第18話 週末の水族館③
ノリでみんなでペンギンプレートを頼んだ。
ペンギン型のご飯の周りには、カレールーが注がれて。周りには唐揚げとエビフライとハンバーグが大集合!
いわゆる、お子様ランチプレートってやつだ。
「可愛いし、美味しそう」
「やっぱりなんか恥ずかしくなってきた」
「俺もです……」
「ええっ⁉︎ 隼人までっ?」
「「ふぷっ! あははは」」
お子様ランチが乗った円卓に、笑みが溢れる。
私たちが本当の兄妹だったら、とても楽しい休日だったけれど、名目上は、今日は「デート」。
そう思うと、自然となんだか緊張してしまう。
「なぁ、藍、緊張してるだろ」
「もうっ、そんなこと『ある』よ!」
「……あるんかいっ」
クスクス、と笑みがこぼれる。
仲良し3人の、憩いの食事。
隼人の表情も柔らかいので、私も自然と笑みがこぼれる。
……でも……
この場の雰囲気を崩したのは――拓哉だった。
「なぁ、藍」
「なぁに?」
「俺は、藍が好きだ」
「……………………うん」
「隼人も、本当に好きなんだろ?」
「はい、もちろん。好きだよ、藍」
「…………………………ありがとう」
拓哉は、ナイフとフォークを円卓に置く。
そして、真剣な面持ちで、私に問う。
「藍はさ……。たぶん、俺の勘が正しければ、このままの関係がいいって思ってるだろ?」
――さすが、拓哉。
長い付き合いの拓哉には、何でもお見通しだ。
「うん、正直言うと、そう。でも……」
「……このままじゃ悪いって思ってるだろ?」
「……うん」
そして拓哉は、隼人を見る。
「隼人はどうなんだ? できるなら、藍を独り占めしたいだろ」
「したいです………………でも……」
「……でも?」
隼人は、私と拓哉を順番に見て言った。
「藍のことは好きだ、本当に大好きだ、でも……」
言い淀む隼人に声をかけたのは、拓哉だった。
「……言いたいこと、なんとなくわかるよ」
拓哉は、隼人をじっと見つめてコクリ、と頷いた。拓哉とは違い隼人はとっても気まずそうに、視線を逸らす。
私にはなんだかわからなかったけれど、男同士、通じるものがあるんだろうか。
仕切り直して、拓哉は言う。
「藍、拓哉……。俺さ……。
俺たち高校1年生だろ? 今からこの話するのは早いってわかってるけど。決めてることがあって」
「え……?」
私は、ドキリ、とする。
拓哉のこの表情は、本当に大事な話をする時の表情だ。
「大学は、サッカー強豪校に行くつもりだ。だから、県外へ行く。藍と……一緒にいられるのも、あとほぼ3年間だ」
「…………え………………」
驚きしか、言葉が出なかった。
いつも一緒にいた拓哉。
小さい時から今までずっと。
辛い時も、嬉しい時も、いつでも、いつだって。
私は自然と、ポロリ、と涙が出た。
「――わ! 泣くなよ藍! まだ3年もあるだろ?」
「そ……だけ……ど……」
隼人は私の背中をさすりながら、手をギュッと握ってくれた。そして少しだけ自嘲気味に笑いながら、眉をハの字にさせて言う。
「本当だったら、チャンスだ! とか言う場面ですけどね。何も言えませんよ。藍のこんな……涙を見たら。……まったくずるいな、拓哉さんは」
「……みんな、ごめんな」
可愛いペンギンプレートは、涙の味がして……とってもとっても、しょっぱかった。
◆ ◆ ◆ ◆




