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夢望。または新たな始まり 5

女王ザマァ? 入りまーす(笑)


 あ、しーんとしちゃった。いやでも、後悔はないな。本当のことだし。これは言っとかないとな話だし。


「俺も迷わず真桜を選ぶ」


 しぃちゃんの声が後ろからした。うん、知ってる。

 さらりと言ってるけど、ちゃんと真剣な本音だってこと。


「そこのバカがなにを勘違いして自分の方がモテるとか思うのかが、心底不思議だが。俺は真桜以外いらないし」

「バカというか阿呆というか気違いというか、ねぇ」

「りっちゃんどれもフォローになってないよ?」

「してないもの」

「納得!」

「フォローのしようもないだろう、あれは。自分の非を認めない、いや認められないただの犯罪者だ」


 しぃちゃん容赦ないな。いや、それはいいんだけど。なんかさ、女王って幼稚園児並のメンタルなの? 涙目で睨み付けるなんて、言葉足らずな子供じゃあるまいし。


「自分が誰も好きじゃないのに、相手にだけ気持ちを求めるのはおかしくないかい?」

「私はみんなに愛されるお姫さまなの!!」

「みんなって?」

「みんなはみんなよ!」

「それ、必要?」

「私はお姫さまなのよ!?」

「だからなにさ? あんたがお姫さまかどうかなんてどうでもいい。私が聞きたいのは、あんたは誰彼かまわず側に侍らせないと気がすまないビッチなのかどうかってこと」


 女王の理屈から言えば、女王自身が嫌いな人でも女王を愛さないといけないみたいじゃないか。嫌いな人に愛されて、それ幸せか? てか、会話のキャッチボールにすらなってないぞ。


「ビッ、え?」

「キレたわね、真桜」


 意味が通じないのか、首をかしげる女王。あきれた声はりっちゃんのものだ。

 キレたかどうかは正直わからない。けど、いい加減終わらせたい気持ちが強い。


「私にも限界ってものがあるよ。確かに私は読書が好きだから本を読むよ。それは昔から変わらない。集中すると周りの声が聞こえなくもなるよ。それだけ本を読んでるんだから。それを無視されただの嫌われてるだの、そもそも初対面で好きも嫌いもあるか? 印象で言っていいなら、あんたは最低な子供だった。自分の言葉がどんだけのことを引き起こすかわかっててやらかしたんだから。結果があの全校生徒と教師対私だ。あんたは狙ってそれをした。苛めを自作自演して私に冤罪を押しつけた。小学3年の時すでに、あんたはそんな最低なことを当たり前にやってたんだ」


 あれを受けたのが私でなければ、自殺してもおかしくないほどの状況だった。幸いにも、私の両親はまともだった。私の味方だった。私を愛してくれてどれだけ救われたか彼らは知らないだろう。親から子への愛が無償だとは思わない。絶対はない、あるなら虐待はおこらない。


「あんたは自分の正義に従ってるんだろうけど、私達にしてみれば、あんたが悪だよ。じゃなきゃ生徒会役員達はリコールされなかったんだよ」

「え?」

「まだわからないとかどんだけ?」

「わからないのが女王だよ、りっちゃん」


 自分のせいで周りに被害が出ることを、彼女は知らない知ろうとしない。自己中と呼ばれるそれさえ自覚しない女王は、だから他人のせいにする。


「私は聞いたのはそうゆうことだよ。あなたは誰か一人を選ぶとしたら?」


 答えを持ってるとは思えないけどね。


 ふう、と息を吐いた私を後ろから抱きしめる腕。もちろんしぃちゃんだ。むき出しの肩に触れる熱に、知らずに入っていた力が抜けた。どうやら無意識に緊張していたようだ。


「しぃちゃん」

「ん?」

「……うん」


 ホッとする。あったかくて力強い私の大好きな人。……手放せないなぁ。


「はいはい、バカップルはほっといて」


 りっちゃんスルーですか!? それはそれで悲しいものが! せっかくしぃちゃんがデレてるのですよ!?


「女王さぁ、あたし達がなんであんたじゃなく真桜のそばにいるのかわかる?」


 りっちゃん、もう女王呼び隠さないんだね。だからなに? うん、知ってる。だよねー。そんだけ名前呼びたくないんだよね。


「真桜はね、あんたみたいな嘘はつかない」


 嘘つくくらいなら黙秘しますがなにか。


「自分を守る嘘すらつかないのよ? あんたみたいに嘘で自分を固めてる人とは大違いね」

「素直すぎるから誤解も受けるがな」


 なんなの。二人して私を誉め殺しにしたいの? てか、やめて。恥ずかしさで死ぬ!


「「そして鈍い」」

「酷っ!」


 上げて落とされた! 

 ぎゃんぎゃん騒いでると、座り込んでいた女王がふらりと立ち上がった。

 即座にりっちゃんを松川先輩が背中に隠し、しぃちゃんが私を女王から遠ざける。


「……んで、わ」


 ぼそぼそとなにかを呟いてるけど、聞き取れない。目がどっかいっちゃってるみたいだけど、どこまでいってるの? むしろいったまま帰ってくるなとかしぃちゃんが言ってるけど、それも後味悪そうじゃない?


「……んで、なんで? なんでなんでなんでなんでなんでよ!! 私はお姫さまなのに!!」


 絶叫とかなにそれ恥ずかしい。しかも内容が電波。真似できないしたくない。


「……一体、どこからでてきたのかしら。そのお姫さま」

「思い込むにしても、誰かが必要だよね」

「てか、一般常識どこ行った。王族でない限りお姫さまにはなれないのは誰だって知ってるよ?」

「常識がないから電波なんだろう」


 疑問系じゃなく断定したね、しぃちゃん。


「そもそも、どういい意味でのお姫さま?」

「女王の父親によると、叔父がそう言ったのが始まりだそうだ」


 それもおじ様のせいか。てか全てあの人が原因か! いや、元凶か!


「そうだね。けれど、私は『私だけのお姫さま』だと言ったのだけどね」


 入り口付近からの声は、穏やかなトーンで。振り返れば声と同じ、穏やかな表情の倉吉理事がいた。


 出たよラスボスーーーー!!



「有栖。私のお姫さま」


 周りの雰囲気をものともせず、彼は女王に呼びかけた。

 いやー、ある意味スゴいよね。涙でグシャグシャな顔ーーどう取り繕ってもかわいくはないーーに振り乱してほぐれた髪。シワだらけのドレスは場違いなほどの違和感。


 それとも彼にだけは違って見えるとか? いやいや、贔屓目で見たってあれはトチ狂った電波だよ?


「有栖?」

「……お、じ様?」

「そうだよ、有栖。私だけのお姫さま」

「おじ様!!」


 女王は突然勢いづいた。絶対的味方が現れたから? したってまだ分が悪いぞ?


「おじ様!! 私はお姫さまよね!? みんなに愛されるお姫さまなのよね!?」


 すがるように、願うように。滑稽なほど、憐れなほど。

 一人の舞台に共に立ってくれる人はいない。女王のおじ様ですら、入り口から動かない。


「言っただろう? 有栖。私だけのお姫さま、と」

「ほら! 私はお姫さまなのよ!! おじ様だって、私だけの……え?」


 ようやく気づいたのか。倉吉理事は一言もみんなに愛される存在とは言ってない。彼のお姫さまなのは疑いようもないだろう。けど、勘違いしたのは女王だ。多分。


 否定されたことにキョトンとした女王は、じわじわと内容が染み込んだのか勢いどころか表情まで消えた。顔色は真っ白だ。電波発言が黒歴史的汚点だということに気づけただけマシだろうか。いや、今さら気づくなら知らないままの方が幸せだったかもしれない。


 どちらにしろ私はどっちも嫌だ。

まさかのおじ様によってとどめを刺された女王(笑)さて、そろそろ畳みたいんですけどね。

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