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未来釣り

第66回フリーワンライ企画  使用お題 「小指の糸」「ダークファイバ」

ジャンル:ファンタジー

 ふらり、ふらりと天上の世界に旅をする。

 薄雲の大地を歩んでいると、光の泉で釣りをしている男がいた。釣り竿も持たずに、小指に透明の糸を括り付けて、池に足を突っ込むように座っている。

 釣れますか、と私が聴けば、その人はゆるりとこちらを振り返った。


「釣れるけど、目当てのものは全然釣れないねえ」


 そう言って、小指の糸を手繰る。くるくると巻き付けるように。

 そもそも一体何が釣れるのだろうか。魚か、鳥か、それとも虹か。私がそれを尋ねると、釣り人は笑いながら答えた。


「ここでは未来が釣れるんだよ」


 なるほど。私は納得した。でも、未来が釣り針に食いつくのだろうか。そんな私の疑問に先回りして、説明してくれた。


「未来にもね、糸が繋がっているんだ。綺麗な光の糸なんだよ。それがその私の糸に引き寄せられて、一本の運命の糸に融合するんだ」


 素敵な話だ。きっとこの泉の下には、光り輝く未来がたくさん泳いでいるんだろう。たくさんの可能性、たくさんの未来。その中から、運命が導く未来を探して釣り上げる。

 釣り人は、ちょうど糸を手繰っている。ということは、何かが釣れたのだろう。私は少し旅の足を止めて、その釣果を見守った。


 くるり、くるりと小指に糸が巻かれる。指輪なんて太さじゃなくなった、ずいぶん長い糸らしい。

 だがやがて、男は嘆きの声を漏らした。


「あー……またか」


 光の泉から引き上げられる釣り糸は、だんだん黒ずんだ姿になっていき、ついには夜の闇より黒い色になった。

 そしてざぶんという音と共に、獲物が引き上げられた。それは真っ黒で萎びた何か。人の頭程ある物体が、糸の先で力なく揺れていた。

 はあ、と釣り人の溜息が一つ。彼はハサミを取り出すと、釣り糸の変色した部分から切り離して、その気持ち悪い物体を遠くに投げ捨てた。

 それがごろりと転がった先をよく見れば、同じようなものがたくさん打ち捨てられているではないか。

 あれは何なのですか。再度糸を垂らすその人に、私がそう尋ねると、彼は悲しそうに語ってくれた。


「あれはね、自殺した人間が持っていた未来なんだよ。普通なら小さくしぼんで光が消えるだけなのに、変な風に未来を断ち切るもんだから、ああやって残骸が泉に残るのさ。ああ、もったいない。あんなにたくさんの未来があったのに。しかも、数が多いし、大物も増えた。いやはや、悲しい話だよ」


 そう言っている間に、また糸を引き上げて、また死んだ未来を釣り上げている。男は慣れた手つきで、それを切り捨てた。用意されたのに、役目を果たすことが無い、哀れな未来の糸。それは、一体どれだけこの泉に沈んでいるのだろうか。

 釣り人は嘆き嘆く。


「死んじまったらどうしようもない。生きていたら、それがどんなに細い光でも、私が釣り上げて輝かせて見せるのだけれど」


 はあ、と彼はため息ばかりだ。それでも、釣りをする手は止めない。泉にはまだまだたくさんの未来が眠っているのだから、それを全部釣り上げようと思っているという。



 私は男に礼を言って、その場を立ち去った。

 それにしても面白いものを見た。普段、他の天神たちがどんなふうにしているのか、見る機会はなかなかないから。

 次はどこへ行こうか。私は、雲の大地を巡る。


 ふと、男の明るい叫び声と、眩しい光が遠くに立ち上った。あの方角は、未来の泉がある方だ。

 どうやら、誰かの素敵な未来が釣り上げられて、輝いたらしい。喜ばしい話である。


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