第7話 ギルドと宿屋
「緑色の虫のような人間の形をした生物の、捜索、討伐の依頼を出したいんですけど、ここのカウンターで間違いありませんか?」
「はい、ここであっていますよ。魔物もしくは亜人の捜索兼討伐の依頼ですね」
僕の質問に対して、優しい声で応答したのは、冒険者ギルドに入って右のほうにある受付の女性だ。
「報酬はいくらに設定しますか?」
と、受付の女性が聞いてきた。
どのくらいがいいのだろうか。活用したことがないから分からないぞ。
聞いてみるか。
「こういう依頼の場合、報酬はどのくらいに設定した方がいいんでしょうか?」
「そうですね。魔物の名前もはっきりしませんし、その魔物の危険度が分かりませんので、討伐してから決めるということもできます。
でもその場合、払えるお金の上限の提示が必要となります。
討伐してから、報酬は話し合うことにしますか?」
ここは素直にプロの意見に従った方がよさそうだな。
何にも分からないし……。
「はい、それでお願いします」
「分かりました。それでは上限額はいくらにしますか?
この値段が高いほど、この依頼を受ける冒険者さんは多くなりますので、もしお金に余裕があるのであれば、高めに設定した方がいいですよ」
「うーん……」
一体いくらがいいんだろう。
黒金貨を出すのは危ない気がする。
だったら白金貨だな、
お金には余裕がある。白金貨2枚くらいで大丈夫だろう。
「じゃあ、白金貨2枚で」
「分かりました。白金貨2枚で。って白金貨2枚ですか!?大金ですよ!払えます!?」
白金貨ってそんなに驚くほど大金なんだな。
てか、服買おう。
今完全に受付の人僕の服を見て判断したな。
あと、そんな大金なら大きな声で叫ぶなよ。
周りに聞かれたら大変だろ。
心なしか後ろにいる冒険者達に見られてる気がする。
僕は腰にぶら下げてある白金貨を2枚とって受付の女性に渡しながら、
「これでいいんですよね?」
と、言った。
「は、はい。大丈夫です。
で、では、提示上限額を白金貨2枚とします。本当によろしいんですか?」
「はい、お願いします」
「分かりました。すみません。そんな大金をご提示されるとはおもわず、取り乱してしまいました」
「大丈夫ですよ。気にしてないです」
「ありがとうございます。
……ですが、もう一度聞かせてください。白金貨2枚でよろしいんですね?」
「はい」
「分かりました。ではそう記しておきます。
依頼はあそこのボードに貼られますので、時間があればご確認をお願いします」
受付の女性が左の壁にあるボードを指差しながら言った。
ボードにはいくつか依頼の紙が貼ってあるのが見えた。
あと気づいたんだが、酒場が併設されているらしい。
やけに酒臭いと思った。
「分かりました。時間はたっぷりあるので、確認しにきます。あの、この近くにいい宿屋あります?」
「宿屋ですか。えっとですね…。このギルドを出て右にずっと行くと、突き当たりに”ヒアモエ”という宿屋があります。
そこがオススメです」
「ありがとうございます。じゃあ、早速行ってみます」
「はい、ではお気をつけて」
僕は受付の女性に軽く会釈をし、ギルドから出た。
「えっと、右だったよな」
道を右に歩いていると、宿屋ヒアモエという看板が見えた。
あそこで間違い無いだろう。
宿屋に着いたので、入ってみる。
受付と思われるおばさんがいた。
「あの、泊まりたいんですけどいくらになります?」
「何日泊まるんだい?」
「えっとじゃあ10日で」
「じゃあ、夕食、朝食付きで銀貨4だよ。早くだしな」
なんだその持ってるなら出してみろ、みたいな目は。
持ってるよ!
銀貨は持ってないけど!
僕は金貨を一枚取り出し、おばさんに渡した。
「坊や。見た目にそぐわず金持ちだねー。
はい、お釣りと部屋の鍵。
夕食はそこの食堂で食べれるよ。部屋の鍵を持って行きな」
「分かりました」
服買お。
絶対明日買おう。
やっぱり人間見た目が大事なんだな。
体は何回か拭いて、清潔にしているが、服はずっときている。
確かに汚い。
明日、服買ってから、これから何をするかを決めよう。
部屋はベットが一つと小さなタンスが一つあるだけの簡素な部屋だった。
部屋に入ってから気付いたが、部屋に入ってもすることがない。
部屋に置くようなものもないし。
持っているものは、お金くらいだ。
ん……?ポケットに何か入ってる?
ポケットの中に手を入れて、何も持ってないことを再確認しようとしたら何か丸いものがポケットの奥の方にあった。
あ、綺麗な石。
中に赤色の模様が入ったガラスのような石。
これずっとポケットに入れてたわ。
逆になんでここまで気付かなかったか不思議だ。
まぁ、いっか。
ここまで持ってきたのも何かの運命の導きなのかも知れない。
大事に持っておこう。
そして、もしお金に困ったら売ろう。
お腹が空いた。
食堂に行くか。
食堂で鍵を見せ、夕食をもらった。
えっとー、席はどこがいいかな。
この宿屋人気なのかもな。空いているテーブルがない。
相席してもらうか。
あ、あそこの髭もじゃもじゃのおじさん優しそう。あそこで聞いてみよう。
「すみません。相席いいですか?」
「あぁ、いいぞ。まだ若いな。ここには誰かと来てんのか?」
「いえ、一人で来てます」
おじさんの質問に対し、答えると、
「そうか。気をつけたほうがいいぞ。ここの宿屋は少し高いしな。金のあるやつは狙われる。どんなに汚い服を着ていてもな」
と、注意してくれた。
このおじさんやっぱり優しそうだな。
「あ、俺はオーガスっていう冒険者だ。よろしくな。坊主はなんていうんだ?」
「フィンって言います。よろしくお願いします」
「坊主は何しにここに来たんだ?王都に住んでるんじゃないんだろ?」
「えっと、友達をさがしに来ました。あと、冒険者ギルドに依頼を出しに」
「お、坊主依頼出したのか。どんな依頼だ?問題がなければ教えてくれ」
「ある生物の捜索と討伐です。ある生物ってのは名前はわからないんですが、人間の形をした緑色の虫のような生き物です。心当たりとかありませんか?」
オーガスさんは少し考えるそぶりをし、
「すまんな。全くない」
と、申し訳なさそうに答えた。
「そうですか。なんでもいいので何かあったら教えてもらっていいですか?」
「あぁ、俺はこれでもCランク冒険者だ。この宿を拠点に活動しているから、夕食の時間にここにくれば俺に会えるだろう。聞きに来てくれれば、知っていることは教えるよ」
「分かりました。ご親切にありがとうございます」
「いいってことよ。てか、なんでそんなにその生物のことを追ってるんだ?」
「僕の村が滅ぼされたからです。
村人も数人を残して全員死にました。
だから、あいつを絶対に許さない。必ず殺してやろうと思ったんです」
僕の言葉にオーガスさんは、少しの焦りも見せずこう言った。
「そんなことがあったのか。そうか……。
なら、そいつ、自分の手で殺したほうがいいんじゃないか?
いや、別に坊主を危険に晒したいつもりもねえ。ただ、俺がその立場だったらこの手で殺そうって考えてるだろうなって思ってだな。
坊主を愚弄してるわけじゃないんだ。俺は力があるからそう思えるだけかもしれないしな。
………殺したいって思うだろう?」
……確かにあの、母さんとエミリー、そしてみんなを食べたと言ったあの生き物を、自分の手で殺したいとは思う。
でも、僕にはそれをできるほどの力がない。
転生を繰り返して、何度かすごい能力を持っていたことはある。
でも、今は持っていない。
ただの、普通の、一般の、非力な、村人だ。
…………。
「……どうしたら強くなれますか?」
「ふう……訓練だな。それしかない。
生まれつき特別な能力を持つ人間はいる。そういう奴らは大した苦労もせずに大きな力を持っている。
だが、俺たちは努力するしかない。
力がないから奪われるんだからな」
オーガスさんは僕の目を真正面から見て言った。
「この王都では、何個か力をつける方法がある。
一番おすすめなのが、誰かの弟子になることだ。
おーっと、俺は弟子を取ってないから、期待するなよ。
弟子にになることは、まぁ、難しいだろうな。
才能がないと認めてもらえない。
だが、これが俺の一番のおすすめだ。
あとは、剣術魔導学園とかかな」
「剣術魔導学園?」
「あぁ。だが、これはあくまでこの王都で強くなる方法であって、坊主がこの学園に入れる可能性は万に一つもない。
この学園の卒業生のほとんどが王都の騎士となっている。
残ったのは、冒険者として生きるかしている」
「なぜ僕が入れないんでしょうか?」
「簡単なことだ。
まず、大量の金がかかる。
卒業するまでに白金貨10枚はかかるって言われてる。
だから、この学園に入ってるのは上級の貴族ばかりだ」
僕はそれを聞いて、おずおずと手を挙げてみる。
「なんだ?」
「あの白金貨なら何枚か、持ってるんですけど……」
「は、は……?流石に冗談が過ぎるぞ」
「あの、これ」
例のように、袋からお金を取り出し見せる。
「………」
オーガスさんが白金貨を見て固まっている。
大丈夫か?
このお金人に見せないほうが良さそうだな。
というより、本当に大丈夫か?
動かないぞ。
そのまま、3分ほどたった。
あ、やっと動いた。
と思ったら、
「ぎょえーーーーー!!」
叫び出した。
ぎょえーーーー!!ってなんだ。
初めて聞く驚き方だな。
てか、めんどくさ。
他のテーブルの人!こっち見ないでください!!
この人とはあんまり関係ありません!!
オーガスさんの叫びは30秒ほど続いた。
あ、止まった。
「こ、これを、どど、どうやって手にいれれたは聞かないでおく」
僕が、誰かから盗んだとでも思っているんだろうか。
まぁ、いいか。
それよりも、落ち着いてほしい。
かみまくりだぞ。
「落ち着いてください。
それにこれ盗んだものじゃないですから、例の生き物が去り際にくれたものですから」
「そ、そうか。そうだよな。
坊主が人様からものを盗むようには思えねぇ。
でも、その生き物えらい金持ちだな。会いたくなったぞ。
あ、話が逸れちまったな。話の続きをしよう。
金は問題ないとして、他にも坊主が入学できない理由がある。
それは、入学テストだ。
筆記テストでは、主に数学が出る」
「あ、数学なら得意ですよ。村長の仕事を手伝ってましたし」
でも、難しい問題だったら終わるな。
一応高校1年生レベルまでの問題なら解けると思うが、それ以上が出たらまずい。
「そこらの村のレベルじゃダメかもしれないな。
入学するのは、上流貴族が多いって言ったろ。
難しい問題がたくさん出るって聞いた」
「む、難しい問題……」
「あぁ、足し算、引き算、掛け算、そして割り算。
あと……なんだっけな?
あ!あれだ!分数!
分数とかいうものの問題をある知り合いから見してもらったが、何がどうなっているのかわからなかったぞ。
普段使うものじゃないしな」
「ぶ、分数…?」
「そうだ。分数だ。聞いたこともないだろう」
いや、なんでそんなに得意な顔なんだ。このひとは。
分数ってあれだろ。
分子、分母があるやつ。
オーガスさんが言う感じではそれも基本の問題が多いらしいぞ。
多分、貴族の人にとっては簡単なのかもしれないが、勉強をすることのないひとはできないんだろう。
ギルはできてたぞ。まぁ、商人の息子だしな。
冒険者はできない人が多いのかもしれない。
「あの、分数ならできますけど」
「な、なんだと……。
確かに筆記試験は基本の確認程度と聞いたことはあるが、絶対にそれはあり得ないと思った記憶があるぞ。
もしかしたら、貴族にとっては簡単なことなのかもしれない……」
そんなに驚くことはないだろう。
商人の大半はできると思うぞ。
「筆記試験は問題ないと…。
だが!入学試験は筆記試験だけじゃない!」
あ、立ち直った。
「実技試験もある!
実技試験は本当に難しいと聞く。
内容は知らないが、剣が大事らしい。
詳しくわ分からないがな。
と言うわけで、入学は難しい。
……ん?坊主実技さえできれば、もしかしたら受かるんじゃないか?」
剣術か……。
今はできるか分からないが、ある程度はできる。
何度転生をしてきたと思っている。
「まぁ、入学試験受けてみるってのもいいんじゃないか。
だが、実技は本当に難しいと聞くぞ。
入学試験まであと2ヶ月程ある。
その間に、鍛えることができたら0.01パーセントくらいの可能性で受かるんじゃないか?」
「分かりました。頑張ってみます。
受けようかは後でゆっくり考えてみます」
なんて言って、自分の中ではもう答えは出ている。
少しでも可能性があるなら受けてみたい。
そして、少しでも可能性があるならあいつをこの手で殺したい。
あいつの大切なものを奪ってやりたい。
「坊主!大変だ!
長話してたら、料理が冷めちまった。
早く食べようぜ!」
「あ、はい」
その後、夕食を済ませ、オーガスさんに礼を言ってから、部屋に戻った。
久しぶりのちゃんとしたご飯は美味しかった。
濡れたタオルをもらい、体を拭いてから寝た。
長旅で疲れていた僕は久しぶりにぐっすりと眠ることができた。