最終話 モテる幼馴染みをもった私の苦労 3
最終話の最終話です。
あとがきは報告で! あと一話おまけ入ります。
「だいたいねぇ、そもそも間中がいけないのよ」
「だよねー」
りっちゃんとちぃちゃんによるしぃちゃんつるし上げの図。あえて私は傍観しようそうしよう。
「電波でキチガイの成金女なんかを無意識に引っかけて放置するし、かと思えば裏でその父スポンサーから引きずりおろそうとかしてるし」
「引きずりおろそうとしたのは松川先輩だ」
おっと、しぃちゃんから爆弾投下。りっちゃんの眉がピクリと上がった。
「……なんで楓くん?」
「その電波、松川先輩にもすり寄ってたんだと」
「……ほう」
ゆらり、とりっちゃんから陽炎が立ち上った。怒りのオーラですねこれ! りっちゃん激おこですね!
「松川センパイに色目つかうなんてー、死にたいのー?」
「ちぃちゃん、冗談に聞こえないよ?」
「冗談じゃないものー」
「なお悪くないか?」
「あたしじゃないしー?」
「なるほど!」
ちぃちゃんの言う通りだね! あのりっちゃん命の松川先輩によく立ち向かったね! ある意味勇者だね! 超おバカな方だけど。
ラスボス的な恐ろしさのりっちゃんは、しかし言葉のサンドバッグを打ち出す前に松川先輩に回収された。お姫さまだっこで連れ去られるか口封じ(物理。いわゆるちゅーで)のどっちがいい? いや、どっちもいやじゃ! をテンポよくやりあった後、やっぱり抱えられて部屋を出ていった。
松川先輩はその間一切黒髪女を見なかった。なんというか、ガン無視もしくはアウトオブ眼中。徹底してますねー。
「……松川さまは染谷の方なのに。なぜあんな庶民を構ってますの?」
放心状態だった黒髪女が口を開いた。あ、やっちまったなー。
「あんたみたいな間違った上流思考の持ち主よかましだよねてか六花ちゃんバカにする権利あんたにあると思ってるの? 親の権力自分のだと勘違いするような脳みそツルツルの電波な花畑でキャッキャウフフしてるようなクズが」
ノンブレスで毒吐いたー! ちぃちゃんかっけぇぇ!!
ちぃちゃんの話し方が変わったら、それはお怒りのボルテージか絶好調ということ。しーらないっと。
「それは大変でしたねぇ」
あの後こぅちゃんとすれ違ってーーほんとはりっちゃん達と一緒に来るつもりだったらしいんだけど、教授につかまって逃げそびれたそうなーー帰りながら話した。
「うん、あれはもうガス欠まで電波さんにつき合ってもらうしかないよね」
一旦切れたら止まらない。普段おっとりさんなだけに、怒らせたら最凶生物ーー主に精神面にーーと化す。ちぃちゃん恐ろしや。実はりっちゃんよりお強いお方なのである。
まぁ、しぃちゃんが不憫くんに連絡したから大丈夫でしょ。
「こぅちゃんこそ晴さんとどうなの?」
「ふっぅええぇぇ!?」
「ネタは上がってるのだよふっふっふ」
「どこの悪役ですか」
「ここだね!」
「お姫さまだっこされた悪役なんていませんよ」
「だよねー」
いまだにしぃちゃんに抱えられたこの現状。逃避してもよろしかろうか。
いやー目立つ目立つ! しぃちゃんに驚いてるのと、この状態に驚いてるのと、私達をーーてか、しぃちゃんの柔らかな笑みをーー見た女子共がヒザから崩れ落ちてく。眼福! と叫ぶ女子となんであんなのと! と叫ぶ女子。どっちでもいいけど、周りの男子ドン引きだぞ?
「晴さんとは、これからお出かけです」
「いつものとこ?」
「はい。棗さんの再婚祝いを。皆さんからもお預かりしましたし」
あー、やっとまとまったやつね。
棗さんこと北川父は大学時代の同期だった人とお付きあいを始めていた。過去のことなど気にしない女傑は、後ろ向きな棗さんを引っ張ってくれる頼もしい人なのだ。
この度女王もろとも引き受けたるわ! と逆プロポーズを受け結婚を決意したらしい。女王も厳しくも優しい彼女になついてるようなので、二の舞は踏むことはないだろう。繰り返されたら今度こそ容赦できないからね。しぃちゃんが。
「よろしく言っといて」
「了解しました」
じゃぁ、とこぅちゃんと別れようとした時だった。
「間中君!」
かわいらしい声がした方から駆けてくる女子。ふわふわな栗毛の髪にふわふわなワンピース。まぁピンクが似合うことー。あと顔もかわいい、と思う。涙目上目使いで見上げてくるとこなんて特に。あざとそうで。
「よかった、無事で。宗平さんから暴力を振るわれたって聞いて心配で……ほんとによかった」
胸のとこで両手を組んでの上目使いは使いなれた武器と見た。きっとこれで狙った獲物は落としてきたんだろうなぁ。
「前から宗平さん危ないと思ってたの。でも、私宗平さんに嫌われてるから近づけなくて。ちゃんと彼女として注意していたらこんなことにならなかったのに」
切々と訴えるふわふわ女子。きゃっ、言っちゃった! とか頬両手で押さえて恥じらう姿もうん、あざとい。ん? そういやなんか変な単語が聞こえたぞ? 隣でこぅちゃんが「うわぁ、新たな黒歴史!?」とか頭抱えてるけど。こぅちゃん、君はマシだったよ。だってここまで妄想しすぎてトチ狂ってはいなかったもの。
なんだよ、彼女として注意って。
「間中君? ……あら、この人だあれ?」
やっときづいたんかい!! こんな堂々とお姫さまだっこされてるっていうのに! 電波? この人も電波な美少女なのか!?
「しぃちゃん誰さ?」
「知らないな。早坂知ってるか?」
「間中さんは真桜さん以外の女子に興味ないですしね。周りうろうろされてもガン無視というか総スルーというか。そんな感じなので、自信家な美女が無謀にも攻略しにきて泣きながら去るか、暴言吐いて逃げ去るかのどちらかです」
ちなみに、暴言吐いて逃げ去った美女については、後日きちんとお礼まい、げふんげふん。と語尾を濁したけどこぅちゃん。それ最後まで言ってるからね。てか詳しいね。情報源は晴さんかね。晴さん気をつけてね、夜とか夜とかひとりきりとか。
「美女美少女はセンサーに引っかかるようになってるので」
「なにそれすげぇ」
「観察してると勉強になるんですよ。反面教師ってやつですね」
「あー、なるほど」
反省する子は好きだよ、私。
こぅちゃんの頭をなでなでしてると、ふわふわ女子が首をかしげた。うん、あざとい。
「あなた、そんなことしてたら勘違いされちゃうわよ? 間中君は優しいから頼まれたらイヤと言えないの。それに、今は研究が大詰めで忙しいの、あなたに構ってるヒマはないのよ? たから私だってガマンしてるのに」
だそうですぜ、しぃちゃん。なにをガマンしてるんだろ。なんでこの大学勘違いちゃんが多いのさ。いや、勘違いですむレベルか? ガチ電波か。
「俺は真桜しか女として見てない。妻で恋人でたったひとりの愛する人だ」
「恥じらいを持て!」
「真桜じゃなきゃいらない。真桜が隣にいるならそれでいい。夜ーー」
「慎みを持て!!」
「ーー一緒に寝て一緒に起きて、いつでもその存在を感じていたい」
「いや、いつでも一緒にいるじゃん」
「足りない」
「なんと!」
「本当は大学にも連れてきたい。でも他の野郎の目には入れたくない。断腸の想いだ」
「そこまで!?」
うん、しぃちゃんが私のこと好きすぎるのはわかった。私も大好きだ! 恥ずかしいから言わないけど!
「間中君? なにを言ってるの? 私彼女でしょ?」
「知らん。てか、誰だ?」
「えっ!?」
「そっからかー。しぃちゃん、そっからかー」
「俺には真桜しかいないだろ?」
「そっちかー。しぃちゃん、そらまぁそうだけどさー」
「いい加減指輪直し出すか。説明するのも鬱陶しい」
しぃちゃんの結婚指輪、サイズがあってなかったんだよね。私のがあってるなら後でいいとか言ってしてなかったんだけど。後に仇となるってやつだね。
「あなた誰なのよ!?」
ふわふわ電波が叫んだ。え、またこれやるの?
「私は間中真桜。間中静留の妻ですがなにか?」
まったく、(電波女子に)モテる幼馴染みを持った(傍観者でいたい)私の苦労も考えてほしいもんだよね!
完
その後、ふわふわ電波は、しぃちゃんを怒らせた女として大学で有名に。
しぃちゃんにはガン無視され総スルーされ薬指の結婚指輪をのろけられ心をバッキバキに折られます。
同情はしなーい、なぜなら電波はくじけないから!
闘いは果てしなく続く(笑)