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おかげさまで累計10000PVを突破しました!

沢山の方に読んでいただき、本当に嬉しく思っています!

いいねや高評価、ブックマークなど本当に励みになります、ありがとうございます!

小説に登場するキャラクターが別作品にも登場していたり、物語の設定が繋がっていたりするので、そういったところを楽しんでいただけると幸いです。

これからも応援のほど、よろしくお願いします!

 屋敷の夜は静かだった。広い敷地のどこかで風が木の葉を揺らしていたが、それ以外にはほとんど音がなかった。時計の針が進む音さえ、この部屋では少し遠くにあるように聞こえた。


 大きな寝室のベッドに、斎藤響(さいとうひびき)と妻の彩花(あやか)は並んで横になっていた。

 響は黒い髪を枕に預け、天井を見ていた。切れ長の目は暗がりの中でも妙に冷静に見えた。いつものように眼鏡をかけたままだった。

 隣にいる茶髪のロングヘア、綺麗な顔立ちをした彩花という名の女性は、しばらくそんな響の横顔を眺めていた。


「響さん」


「なんだ?」


「眼鏡、外していいですか?」


 響は少しだけ顔を向けた。


「ああ。かまわない」


 彩花は微笑んだ。

 響は何も言わなかった。やがて小さく息を吐き、好きにすればいいというように目を閉じた。

 彩花は指先で眼鏡のフレームをつまみ、ゆっくりとそれを外した。

 眼鏡がなくなると、響の顔は少しだけ違って見えた。

 彩花はそれを見つめた。


 一週間前まで、彼女にとって響は婚約者だった。

 そして今は夫として、同じベッドに入っている。


 二人は財閥家の長男と令嬢という立場にあり、二つの家にとって、この結婚はとても都合のいいものだった。誰もそれを不思議には思わなかった。大きな家同士の結婚には、恋愛とは別の種類の理由がいくつもある。

 けれど彩花にとっては、それだけではなかった。

 彼女は響に、一目で恋をした。


 初めて会った日のことを、今でも覚えている。

 ほとんど何も話していないのに、彼のことが気になった。冷たそうに見える目も、あまり笑わないところも、むしろ彼女には魅力的だった。

 だから、婚約の話が出たとき、彩花は嬉しかった。

 その気持ちは今も変わっていない。


 彩花は眼鏡をサイドテーブルに置いた。


「響さん…。こうして一緒に寝るの、まだ少し変な感じがします」


「じきに慣れるだろ…」


「はい」


 彩花は小さく笑った。


「私、響さんと妻として、これから素敵な女性になれるよう頑張ります」


「ああ…」


 響の返事は短かった。

 彩花は彼の横顔を見つめた。

 その横顔には、彼女の知らない何かがあった。


 響は財閥家の長男として生まれた。

 家の名前を背負い、家のために生きることを求められてきた。

 だから彼は、好きでもない相手との結婚を選んだ。

 それが必要だったからだ。

 彩花は、そのことを知らない。


 彼女はただ、隣にいる夫を見つめていた。

 好きな人と同じベッドで眠れることを、静かに喜んでいた。


 響は目を閉じた。

 彩花には見えないところで、その表情からほんの少しだけ温度が消えていた。

 屋敷の外では風が吹いていた。

 しばらくして、響が静かに口を開いた。


「一つ、君に聞きたい」


「なんですか?」


 彩花は響の方を向いた。


 響は天井を見たまま、しばらく何も言わなかった。

 それからゆっくりと顔を彩花へ向けた。


「君は俺をどう見てる?」


 彩花は少し考えたあと、話し始める。


「…かっこよくて、頼りがいがあって、財閥家の長男としてふさわしい方だと思っています」


 その言葉のあと、部屋には長い沈黙が落ちた。

 遠くで時計の針が動いていた。

 響は彩花を見つめていた。


「真逆だ」


「え?」


「俺は、君が思っているような男じゃない」


 彩花の表情から、わずかに笑みが消えた。

 響はベッドの上で身体を少し起こした。


「俺の妻になったからには、夫である俺のことをよく知っておくべきだ」


 その声は静かだった。

 怒っているわけでもない。

 脅しているわけでもない。

 ただ、事実を伝えているだけのようだった。


 彩花は何も答えなかった。

 響の顔を見つめながら、彼女は初めて思った。

 この人には、自分の知らない顔があるのかもしれない。

 けれど、それがどんな顔なのか、まだ彼女には分からなかった。




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