表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
19/20

第19話 私の好きな人


 私たちは、少し気まずいまま、家に帰ってきた。


 3人でダイニングテーブルに座る。

 目を腫らす私に気を利かせて、隼人がミルクをたっぷり入れた、温かい紅茶を淹れてくれた。

 私が一番好きな、食後の飲み物。


 隼人はずっと真っ直ぐで。

 5年前から好きだったって、言ってくれた。

 小学5年生だけれど、5歳差だけれど。

 うっかりと、その年齢差を忘れてしまう精神年齢とルックスで。

 いつも私は、ドキドキさせられていた。

 強引だし、

 時折見せる表情は甘えただし。

 私を好きだと言ってくれる、真っ直ぐな気持ち。

 ありがとう、の気持ちでいっぱい。

 正直、隼人に惹かれていた部分もあった。

 本当に、魅力がいっぱいだから。



 ――――だけど――――



 私の頭の中は……

 そう……

 さっきから――――拓哉のことばかり。


 今までずっと一緒にいた拓哉。

 幼稚園、小学校、中学校、そして今も。

 つらい時、悲しい時、嬉しい時も。

 いつもいつも、いつだって……。

 私の側には、拓哉がいた。


 3年後には会えなくなるの?

 毎日毎日、顔を見られなくなるの?

 もしかして、県外で告白されたりするの?

 付き合ったりするの?

 彼女、作ったりするの?


 そんなことで私の頭の中はいっぱいで。

 時間はかかったけれど、ようやく、自覚した。


 私が好きなのは――

 私の好きな人は――――――――


 ――でも、その前に……


「ねぇ、隼人……あの……」

「ねぇ、藍。言葉遮って悪いけど。その言葉は聞きたくないんだ。潔くない、カッコ悪いって、笑ってくれたっていい。……だけど……」


 私は隼人の言葉を汲んで、伝えるのを止めた。

 拓哉は黙って、話を聞いている。


「俺さ……。うまく言えないけど、今日すごくすごく楽しかった。……その拓哉さんも一緒で……。兄さんみたいだった」

「隼人……」


 隼人は、涙を堪えながら天井を向く。


「なんて言うかさ、俺、藍のことは大好きだ。でも、拓哉さんのことも好きになっちゃったんだよね。これってさ……どこか……家族愛的な側面を持ってる気がして」

「…………うん」


 私はただ、相槌を打つ。


 ――実は、水族館でそんなような気はしていたんだ。拓哉にはにかみながら絡む、隼人の嬉しそうな顔。拗ねながらも、甘えるところ。本当の兄弟みたいに。


 そして私には………………


「それでさ、思った。俺、藍のことは大好きだ。恋愛として大好きだ。昔から……保育園の頃から好きなんだ。……けど……。どこか、母さんの役割を求めていた部分もあったと思う」

「…………うん」


 隼人は、照れ臭そうに言葉を続ける。


「でもさ、始まりはどうであれ、間違いなく俺の初恋は藍なんだ。間違いなくこれは『恋』なんだ」

「……うん……」

「藍が『おりょうりだいすき』を読んでくれた時から、大好きなんだ……!」


 ――『おりょうりだいすき』……。


 私も隼人も、涙が止まらなくなってきた。

 隼人の気持ちが、痛いほどわかるから。

 本当に、わかるから。


 ――隼人の言葉で思い出した。

 社会科見学の話。あの時の、あの子……。


「はや……ちゃん?」

「へへ……やっと思い出してくれた?」


 私は立ち上がって隼人をギュッと抱きしめた。


「気づいてあげられなくて、遅くなってごめんね、はやちゃん……」

「いいよ。藍……お姉さん」


 抱きしめ合う私たちを見て、拓哉は席を外そうとした。けれど、隼人は拓也を慌てて呼び止める。


「拓也さんも、いて」

「……あ、あぁ、いいのか」

「うん」


 隼人は、私の身体をそうっと離して、涙ながらに、私に告げる。


「藍、好きだよ。昔も今も、これからも。……でも藍の好きな人は、わかってる。……だから、『ごめん』じゃなくて、『ありがとう』って言って」


 ――隼人……隼人……。


 隼人の顔が、潤んで見えない。

 見えなくて良かった。だって声の感じから、隼人、泣いているもの。


「隼人……ありがとう……」

「どういたしまして」



「うっうっううううううう〜」


 大きな声で泣き出したのは、拓也だった。

 場の空気を乱すとは、まさにこのこと。


「もう、俺と藍の感動のシーンを邪魔しないでくれます?」

「それは私も同感。拓哉、ひどいよ」


「ごっごめん〜。も、もう、2人とも大好きだー!」


 拓哉は、私たちを丸ごと抱きしめた。

 拓哉も、隼人も私も、号泣した。

 大泣きのリビング。


 私の大事な家族であり……

 私の大事な……好きな人――。


「ねぇ、俺は席外すから。5分間だけね。だからその隙に言うこと言っちゃって! ただし! キスは禁止! それくらい配慮してよね!」


 と言って隼人は颯爽とリビングから2階に登っていった。


 ――い、言わなきゃ。

 待たせた分、私から……。

 ――と、思ったけれど。


「藍は、強引な男が好きなんだろ? 大好きだ。藍。付き合ってほしい」


 拓哉の真っ直ぐな瞳――私の頬に手をそっと添わせた後、優しく頬を撫でた。


「答えは?」


 ――もう、強引なんだから――


「私も好きだよ、拓哉……」

「キスはダメだけど、ハグならいいよな」


 と言って拓哉は、私をぎゅうっと抱きしめた。

 力強く、ぎゅうっと。

 ――幸せで幸せで、溶けていくみたいだった。


 ◆ ◆ ◆


「好きだよ、藍。ずっと……好きだ……」


 2階の自室で、隼人は泣きながら呟いた。


 

次話で完結となります。

次話はエピローグです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 隼人君、振られちゃいましたが、大好きなお姉さんと、お兄さんもできてよかったのかな。時間はかかっても、良い子を見つけて幸せになってくれるといいなぁ。藍ちゃんも自分の気持ちに気づけてよかったで…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ