自覚。または愚鈍 4
エマージェンシー!! 退避! 逃げようにも避けられない。台風のような男(笑)
あ、この人敵だ。
なぜそう思ったかは未だに謎だが、遭遇直後の私の思考回路は正しかったと今でも思う。
それは直感。
背筋がゾワリとした。なんか、この人ヤバくない? もうヤバいヤバくないって言ったらヤバいだろうよ。なんか、表舞台には絶対立たないまま裏で全てを操ってるみたいな。そんな腹黒さん的雰囲気がビシバシしますがな。ホラー!
笑顔で人一人くらい刺せそうな。その瞳の奥にあるのは無か狂気か……怖っ!! 怖いぞ! 絶対的犯罪者予備軍だぞこの人!!
笑顔が標準装備みたいに張りついてるのに、ものすごくウソ臭いなんて、イケメンの持ち腐れだなー。
……なんだろう。すれ違えばいいだけなのに、背中を向けたら負けみたいな。バッサリやられるイメージしかない。
「こんにちは」
金髪ハーフ(暫定)さんは流暢な日本語をしゃべった。てか、誰さ?
「こんにちは……?」
あ、瞳はブルーじゃないのか。藍か、紺かな。黒にも見えるけど、光を当てたら明るい色なんだろう。どっちにしろ外国の血は入ってる模様。
「ああ、怪しい者ではないよ? 私は倉吉。ここの理事をしているんだ」
「はあ」
いや、十分怪しいよ? てか、理事?
「今日は視察でね。……さっきの彼女は? ここの生徒だと言うから通したのだが、違うようだね?」
「いえ、生徒ですよ」
今日までは。知っててカマかけてきたのかな。てか、あなたが入れたんかい! 理事権限濫用じゃね?
「そうかい? なんだか、焦っていたようだったからね? ちょっと心配していたんだよ」
「意思の疎通に誤解があっただけです。もう解決しました」
「それはよかった」
にこにこと、それはもうにこにこと、どうしろというのかというくらいの笑みでもってかけるプレッシャーは、意図的なものなのか。わざとだろうなぁ。わぁ、ステキー(棒読み)
当たり障りなく立ち去りたいなー。切実に。
「君は厄介ごとに好まれる体質なのかな」
「はい?」
「トラブルが多そうだ」
「……なにが言いたいんでしょう」
なんだろ。ケンカ売ってらっしゃる? そんで超高値で買えと? なんで買わなきゃならん。意味がわからんわ。なんなんだ、お前。
思わず口に出かけたけど、無表情で耐えた。
「そうだね、こう言えばわかるかな。ーー私は倉吉、アリスの叔父だよ」
「有栖?」
誰だそれ。聞いたような……知らないけど。
「おや、知らないかい? 有栖からは君と楽しく遊んでいると聞いていたのだけど」
「私の友人にはいませんけど」
てか、私は名乗ってないのに、よくご存知で? 確信犯じゃんか!
「そうかい」
で、楽しく遊ぶほどの友人の有栖さん。誰だ? その有栖さんの叔父さんは理事の一人。……なんだろ。なんかしぃちゃんに聞いたことあるような話と似てるな。
有栖さんと叔父さん、叔父さん……おじ様? ーーーーああ、この人が。
有栖さんは女王か! てことはこの人は女王のおじ様だ! 敵だ!! 直感は正しかった!
そして、唐突に理解した。
女王を作ったのはこの人だと。理屈なんてわからない理由もいらない。だけど、この人があの女王を作ってしまったのだ。それがそもそもの始まりなのだ、と。
女王にとってそのことが幸せかどうかはわからない。けど、小学生の時、初めて会ったあの時、すでに女王がこの人によってああなっていたのなら、それは幸せなことだったのか、と私は思う。
もちろん、今なら私の対応にも問題があったこともわかってる。あの時はあれが精一杯だったけど、多分あれは私と女王二人にとって不幸な出来事だったのだろう。やり直せるわけではないから、結果論でしかないけど。ただ、出会うべきじゃなかった。それだけのことだ。
でも、今のこれは明らかに意図的だ。倉吉さんとやら、あなたわざと女王をこの学園に入学させたでしょう?
「あなたは」
なにがしたいの?
「なんだい?」
胡散臭い微笑みに全てをくるんで、なにを企んでるの。
「有栖さんが大切ですか?」
「もちろん」
即答で返る声。大切なら、なんでかんなことするのか。
聞く前にさらなる返事がきた。
「彼女は大切だよ。大切で大事で愛しい彼女との娘だからね」
「そう、ですか」
……ん? ちょっと待て。大切で大事で愛しい彼女との娘だから?
それって、大切な人の娘だから大切ってこと? 本人(女王)は? あれ? 彼女との娘? との? 殿……違う! ……これ、深く突っ込んでいいんだろか。
「ああ、話しすぎたかな」
まったくだ。
会話していたようで、お互いに一方通行だったような気がする。この人がなにを考えてるのか知らないが、こちとら女王と仲良くした覚えなんてない。そういや最近、駄犬を追いかけてるのがよく目撃されてる。駄犬は忍法雲隠れの術で逃げ切るのがデフォになりつつあるが。あいつは一体どこに向かってるんだろう。
しぃちゃん曰く、ようやく現実を見たそうだ。ケリがついたら謝りたいと言っていたそうだ。それを受けても許す許さないとかじゃないんだけどな。
過去はもう終わったことだし、自分がそれを選んで進んだ道なら責任は自分にある。駄犬がそれと向き合ったのなら、私がどうこう言える立場じゃない。
ただ、女王とのことをちゃんと終わらせることができればいいと思う。7年近く一緒にいた相手との決別は、けっこう来るものがあるからね。
「ーー、おじ様ーー!」
遠くから彼を呼ぶ声に、ようやく視線がそれた。
その隙に逃げた私は悪くないはずだ。女王と鉢合わせなんてゴメンだしなにがあるかわからない。木やら植え込みやらの影に隠れてやり過ごそう。ヘタに動くと危険だ。主に私が。
「もう、おじ様ったらこんなとこでなにしてるの? 待ってたのに来ないんだもの」
なんか、デートに遅れた彼氏を怒る彼女みたいだなぁ。
「ああ、すまなかったね。いつ来てもこの庭園は見事だからね、時間を忘れていたよ」
「ひどいわ、おじ様。私のこと忘れてたなんて!」
いや、忘れることはあるでしょ。なにかに集中した時とかさ。
「はは、悪かった。お詫びに夕食でもどうだい?」
「仕方ないわね。ご一緒するわ。聞いてほしい話もあるし」
仕方ないって、なぜ上から目線?
「おや、なんだろうね」
「もう! 聞いてよ! 颯真君たらひどいのよ! 私が話しかけてるのに聞いてくれないの! みんなが颯真君に言ってくれるのに、聞いてくれないの! ねぇおじ様、どうしたらいい?」
いやいや、空気読もうよ。駄犬は君から卒業しようとしているよ?
「そうだねぇ、追いかけるのをやめてみたらどうだい?」
「そうしたら、また私のナイトになってくれる?」
ナイトって……いかん、笑いがっ。腹筋痛いわー。割れたらどうしてくれるのさ。
「有栖は私のお姫さまだからね」
いい年ぶっこいたおっさんーーいくらイケメン金髪といえどもーーがお姫さま!! あなた方どこの星の住人ですかー!?
「おじ様大好き! 私中華がいいわ!」
「はいはい」
うん、いいね中華。チャーハンと酢豚とか食べたい。決してフカヒレスープとかじゃないよ。
いや、違う。そうじゃないだろう。明日の私の筋肉痛プライスレス。大問題だ! ちびちゃい子供なら微笑ましく聞けるーーうんうん、そうだねー。とか、頭を撫でてもいいくらいーー話なのに、なぜあの二人になるとこんなに笑える会話になるのか。最大の謎だよ。
問題は、片方はともかく、もう一人はマジだってことだな。
しかし、女王の素で繰り広げられる演技力は叔父さんに鍛えられたものだったのか。そして叔父さん、ナチュラルに超演技派。
恐るべし、女王一族。
もっと病んでる風に書くにはどうしたらいいですかね……。実力不足です。




