第1章 あの娘の仮面
きれいだ……
その娘は泣いていたのに、俺はなぜだかそう思った。
その時から俺は……
「おーい、何やってんだ?、拓人」
放課後の練習で、ファールボールを追いかけてきて、立ち止まっていた俺に、チームメイトの山田の声がする。
「……わり、今行く!」
俺は慌てて球を拾い上げ、グラウンドへ駆け戻った。脳裏から、あのグラウンドの隅で流されていた涙の跡がどうしても離れないまま。
翌日の教室。拓人は落ち着かない気持ちで席に座っていた。昨日あんなものを見てしまったからだ。あいつ、今日は大丈夫なのかよ。
だが、朝のホームルームが始まり、クラスのざわめきの中に目をやると、小川美緒は友人に囲まれてケラケラと笑っていた。昨日の涙が嘘のように、いつもの明るい笑顔でクラスメイトと談笑している。
(……なんだ、よかった。俺の気のせいだったのかよ)
拓人は胸をなで下ろし、バカみたいに安心した自分に呆れながら、机の上の教科書に目を落とした。
しかし、放課後。
「じゃあ美緒、また明日ね!」
「うん、バイバイ!」
美緒と友人二人組が昇降口の前で別れ、友人の後ろ姿が遠ざかっていく。一人になった瞬間だった。
美緒の表情から、嘘のようにスッと光が引いていく。
誰もいなくなった通路で、彼女はふっと息をつき、憂いを帯びた、あの痛々しいほど切ない顔に戻った。昨日、グラウンドの隅で見せた、あの孤独な表情そのままで。
――笑ってたのは、全部作り物だったのかよ。
遠くからそれを目撃してしまった拓人は、拳をぎゅっと握りしめた。胸の奥で、言語化できない黒々とした感情がざわめく。
あんな顔をさせたままでいさせるわけにはいかない。
もう二度と、あんな嘘の笑顔でごまかさせたりしない。
拓人はその場で固く心に決めた。どうやって関わればいいのかも分からないくせに、いてもたってもいられず、彼女の背中を睨みつけるように見つめたのだった。
新連載です。
冒頭だけ拓人の語りの一人称になりましたが、
三人称で行きます。




