喧嘩を売りましょう(下)
「バーティン」
アリーが呟いた。どうやら魔法の発動キーだったらしく、その場の魔力がごっそり動く。
「あ、ぐぁっっ!!」
男は首を押さえて呻いた。その声すらもでていない。
あ、とエレインが溢した。
「アリー、ちょっとそれまずいと思うわよ」
「そう?」
周りの人間は何が起こったのかわからず呆然として目を瞬いている。
Aクラスのいちゃもん男(アリー命名)は顔を真っ赤にしてその場でもだえている。
騒動が起こっていることは大体周りのものにも分かったらしく、野次馬が遠巻きにこちらを見ている。ちらちらと見ていることからして、やはりかかわりたくないと思っているようだった。まあ当然だが。
いちゃもん男のこの醜態もしっかり見られているはずだ。しっかり笑ってやろう。
アリーは笑みを浮かべた。
(社会的に死んだね。ご愁傷様)
さてどう出るか。誰もが次の動きを注視する中、以外にも動いたのはイリィムであった。
「アリー、その魔法、後で何をやったか解説してもらうことにします。とりあえず解除してください」
「分かった。これ以上こいつに魔力使うのも馬鹿らしいね。リェラ」
構築されていた高度な魔力の固まりは霧散した。
いちゃもん男は最初に大きく息を吸い込むと、次にむせこんだ。まるで何がおきているのかまったく分からないというように、呆然とアリーを見上げる。
「この魔法力……この反応速度……Hクラスのものではないぞ……」
何も言わないで居ると、エレインが後ろで鼻で笑ったのが聞こえた。
「この娘、規格外だからあんまり深く考えないほうを推奨するわ、阿呆野郎」
「なっっ!!」
阿呆野郎に反応して憤った男に、アリーは親切にも説明してやることにした。
何事にも上が居る。それを分からないことにはこの茶番は終わらないのだ。
「いちゃもん男さん」
なんだそれ、と周囲のものが目をむく。
「今何が起きたのか分かる? 説明してあげようか?」
男はぐっと言葉に詰まった。反論したいが、今の魔法の説明を聞きたいという考えがぐるぐる回っているのだろう、顔が赤くなったり白くなったり大忙しだ。
「今の魔法はね、真似できないからあんまり意味ないけど、複合魔法なんだよ」
いまさらだが、魔法についての説明をしよう。
魔法、と一口で言っているが、一番大きなくくりで魔法を考えると、正式名称の通り『魔法法力』である。
魔法自体は魔力を動かして自分の意思の中で世界に干渉する。
魔力というのは生命力であり、生きとし生けるものは皆この力によって動いている。これはすべての生物が魔法を使うことができることを示唆している。当然魔力が枯渇すると生命の危機であるため、一般人は使わない。むしろ使えない。
法力、というのは同じく魔力を使って世界に干渉するものである。魔法と違うのは、間にワンクッション神が挿まれる点だ。
法力を使うものはたいてい神官や牧師、巫女などで、使い手が魔法師より圧倒的に少ないことも特徴のひとつ。大抵の使い手は魔法法力師連合協議会に身柄預かりとなっている。
直接世界に干渉するよりも強い力で干渉することができる。当然のように魔法より魔力を使う。
二つの力を扱えるもの、それが魔法法力師だ。
ただしこれは歴史上勇者でしか観測されていないので、実質この世に存在することはないといわれている。神話上の話である。
魔法法力師から外れたもので、異能を持つものは居ないといわれている。
これも神話上の話だが、勇者の中には、憑依体質のものもいたらしく、魔法法力師連合協議会で研究が進められている。
ここトゥール学園は魔法法力師連合協議会で運営している。
閑話休題。
「複合魔法というと、そう珍しくはない筈だが」
息を整えた男が少し態度を改めていった。
「そうだねー。でもこれだけの力を加えるとなると、かなりの魔力を消費するんだよ。何をしたか当ててみて♪」
男だけでなく、周りの者も考え始める。その中には様子を見に来た先生の姿もあった。
いいのかよ、と思うが、いいんだ、と納得させる。
「今俺は息ができなくなった……風魔法か?」
「息ができなくなった? そんな風魔法があったか?」
「複合といったな……果たして何と何が合わさったのか……?」
「火属性なら?」
「馬鹿か。やけどするわ阿呆」
「水ならできるか」
「どうやって空気を抜く?」
「土……は風と相性が悪いな。そもそも二つだけの属性での魔法だったのか?」
いいとこまで来たねえ、とアリーは頷いた。
「無属性です」
「「「全然いいとこまでじゃないよな!? むしろまったく話題にすら上がってなかったぞ!?」」」
盛大に突込みが上がった。「ありがとうございます」アリーは微笑んだ。
「ただしその種類を言ってしまうと私の個人情報となってしまうので言いませんけど」
当たればよかったんですけどねー、と棒読みで言うアリーに周囲は肩を落とした。
ぱらぱらと野次馬が散っていく。来た先生も「一件落着?」といいながら去っていった。
最後まで関与して言ってほしい。まだ終わってないじゃないか。
「いちゃもん君」
「また呼び方が変わったが……なんだ?」
「頭はすっきりした?」
すっと空気が凍った。
目を細めたイリィムが言う。
「そういうことですか……基本的に他人に無関心なアリーが関わるから何があるかと思えば」
「どういうことですの?」
エルティナは首を傾げる。やはりこれは長年アリーを見てこないと分からないことなのであろう。
イリィムは静かに言った。
「洗脳魔法、ですね」
「いぇす。依頼を受けた身としては関与せざるを得なかったんでね」
「洗脳!?」
男は驚きに目を見張ったが、すぐに目を閉じた。
「いや確かに最近の記憶が不自然に飛んでいるが……今まで気づかなかったぞ」
「だからそれが洗脳。最近こういう丸い形のものをもらわなかった?」
アリーは両手で丸を作った。
「メダルくらいの大きさのやつ。……あるんだね」
見る見るこわばった顔になる男を見て、アリーは息をついた。
「誰からもらったの?」
「副会長だ。執行に推薦されて、その証にってこれを」
金色のメダルを懐から出して、男はアリーに差し出した。
「肌身離さず持っていろといわれて、持ってたんだが」
「……うっわーバリバリ怪しい」
「今思うとそうだな」
細かく美しい装飾が入っているそれを受け取ったアリーは魔力の流れを見るようにそっと目を細めた。
後ろからエレインが覗き込んでくる。
「ここからここのとこ。魔法陣の形だわ」
「後ここもそうみたいだね」
「かなり強力なやつですわね」
「後ろ側にもあります」
不思議な物で、一度目がなれると後から後から見えてくる。
4にんできゃあきゃあやっていると男が不意に真顔になった。
「どうして俺なんかに……手を出してくれるんだ」
「あ? えー。めんどくさ。見てられないからだよ」
洗脳は特に関係ない人からの強制だからね、とアリー。
「俺はAクラス所属、ファーバルン。君たちは一体?」
「私は魔法法力師連合協議会所属、第一位、アリアン」
「同じく第二位のエレインよ」
「リョルン王国第三官吏イリィムです」
「なっ!!」
目を瞬かせたまま固まった男を置いて、くすくす笑う三人。
アリーがそっと呟いた。
「やっと尻尾をつかんだよ、執行委員会」
受験が控えているので、更新が2、3ヵ月後になります。すみません。
喧嘩を売る先は……という前話でした。




