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第9話「デミス教団のグリッド」

夕暮れ時、宿に戻った私は水を浴び、丁寧に下着と装備を着込んでいく。

胸当ても籠手も大分傷だらけになってしまった。冒険者になってからずっと私を守ってくれた大事な装備だ。買い換えるのはもったいないくらい思い入れがある。

今度鍛冶屋で修理と調整をしてもらおう。

私は靴の紐をきつく締め、ベッドへ立てかけていた剣を取る。


エルが向かった場所は街の外れにある廃坑と聞いている。人数も不明の中、一人でいくには覚悟が必要だ。各種ポーションや能力向上用の薬剤もありったけ持っていく。

最後に剣の状態を確認していると、かつて剣を教えてくれた恩師の事を思い出した。


恩師は修行の最後に私へ問いかけた。


「お前の剣は何の為にある?」


私は答えた。


「嘘を切り、真実を切り開く為にある」


私を育て剣を教えてくれた恩師は私の剣の向かう先を誤って欲しくなかったのだろう。

憎しみでいつか剣を振るう時が来るとわかっていたから……


理由はともかくとしてもあの女性は一度エルに嘘をつき騙した事に変わりはない。

私はその嘘をあの少年エルに伝え、真実と本質を明確にする。真実を知ってもなおその絆が揺るがないと言うのなら、私は迷わずこの剣を人に向けるのだ。


私は頰を一発叩き気合を入れた。


「よしゃぁっ いっちょやったるかぁ!」


ドアをあけ放ち、颯爽と階段を降りる。

普段とはちょっと違った歩き方だったのか、気合いを入れ過ぎてきつく結び過ぎたのか、理由は定かでないが、私は靴紐を踏んで派手に転げ落ちた。


全く幸先不安だなと思いつつ、血相を変えて走ってきた宿の店主に手を借りて立ち上がった。


***


廃坑の入り口、草むらに隠れ様子を伺うと、そうだろうなとは思っていたがやはり見張りがいる。堂々と立つ見張りがいると言うことは、場所が誰かに知られてもどうってことないということだろう。

尚更、私の追っている組織が絡んでいる可能性が高い。


廃坑の侵入経路は女性から聞いている。

正面以外にも搬入用出入り口があり、その脇にある配管から侵入できる。

壁伝いに茂みを通り、人が一人入れる大きさの配管にたどり着く。

ススだらけになりながら配管を通り抜けるとひんやりした空間に出た。

真っ暗で何も見えない。腰の袋から発炎筒を取り出し先を擦って発炎させる。

小さくパチパチと火を放ち辺りを照らす。

どうやら何処かの通路の様だが、綺麗に掘られた洞窟だった。


先に進むと別の通路に出る。ここは所々に火が灯っている。通路として使われている証拠だろう。


使用される通路を避け、灯りのない道を進む。

奥に工場があると聞いていたが、方向があっているのかと不安になりながらも進んでいくと、奥に灯りが見えた。


ひょこっと顔を出し灯り側をのぞいてみると、物々しい機械から薬品やらが並び、如何にも何か作ってます感たっぷりの場所になっていた。ここが桃源郷の工場で間違い無いだろう。

作業着を着た女性達が瓶に何かを混ぜたり測ったりしている。

この状況を見過ごすわけにはいかないが、それはエルを助けた後に憲兵に報告すれば良い。餓鬼であるエルが憲兵に見つかるとまずい。


一旦別の道へ向かいエルの居場所を探そう。

しばらく暗い道をあちこち歩き、また灯りのある道に出る。人の気配が近づいてくることに気づき、壁に張り付き過ぎるのを待っていると2人の会話が聞こえてきた。


「あのガキ散々暴れやがって、あちこち引っ掻き傷だらけだ。縛り上げるだけでこんだけ苦労するとは」


「まあもう使い道もないし殺してポイだろうな。ボスもご立腹であの女も近いうちに処分だろう」


2人組が通り過ぎ、左右を確認する。

誰もこない事を確認し、2人組が来た方へと急いだ。

突き当たりに鉄の扉があり、迷わず手をかける。頑丈に施錠されていると思ったが、

扉はゆっくりキィキィと音を立てて開いた。


そこには柱に縛り付けられたエルの姿があった。

しかし居たのはエルだけではない!


「ようこそ勇敢なる戦士のお方、お待ちしておりました」


丁寧にお辞儀をしその姿勢のまま顔だけをこちらに向けた仮面の男が目の前にいた。


バレてた!?


女性に騙される可能性も考えて会話をした。その上で言葉に嘘はなかったのだ。

ではなぜか…… 侵入中に感知された?


「察しの通りだ。」


奥の暗闇から姿を現したのはシギルだった。

まさか桃源郷に関わっていたの?


「何であんたがここにいるのよ」


「俺は仕事をしているだけだ」


シギルは淡々と無表情で答える。


「おやおや、お知り合いでしたか」


仮面の男が口元をにやけさせながら会話に割り込んでくる。


「勘違いはするな、ただの客だ」


シギルは仮面の男を見ることなく答える。

……なんだろう少し嘘がある気がする。

いやいやそんなことより!


「ちょっとこんなとこで商売? ここが何だか知ってるわけ?」


「無論だ」


「じゃあ何で!」


「商売のためだ、俺は目的のために動いてるにすぎない」


「あんた…何だかんだ言っても良いやつなんだと思ってたのに! この詐欺師が」


「そう、俺は詐欺師だ」


淡々としている姿に苛立ち、歯をギリギリとしていると、またもや仮面の野郎が割って入ってくる。


「おやおやまあまあ、ただの客にしては親しみのある喧嘩ではありませんか」


「親しみ? 冗談ではない。こいつには貸しがある」


「そうよ、誰がこんな奴と親しいものですか!」


「ふふーん。まあ良いでしょう。あなたの侵入を教えてくれたのはこの方ですからね。信用するとしましょうか」


やっぱり何かの道具で感知されたのか。


仮面の男が指を鳴らすと、武器を構えていた奴らがジリジリと近ずいてくる。

ニヤニヤと舐めるような視線が腹立たしい、

鉄拳制裁と行きたいところだが、人数が多い。


剣の柄に手を添えながらゆっくり後退する。


抜剣している状態では打ち込み時に初動が発生する。

逆に抜剣している相手は受ける際初動が少なくて済む。こちらの攻撃は防がれやすい。

ここは相手の出方を見なければならない。


やがて後退の限界を迎え、背中に冷たい感触が伝わる。

一人が舌舐めずりをして剣を握り直す。

こうなっては致し方ない、腰を落とし抜剣姿勢を取る。

距離を詰められると私の速さを強みとした戦いができなくなる。

一番左の男に狙いを定める。


壁を使い一気に前に飛び出す。

私は抜剣……せず男の横を通り抜けた。


うお、という声が風に混ざり消えていく。

平然と立ち尽くす仮面の男、その隣のシギルは顎に手を当て私を見ている。

この二人にも興味はなかった。

私は二人の目前で右へ、シギル側の壁を蹴って二人を飛び越えた。


傷だらけで気を失っているエルの縄を切る。


「起きて、一緒に帰りましょう」


エルはゆっくり目を開けてこちらを見た。


「だ…れ……?」


「あなたのお母さんから依頼されて助けに来たの、すぐに立って逃げましょう!」


「あははは、そうは行きません。まったく奇抜な女性ですね。いやいや面白い」


口元は相変わらずにやけながらこちらに近ずいてくる仮面男。


「薬漬けにして売り飛ばすにはもったいない。どうですか? 我々と共に来ませんかね」


「何?馬鹿なのあなた。誰がデミスの仲間になんかなるもんですか!」


一瞬仮面男の口元がピクリと動く


「その名をどこで聞いたのかは知りませんが、生かして売り飛ばす理由がなくなりました。貴方はここで死んでください」


一瞬、足の力が抜ける。

すごい威圧感


もう仮面下の口は笑ってなどいない。

先程までの部下もゆっくりと後退しながら、距離が空くと一気に逃げ出した。


コツコツと靴を鳴らし近づいてくる。


「はじめまして、私はデミス教団の幹部、

グリッドと申します。そしてさようならです」


再び違った動作で丁寧にお辞儀をした仮面の男、グリッドはゆらりと二本の歪な短剣を取り出した。


やっと見つけた!

デミス教団その確証が私の勇気を奮い立たせた。


剣を握り直し、私はエルの前に立つ。

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