第13話 階段遊び
「今日は部活休みなんだ! たまには3人で帰ろうよ」
放課後。スバルは教室に来て、開口一番そう言った。ちなみに彼女が言う『3人』とは俺、スバル、隼人のことだ。
しかし隼人は言う。
「ごめん、職員室に呼び出されててさ。2人で先に帰ってくれよ」
「そっかー」
優等生な隼人がなぜ呼び出しを? 疑問に思っていると、隼人は俺の背中をポンと叩く。
「頑張れよ」
「なにを?」
「あーもう、とぼけるなよ」
隼人は俺の耳元でこう囁いた。
「好きなんだろ? スバル氏のことが」
「なっ……」
全身の血が沸騰するのを感じた。
「ち、ち、ち、違う! 俺とスバルはただの親友で」
「あー、はいはい。リア充爆発しろー」
俺が思わず拳を振り上げると、隼人は足早に教室から出て行ってしまった。
アイツめ、なにか盛大に勘違いしていやがる。俺とスバルは親友で、それ以上でもそれ以下でもないのに。
「ねえトシ、ボクたちもそろそろ帰ろうよ」
「あ、ああ。そうだな」
「でも2人で帰るのって久しぶりだよね。楽しみぃ」
「わっ!」
スバルが突然抱きついてきたせいで、俺は大きくよろめいた。近くを歩いていたツインテール美少女ーー宇佐美さんにぶつかってしまう。
「う、宇佐美さん、ごめん」
宇佐美さんは不機嫌そうに舌打ちする。こ、怖い。
するとスバルが、俺と宇佐美さんの間に割って入ってきた。
「あっ、うさみみちゃんだ。トシと同じクラスだったんだねぇ。ボク知らなかったよ」
「……まあね」
「制服もよく似合っているね!可愛い〜」
「悪いけど、私急いでいるから」
「あっ、そうなんだ。ごめんね! また今度遊ぼうね」
宇佐美さんは返事もせずにさっさと行ってしまった。
「おいスバル! 宇佐美さんとはどういう関係だ」
「友達だよ。中学校が一緒でさぁ。『宇佐美美々』だから苗字と名前を繋げて、『うさみみ』ってあだ名で呼んでいるんだ」
「へえ」
とてもそうは見えなかったけど。女子の友情は分からないな。
◇
そして帰り道。
俺たちは海沿いの国道を歩いていた。波の音に潮の匂い。俺はこの道を歩くのが大好きだ。しかも隣を歩いているのは、大親友のスバル。この時間が永遠に続けばいいのにーーそう思うのは当然で。
「ねえ、このまま帰っちゃうのはもったいなくない? 」
頰が自然と緩む。スバルも俺と同じことを考えているなんて!
「じゃあ、ゲーセンにでも寄っていくか?」
「それも悪くないけど。あそこで遊ばない?」
スバルが指差したのは苔生した古い石段だった。傾斜が急で、百段以上ありそうだ。
「確かこの上には神社があったよな。神社なんか寄ってどうするんだよ」
「神社じゃなくてこの石段で遊ぶんだよ。『グリコ』って遊び、覚えてる?」
じゃんけんをして、勝った方が出した手に応じて進むというゲームだったよな。
昔スバルと2人でよくやったっけ。懐かしいなぁ。
「ああ、覚えているよ」
「本当? それなら久しぶりにやってみない?」
「いいぞ」
俺たちは石段の前に並ぶと、
「「じゃんけんぽん!」」
俺がチョキ、スバルがパー。1戦目は俺の勝ちのようだ。
「勝ったら1番歩数が多いパーを出したんだろ。お見通しだ」
「くそぉ、流石にバレバレだったか」
悔しがるスバルをよそに、俺は石段を駆け上る。
「ち、ょ、こ、れ、い、と。6段か」
「まだまだこれからだよ! ほらほら2戦目いくよ!」
「「じゃんけんぽん!」」
俺がチョキで、スバルがグー。2戦目はスバルの勝ち。
しかし勝ち手がグーだから、『グリコ』の三段分しか進めない。まだまだ俺が優勢だ。
「ぐ、り、こ」
スバルはピョンピョンと石段を登り始めた。しかし三段目で足を止めず、
「の、お、ま、け」
さらに四段登り、なんと俺を追い越してしまったではないか!
俺はすかさず声を上げた。
「なんだそれ! ずるいぞ!」
「ふふーん。ウチの地域ではこれがルールなんだよ。さ、次! 次!」
イマイチ納得できないものの、スバルに急かされ次の勝負をする。
「「じゃんけんぽん」」
俺がパー、スバルがチョキ。3戦目もスバルの勝ちだ。
「ふっふっふ。まだボクの勝ちのようですな」
「くそー。次は負けないからな」
「ち、ょ、こ、れ、い、と」
さらにスバルと差がついてしまった。もう見上げないとスバルの顔が見えないな。
そう思い、顔を上げると小麦色のムチムチの太ももがあった。
「わっ!」
「どうしたの?」
「な、なんでもない」
慌てて顔を逸らす。
今は太もも程度だが、スバルがこれより上の段に行ったら、スカートの中身が丸見えになってしまう。
まあ、スバルはスパッツを履いているからパンツは見えないはずだけど。しかし目の毒なのには変わりない。そうなると俺が取るべき行動はひとつ。
ーージャンケンに勝ってスバルより上の段に進むことだ!
「よし、次の勝負へ行くぞ」
「おっ、トシやる気あるじゃん」
「「じゃんけんぽん」」
俺がパー、スバルがチョキ。ま、負けた。
「トシ、勝ちに焦ったね」
「くそぉ!」
「じゃあ行くよ。ち、ょ、こ、れ、い、と」
石段を登るたびにひらひら翻るスカート。しかし不思議なことにスパッツの黒は見えなくて。
ーーまさか、今日に限ってスパッツを履いていない?
そう気がついた瞬間、俺は慌てて目を閉じた。
「さ、さあスバル! 次の勝負をしするぞ」
「うん、それはいいけど……。なんで目を閉じてるの?」
「その、見えちゃうから」
「何が?」
「パン……じゃなかった、太陽がさ。眩しいんだよ」
「そんなに眩しいかなぁ?」
「俺のいる位置からは眩しいの! 辛いから早くジャンケンするぞ」
「「じゃんけんぽん」」
俺はグー、スバルはーー目を閉じているから何を出したか分からない。俺は目を閉じたまま、スバルに尋ねる。
「なあスバルは何を出したんだ?」
「チョキだよ。ボクの負け」
よっしゃ!階段を登れば、スバルのパンツが見えなくなる!
……しかし目を閉じたまま階段を登るのは危ないよな。そうだ、足元を見ながら登ることにしよう。
首を下に向けると、ゆっくり瞳を開けた。見えるのは苔生した石段だけ。よっしゃ、これなら安全に、なおなかつスバルのパンツを覗く危険性もないぞ!
「ぐ、り、こ、の、お、ま、け」
階段を登りきり、ようやく顔を上げる。うん、この位置からならパンツは見えないぞ。後はジャンケンに勝つだけだ。
そう思った瞬間だ。急に強い風が吹いて、スカートが大きく翻ったのは。
◇
俺たちは勝負を終え、神社のベンチに並んで腰を下ろしていた。高台になっているせいか、遮るものが何もなく、海に沈む夕日がよく見える。
「ほら、トシ! 夕日が綺麗だよ」
「ああ、そうだな……」
しかし俺の目には真っ赤に燃える太陽も海も見えていない。美しい光景を塗る潰すのは純白。さっき見えたスバルのパンツーーそれが目に焼きつき離れないのだった。




