夢望。または新たな始まり 6
ざまぁ完です。色々突っ込みたいことあるかとは思いますが。後日談は次回で。
「彼女をお姫さまにしてお花畑に放したのはあなたですか」
言わずにはいられなかった。これくらいのイヤミは許されると思う。どうせ聞き流してるだろうし。
「そんなつもりではないよ? 言っただろう? 私だけのお姫さまだと」
「それがこんな事態を生み出したのに?」
にこり、と笑うその目にあるのは、純粋な狂気。本当に彼は女王を愛して慈しんできただけなのだろう。それが女王を狂わすことも知らず、に? ……知らなかったのかな。いや、あれだけ頭の回転が速い人なら知ってたはず。想像はそこにたどり着くはずだ。
つまり、倉吉理事は知っててあえて放置、女王が斜め上に成長するのを止めもせず見ていた。そうゆうことかね?
「周りは割とどうでもいいのだけどね。有栖? さあ、おいで?」
うっとりと、女王を見つめる目は優しく呼ぶ声は甘い。迷子の子供のように所在なさげにしていた、虚ろな目の女王はようやく彼に視線を合わせた。
「……お、じ様?」
「そうだよ、有栖。さあ、行こう」
両手を広げた彼に、無条件に慕っていたはずの女王は躊躇った。なんだろう、子供返りっていうの? どうにもいつもの彼女とは思えない。
「私だけが有栖をお姫さまにしてあげられるよ」
「お姫さ、ま」
その言葉に、よろりと女王が傾いた。
「ダメ」
「……っ!?」
思わず腕をつかんだ。ダメだと、直感が叫んだ。
私と女王の前に、しぃちゃんといつの間にか駄犬がいた。その向こうの彼は見えない。てか、駄犬ほんとにいつの間に。隠密スキル半端ないな。
あ、女王の探してたのって? いや、でも今はこっちが先。
「あの人の手を取っちゃダメ。もう戻れなくなる」
なんとなくそんな気がする。彼は静かに狂ってる。正気には戻らないだろう。狂人と一緒にいたら、女王も戻れない。遅いって? いや、子供返りしてるならまだ、なんとかなるかもしれないし。
「どうして? おじ様はやさしいのよ?」
たどたどしい言葉使いにうなずく。
「優しくても、あの人はダメ。あなたのお父さんは?」
「パパ? パパはやさしいけど、おねがいきいてもらえないの」
「それでも、お父さんといるべき。いいことも悪いことも知らなきゃ、覚えなきゃ。いいことだけでは生きていけないから」
「わるいこともおぼえなきゃいけないの?」
「そう。なにがよくてなにが悪いのか。どんなことを言われたら相手が傷つくのか、喜ぶのか。どんなことをされたら相手が泣くのか、笑うのか。学ばなきゃいけない。甘えることも我慢することも。あなたも、私も」
「あなたも?」
「そう、私も」
女王だけが悪いんじゃない。育ちとやり方に問題があっただけ。だからと言って赦したわけじゃない。それとこれは別なだけ。
「そうだね、学び直そう。有栖」
新たな声の主は、入り口の倉吉理事の脇を通り抜けて真っ直ぐこっちに向かって来た。
「パパ……?」
北川父は、女王の前でしゃがむと視線を合わせた。
「ここから新しくなんて都合が良すぎることはわかってるよ。でも、正しさを知らなきゃ自分の間違いを振り返れない。有栖、一緒に過ちを正そう。今度こそやり直そう」
「……パパ。いっしょ? ママは?」
「みんな一緒だよ」
「おじ様は?」
「おじ様はこれから行かなきゃいけない所があるんだ」
「……うん」
うなずいた女王は、北川父に身体を預けた。そのまま力が抜けた女王を横抱きにすると、立ち上がって倉吉理事と向き合った北川父は、さっきまでの優しさと温かさが抜けた厳しい目をしていた。
「倉吉君、君に話を聞きたいと客人が来てるよ」
「私には有栖以外に用はないけれど?」
「今の有栖に君は必要ないよ」
「やれやれ。貴方に有栖を理解できるとは思えないけどね」
「最初から理解し合えるなんてあり得ないよ。話し合って分かり合うんだ、これから」
「ふふ、これから、ねぇ」
静かに笑った顔は穏やかで。けれど瞳に宿る濁った光は不気味なぼどで。きっとこの人になにを言っても無駄になるだろうな、と思った。
倉吉理事は、静かに現れた男の人達に挟まれるようにして出ていった。これから警察に行くんだろう。まぁ、理事の権限の不正使用くらいでは罪にはならないと思う。学園の理事は今日付けで解任されてるはず。ケガさせた加害者の女王をかばって処分に口出したりしたし。後は大人の領分、丸投げポイ。
大人の事情ってやつはめんどくさい。私達か知るのはずっと先のことになるだろうし、それでいい。その前にネットに流れるかもしれないけど。
「あり、北川。おじさん、北川は」
気を失ってる女王を心配そうに見る駄犬。逃げてたのにねー。お人好しというかなんというか。まぁでも、昔からこんな奴だったしなぁ。クラスに一人はいるムードメーカー兼リーダー兼お人好し。頼られるとイヤと言えない、イコールクラス委員長。意義なし。
「気を失ってるだけだよ。大丈夫」
「そう、ですか。……すみません、俺あ」
「君のせいじゃないよ。これは俺のせい。気づいていないフリをし続けた俺の責任」
「けどっ、俺は止めれたのに、間違いを直すことだって、っ!」
「起きてしまった過去はやり直せないよ、颯真君。君はそれでも有栖を守ってくれた。有栖が迷惑をかけてしまった方々には俺がきちんと謝罪するよ。倉吉にはもう口は出させないから、これからのことは俺に任せてくれないか」
「おじさん……」
突き放すことを決めたのに、心配しちゃうのが駄犬だよなぁ。女王が起きてたら絶対しないだろうけど。
北川父は女王を抱えたまま、一礼するとそのまま出ていった。
満足なんて出来ない幕引きだった。
後夜祭はそんな感じで始まって、後味悪い雰囲気を払拭するかのように、松川先輩がりっちゃんを振り回してノリノリのダンスを披露。目を回したりっちゃんをお姫さま抱っこで決めポーズすると、恥ずかしさから叫ぶりっちゃんとおろすおろさないの攻防戦を開始。
いつものやりとりに周りの視線が集まったその隙に、体育教師海坊主が元生徒会役員を回収。
会場は何事もなかったかのように盛り上がっていった。
文化祭実行委員会役員の働きに感謝して乾杯ーーもちろんジュースだーーもして、それそれ楽しみだした。
「真桜、ちょっといいか?」
会場のバルコニーで一休みしていた私は、しぃちゃんの声に振り向いた。しぃちゃんと駄犬がそこにいた。
「どしたの?」
「駄犬が謝りたいんだと」
「謝罪は不要だがね」
「じゃ、話を聞いてやってくれ」
「それはかまわないけど」
私達を置いて行こうとするしぃちゃんを止めたのは駄犬だった。
「間中もいてくれ。二人に聞いてほしいんだ」
それを聞いてしぃちゃんは私の隣に来た。
「いらないと言われたけど、これは俺の自己満足だから」
頭を下げて謝罪を口にした駄犬は、どこか今までとは違っていた。
「北川のおじさんが言ってたように、やってしまったことはやり直せない。俺が真桜……小堺にしたことは許されることじゃない。後悔しても遅い。だから、これから俺にできることをしたい。流されるんじゃなくて、ちゃんと自分の意思で」
ようやくたどり着いた、それが駄犬の答えらしい。なんというかまぁ、ヘタレ卒業したの?
「「いいんじゃね?」」
あ、しぃちゃんとハモった。
謝罪を受け入れるわけじゃない。それは誰の謝罪であれ許すつもりはないから。けど、自分のやったことと向き合って、先を見た人に恨み言を言うつもりはない。
私だって間違わないわけじゃない。むしろ間違いだらけだと思わないこともない。そんな私がなにを偉そうに、と自分でも突っ込みたい。
つまり、私に人を裁く権利など始めからないのだ。女王に関しては私に売られたケンカをお買い上げした結果なので、反省はしても後悔はしない。私はやられたらやり返すだけの平和主義者なのだ。
「……ありがとう」
「いや、私そんな上の方にいないよ?」
「知ってるよ。ただ、転校する前に話しておきたかったから」
「転校?」
それはまた、突然じゃね?
「もともと、志望校は別だったんだ。今さらだけど、俺もやり直したいから」
「いいんでないの? やりたいことやったら。昔からおじさんみたいな仕事に憧れてたもんね」
「……! 覚えてたのか」
「まぁ、それくらいは」
そうか、と駄犬は笑った。
ただ、嬉しそうに笑った。
おじ様は真桜さんが思ってるほど軽い罪ではありません。しかし、会社に迷惑をかけないように手回し済みとか抜かりはありません。なぜ女王達のことのみ狂うんですかね? 謎は謎のままですねー。




