのチケット」を最後まで目にして頂けて、感謝と喜びに耐えぬ東の外記・しげき丸でございます。
なんだかんだでひと段落を迎える事が出来ました。
本作が、貴方の読みたかったログホラである事を切に願います。
さあ、第2章も張り切って書かなくちゃね。
それでは本編をどうぞ。
―第11話:幸せへのチケット(11)―
-1-
ゼオラ城、隠し通路。
「〈典災〉とやらは意外と話せる良い奴らではないか。のう、ジルド」
大商人ガザーリは小走りながら下卑た笑いを漏らす。
「はい、御主人様」
側仕えのジルドはぐるぐる巻きのレイネシアを肩に抱えながらも、息も乱さず受け応える。鍛えられた肉体に腰に携げた小剣。この男は多少の荒事もこなす、正しくガザーリの欠かせぬ片腕だ。
「さあ、レイネシア姫、そろそろ眠り毒も切れる頃でしょう? そろそろ目を覚ましなされ」
「う…………?」
レイネシアの眼が薄く開く。
だがまだ意識は朦朧とし、ロクに舌も動かせない。
だがガザーリは喜び、勝手に喋り出す。
「おお、麗しの君。不肖このガザーリ、姫をお救けに参りました」
何を言ってるのだこの男? 人をぐるぐる巻にしておいて救ける?
だがまだレイネシアの唇はその言葉を紡げない。黙って聞くしか無かった。
「このガザーリ知っておりますぞ。姫が貴族と貴族社会を嫌うておりますことを」
レイネシアの心臓が氷に触れたように縮こまる。
図星までとは言わずとも、それは半ば以上真実だった。
「貴族のお仕事は嫌で仕方ないのでしょう? いつも見せる憂い顔がその何よりの証。この大商人ガザーリの目は誤魔化せませんよ」
それは違う! 自分は貴族の仕事から逃げ出したい訳では無いと叫びたかった。だがそう思う心の反対側では、確かに逃げ出したいとも思っていた矛盾がある。それは誤魔化せない真実。
「ワシの屋敷では、無論何一つ苦労させませぬ。不自由もさせませぬ。安楽に御暮らし下さいませ」
違う! 私はお前の屋敷なんかじゃ無くて、アキバに逃げ出したいの! 豊かで誰もが笑ってて、友達の沢山いるアキバに!
「下らぬ貴族のお仕事などで、汚らしい下賤な平民に心煩わせなくとも良いのです」
違う! 私は貴方の言う下賤な平民が好きなの! でも私が何をしても言っても、彼等の暮らしが貧しかったり、モンスターに襲われる危険に満ちている事を変える事が出来ないのが、辛くて疲れ果てて、一人ぼっちで堪らなかったの!
「ク………」
「く? 苦しいのですか? 申し訳ありません、姫。もうしばしの辛抱です。ワシのナゴヤ屋敷に着けば、後は苦しみ一つ無い快楽しかありません」
そんなもの要らないっ! 私が言いたいのは『クラスティの大馬鹿野郎』だっ!
アキバの街をあんなに豊かにしたのは、クラスティの作った法律や税制や社会運営システムだと言うのにっ! 何故アイツは大地人の社会システムを変えようとしないの? その能力が有るくせに!?
何で、どうして私の王子様になってくれないのっ!?
「あ……………」
だが、そこでレイネシアは気付く。
気付いてしまった。
自分の気持ちとクラスティの気持ちに。
彼がどんなにスーパーマンでも、彼がどんなに優れた社会システムを大地人に押し付けようとしても、彼が冒険者であり大地人の貴族では無いと言う隔たりは、プライドの高い貴族に、決してそれを受け容れさせないのだと言う事に。
クラスティは知っていたのだ。
貴族社会の中で、彼が一人ぼっちな事を。
自分が、彼を支えるパートナーになる事を、じっと待っていたのだと。
彼は、もう斧を振るって戦う事に、同じ場所で足踏みする事に、飽き飽きし、辛くさえ思っていたのだと。
あの日彼に感じた悲しみと哀しみを信じ、彼を支えれば良かったのだと。
「もう嫌な事は、何一つしなくて良いのです」
そんなの望んでないっ!
「いつまでも仲良く愛し合い睦み合いましょう。うふふふふ」
「や、やら」
レイネシアは叫ぶ。力の限り。
「そんなの嫌ー! クラスティとでなきゃ嫌ー! あの背中じゃなきゃ嫌だぁーっ!!
救けてサド眼鏡―――――――っっ!!!」
奇跡は起こる。
シロエの〈アストラルバインド〉とダリエラの〈ナイトメアスフィア〉がガザーリとジルドの足を凍り付かせる。
「どうも、サド眼鏡の代理のハラ黒眼鏡です」
「クラスティの妹、アカツキだっ! 今救けるぞレイネシアっ!」
ジルドが如何に手練れでも、彼等に敵う者では無かった。
-2-
シロエ達はダンジョンから出ると、呼び笛で〈ホース〉を呼び、その背に気絶したガザーリとジルドを括り付ける。
だが空は暗雲に覆われ、昼の3時だと言うのに既に薄暗い。
彼等は何故、一気に有翼獅子で帰らなかったのか?
それはステータス画面にメッセージが現れたからである。
〈新イベント発生〉と。
「イベント推奨人数は、24人フルレイド?」
ソウジロウが叫ぶ。
「うっそー?」
呆気にとられるナズナ。
そして大地から無限とも思える数、湧き出るアンデッドたち。
「てやんでぇっ! ここで引くかよっ」
マヒルも叫ぶ。
なぜならアンデッド達は、大地人の集落を、目指し動き始めたからだ。
「街の近くまで後退しつつ防御戦しよう。片っ端から可能性のあるフレンドリストに呼びかけて、ナゴヤに居る奴を探して手伝ってもらうんだっ!!」
シロエは無明の中、光を探す。。
これもまた、本来プレイヤーにはどうしようも無い、ゲーム強制イベントである。
12人でクリアすれば、次は24人でしかクリアできないイベントが始まる。
クリアするには、一度本拠地に戻って人数を集めてから再出撃するしか無く、大地人の被害が出る事は、本来避けようの無い、ゲーム演出の一部なのである。
ゲームが盛り上がるために、必ず被害が出なければならないのだ。
「クソッ! ゲームをプレイした時も、自分が作る側になっても、何とも思わなかったが、これが現実だとどれだけクソか思い知ったぜ!」
カズ彦が片っ端から切り伏せながら吠える。
「次に作るゲームは考えちゃいますよね~」
「まったくだ」
アヤメとマヒル、カズ彦と同じゲーム会社にバイトで勤める2人は武器を振りながら同意する。
しばらく経っても一向に事態は改善しない。
「もっと退がって、呑み込まれるよっ!」
「しかしシロエち、もうすぐ集落にゃ」
「そうですよ、退がったらみんな死んじゃいますっ!」
班長もセララも必死だ。
「大丈夫、さっき知り合いに繋がった」
「本当か、主君?」
「『クオ・ヴァディス』我は問う。人よ鬼よ、何処へ向かうと言うのか?」
「この台詞、アイツらかあ?」
カズ彦が素っ頓狂な声を上げる。
それもそうだ。本来ここにはいないと思っていた、彼自身の部下なのだから。
そう、彼等はとびっきりの厨二部隊。
「「「グレイブ・ヤード・ウォーク!!」」」
5人の召喚術師が、一斉にアンデッド召喚の呪文を唱える。
大量のゾンビやグールに、これまた大量のゾンビやスケルトンが襲いかかった。
「スゲー、これならやれるじゃん!」
玲央人も口笛を吹く。
「本当に助けが来るなんて」
テツロウも感極まった声だ。
「「「我等、壬生狼十三番隊! 吸血鬼部隊『ジューダスクルセイダーズ』! ここに見参!!」
大見得に見栄を切る、サブ職:吸血鬼の証である鋭い犬歯で笑む冒険者達。
今度は4人の武器を構えた吸血鬼が次々と屍人に斬りかかる。
残り3人の森呪遣いは、〈再生〉呪文(これ以外の回復では吸血鬼は逆にダメージを受ける)で前線を支えつつ、自らも眷属の黒い狼や蝙蝠で攻撃を加えて行く。
シロエ達のチームも、これに息を吹き返し、逆襲に転じた。
そして、この後エリアボスまで出てきたが、撃破に手間取る事は無かったのである。
-3-
「ヴァディスさ、何でここにいるの?」
「いや、他ならぬシロさんに呼ばれたからっすよ」
「そうじゃなくて、何でオメー、ナゴヤに居るのかって聞いてんだ」
「脳筋カズ彦こそ何でここにいんの? 修行の旅じゃ無かったの?」
「上司を脳筋呼ばわりとはいい度胸だな。それに今まさに俺は修行の旅の真っ最中だ!」
「女連れで?」
「こ、こいつらの護衛が俺の修行だ!」
「はっ、リア充が」
「んだとお?」
「我々の苦労を知らんから、カズ彦局長はそう言うんすよ」
ヴァディスの部下達も口々に語り出す。
「思い起こせば苦難の日々」
「ミナミで冒険者を相手に、何度ナンパしても玉砕の日々」
「そんな我々に届いた勇者デミクァスの勲し」
「まさか大地人を嫁にするとは!」
「夢のNPCゲット、マジモンの2次元嫁が3次元ですよ!」
言いたい事は分かるが日本語がおかしい。
「男の中の男だあ!」
いや、気持ちは分かるがそれはどうよと、皆ツッコミたいが口にできない。
「かくて我々もオオサカ中の酒場のねーちゃん口説きました」
「そして、その勢いで、ナゴヤの酒場を目指したのです!」
「………。オオサカは、全滅だったんだな」
容赦の無いカズ彦のツッコミ。
切なく冷たい一陣の無い風が吹いた。
「「「うわーん、それは言わないで――――!!!」」」
「あー、流石に俺が悪かった」
「てかカズ彦、僕が呼んでおいてなんだけど、何でこの人達ミナミ警護の壬生狼なのに、こんなに自由活動してる訳?」
シロエが訊ねるが、それにはダリエラが答えた。
「アタシこいつらの弱み握ってるけど、実情は別にカズ彦の部下じゃないのよ。単に十三番隊って響きが厨二で格好いいって理由で自称してるだけの愚連隊よ」
「まあ、そうっすね。それに不肖このヴァディス、弱みって言うなら、シロさんの方にどっちかって言うと頭上がりませんし。にゃん太班長に至ってはまさしく雲上人」
「にゃん太さんって、ヴァディスさんのヒーローなんですか?」
目を輝かせるセララ。
「ええ、お嬢さん。班長こそまさにバイク乗りの伝説、リアルヴラド公その……ヒッ!」
ヴァディスはにゃん太に睨まれ口をつぐむ。
「男のやんちゃは、時にレディに聴かせてはならぬモノが有るにゃ」
「しっ、失礼しました」
「吾輩の伝説とやらを知っているなら丁度いいにゃ。そこの商人に少しばかりお説教をしなければならないにゃ。ソウジロウちと一緒に君も手伝うにゃあ」
顔面蒼白のヴァディスに拒否権は無かった。
結果から言えば、商人ガザーリがその後セクハラをしたと言う噂は、誰も聞かなかったと言う。合掌。
-4-
にゃん太たちが離れ、その場には女性陣とシロエとカズ彦だけが残された。
シロエが口を開く。
「さてレイネシア姫。我々は貴方を泥棒しに参りました」
「泥棒?」
カズ彦が後を継ぐ。
「はっ。高い塔に閉じ込められたお姫様を自由の野に説き放つのは、昔から泥棒の役割と決まってんだよ」
一度は言って見たかった台詞が言え、彼の頬は緩みっぱなしだ。
「じ、自由だなんて、イセルスの邪魔になりますっ! 役目を果たさないと!」
「違いますね、逆です。貴方がこのままお嫁に行くと、イセルス君は殺されますよ」
シロエの眼鏡が光る。
「っ???!?」
「ダリエラ、いや、濡羽さんがいる前でなんですけど、インティクスが何を企んでいるか、推理を話しますね。イセルスは最近頻繁に暗殺者に狙われている。濡羽さんを信奉する西の貴族によってです」
「私は別に指示してないわよ」
「でも知ってはいたでしょう? きっとインティクスは、彼等にこう吹き込んでいたはずです。『濡羽が願っているのはヤマトの平和と東西の融合なのに、東の旗頭に担ぎ上げられているイセルスの存在がそれを阻んでいる。彼女はそれに大層心を痛めている』とね。
後は勝手に濡羽さんの信奉者達が、心優しい貴女の代わりとばかりに、こぞって暗殺者を差し向ける。これにはもう一つ利点が有って、例え掴まってもすべて大地人の暗殺者。フロウデンも濡羽さんも関係ないとシラを切れる。
実際これまではそうだった。
ですがレイネシアがお見合い場所の中立都市ヒダに着き、見合いを始めたならば、インティクスは本命の腕利きの冒険者の暗殺者を送り込む。それは大地人暗殺者のレベルの低さに胡坐をかくアイザックたちには防げない。
そしてイセルスの命が消えれば、見合いの相手は西の次期評議長候補のカナン伯爵では無く、イセ斎宮家エステンバール大公の長男、九歳のマルク公子に差し替えられる。今こそ東西の皇家の血統を一つにし、ヤマト皇家を再興すべしとね。
イセルス殺害の罪は東西の対立を煽る不穏分子に着せられるでしょう。そう言う裏工作をインティクスが始めているのを生憎知っています。そして筋書では、そんな対立分子を排除し、今こそ東西は一つになるべきだヤマトに号令をかける。
濡羽の語るプラント・フロウデンの理想、『どんな個性の者にも、皆に安らかな居場所を与える』そんな楽園を皆で目指そう、と」
「あー、やっぱインティクスの奴、んな事企んでやがったか。理想は同じでも、虫の好かねえやり方だ」
「彼女なりに一生懸命なんですよ~、カズ彦さん。でもそれじゃあ、対立分子さんにもイセルス君にも居場所は無いですよね~」
「オレは悪いけど、どっちかって言うと、今回はシロエに付く」
「…………」
カズ彦とアヤメとマヒルの言葉に黙り込むダリエラ。
フロウデンである彼等も胸中複雑だ。
「なので手は打ちましたけどね」
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イースタル、マイハマ城。
「よう爺さん」
アイザックの声に、窓の外の景色を見ていたコーウェン公が振り返る。
「暗殺者の懐からこんなのが出て来たぜ」
「どれ」
大公は2通のそれを受け取る。
「西のフラット伯とケルン公の命令書か。私の見る限り、筆跡も紙も蝋印も全て完璧に彼等の物にしか見えんな。シロエ殿はこれを私の武器にせよと?」
「どうせ確実にその二人はクロだから気にすんなとよ」
「事態はそれくらい差し迫っていると?」
「ああ、やっと衛兵システムを再起動できる、アキバの水楓の館で無けりゃあ、もうイセルスを守るのは無理だとさ。この俺を虚仮にして言ってくれるぜ、あのハラ黒」
「………。では呑まざるを得んな。提案通り、一時避難として、レイネシアの後任に社会勉強の一環の名目で、イセルスを寄越すとしよう」
そう答えるセルジアッドの後姿は、心なしか少し老けたように見えた。
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再びナゴヤ郊外。
シロエはレイネシアに最後通告を渡す。
「なので貴方はここでもう行方不明になってくれないと困ります。政治的に邪魔なんですよ」
「なっ!」
激しかけるレイネシア。だがそれでも彼女の理性と矜持は強い。強すぎて普段反動で怠け者になる訳だが。
「そんな、そんな事言われても、私が、私だけが貴族の責任を放り出すなんて、していい訳がっ!」
「レイネシアっ!」
アカツキはレイネシアに詰め寄った。
「悔しくないのかっ! あんな馬鹿兄にからかわれて、おちょくられたままでっ! 見返してやれっ!
あの馬鹿がいない間、貴方は一人頑張りいい女になったではないか。これから兄に会うまでには、もっといい女になるだろう。だから、綺麗になってあの馬鹿兄を貴方にベタ惚れさせて、バカにし返せばいいでは無いかっ!」
「………アカツキ」
「私にはわかる。私は気が強い癖に気が小さい。だからちょっと気が弱くとも、心が広く大きな主君で無いと駄目なのだ。だから、同じように気が強く偉そうなくせに気が小さい馬鹿兄には、怠け者でも、民全てを思いやる、心が広く大きな貴女で無いと駄目なのだ。
だから、妹としての御願いだ。
兄の元に、クラスティの元に、どうか行ってやってくれ」
アカツキとレイネシアは抱き合う。
そうして二人、わんわんと泣いた。
「幸せへのチケットです。二つあります」
泣きやんだレイネシアに、シロエは二つの紙を差し出した。
「ギルド互助会お助けチケットと、冒険者転生及びクラスチェンジ誓約書?」
レイネシアは怪訝な顔で受け取る。
「このお助けチケットで、貴方は中国サーバーのクラスティさんの所に向かう、ギルド互助会の船に乗れます。でも、それには条件が有ります」
「条件?」
「このお助けチケットは冒険者で無いと使用できません。ですが、それ以前に中国サーバーは剣呑だと中国から来た冒険者に聞きました。戦闘力の無い、死んでも復活できない大地人の身体のままでは大変危険です。冒険者になって下さい」
「それで冒険者にクラスチェンジせよと………」
「はい、今なら職業選択は自由ですが、適性の低いクラスだと、今よりレベルダウンするかも知れません」
「自分の身の程に合ったクラスで無いと駄目なんですね」
「違います。レベルダウンしても構わないくらい、なりたいクラスになって下さい。貴方が選んで後悔しない、一番クラスティさんを支える事の出来ると思う、その心の形に」
「―――はい」
レイネシアはペンを取り、誓約書にその名と新たな職を書き込む。
-6-
アキバの街。
トウヤは広場でライブを行った後、そのまま壇上で演説を始める。
それはトウヤの言葉で無く、彼が兄貴分とも慕う人の手紙だと言う。
『まずはおめでとうと言わせてもらいます。
貴方たちはブレイクスルーした。貴方たちの手で。
だから今日僕は、貴方達を同じ道を歩く人だと思い、プレゼントの言葉を贈ります。
全ての人は星なんです。
誰の手も届かないくらい高く輝く。もちろん、貴方も。
なぜなら、人類の脳は一人残らず皆特殊だからです。指紋なんて目じゃありません。
きっと必ず、その人に会った、その人にしかできない才能や天職が有る。
自分もお客さんになってくれる人も、幸せにできる道が。
例え試験の点数や知能指数テストで低い点しか出なくとも、眼の見えない人が、その分指先の感覚が磨かれて名マッサージ師になったりするように、足りないモノを補い成長する脳の働きが、きっと貴方だけの才能を造り上げている筈です。
今無くても、これから創れる筈なんです。命は逞しいから。
だってそうじゃないですか。
一見、取り立てて長所が無い様に見える友達にだって、時に周りの誰もが言えないような凄い事や優しい言葉を言って、こいつには敵わないなって思った時が有りますよね。
それが脳が違うって証明じゃないですか。
貴方だってきっとそんな事を言った事が有る、自分では当たり前の言葉や行為でも、誰かにとってはスゴイ言葉を言った事が、凄い事をした事が必ずある筈なんです。
だから貴方も、幸せへのチケットを使って、才能や天職を探す冒険を、貴方に許してあげて下さい。
きっとそれが天職なら、夢中になれる事が、その世界の宇宙にさえ入れる程の、湧き出る思い付きやワクワクが、それに向いている事なんだと信じて上げて下さい。
貴方は、何よりワクワクの冒険を求めてこの〈エルダー・テイル〉を始めたのだから。
人は皆、不平等だけど平等なんです。
誰もが、本当は誰よりも強くて優しい。
誰もが空の星を見上げる只の人に過ぎず、同時に、誰もが空に輝く、手の届かぬ高き星なんですから』
-7-
ナゴヤの海岸の一角に、その船は泊まっていた。
シュツルムリッターと言う名のその船から、艀と呼ばれる上陸用ボートがやってくる。
「お久しぶりです。レイネシア姫」
高山三佐はボートから語りかける。
「乗船チケットは?」
「これです」
レイネシアは互助会チケットと冒険者誓約書を差し出す。
「施療神官、いきなりLv50? 称号〈癒しの聖女〉!?」
「どうしてそうなったのか、私にもわかりません」
『高山さん』
フレンドチャットの囁き声でシロエが語りかける。
『きっと彼女、キャンペーンシナリオイベント用の、重要NPCなんですよ。でも内緒ですよ。彼女は好きに生きるべきですからね』
「……はあ。貴方の覚悟は分かりました。クラスティ救出船、シュツルムリッターへの乗船を許可します。冒険者になったからにはビシバシしごきますよ、心して下さい」
「はいっ!!」
そう答える彼女の笑顔の輝きには、ぐうたらの陰など欠片も見えなかった。
高山も悟る。
結局自分は、金持ちの坊ちゃんにバッグや服の代わりにヲタクアイテムをせがむ、頭空っぽなグルーピーに過ぎなかったのだろう。掛け替えのない友人ではあったが、人生を共に歩むパートナーには、彼女こそ相応しかったのだ。
「さあ、行きましょう。あの馬鹿にはそろそろ本気を出して貰って、地球に還らせて貰わねばなりません。同僚の岩崎に、そろそろ答と言う飴も与える頃合いですしね」
保父しか取り柄が無い男だが、とってもいい奴なのだ。
少なくとも高山にとっては。
-8-
クラスティ救出船を見送る内に、空は晴れ上がった。
夜の帳は落ちかけており、明るい星はもう輝き始めている。
「姫様は言ってしまわれたのですね」
エリッサがお付きの騎士達と共に現われる。
「すみません、貴女が来るまで待てばよかったですね」
「とんでも無い。そんな事したら、あのバカは私について来るよう言って、元のぐうたらに戻ります。真っ平御面です」
これには一同笑った。
そして今度はシロエはアカツキに向き直り、一枚の互助会チケットを差し出す。
「アカツキにお願いが有ります」
「私に?」
「このチケットの依頼は、僕をずっと応援してくれる事です」
「応援?何をだ?」
「地球に還ったら、クラスティさんにも協力してもらって、僕が実力で君の家に相応しいと認めさせるプロジェクトを始めます。僕をアカツキの恋人と認めてもらう為に」
「主君っ!」
アカツキの頬が赤く上気する。
「大好きだよ、アカツキ。君に励ましてもらえるなら、きっと僕は世界を救う事にさえ挑める。このセルデシアを、ひょっとしたら地球でさえね」
抱き合う二人を周りは祝福する。
アカツキは、もう一度、今度は嬉しさに泣いた。
だが一人、ダリエラ、濡羽だけは誰にも聞こえぬ呟きを漏らす。
「……私も、ヒリュウにそう言って欲しかったのにね」
―――と。
―第一章『幸せへのチケット』終わり。次章『王達の屹立』へ続く―
※キャラクター紹介
●クオ・ヴァディス(ヒューマン、召喚術師、吸血鬼)
またの名を轟沈提督。
売れっ子漫画家にしてヘビーゲーマー。ゲーム好き過ぎて印税でゲームショップのオーナーにまでなったと言う風の噂まで流れる始末。本業の連載頑張れよ。ついでに言えば、マフィア映画や極道系シネマも大好き。
壬生狼十三番隊隊長を務めるが、本文中にもあるように只の愚連隊らしい。メンバーの多くはゲームショップの店員だったり店にたむろする悪友達との噂も。
そんな事ばかり上げるとダメ人間にも聞こえるが、業界では一本筋の通ったブレない男としての評価も高い。
ダークヒーローと自業自得の駄目悪党との線引きには一家言あるのは、前回あとがきで語った通り。
ソロモンや濡羽とも、古くからのクリエイター仲間である。
でも、第一章『幸せへのチケット』最後の人物紹介が彼なのが、何となく残念な気がするのは気のせいだろうか、まあ気のせいにしておこう(おい)。
筆者:ぱんぱかぱーん。第一章完結おめでとうございまーす。と、自分でも言ってみたりする。
あ:うむ、めでたい。
筆者:でも残り3章あるから、これからだよねえ、大変なのは。ホント。どうしよう。
あ:おい。
筆者:そもそも、あまりままれさんの援助が無いまま書いてるんだよね、この連載。
あ:おいおい。
筆者:まあ、鴻ノ池家(仮名)にさ、俺がままれさんの原稿をそのまま丸写して書いてんじゃないかって疑われないようにね。世知辛いよ全く。
あ:あ、あはははは(汗)。
筆者:言うと情けないんだけど、丸写しじゃない証拠に、第一話でにゃん太班長の娘さんって、今生きていれば19歳じゃなきゃいけないんだよ。小学生はチョンボ。
あ:うっかりミスだな。まあ、確かにそんな初歩的ミスを兄がする訳がない。丸写しでは無いな(苦笑)。
筆者:なので、もし書籍化する事が有れば、そこら辺を修正します。「お父さんのお嫁さんになるって言い出す年頃だね」じゃなくて、「お父さんに恋人やお婿さんを紹介する年頃だね」「それで班長は淋しくないの?」になるでしょう。
あ:致命的な間違いで無くて何よりだ。
筆者:ホントだよ。もしそんなだったら穴掘って隠れたいよっ!
あ:相変わらずヘタレだな。
筆者:ヘタレついでに、第2章再開までに半年ほどの充電期間を頂きます。
あ:と言う事は、再開は2022年1月からか。
筆者:その予定。
あ:その間何をするのだ?
筆者:病気入院で中断していたガンダムの二次創作小説がやっと完成しそうなんだよね。なのでそれを7月から半年かけてアップする予定。
あ:『なろう』でか?
筆者:いえ、それは流石に無理だったので、『ハーメルン』の予定で。宜しかったらそちらも読んでみて下さい。
題名は『機動戦士ガンダムSS ―アフターストーリー オブ センチネル―』です。
あ:どんな内容なのだ?
筆者:リョウ・ルーツ大尉とその部下たちの成長物語ですね。
あ:うむ。彼等がトウヤ達に劣らぬ成長を遂げるのだな。
筆者:ハードル上げないでっ!?
あ:まあ、実際の所は是非読んでお確かめください。
筆者:宜しくお願いします。
あ:勿論来年からの本作新章もよろしくな!
筆者:ごきげんよう~!!
それでは今度は来年一月、次章『王達の屹立』でお会い致しましょう。お楽しみに。
まったね~。




