番外編 真想。または隠れ腹黒
今年もお世話になります。ぺこり。
普通でいるのが一番楽で、それていてむずかしい。
一人で生きている訳じゃないし、周りに合わせるのもほどほどに必要。けど、あたしはみんなと一緒にわいわい女子トークするのは好きだけど、誰かの悪口を言ったり無視したりするのは好きじゃない。
あたしは中里六花、16歳。聖ガーディア学院の1年生。
友人の小堺真桜が巻き込まれた騒動が、色々と収まってケリが、ついたのはついこの間のこと。
真桜と友達になったのも、中学の時の女子共の嫉妬による騒ぎのおかげだった。まったく、なんで女子共は群れると自分は強いとか勘違いするのかな。仲間に守られてるとか思ってるわけ? 甘いなー、仲間と言う名のライバルに決まってるじゃん。スキあらば蹴落として引きずり倒す気満々の。うわ、怖。
まぁ、そんなこんなでもうすぐ卒業式という時期。新生徒会の働きで、着々と準備が進む中でもバカップルは相変わらずだ。
「……あんた達、暑苦しいわ」
「寒いよ? りっちゃん身体おかしくなったの?」
あたしの目の前では、読書をしている真桜と、その真桜を後ろから抱き締めてカイロ代わりにしてる間中。……なにこのバカップル。
寒がりは、まぁ認めよう。しょうがないもの。だけども! なぜにひっつく必要がある!? うちの学院は暖房設備はちゃんとしてるでしょうが!
「あれに突っ込むのは六花くらいだね」
「ぅひゃぁ!?」
後ろからにょきっと伸びた腕があたしに絡まる。誰かって? もちろんあたしの彼氏である松川楓だ。間中ほどではないけど、そこそこ独占欲はあるそうだ。まぁ、ないと言われたらなんで付き合ってるの、と膝から崩れ落ちないといけないとこだと思う。
「松川せ」
「もう、いつになったら名前で呼ぶのかな? 六花」
「ひゃっ」
耳元でささやくのは反則です!
離してほしくて暴れてると、いつの間にか近くに誰かがいた。
長い黒髪をくりくりと巻いた、まつ毛ビシバシとがっつりメイクした、なにこの人ほんとに高校生? な、間違いなくどこぞのお嬢さまだろうなぁ、な人がにこやかに近づいてくる。後ろにはお約束的な取り巻きズの女子共を従えて。なんだかなぁ、勝ち誇ったその顔はなにに対しての自信なんだろうね?
「松川さまはなぜそんな方を構いますの? いずれ染谷一族を担う方ですのに」
空気が冷えた気がした。ちょ、あなたそれ禁句。地雷だから。
松川せ……楓くんは確かに【SOMEYA】の一族の分家の人だけど、一族は実力主義。いいとこのボンボンだからとあぐらをかいてたらあっという間に落とされる弱肉強食の世界だという。
詳しいって? 叔母ーー母とは大分歳が離れているーーが染谷の三男に嫁いだのさ。あの男、ヘタレ腹黒のくせに授かり婚だなんて……今度つねってやろう。
まぁ、そのおかげで楓くんに出逢ったんだけども。いやいや、それとこれは別物で!
えぇと、だから楓くんは松川だからとか染谷のとか言われるのを嫌う。もちろん、玉の輿とか狙うお嬢さまの上流思考、違うな? 選民思考が大嫌いなのだ。
故の地雷。気づいてないみたいだけど。思ってもないんだろうなぁ。そういう世界で生きてきたお嬢さまは、それが当たり前だから。
「松川さま、その手をお離しになって? そんな方に触れては松川さまの手が汚れてしまいますわ」
いるんだなぁ、こんな人。汚れるって……やばい、笑いそう。
「六花、笑いこらえてるのばればれ」
「……ぶはっ! だって、ふはっ。あははははは!! ひー、はらいたぁ」
くっついてる楓くんにはすぐばれた。だって笑えるじゃん! なにその思考回路! バカなの? バカなの!? 大事なことだから2回言うのはお約束だよ?
「なっ、なんですの! 失礼な方ですわね!!」
「失礼はどっちだろうね」
自分が大安売りしたケンカだというのに、買われたら怒るなんて、なんだというのさ。しかも楓くんの逆鱗に触れたみたいだぞ? 終わったな。
「君は自分がとても偉い人だと思ってるようだね?」
「なにを言ってますの? わたくし達は人の上に立つ者ですわ。わたくしは松川さまの隣に立つに相応しいのですもの」
「君の家からの婚約の話なら、打診がくる前に断ってるよ。外堀を埋めようとする君の父親のやり方には怒りしかないね」
ん? そんな話があったの? 楓くんは話してくれないか。芽以ーー染谷に嫁いだ叔母ーーちゃんに情報提供頼もうかな。
「断る? なぜですの?」
ほんとにわかんないのか、首をかしげる。救えないな。
「……六花は染谷の外戚だよ。中里は三男の太一さんの奥さまの実家だから。六花をそんな呼ばわりした時点で君は、俺と太一さんを敵に回したんだ。許されるなんて思わないでほしいな」
「え、は?」
「太一さんが田崎の副社長子息に頼んで君の嫁ぎ先を探してくれているよ。条件は俺がつけておいたから」
「な、え? わたくしは松川さまの、っ」
「俺が、君を選ぶわけないよ。……六花にえげつないことしようとする君なんかを、ね」
「っ!?」
なにかしようとしたのか。で、楓くんに阻止されたのか。そんでそれに気づいてなかったのか。
てか今さらそんなことで動じたりはしないけどさ。
染谷の外戚になった芽以ちゃんの結婚式での洗礼は忘れないし忘れられないものだ。
妊婦さんだった芽以ちゃんになにかあったら大変と、厳戒体制と護衛の増員というものものしい式には、呼びたくないけど呼ばなきゃならないお付き合い、義理も義理義理な招待客の皆さまがいた。
玉の輿に乗りそこねたお姉さま方は、芽以ちゃんにできない攻撃をあたしに向けた。子供に八つ当たりって、ぷぷっ、笑える。中学生相手に大人げない化粧お化け達を笑顔で撃破してやったさ。
もちろん、その事は芽以ちゃんの旦那さんーーヘタレ腹黒のことだーーに筒抜けで、彼女達はきっちりとどめをさされたらしい。そんだけ容赦なくできるなら、もっと早く芽以ちゃんに告れよ。と思う。
その笑顔であしらってるあたしを見かけた楓くんが落ちた、らしい? あっという間に逆に落とされてつき合うことになった。なぜだ。
「松川さ」
「そろそろ、ご実家に打診がいくんじゃないかな。お相手は年齢的にすぐにでもいいという話だし、悪い話じゃないだろうね。……負債も肩代わりしてくださるそうだし、ね」
「っ!?」
こりずに楓くんにすり寄ろうとしたお嬢さまは、あからさまに顔色が変わった。てか、なんで知らないと思ったんだろ。楓くんはそんな甘ちゃんじゃないぞ。敵の事は知らないことはない、てなくらい徹底的に調べ尽くすんだから。敗けを認めてさっさと逃げてればそこまで叩かれることはなかったろうに。
「っ! っ、そんな女よりわたくしの方が尽くしますのに! そんな女が社交界でやっていけると思いますの!? そんな根暗な友達しかいない女が!」
……この、ど阿呆ぅが。
「きゃっ!」
いきなり目の前にきたあたしに驚いたお嬢さまは、なにかされると思ったのか楓くんに救いを求めるように動いた。行く手をさえぎったあたしは、彼女に触れることなく視線を合わせた。ほら、触ったら汚れちゃうからね!
「ほんとの友達もいないくせに、あたしの親友をバカにすると居場所なくすよ? あたしの親友はね、あんたみたいな親の威を借る勘違いおバカとは違うんだよ。実力あるのに興味ないから放置されてるだけだからね。あんたみたいなのに本気出すのもったいないもの」
「私りっちゃんほど毒舌じゃないし!」
「あんたはその態度が毒吐きまくりだし」
「なんかさりげに酷くない!?」
「誉め言葉よ」
「嬉しいけどもすこし優しさプリーズ!」
「さっき売り切れたわ」
「閉店早!!」
まったく、真桜のどこが根暗なのよ。こんなに明るくて毒吐きまくりじゃないの。え? あたしの方が毒舌だって? 知ってる。
ぐだぐだになったけど、あのお嬢さまは転校と言う名の島流し~かーらーのー、デブハゲ童……の水虫という三重苦プラスワン三十路男に嫁ぐという、ある意味波乱万丈な人生に踏み出したそうな。
そのお相手を探してくれたのは、ヘタレではなく田崎のご子息らしい。条件は楓くんがつけたと言ってたから、まぁ、それほど怒らせることをしたんだろう。おバカである。
あのやりとりの間中、いちゃついていたバカップルにブレはない。真似できないわー。しかし、あたし達にバカップルに次ぐ最凶カップルのアダ名がついた。解せぬ。
「いい牽制になるね」
なんて、とてもいい笑顔で宣う恋人に反論はしないのだ。
だって、絶対勝てないからね! そして逃げられない。いや、逃げないけど。
「好きだよ、六花」
だからそんなこと言われても、あたしは言わないからね!!
好きだけども!!
なんかぐだぐだになっちゃったなぁ。ちなみにヘタレより隠れ腹黒はもちろん楓くんです。しぃちゃんは真桜限定、火種が飛んでこなきゃ放置です。




