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モテる幼馴染みをもった私の苦労  作者: 桜月


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番外編  流生。または空気の読めない女神

番外編始めます。北川父からです。

眠らぬ本の囚人さま。すみません、喜劇なのか悲劇なのか謎が増えました(笑)

さあ、皆さま。突っ込みの準備はよろしいですか!?

 俺は基本のんびりなんだよね。

 まわりがうぉー! ってなってるーーどんな時かって? 聞いちゃダメだよーー時も読書とか調べものとか昼寝とかしてるタイプ。


 大学に入ってからは、研究者一本に絞ってたからまわりはわりとどうでもよかった。「お前その内勝手に押しかけ女房とかできてそうだな」とは友人の弁。なにそれ怖い。

 その時はそうやって笑っただけだった。


 そんな感じで生きてきたんだよ。北川棗として22年間。

 なのに。


 いつの間にか、本当にいつの間にか俺には彼女ができていた。なにそれ怖い。


「北川さんは本当に、わたくしがいないとなにもできないのね」


 ふふ、と上品に笑う、ほぼ初対面の女性。

 彼女とは数ヵ月前廊下ですれ違っただけだった。徹夜明けの妙なテンションで友人達と歩いていた所をじっと見られていた、らしい。

 あれだ、あれ。えーと、メリーさん? 「私、メリーさん。今あなたの前にいるの」ってやつ。それに似てる。


 すれ違う廊下、食堂のテーブル越し、講義の時の数個離れた席。徐々に近づいてきた彼女は、いつの間にかゼミの飲み会で俺の隣に座って笑っていた。


「わたくし達、つき合うことになりましたの」


 朗らかに発せられた声に、ようやくか! とかおめでた! とか返事が飛ぶ。え、ちょっと待って。誰と誰がつき合うことになったの?


「先日ようやく言っていただきましたの」


 電波発言。なにそれ怖い。てか、俺がなにを言ったと? 見に覚えがない上に会話した記憶もないんだけど!?


 わたくし!? なにそのお嬢さまみたいな言葉! え? 本当にお嬢さまなの? 

 今まで興味がなかったので、身の上とか知らなかった。製薬系列で有名な倉吉のお嬢さまだとか。


 そうして、彼女は告白すらしていない俺の彼女になった。らしい。なにそれ怖い。


 彼女はお嬢さまだった。けど、嫉妬深くもあった。ゼミの研究チームの女子と少し話していただけですっ飛んでくると、上からなお嬢言葉で貶すのだ。


「わたくしの恋人である棗(なつめ)さんに話しかけないでいただける? あなたが話せる方ではないのよ。わたくしを差し置いて色目を使うだなんて、とんだ淫売ですのね」


 ……君こそ何様なのさ。


「倉吉さん。彼女は研究チームの仲間だ。邪魔しないで」

「そんなっ、棗さん! わたくしは」

「それから、研究室は部外者立ち入り禁止。出てって」

「棗さん!?」

「俺の研究おじゃんにしたいの?」

「っ、わ、わかりましたわ」


 まったく、いつから俺のこと名前で呼んでるのさ。

 俺はこの研究論文次第で海外の大学に留学できるかもしれないんだ。正直研究以外考えたくないのに。


「お疲れ」


 チームの彼女は俺の考え方をよくわかってくれるから、話さなくても理解し合える。楽だよね、詰まってるとことかも気づいてくれての助言とかありがたいし。


 論文が認められて留学が決まった。1年か、それ以上。望んだ分野を思いっきり学ぶために渡英。当然とばかりに倉吉さんがついてきた。悪いけど恋人と思えないから放置。彼女は恨めしそうに見てきたけど、学業優先だから。


 帰国したら、倉吉系列の研究所に就職が決まってた。なにそれ怖い。同時に彼女との結婚も決まってた。なにそれもっと怖い。


「帰国前夜にプロポーズしていただきましたの」


 誰が誰に? 思うに、彼女はお花畑に住んでるか宇宙人かキチガイなんじゃなかろうか。こんなのに妄想を実現させるだけの権力を持たせちゃダメだろうに。


 あまりの恐ろしさに、実家には事実を素直にしゃべった。闘ってでも白紙に戻すと両親は言ってくれたけど、相手は大手企業倉吉だ。無理があるし、向こうは既に娘を嫁に出す気満々だ。唯一弟ーー遠縁の子だとかいう義理のーーだけが不服そうだが、異論は唱えないらしい。


 いや、唱えようよ。反対してよ。俺も嫌だし。


 しかしまぁ、弟くん。色々外堀埋めてくれちゃったよ。おかけでこっちは実家と縁を切って巻き込まないようにするので精一杯だった。


 そんなわけで、倉吉真理亜は北川真理亜になった。フルネーム今知ったよ、俺。




 彼女は彼女だった。うん、弟くん女神のように崇拝してるけど、視力と脳ミソ大丈夫? ってレベルで。

 それがわかったのは、大分後になってからだったけど。


 娘の有栖が学校でやらかしてると、高校生の男女二人が会社に訪ねてきたのだ。家に帰ることがない俺に会うには正しい選択だ。そして聞かされるあれやこれに頭を抱えたくなった俺は、流されて投げやりになってたツケを払う時が来たのだと思った。


 真剣に、有栖への断罪を謝る二人に、俺は全てを話すことにした。



 結婚式の後、新婚旅行に行った。ホテルはもちろんスウィートだったわけだが、俺は別に部屋をとった。すっけすけのひらひらなカッコしてるやる気満々の彼女に、俺は言わなきゃいけないことがあった。


「あのさぁ、俺。告白した覚えもないしプロポーズもしてないしこの結婚も納得してないから夫婦になるつもりないから」

「え? 棗さん?」

「あと、俺病気のせいで子種ないから。子供作れないし作らないから倉吉さんには触らないから」


 それ以降帰国日まで引きこもった。なーのーにー。まさか妊娠とかね? もうこの人なんなの、って。


「あなたの子供ですわ」


 どこぞの悪女みたいなセリフだね。うん決めた、離婚しよう。

 今は妊娠中でも羊水からDNA検査ができる。俺の子供じゃないのはわかってたけど、倉吉家を納得させる材料は必要だったから。


 結果を当時の社長、倉吉父に持って行って離婚を宣言。娘の子供の父親の名前を見て青ざめた彼は、小さくこんなことになるとは、と呟いた。


 父親は義理の弟くんだった。いや、もうつき合いたくない。


 倉吉社長は離婚を認めてくれた。書類も提出ーーなんと本人がいないとこで。いたら話にならないからとか。納得ーーして俺はフリーに戻った。倉吉真理亜は北川のまま、別の戸籍に移ったのだが、父親に何度説明されても理解しなくてね。そうこうしてる内に社長が亡くなって。


 無法地帯、地獄か水のない砂漠か? あの姉弟はやりたい放題だったよ。

 おかけでこっちはいい迷惑だよ。赤の他人だからね? これ、弟くんには伝えたんだよ? 笑顔でスルーしやがったけど。娘は俺が父親だと信じて疑ってないみたいだし。無邪気に慕われれば、それは嬉しいよ。親戚の子供みたいな扱いくらいはしたし。


 でもそれは、あくまで他人だからだ。俺は子供を望めないと知ってる。諦めたものに今さら手を伸ばすつもりはないんだ。


 逃げるように転職して社宅に入ったのに、いつの間にかいるし。帰らなくなったよ。誰だよカギ渡したの。夫婦じゃないんだからと、あの親子の我が儘はスルーしたらこれだよ。ほんとなんなのさ。


 だから、彼らに協力したんだ。


 その準備中に弟くんの奥さんと話すことになった。あの親子を引き取るつもりだという奥さんに、一人で背負うには重すぎると説得してしまった。しかも、娘はともかく母親は娘にまで嫉妬する生き物だ。一緒にしておくには危険だからと。


 じゃあどうすると言われても、どうしたらいいのかはわからない。小堺さんの言う逆断罪まで、俺達の相談は続いた。主に娘の方で。母親は精神病棟1択ですがなにか。


 最後まで決められないまま、引き取りに行ったそこには。子供のような、いや、精神が幼児退行した娘がいた。なぜか、引き取って育てよう。そう思った。今度は間違えないように、真っ直ぐに育てよう。


 母親とやり直すのはありえない。けれど、娘ーー有栖はある意味俺と同じ被害者だ。やり直せるなら、それにこしたことはない。有栖に与えられた最後のチャンスを潰すことはできなかった。


 新しく部屋を借りた。最初から二人では生活できないのはわかっていたので、倉吉の奥さんに頼るしかなかった。慣れれば有栖は素直だったし、後は俺の問題だったしね。


 そうして生活を立て直して、有栖の父親になる努力と教育をしながら、一緒に成長し始めた頃に。それはやってきた。


 正気を無くした瞳で。歪な微笑みで。芝居がかった大袈裟な動作で。北川真理亜は言った。正直ドン引きな発言にマジあり得ないわー、と即効倉吉の奥さんに連絡したけど。


「あなたの子供を妊娠しましたの」


 ねえ、嬉しいでしょう? だから、わたくしだけを見て? と。それはそれは、嬉しそうに嗤ったのだ。



北川真理亜さんのお腹のお子さまの父親は、桜月にも誰かわかりません。北川父の行動が偽善だとしても、彼らはそこに幸せを求めて生きていくでしょうし、それを他人に責められてもどうしようもないと思います。結果、北川真理亜がいなきゃ皆幸せ(笑)

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