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始まりはアネモネ(4)

よろしくお願いいたします。

「ごめんなさい、ちょっと通してください!」

人にぶつからないよう、細心の注意を払って椅子を進める。こういう時にすぐに動けない自分が恨めしい。

群衆の中をなんとか割り込んで行くとユーリが魔創士達に今まで見たことのない怖い気迫で詰め寄っているところだった。


「勇者って、どういうことですか」

ユーリの怒気迫る声色とは真逆の、こちらにも嬉しさが伝わるほどの晴れやかな笑顔で魔創士は答えた。

「あぁ、あんたにはちゃんと説明しなきゃな。俺たちはこの水晶を使って魔王を討伐することのできる勇者を探してたんだ。俺らのような一般人は魔王に傷をつける事はできても致命傷与えることはできない。ところが、勇者には特別な力が備わっていて、その力で魔王倒すことができると、そう教会に信託があったそうだ」


勇者と言うのは三人おり、一人はユーリ、残りの二人は既に見つかっていて王都にいる。また、魔王は今すぐに攻めてくるわけではなく、魔物の活発化も勇者が三人見つかった時点である程度おとなしくなるということも伝えられた。

そしてユーリには出発までの準備期間として三日間与えられた。




「リリー、畑に関してはガーネットを雇ったから問題ないよ。あとミールおばさんが二日に一度、リリーの様子を見に来てくれるからね。必要なものはミールおばさんか、週に一度来るガーネットの親父さんに言えば手配してくれる」

「ガーネットを雇ったって……。あなたのことだからミールおばさんもガーネットのお父さんもみんな雇ったんでしょ?そんなお金、うちにはないはずよ。いったいどこから出るのよ」

「それも心配しなくていいよ。困ったことがあったらすぐにミールおばさんに相談してね。俺がいない生活になれたら来てもらう頻度を減らしても良い。」

私の生活を成り立たせていた自分がいなくなるからと本当にあちこちに手を回しているようだった。



あの時ひとしきり問い詰めた後、普通ならば喜ぶであろう所を「その勇者という役目をを辞退させていただく」その場でそう言ってしまったためか、魔創士達に逃げ出すのではと警戒されている。おかげでユーリには常に見張りが付いていて、一日目の時点で辟易していた。

「あいつら、俺がどこに行くにもついてくるんだ。ついさっきなんて手洗い場の前までついてきやがった」

「まぁ…。ユーリは逃げたりなんてしないのにね。私からも彼らにお願いしてみるわ」


そんなやり取りがあった後、すぐに彼らに掛け合ってみたものの、「近しいものからの願いは聞き届けられない。それでは怪しんでくれと言っているようなものではないか」だそうだ。




3日と言うのはあっという間に立ち、ついに出発の日がやってきた。どう言いつくろっても晴れやかとは言えない私の気持ちとは反対にに空は雲一つない快晴だった。何より体の調子がすこぶる良い。目の調子がかつてないほどに良く今日はものがよく見える。相変わらず色はないが、ものの陰影をハッキリと捉えることができる。今日という日こんな特別なことが起きるとは何の因果だろうか。

王都への道に出る際には広場を通らなければならない。そのため村長より村の皆は広場に集まるようにと言われている。おそらく村長からの餞の言葉と村民総出の見送りをするためだろう。


「今日は、とても調子が良いみたいだね」

「そうなのよ。あなたの門出をよく見ておきなさいという神の御示しかもしれないわね」

自分のことのように喜んでいるユーリは喜びを伝えるかのように私の手を握って、上下に揺すった。


しばらく会えなくなると思うと次から次へと言葉が溢れてくる。

「あらいけない、そろそろ叱られちゃうかしら。いってらっしゃい、ユーリ。その道に、数多の祝福があらんことを」

そっと離れながら親しい人への言葉を送る。声が震えないようにするのに精いっぱいでそれ以上の言葉をかけることができなかった。


「行ってきます、リリー。その祈りに感謝を」

ドアに向かうユーリはこちらを振り返りはしなかった。


とうとう馬の方も待ちくたびれたのか荒い鼻息が聞こえてくる。しかし最後にこれだけは、と言葉を重ねる。

「あなたの帰りをここで待ってるわ。ずっと。何年でも、何十年でも。あなたの帰る場所としてあり続けるから安心して行って来なさい」

「たとえ骨の一本でも帰れるように努力するよ。手紙、沢山書くからさ。リリーにも読めるようなもの何か探すからさ、王都にいる間は返事待ってる」

振り返らずに、前だけを見据えて宣言するようにそう言った。

「えぇ。もちろんよ」


魔創士に声を掛けられ遠ざかっていくユーリの背中を食い入るように見つめる。これから彼が成し遂げなければならない責任の重さを考えると頑張れとはとても言えなかった。その代りとばかりに、伝われば良いと祈りながら見つめ続けた。

彼らは馬で王都に戻ると言う。魔創士たちのように馬に乗れないユーリには一人の馬の後ろに乗り彼らとともに旅立っていった。

お読みいただきありがとうございました。

今後はのんびりとお待ちくださいませ。

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