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第12話 雨の日の出来事

 

 学校から帰宅し、ベッドで寝転びながら漫画を読んでいると、突然激しい雨音が聞こえてきた。


 俺は飛び起きると、ベランダから洗濯物を取り込む。くそ、ちょっと濡れたじゃないか。予報では今日は雨降らないって言っていたのに。


 俺は雨が嫌いだ。ジメジメするし、気が滅入る。そもそも雨が降っていいことなんてあるだろうか? せいぜい野菜が育つくらいだろ!


 そんなことをぼんやり考えていると、チャイムが鳴った。玄関ドアを開けると、そこには全身ずぶ濡れのスバルが立っていた。


「参ったよ〜。急に雨が降ってきてさぁ」


「へ、へえ、災難だったな」


 と言いつつ、俺はスバルの胸元に釘付けだ。白いブラウスが雨で引っ付き、下着が透けていた。今日はブルーか……。


 って、見惚れてる場合かーい。俺はタオルをスバルに手渡すと、部屋へ招き入れた。


「家に走って帰ろうと思ったんだけど、 雨足が強くて無理で。トシの家が近かったから寄っちゃった。くちゅん!」


「大丈夫か?」


「大丈夫だよ。元気だけがボクの取り柄だからさ〜」


 そうは言っているのの、スバル小刻みに震えており、かなり寒そうだ。


「なあ、このままだと風邪引いちゃうよ。貸してやるから、シャワー浴びてこいよ」


「えっ、いいの? ありがとう」


 スバルは目にも止まらぬ早さで、バスルームに飛び込んだ。流石陸上部だな。


 ……あっ。


 その時になってようやく、自分の過ちに気が付いた。


 女の子が俺の家でシャワー、だと?

 しかも『シャワー浴びてこいよ』とか偉そうに言っちゃったし! この台詞は初体験の時まで取っておくつもりだったのにーー。


 ああっ、本当に何やってんだ俺は!


 ◇


 雨の音に混じって、シャワーの音が聞こえる。

 我が家はワンルーム。脱衣所がなく、俺がいる洋室からドア一枚隔てて浴室となっている。つまり、ドアのすぐ向こうに一糸まとわぬスバルがいるわけだ。そう考えると今にも頭が沸騰しそうでーー。


「ねえ」


 バスルームから、少しくぐもったスバルの声。ひときわ心臓が大きく脈打つ。


「な、なんだ?」


「シャンプーとボディーソープ使ってもいい?」


「ああ、好きなだけ使ってくれ」


「サンキュー」


 再び水の音だけが部屋に響く。

 ふう、今のうちにスバルの着替えを用意しないと。俺は箪笥を漁り、パーカーと短パンを出した。これならスバルも着られるだろう。


「スバル、ドアの前に着替えとバスタオル置いておくからな」


「何から何までありがとう! 」


 ふう、これで俺の役目も終了だな。あとはバスルームドアから背を向けて、一切見ないようにしよう。


 しかしほんの少し遅かった。


 バスルームのドアが少し開くと、スバルの手が出てきたのだ。見慣れた手のはずなのに、濡れているせいかすごく艶かしく見えて。

 本来ならば目を逸らさなくてはいけないのに、できなくて。


 スバルの濡れた手は何かを求めるように床を這う。

 手首、腕、肘。徐々に腕が伸びてくる。このままだと全部見えてしまうじゃないか!


 しかし二の腕が出た所で、ようやく着替えとバスタオルを掴んだ。目的のものを手に入れた腕はするするとドアの向こうへ吸い込まれていきーー。


 ぱたんとドアが閉まった所で、俺はようやく動けるようになった。


 俺には刺激が強すぎる。早く着替えて出てきてくれ、スバルーー。


 ◇



「えへへ〜、トシの洋服借りちゃったぁ」


 小柄なスバルに、俺のパーカーは大き過ぎたようでーー。袖は長すぎ、襟ぐり広すぎのぶかぶか状態。


 か、可愛い。


 スバルは萌袖をぶらぶらさせながら、


「乾燥機まで貸してもらってごめんね」


「別に気にするな。俺たち親友だろ」


「持つものは親友だよねぇ。じゃあ洗濯物が乾くまで待たせてもらうね」


「おう。じゃあ待っている間ゲームでもしようか?」


「マリカーやりたーい」


「せっかくだから対戦しようぜ」


「うん」


 スバルの希望で、レースゲームをやることになった。俺たちはテレビの前に並んで座る。


「負けた方は罰ゲームな。缶ジュースおごること」


「おっ、いいねえ! トシには絶対負けないぞ」


 スタートを知らせるシグナル音が鳴り響き、俺たちの車両は一気に加速する。

 俺はスタートダッシュに成功し、一気にスバルを引き離す。


「えーん、失敗したー」


「ふっふ、これでジュースは俺のものだな!」


「なんの! レースはまだ始まったばかりだぞ」


 長い直線コースから急カーブ! しかし俺は華麗にドリフト走行! 危なげなく通過する。


「よしっ!」


「くそっ! ボクだって」


 スバルも遅れてカーブに突入する。


 むにゅっ!


「!!」


 腕に柔らかな感触。俺は思わず横を見る。

 なんとスバルのお、おっぱいが当たっているじゃないか! しかもこれ、ノーブラなんだよな。つまり、限りなく生乳に近い感覚ということだ。こ、これはヤバイ!


「スッ、スバル!」


「ごめん。ボク、ゲームしてる時一緒に体が傾いちゃうタイプなんだ」


 カーブを抜けると、スバルの体が真っ直ぐになった。ほっと一安心ーー。


 むにゅっ!


「!!」


 再びカーブに突入! スバルの柔らかな胸が腕に押し付けられる。


 落ち着け俺、カーブは一瞬。すぐに終わるさ。


 しかしーー。


「えいっ!えいっ!えいっ!」


 むにゅっ、むにゅっ、むにゅっ!


 連続急カーブが俺を襲う! よりにもよってカーブが多いコースを選んでしまうなんて! 一生の不覚!


 ……結局レースどころではなくなってしまい、俺は負けた。


「やったー! ボクの勝ち」


「……じゃあジュース買ってきます」


「ボク、レモンスカッシュね」


「はいはい、いつものやつな」


 玄関を出ると、外はすっかり晴れていた。どうやら通り雨だったらしい。


 俺は火照った体を冷やすよう、大きく深呼吸する。雨が降った後のせいか空気がうまい。


 俺は少し雨が好きになったらしい。

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