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最終話  モテる幼馴染みをもった私の苦労  1

いちどやってみたかったんですよね。メインタイトルを最終話にってやつ。

 

 目覚めると、太陽はかなり高かった。明るい部屋に今日も寝坊したことを悟る。


 重い身体や痛む腰、元凶はすでにベッドの上にいない旦那さまなのは間違いなく。……ぅむむむ。


「毎日毎日盛りおってからに……どこにそんな元気があるんだ。てか、朝起きてご飯食べたい洗濯したいあきらかに時間が足りないっつうの」


 こんな私だって一応乙女であるからして、朝のおはようとか一緒の朝ごはんとかいってらっしゃいだとかいろいろしてみたいとか思うわけなんだけどね? しぃちゃんや。


 いや、今までが抑えてたからこその反動か? 確かにお互い家族と暮らしてた頃には手加減とかあった気がする。

 よろよろと枕元のスマホに手を伸ばすと、左手の指輪がキラリと光った。


 私の誕生日に入籍とささやかな式を挙げた私達は、ふたりで暮らし始めた。いわゆるひとつの新婚さんってやつ。いや待て、かなり恥ずいぞこれ!


 小堺(こさかい)真桜(まお)改め間中(まなか)真桜、二十歳。

 毎日旦那さまであるしぃちゃんとこ静留(しずる)氏に抱き潰されてる日常は慣れてはいけないとか思うのであります。


 え? 諦めろって? そんなことしたら一日中ベッドから出られんわ!



 やっとのことで起き出して、リビングのソファーにぐでっと沈むと、テーブルの上にファイルとUSBメモリが置いてあった。てか、これ今日使うやつなんじゃ、昨日そんなこと言ってなかった? しぃちゃんは大学3年生、就活が始まってる時期らしいが研究論文がどうのと忙しいみたいだ。


「……届けに行くか」


 シャワー浴びて着替えてバックにしぃちゃんの忘れ物入れて、財布とカギを持ったら準備完了。さあ、出発。あ、でもその前に本屋寄ってこ。




 大学は広すぎると思うんだよね。

 お目当ての本を買って、ウキウキできたはいいものの。迷ってあちこちで人に聞いて(どうでもいいけどみんな暇なの? それとも視力悪いの? お茶だのなんだの……うざっ)たどり着いたしぃちゃんの所属する研究室。ろう下側がガラス窓だから、中がよく見える。えーと、しぃちゃんはどこかな。


「あなた、どうかなさったの?」


 しぃちゃんを探してると、後ろから声をかけられた。

 黒髪ロングタレ目美女がコテン、と首をかしげてる。ここの人かな。


「人を探してます」


 ここまで来たから見つけてやろうとか思ってたけど、まぁいいか。スマホにメッセージ打ちこんで、と。


「ねぇ、あなた。もしかして間中くんに片想いしてらっしゃる方かしら?」

「は?」


 黒髪ロああもうめんどくさい、黒髪女はそうねそうなのねとばかりにうなずきながら、笑った。口が歪む程度のかわいくない笑み。なんだろう、デジャヴ感ハンパない。


「本当に困ってるのよ? 無関係の人が何度もここに来るものだから、研究室のみんなが苛立ってしまって。間中くんはリーダーだから、特に忙しいの。ねぇ、わかるでしょう?」


 わかりません。てか、なんなのさ。しぃちゃんの彼女気取りとか? なら勘違いもいいとこだし、むしろ気違いか? もちろん浮気は疑わない、あり得ないもの。モテる幼馴染み兼旦那さまはそゆとこ不安になることはない。苦労はあるけどね!


「ねぇ、聞いてらっしゃる?」

「ええ。で? 貴女はどなた?」

「え?」


 聞き返されて、彼女はポカンとした。今までこれで追い払ってたんだろうなぁ。

 実はこの人の話はりっちゃんちぃちゃんから聞いていた。かなりな噂にもなってたらしい。なのでふたりにもメッセージを送っておく。


 自称、しぃちゃんの彼女。完璧で華麗なるスルーをかますしぃちゃんにめげずに、てか空気読まずにつきまとう世間知らずなお嬢さま。周りを見る目もないのか、しぃちゃん目当ての女子を上から目線で見下ろしては排除に勤しんでるらしい。わぁ、めんどー。


「迷惑なら本人がそう言うのでは? 聞いたわけでもないのに勝手な判断するのはどうかと思いますけど。そもそも、その資格とか権利があなたにあるの?」


 残念ながらその資格も権利も私のものだ。独占欲? 人並みにあるよ。ないと泣くわ、しぃちゃんが。


「……あら、まぁ。わたくしはあなたのためを思って忠告して差し上げたのだけど。彼だって研究を邪魔されなくなって喜んでいるわ。あなたのしていることは彼のためにならないことなのよ?」


 やんわりと。そう、まるで物わかりの悪い子供に言い聞かせるように彼女は首をかしげた。わかるわよね? との確認はある意味脅しであると思う。


 ……なんか、昔聞いたどこかの家族の馴れ初め的な話と似てるな。言葉が通じない電波な宇宙人にロックオンされたとか、それが使い方を知らない権力持ってるお嬢さまとか、どう見てもそっくりだ。笑えない。


 さて、どうしたものかと研究室に目を向けると、スマホが鳴った。りっちゃんからこっちに向かってると入ってた。なにやら大事になりそうな予感である。私は早く帰って本を読みたい。買ったばかりの本の入ったバックを無意識になでると、黒髪女は私のバックに手を伸ばした。


「っ、なにをするんですか」


 珍しく条件反射的な防衛本能が働いた。1歩下がって睨み付けると、逆に睨み返された。いったい私がなにをした。


「その中に彼への差し入れが入ってるのでしょう? 駄目よそんな危ないもの、彼に食べさせるわけにはいかないわ」


 危ないものもなにも、毎日食べとりますがな(意味不明)。晩ご飯は私が作ってるし。ちなみにしぃちゃんの好き嫌いはない。私はそこそこある。そもそも、差し入れなど入ってないし。


 てか、そろそろいい加減にしてほしい。なんで電波受信につき合わなきゃならんのさ。めんどくさい。


「渡しなさい。そんな不味いもの捨てなければならないわ」

「……なんで命令されなきゃならんのさ。私がなにしようと貴女に関係ないよね」

「それが本性なの? なんて小賢しいのかしら。きっと彼を騙そうとしてるのね。そんな女を彼に近づけるわけにはいかないわ。ええ、いかないの。わたくしが助けてさしあげないと」


 言いながら、まだ私のバックを諦めない黒髪女は手を伸ばす。だからそんなの入ってないっつうの。入ってるのは、あ、しぃちゃんの忘れ物。


 渡さなきゃ。思考がそっちに傾いた時、目の前を白っぽいなにかがかすめた。


「っつ、」


 頬にピリッと痛みが走った。左肩にあったバックの重みがなくなるのと、ドサッと音がしたのは同時。どうやらやられたらしい。そうか、やっちゃったか。詰んだな、黒髪女。


「まったく。おとなしく渡していればよいものを」

「……貴女、バカなの?」

「え?」

「じゃなきゃ脳みそ花畑」


 左頬は少し血がでてるみたいだ。爪研いでるの? 長いし尖ってるよね、絶対。


「手、出しちゃったら犯罪者なんだよ。私が出さなくても被害届は出るし、受理されるし貴女の親の権力なんかに屈しないんだよ、しぃちゃんは」


 そう、私じゃないよ、しぃちゃんだよ? あなたの大好きな彼は私の大好きな旦那さまなんだよ。


「私には正当防衛が許される。先にやったのは自分だもんね? 謝らなかったし、なにされてもおかしくないよね?」

「まったくもってその通りだな」


 私のすぐ後ろから聞こえた声。同時にお腹に回る腕。ああ、もう大丈夫。そして彼女は大丈夫では終わらない。


「は、え? なん、で? え、まな」

「真桜、大丈夫か?」

「しぃちゃん」


 動揺してる黒髪女をさらっとスルーして、私の正面に回り込んだしぃちゃんは、私の頬を見て固まった。だよねぇ。


「あ、遅かったか」

「間中くんいるなら大丈夫だねー」


 さらに後ろからりっちゃんとちぃちゃんの声。君たち特等席で傍観者になるつもりだね?


「りっちゃんバック拾ってー。本入ってるの」

「ああ、はいはい。やられたの?」

「そう。差し入れ入ってるんだろ、ってさぁ」

「おバカねー。間中くんだけにならまだしも、みんなにも作ってきたら間中くん激おこよー? そんなめんどーなこと真桜ちゃんしないよねー」

「まったくもってその通り!」


 実はいちどあった。大学1年生になったばかりの頃、しぃちゃんに作ってきてみんなでランチしてたら、しぃちゃんのことをあまり知らない人が一口と食べてしまったのだ。許可もとらずに。


 激おこ魔王になったしぃちゃんに、彼が土下座したことは覚えてる。それ以来あまりお弁当は作らない。


「独占欲ヤバすぎじゃない?」

「りっちゃんとこほどじゃないよ?」

「うっ」

「執着心とかー?」

「ちぃちゃんに逃げられたらステルス解除できなくなって誰の視線にも入らなくなる不憫くんよかましかなぁ」

「あぁ……」


 そんな会話をしてたら、フリーズから解けたしぃちゃんの顔がよってきた。


 べろん、と頬をなめられた。ピリッとしたから傷口だろう。自分じゃ無理だもんね。


「え、え? 間中くんなにしてらっしゃるの? 汚いわ、そ」

「真桜は汚くない」


 いや、問題はそこじゃない。

 しぃちゃんを見てる黒髪女。私を見てるしぃちゃん。りっちゃん達を見てる私。


 落とし所はどこ?



最終話だというのに終わらないというね。

安定の桜月クオリティ(笑)

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