第12話 アピールタイム!〜拓哉ver.〜
「ええ〜っ! どういうこと?」
「なんで拓哉と藍が手を繋いで登校してるの〜⁉︎」
学校は当然、大パニックだ。
登校経路に人だかりができ、校門前にも人だかりができ。
私はこうなることがなんとなく予想できていたんだよね。だって拓哉、サッカー部の期待のエースだもん。加えて、アイドルみたいなルックス、気さくさ……。思えば拓哉は、小さい頃からず〜っとモテてた。
その拓哉が、私みたいな子と手を繋いで登校してきたらどうなるのか? ――考えなくても簡単な問題だ。
「ねっねぇ拓哉、みんなに見られてるよ! どうするの⁉︎」
慌てる私に、余裕の表情で一言。
「みんな! おはよ! 今日から俺たち、お試しで付き合うことになったから! と言っても俺がお願いした立場だから! 質問は俺に! そこんとこ、よろしく〜!」
「あわわわわわ」
――一間開けて。
「「「「キャアアアァァ」」」」
当然、悲鳴の嵐は巻き起こる。
「イケメンの拓哉と違って、私こういうの全然慣れてないからねっ、どうしたらいいのか」
――まったく、よろしく! じゃないよう。
私は両手で顔を押さえたくなったけれど、片手はばっちり繋がれたまま、離してもらえない。
学校はもちろん大炎上。
噂好きの女子だけでなく、男子までもざわざわしてる。まさに炎上商法……。噂が広まるのも一瞬だろう。
「たしかに、一気に噂が広まった方が説明いちいちしなくて楽かもしれないけど……。拓哉ファンに恨まれたりしないかなぁ」
「いないいない、そんなモン。……ていうか……、俺としても広まってもらうほうが都合がいいんだよ」
「なんで?」
「悪い虫の話」
「……? 無視?」
「……はぁ……」
ククッと拓哉は笑った。
「これだから、藍は……。ま、そうそう。そういうことにしとくよ!」
「――?」
拓哉だけすっかりわかっちゃってるみたいだけど、今ひとつ炎上商法の意味がわからない私。やっぱり、手間が省けて楽ってことなのかな?
「あー! 藍! 拓哉くん! どしたんそれっ」
この大きな声は、日向だった。
そうか、炎上させないといちいちこういう感じで聞かれるのか……。と、説明の手間を省くことを目的とする意味を真に納得する。
「んふふふ〜。覚悟しなさいよぉ。説明、してもらうからねっ」
「はぁい」
――ちなみに私はこのあと昨日と同じように、日向から複数回に渡り尋問されたことは、言うまでもない。
◇ ◇ ◇
「アッ、アピールタイムうぅ?」
「そうなの……」
屋上から、校庭にも聞こえてしまうんじゃないかとけたたましい声を上げた日向。
ただでさえ恥ずかしいんだから、ちょっとは控えめにしてほしい。
「それで、弟くんからはハグしたい宣言からのスペシャル朝ごはん、締めには保冷剤付きのお弁当、と」
「そうなの」
「すんごいハイスペックじゃん。あの子イケメンだし」
「……イケメン、だよねぇ。見た目だけじゃなくて、配慮もできてさ」
私は、屋上の柵に肘を置いて空を見上げる。
夏の青臭い葉の匂いと混じって、蒸し暑い空気が夏だぞってムワッと押し寄せてくる。
「それで?」
「ん?」
「朝見たとおり、拓哉くんからはお試しカップル作戦、と」
「そうなの……」
和風美少女、という出立ちの日向はやや呆れ顔でこちらを見てくる。美少女の呆れ顔は、絵になるから素晴らしい。日向って隠れファン多いんだよね。
「あのさ、藍。悪いけどコレ、幸せすぎる、贅沢すぎる悩みってヤツよ?」
「……わかってる……」
年下だけど、誠意に溢れていて一生懸命な隼人。
ずっと一緒の幼馴染で、唯一無二の存在の拓哉。
しかも2人ともイケメンで……
それだけじゃなくて……
「2人とも、押しが強いっていうかさ、キュンとする強引さがあるんだよ〜」
「まあ、わかる気がするわ。押しが強い、ちょっと強引なイケメンね。たまらんわぁ。アンタ、その悩み打ち明けるの私だけにしときなさいよ? 刺されるから」
「わかってるぅ〜」
私は肘をついた柵に寄りかかって項垂れる。
「でもさ……今は突然すぎると思うけど……。まっなんとかなるでしょ! これからのアピールが楽しみだわっ」
「もー! 他人事だと思って〜」
「だって他人事だも〜ん。羨ましいし」
日向は白百合のような手を口元に当てて、クスリと笑う。
「まぁまぁ、大いに悩みなさい。これも試練よ」
「うん――。宙ぶらりんは一番良くないから、ちゃんとするよ」
「そうね。そうしなさい」
――もしも私が拓哉と隼人と逆の立場だとしたら。
どっちつかずで、どっちにも気があるような浮気者、絶対嫌だ。
せめて、そんな人にはならないように。
1週間で答えを出そう。
――それが私の、2人に対する誠意だと思う。