第16話 お弁当
学校中に終礼のチャイムが鳴り響く。ようやくお待ちかね、ランチタイムだ!
教室はにわかに騒がしくなる。グループで集まる女子、食堂に走る男子……。俺はというと、友人の隼人と弁当を食べるが通例だ。机を引きずり、隼人の席にくっつける。
「おっ、隼人! 今日は親子丼か。お母さんが作ってくれたのか?いいなぁ」
「ばっ、あんまりジロジロ見るなよ。恥ずかしいだろ」
「恥ずかしいことはないだろ。いいなぁ、隼人は。俺はお袋が別のところに住んでいるから、家庭の味に飢えてるんだよなぁ。なあ、一口くれよ」
「断る! それならスバル氏にでも作ってもらえばいいだろ」
「は? なんでスバルが出てくるんだよ。そもそもアイツは料理とかできねーから」
「ボクが何だって?」
いきなり目の前にスバルが現れた。驚いた俺は小さな悲鳴を上げてしまう。
するとスバルはぷっと吹き出した。
「なにびびっているんだよ〜。ダサっ」
「お前が突然現れたからだろ! で、一体何の用だ?」
「そ、その、お弁当一緒に食べない?」
もじもじと恥ずかしそうに言うスバル。実に可愛いらしく、二つ返事で了承しそうだが、ぐっと堪える。
「昼食は別々にって約束だろ。周りから付き合っていると思われちゃうだろ」
「今回だけ! いいでしょ?」
「駄目だ」
「トシのケチ〜」
スバルは頰をぷくっと膨らませる。
しかし周囲から勘違いされるのだけは避けたい俺は、頑として首を縦に振らない。変に噂されてスバルが傷付くのだけは絶対に嫌だ。
すると隼人が、
「いいじゃんたまには。一緒に食べてあげろよ」
「はっ? 何言ってるんだよ隼人!」
「大丈夫だ。俊明とスバル氏は全く釣り合ってないから、飯を一緒に食べたくらいなら付き合っているとは思われないよ」
「おまっ、失礼すぎるだろ」
「教室は流石に目立つよな。そうだ、屋上がいいんじゃないか? あそこなら2人に丁度いい。俺のことは気にしなくていいから行ってこいよ。ほらほら」
隼人に背中をグイグイ押される。スバルに視線を向けると、キラキラした目で俺を見つめていた。
逃げ場はなし、か。俺はため息を吐くと、
「……わかったよ。じゃあ一緒に食べるか」
「うん」
パッと明るい表情になるスバル。この程度のことでそんなに喜ぶなよ。……照れるじゃないか。
◇
「な、なんじゃこりゃあ!!」
屋上は仲睦まじい男女で溢れていた。なんというピンク空間ーー。非リア充の俺はその毒気で今にも吐きそうだ。くそ! 隼人の奴め、やりやがったな!
「ほら、トシあのベンチが空いているよ。あそこで食べようよ」
ニコニコ顔のスバルに、今更やめようなんて言い出せない。俺たちはベンチに並んで腰をかけた。
「なんで急に一緒に食べようって言い出したんだよ」
「ごめんね、トシ。実はお弁当をたくさんつくり過ぎちゃって……はい」
スバルがお弁当箱を渡してきた。
嬉しさのあまり飛び上がりそうになるが、寸前で思いとどまる。
「開けていいか?」
スバルが頷く。俺はお弁当箱の蓋を空ける。中は美味しそうな海苔弁だった。おかずはほうれん草のおひたしに卵焼き、それとウィンナー。シンプルだが美味しそうなお弁当。うん、決まりだ。このお弁当はスバルが作ったものじゃない!実はスバル、おにぎりを満足に握れない程の料理下手なのだ。そうなると考えられる可能性はーー。
「これ、スバルのお母さんが作ったんだろ?」
「え……そうそう! お母さんったらおっちょこちょいでさ」
「やっぱりな〜。だってすごい美味しそうだもの」
「そ、そう? 照れるなぁ」
「? なんでスバルが照れるんだよ」
「そんなことよりも、早く食べようよ。休み時間終わっちゃうから」
「それもそうだな。いただきます」
まずは卵焼きから。
うん、甘じょっぱくて美味しい。お袋の味って言うの?
腹も減っていたせいか箸が進む、進む。
しかしスバルの手は止まったままだ。しかも俺のことをじっと見つめていてーー。
「どうしたんだよ。全然食べてないじゃないか」
「う、うん。今から食べるよ」
ようやく弁当を食べ始めたスバル。しかし妙だ。いつもならうるさいくらい話しかけてくるのに、今日は静か過ぎるというか。それに動きがぎこちないぞ。
「スバル、今日なんか変だぞ。何かあったのか?」
「べ、べべ別になんでもないよ」
大げさなくらい首をブンブン振るスバル。あからさまに怪しいんだが。
「ねえ、そんなことよりお弁当どう?」
「うん? もちろん、美味しいよ。いやあ、スバルのお母さんは本当に料上手だな」
「そっか、そっかぁ」
スバルはニヤニヤ変な笑みを浮かべる。
……??
やっぱり怪しい。
「ご馳走さま」
そうしているうちに見事完食。量もちょうどよくて腹八分目だ。
するとスバルは、
「お粗末様でした」
「おいおい、それは料理を作った人が言うんだぞ。だからスバルが言うのは間違い……」
「間違いじゃないよ」
「え」
スバルの顔を見ようとするが、顔を逸らされてしましたため、どんな表情をしているか分からなかった。でも耳たぶは真っ赤に染まっていてーー。
「じゃあね」
スバルは俺から弁当箱をひったくると、屋上から出て行ってしまった。
残された俺はただひとり、スバルの言葉を反芻していた。
間違いじゃないよ。
つまり、あの弁当はスバルのお母さんじゃなくて、スバル自身が作ったものだったのか!
そう考えたら全身の血液が沸騰してきた。
俺のために苦手な料理を克服したのか。なんだかもう……それって可愛い過ぎだろ!
そして少し後悔していた。こんなことならもっと味わっておけば良かったな、と。




