最終話 モテる幼馴染みをもった私の苦労 2
終わらないのは決して桜月クオリティではありません。電波父の暴走のせいです(笑)
ぎゅうぎゅうと抱きしめられる。しぃちゃんの膝の上、私は動けないまま困っていた。緩くもなく、苦しくもない。なにこの絶妙な力加減。さすがしぃちゃんである。なんか違う。
大学の一室、応接スペースであろうそこには、私を抱っこしたしぃちゃん、りっちゃんとちぃちゃん。向かいに黒髪女とその父? がいた。
私の頬は医務室で治療済み(問答無用での強制連行。もちろんぎゃーぎゃー騒ぐ黒髪女もついてきた)、絆創膏を貼ってある。これの落とし前をつけるためのお話し合いだそうだ。静かに怒れるしぃちゃんが密かに恐ろしい。りっちゃん達は慣れてるからともかくとしても、前のふたりはなぜに気づかないか。超謎。
「さて」
声を発したのは第三者。しぃちゃんの研究室の教授さんだそう。名前は忘れた。そもそも紹介されてない。誰もそこに注目もしない。ちょっと教授さん憐れ。
「まずは宗平さん。君がしたことについて、彼女に謝罪はしたのかな」
「まぁ。わたくしは謝罪するようなことなどしておりませんわ」
「彼女に怪我をさせたことは謝罪に値しないと?」
「そちらの方が聞き分けがないからですわ。わたくし最初に説明しましたもの」
うわぁ。背後からの殺気がものすごいことになってるのに、黒髪女は自分が正しいと言う、疑ってもいない。その発言にさらに殺気が膨れ上がった。怖い。帰りたい。
遠くを見ていた私に、鋭い視線が突き刺さった。痛い。黒髪女の父がこっちを見てる。どう見ても友好的ではない。むしろ憎いとばかりに睨みつけられてるみたいだ。逆恨みじゃないのさ、とてつもなく理不尽。
「そもそも、君は誰なんだね。間中くんは娘の恋人と聞いていたのだが?」
「そうなんですのよお父様。わたくし彼を守ろうとしましたのよ? なのに、あの方間中くんに媚びてらっしゃるのよ」
「ああ、お前は優しいなぁ。あんな図々しいアバズレとは大違いだ」
「まぁ、お父様ったら。いいお嫁さんになれるだなんて、照れますわ」
いい嫁なんて誰も言ってないけどな。頭もおかしいと耳までおかしくなるのかな。ぶっ飛んだ思考力の持ち主とみた。なんか別の世界の住人みたいだし。ほら、お花畑とかお花畑とか雲の上とか。
「そうだな。お前はいい妻いい母になるだろう。夫になる男は感謝して仕えるだろうな」
……電波の父は電波。新たな格言が生まれるかもしれない。私は知らん、つき合いきれん。だかしかし、私は倍額でお買上げが信条である。特にしぃちゃんに群がるハイエナ共よ。くたばれと言いたい。言わないけど。めんどくさいし。
「で? 娘の恋人に言い寄るお前は誰なんだ。いい加減間中くんの膝からおりろ。このアバズレが」
娘の恋人って誰だよ。てか、言い寄ってなどないわ。大人なのにその暴言。なんの根拠もないというのに責任とれる発言なんだろうなそれ。あぁ、めんどくさい。
「私は間中真桜。間中静留の妻ですが、なにか問題が?」
私が放った言葉は、誰にも受け止められずに消えた。むなしい。ケンカ売ったと思われてもしょうがない、てか絶対間違いなく売っただろう言葉だったのに。実際は買ったのだけど。電波親子はポカーン、りっちゃんはやれやれとあきれ顔。ちぃちゃんはドキワクウキウキ、落ち着け。しぃちゃんは、うん。
「つ、ま?」
「ああ、結婚したのだったね。おめでとう」
「ありがとうございます。つきましては教授、妻を害するような人間と一緒にはいたくありません。例の件、進めても?」
「あー、そうだねぇ。謝罪もないし勘違いしていたようだし」
「どういうことだ!? 君は娘を弄んだのかね!!」
呆然とする黒髪女の隣で立ち上がって怒鳴る父。穏やかに会話してたしぃちゃんと教授さんは無表情、ただし視線は凍るレベルに冷たい。わぁ、同類でしたか。
「弄ぶ? 誤解されてるようですが、俺は真桜以外の女性とつき合ったことはありませんし、娘さんにもそう断ったはずですけどね。わざと人の話を聞かないように育てたんですか? なら納得です。全くこちらの話を理解しようとはしなかったので」
「そうだねぇ。私の注意も聞き流していたようだし、他の生徒にも迷惑をかけていたようだしねぇ」
ああ、なんかわかる。マイウェイをただひたすらダッシュしてる感じ。つまり猪突猛進、空気も読めなきゃ周りも見えない。手に負えない権力を持ったジェットコースターしかもノンストップ終点なし。
「私はスポンサーだぞ!! 手を引いてもいいというのか!!」
どうりで親子共々デカイ顔してるはずである。金と権力は猿に持たせてはいけない。いや、猿に失礼か。
「どうぞ。むしろこちらからお願いしようかと思っていたところです」
「……は?」
「え?」
「ですから、新しいスポンサーが見つかりましたので、どうぞお引き取りください。今後のおつき合いは遠慮します。そちらの大迷惑な娘さんにも言い聞かせてください。チームメンバーでもないのに研究室に入られると困りますし」
さらりと述べたしぃちゃんに、電波親子は固まった。そりゃもうステキにピキーンと。あまりのそっくりさに、ヤバい、シリアスなのに笑いそう。誰かヘルプと隣を向いたら、りっちゃん達がお腹を抱えてサイレントで笑ってた。おーい、私もそっちにまぜてくれ。
てか、研究室のメンバーじゃなかったのか。いかにもそれっぽく言ってたのに。スポンサーの娘だから誰もなにも言えなかったってこと? まぁ、さっきの飛びっぷりからするに、それ以前に人の話きかなそうだけど。
「ああ、じゃあ引き受けてくれたのかい?」
「もともといつでもとは言われてたんですけどね。さっき連絡したら快諾してくれました。今度挨拶に来てくれるそうです」
「ああ、近内製薬なら信頼できるね。社長が来られるなら教えてくれるかい」
「わかりました」
教授さんとしぃちゃんの主語のない会話を、いまだにポカーンとして聞く黒髪女。その隣でぷるぷるしてる父は、近内製薬と聞いて真っ赤な顔を真っ青にさせた。器用だな。
しかし、近内製薬とな。うちの父ズの職場じゃないの。社長さん元気かなぁ。結婚式出れなくて悔しがってたらしいんだよね。
着信がついたスマホを見てさらに真っ白になった電波父は、あわあわとろう下に出て行った。
「宗平は近内製薬の下請け業者なんだ」
しぃちゃんの言葉になるほどとうなずく。親会社が出てきたらそらパニックにもなるよね。ヘタしたら契約切られるレベルでやらかしてるもの。信頼で成り立つスポンサーだというのに、娘のわがままと自分の都合をごり押しとはね。
「まぁ、そんなわけでしぃちゃんや。私はいつになったら帰れるのかね」
「諦めろ? こんなことがあってひとりで帰せるわけないだろう」
「なぬっ?」
帰すどころかさらに拘束が強まるとはこれいかに。
「そうよー、真桜ちゃんの目の前にまだ危険物が鎮座してるじゃないのー」
「そうね。諦めてあたし達とランチに行こうか」
「私の夕食の買い出しと読書の時間が!」
「あると思うな自由時間。あんたの旦那が離すはずないでしょ」
「理不尽!」
「そもそも、電波の存在を真桜が知らなかったのはいいとして、電波は調べたらわかることじゃないの」
「りっちゃん、私は無視ですか!? スルーするとこじゃないよ!?」
「でもー、大学で自称間中くんの恋人って触れ回ってた電波さんはー、あらあらうふふ、でーお花畑できゃっきゃスキップしてるってー、すごく噂になってたものー。知らないのも当たり前じゃないのー?」
「ちぃちゃん辛辣! てか容赦は? 手加減は!? 優しさの欠片もないよ!?」
「「あると思うの?」」
思いません。
りっちゃんもちぃちゃんも当然怒ってます(笑)




