第14話 嫉妬の時間
休み時間の教室。
俺は次の授業の準備をするため、机の中を漁っていた。勉強熱心でないため、ほとんどの教科書を置き勉しているのだ。
しかしーー
「あれ?」
いくら探しても物理の教科書がない! そういえば宿題のために昨日持ち帰ったんだっけ。困ったな。物理の先生は怖いことで有名だ。教科書忘れたなんて言ったら怒られるに決まっている。
どうしよう。
お、そうだ。俺は他のクラスに友達ーースバルがいるじゃないか。借りてこよう。
廊下を歩きながら、俺は少し不安な気持ちになってきた。いくら友人がいると言っても、他のクラスに行くというの勇気がいる行為だ。
スバルの教室前に到着してもなかなか中に入れず、時間ばかりが過ぎていく。
すると、俺の様子に見兼ねたのだろう、ひとりの男子生徒が話しかけてきた。
「誰か探しているの?」
「スバ……亀山さんを呼んでもらっていい?」
緊張のあまり声が裏返った。恥ずかしい。
「亀山? ああ、スバルのことかちょっと待っててくれ」
男子生徒は教室に入っていった。
俺は見知らぬ男子の『スバル』呼びに少しイラッとしていた。アイツ、スバルに馴れ馴れし過ぎだろ!
さっきまでの不安はどこへやら、俺は男子を追いかけて教室に足を踏み入れた。しかし俺を待ち受けていたのは予想外の光景だった。
スバルがたくさんの生徒ーー男子女子問わずーーに囲まれ談笑していた。その笑顔は俺に見せるソレよりも輝いて見えて。
ーーと、スバルと目が合った。
「トシ! どうしたの」
俺はなにも答えられず、いや、それどころかスバルから背を向けそのまま走り出した。
背後からスバルの声が聞こえた気がしたが、振り返ることはなかった。
◇
「はあーー」
昼休み。
俺は菓子パンを一口かじると、ため息を吐いた。
あれからスバルとは会っていない。スバルのことだ、きっと昼休みの間に俺に会いに来るだろう。あー、考えるだけで気が重い。
「スバル氏と何かあったのか?」
そう尋ねるのは、俺の友達の隼人。机をくっつけて向かい合わせで弁当を食べている。
俺は驚いて、
「なんでわかったんだ?」
「お前が落ち込むのはスバル氏絡みと決まっているからな。で、なにがあったんだ。ため息ばかり吐かれたら飯が不味くなるから、聞いてやろう」
俺はさっきスバルのクラスでのあらましを話した。
「……なんであんな態度をとってしまったのか分からない。それに胸の中を渦巻くこのモヤモヤは一体なんだと思う?」
隼人はしばらく考えこむと、口を開いた。
「それは嫉妬だな」
「嫉妬ぉ?」
「お前はスバル氏が他の人間と仲良くしているのが嫌なんだよ」
言われてみればそんな気もする。なんだか俺から遠い存在のような気がして、寂しいような腹立たしいような気持ちになった。
そうか、これが『嫉妬』という感情なのか。
しかしーー。
「でもそんなことで嫉妬だなんて、俺狭量すぎないか?」
「そんなことねーよ。だってお前、スバル氏のこと……」
「トシーーっ!!」
スバルが教室に飛び込んできた。スバルは息を弾ませながら、
「さっきどうして逃げたんだよぉ。ボクなにか悪いことしちゃった? 謝るから許してよぉ」
スバルは今にも泣きそうな表情をしていた。その顔を見た瞬間、俺の胸にあった靄はスッと晴れてーー。
「……謝らなくていいよ。悪いのは俺だから」
「えっ、なんで?」
「それは……えーと」
『嫉妬』していました、と言うのはなんか恥ずかしいな。
「な、なんでもねーよ。ちょっと機嫌が悪かったって言うか」
「そんなわけないでしょ! 明らかにおかしかったじゃん! ねー、なんだったの?」
「あー、もう! 秘密だよっ」
「なんだよ、それ! それじゃいいよ、隼人君に聞くから」
「えっ、俺?」
突然話を振られ、隼人はきょとん顔だ。
「ねえねえ、トシはなんで逃げちゃったの?」
「それは……」
頼む隼人! 言わないでくれ!
俺はチワワみたいな眼差しで隼人を見つめる。
隼人はしばらく考えると、
「……ごめん。言えない」
「なんだよそれー!」
スバルは頬をぷくっと膨らませると、隼人に詰め寄った。
「2人だけの秘密ってこと? 最近ボクのこと仲間外れにしてない?」
「そ、そんなことないよ」
「そんなことあるよ! クラスが同じだからってトシを独り占めにしないでよ」
あ、あれ? なぜかスバルが怒り出したぞ。
隼人は大きなため息を吐くと、
「もうお前ら付き合っちゃえよ」




