自覚。または愚鈍 3
このあたりから真桜さんも頑張ります。
あっさりきっぱりはっきり結論から言えば、電波組夢子ちゃん2号は退場した。あれ、名前なんていったっけ?
父親のコネで、どこかの山奥の病院併設の女子高に転校していった。病院って、そこまで? と思うだろうけど、そこまでだった。それ以上だった。
警察でも痛い子な発言をしていたらしい2号ちゃんだが、病院でもそれは変わらず。いや、だからそれ以上なんだって。
2号ちゃん曰く。うちの学園は「愛の庭で君に捧ぐ」とか言う乙女ゲームの舞台で、自分は主人公だと。
攻略対象者として、生徒会のメンバー。隠しキャラにしぃちゃんとなんと駄犬の名を言ったらしい。どんだけお花畑に夢の花が咲き乱れてるんだろか。覗けないけど見たくないけど、きっとものすごいことになってるに違いない。
だから、自分は攻略対象者達の心の傷を慰めて癒してあげるのだと。そして、愛されるのだと。それが、正しいストーリーなのだから、と。
はっきり言おう。ーーバカじゃね?
自分だけで完結して自己満足に浸ってくれるのなら、どんな妄想しようがーーたとえ18禁だろうとーー構わないさ。けど、それを現実に持ち込んで周りをストーリーに当てはめようとするのは違うでしょ。
みんな、自分が主役の人生を生きてるわけだし。
ちなみに、私と女王は乙女ゲームにありがちな悪役令嬢だそうだ。ミスキャストもいいとこだよね。女王なんて、悪役令嬢にされた悲劇の主人公とか演じるの上手そうだし。
ま、どうりでうわべだけの軽っ軽な言葉しかでてこなかったわけだね。
なにはともあれ一件落着。……と思ったんだけど。
目の前にいるこれはなんだろう?
「……あんた、が……あんたがおかしいのよ……なんで悪役令嬢なのに、悪役のくせに、いじめないし罵らないし。ストーリー通りにならないから、あんたがちゃんとやらないから、だから」
マゾの気でもあるのか? 私には人をいじめて喜ぶ趣味なぞないぞ。
そもそも、転校したはずの2号ちゃんがどうしてここにいるんだ? ここは放課後の学園でさらに言えば庭園、中央の噴水付近なのだよ。最新のセキュリティシステムに加えさりげなく警備員まで配置されてるはずのここに、どうやって入った? 放課後とは言え人はまだいるのに?
「なんなのよ……あんた、なんなのよ!? なんであたしの邪魔するのよ!! 颯真も静留も生徒会もみんなあたしのなのに!!」
……それにはちょっと同意できないなぁ。てか、しぃちゃんの名前呼び捨てにすんな、むしろ呼ぶな。
「あなたの言うことが事実かどうかはどうでもいいけど。あのさ、ここほんとにゲームの世界なの?」
「そうよ! ここは愛の庭で君に捧ぐの世界なの! あたしはヒロインなのよ! あんたみたいなあくや」
「だからその辺はどうでもいいわけ。……ねぇ、ほんとにそう? ほんとにストーリー通りに今まで進んだ?」
「っ、だからそれはあんたがっ」
「その前は? 私と会う前、この学園に入る前は? お父さんに反対されなかった? それはシナリオにあった?」
「なっ、そん……え?」
「何から何までシナリオのストーリー通りに進んだの? ……そんなわけないよね? だってあなたがヒロインの時点でストーリーは崩壊してるもんね?」
「あ……な」
でしょう? だてにライトノベル読んでないぞ? 乙女ゲームはしたことないけど、そっち関係の本いっぱい出てるよね。買いはしないけど、スマホに無料サイトあるし。活字中毒なめんなよ。読みたいの全部買ってたら破産するし置くとこなくなるし生き埋めになるわ。
思うに、乙女ゲームはあらかじめ決められた行動の中から、プレーヤーが選んだものをヒロインが行うもの。そのヒロインはシステムだ。可愛いとか綺麗とか優しいとかどじっ子とかそういう性格もきまってるものだよね。なのに、中身が全然違う人になっちゃうんだよ? 怖っ。ヒロインとして攻略してこうとするなら、それはもう演技だ。シナリオのうわべをなぞるように、ストーリーを進めるためにする演技。
そんなのにリアルに生きてる人間がひっかかるものかね? むしろ女王の超思い込み演技の方がよっぽどリアルであると思うがね。
「てなわけで、ストーリーは最初から崩壊していた説を強く支持します」
「…………なん、で」
「だって、攻略対象者の誰か一人でも、あなたの演技に落ちた? 心の傷だか闇だか持ってた? あなた癒すことができた?」
「……っ、それ、は」
「できなかったでしょ」
当たり前だ。幼い頃から持ってた心の傷? 闇? そんなものに周りが、家族が気づかないはずはない。家族と隔たりがある人でも、一人で生きてたわけじゃない。愛情を持った誰かに癒されてたはずだから。
一人は淋しいし、寂しい。誰かのあたたかい温もりを得た時間があるなら、人生そんなに悲観してはいないと思う。今まではいなかったかもしれない。だけど、これからの人生で出会うかもしれないもの。
「だからさ、ちゃんと周りを見てみようよ」
ギラギラとした目は、迷子のようなそれに。今にも掴みかからんばかりだった腕は下がり、身体から力が抜けたのか座り込んだ。
「あなたのお父さん、心配してたよ? もっと早く引き取っていれば、って」
いいお父さんだよね。ちゃんと、娘として愛情もってるんだよ。投げやりになるとかじゃなくて、ちゃんと更正の余地はあるからと、精神病院に隔離じゃない先を用意してくれたんだし。
「あたし、は……あたしでいいの?」
「んー、多分? いいんじゃない?」
正直あなたがどなたでもどうでもいいけど、私の大切な人達を巻き込むのは容認できないから。
「ちょっとここから離れて、よーく自分と向き合ってみれば? そしたら、あなたの言葉に耳を傾けてくれる人も現れるかもよ?」
「あたしの、言葉」
「そう。この一月ちょい、あなたの言葉は電波だと思われていたし、誰も聞いてなかったんだよ」
あ、黙っちゃった。一生懸命空回りしてたもんねぇ。ま、ショック受けるのもリアルだからだし、頑張れ。
「ま、そんなわけだから。とりあえず、私は小堺真桜。あなたは?」
座ったままの彼女に手を差し出す。きょとん、とした顔は初めて見るな。
「演技じゃないあなたと会話するなら、まずは自己紹介からじゃないかな、と」
思うんだがどうだろう。彼女と同じように首をかしげて待つ。
少しの間があって、おずおずと差し出される手をちゃんとつかんだ彼女は、もう電波なんかじゃなく。
「あたしは、神楽坂好実です」
ただの普通の女子高生だった。
神楽坂さんは父親に連絡して帰って行った。
色々思うとこも悩むとこもあるんだろうけど、これ以上ここにいるのはまずいと一般常識を思い出したらしい。
転校は決定事項だから変えられないけど、きちんと自分と向かい合ってみるとのこと。
気が向いたらメールとかしてもいいかと聞かれたので、マメじゃないけどそれでもいいなら、とアドレス交換しといた。一人でエンドレスループにハマるよりはましだろうというくらいの気持ちで。ほっそい蜘蛛の糸だな!
さてさて、大分時間をロスしたけど、そろそろしぃちゃんの委員会も終わったろうし戻るか。
ちなみに、私は噴水前のベンチで読書をしていた。珍しいことはするもんじゃないね、おかげで大変なことになるとこだった。結果オーライは途中危険な箇所ありでお説教をもらうのだ。誰に? 決まってるじゃん!
てくてくと近道を行く私の前に、夕陽に照らされた一人の男性がいた。
うちの父くらいの年齢のその人は、ハーフなのか金髪系イケメンだった。穏やかに笑うその表情は、うちらくらいの小娘なんてイチコロな色気を漂わせていて。
なのに、目は笑ってない。
……なんか、ヤバくね?
……とうとう遭遇です。逃げて!! そいつは危険よ!! 無理だけど!!




