第1話 女帝と呼ばれる女子
「あなた達、うるさいんだけど」
休み時間、馬鹿騒ぎをしていた男子生徒達に対して幸林さんが一喝した。それを聞いた生徒達はその男子生徒だけでなくクラス全体がシーンと静まり返る。
「す、すみませんでした……」
「フン」
一人の男子が幸林さんに謝るがその謝罪に興味がないのか、持っていた参考書を再び見返し始めた。
「幸林さん、あんなに怒る事無いのにね」
「ね〜、美人だからって調子に乗ってるんじゃないの?」
俺の近くに座って話していた女子達がコソコソと陰口を叩いている。休み時間なんだしあんなに怒る必要無いよなとは俺も思う。
彼女は幸林瑠奈。伊ヶ谷高校二年生。【女帝】というあだ名が付けられている。理由はまあ先程の様に怖いから。更にとても頭が良く、学年二位の成績を誇っている。そして何と言ってもそのルックスだ。モデルと言われても納得の美人で当然男子達からモテる。
かと言ってあんなにおっかない女なんて俺はごめんだな。
「たかつ君〜。さっきの凄かったね〜」
「……、丸山さん。俺の名前は鷹司だよ」
隣の席の丸山鏡花さんだ。俺の名前をたかつと呼んでからかってくる。まあ呼び辛い名前の自覚はあるので許している。
「幸林さんに聞かれるからもうちょっと小さい声で話してくれるか?」
「え〜、こんなに離れてるから平気だよ〜」
いや、席は離れてるけど丸山さんの声がデカいせいで遠くまで聞こえちゃってるから。それに君の背中越しに幸林さんがコチラを睨んでいるからマジで止めてくれないかな。
「……、彼女がこっちを見てるから」
「そうなの?瑠奈っち。やっほ〜」
丸山さんはくるっと幸林さんの方へ振り返り、あろうことか幸林さんに対して手を振る。幸林さんはため息をついて再び参考書を読み始めてしまった。
丸山さんと幸林さんの仲って良いんだろうか。まあ俺が予想するに丸山さんが一方的に突っかかってるだけだと思うけど。
「昨日も瑠奈っちに告白する命知らずがいたんだよ」
「せっかく勇気を出して告白した人になんて事を……」
くるっとこちらに向き直った丸山さんはニコニコしながら報告をしてきた。俺は頑張った勇者に心の中で敬礼をした。
「なんかね〜、『あなたって期末テスト何位だったの?』って聞いたんだよ」
「へえ……」
俺はそれを聞いて引いてしまう。勇気を出して告白した男子に学校の成績を聞いてくるなんて性格が悪いのか?ていうか何でそれを丸山さんが知っているんだ。幸林さんがそういうの言いふらす様には思えない。
「丸山さんは何処からその話を?」
「えっ、私覗いたりしてないよ〜」
丸山さんは下手くそな口笛を吹きながら誤魔化そうとしている。全く、人の告白を覗くなんて趣味が悪いな。
「だからたかつ君も気を付けた方が良いぜ」
「いや幸林さんに告白する予定なんて無いから……」
全員が全員、幸林さんに興味があるわけじゃないんだぞ。ましてやあんなにおっかない女子なんて俺には荷が重すぎる。その後、時間は経ち放課後の時間になった。
「じゃあ俺は帰るから。部活頑張れよ」
「うえ〜、薄情者!!末代まで呪ってやる」
丸山さんは印を結びながらそそくさと教室を出ていった。バレー部なんて大変だな。てか俺はさっさと帰ってゲームでもしよっと。
「この時間混むよなあ」
駅まで着いてホームで待機している列を見て呟く。下校時間すぐ後だと伊ヶ谷高校生が沢山並ぶのは当然ではある。俺はため息を付きながら列に並ぶ。しばらくすると電車が来て一斉に乗り込む。人が多いので当然席は空いていない。まあ俺の最寄り近くなったら座れるだろう。
伊ヶ谷高校は東京都にある学校で俺の家が埼玉県にあるので電車が埼玉が近くなるにつれ人が減っていくのだ。俺の目論見(?)通り時間が経つ程人がドンドン降りて席がスカスカになり始めた。よし、座ろっと。
「あっ」
俺が席に着いた途端、眼の前に幸林さんが座っているのが見えてしまって思わず声を出してしまった。幸い、幸林さんは俺の声は聞こえていないのか本を読んでいる。
正面に座るのはどこか憚れるので少し横にズレて座る。まあ相手は俺の事なんて気にしないだろうから俺の気にしすぎかもしれないけど。俺は席についてスマホをポケットから取り出して漫画アプリでも開こうと考えている時だった。
「隣、失礼するわね」
「あっ、どう……」
急に話しかけられて驚きのあまり、「どうぞ」と言おうとした瞬間気付く。隣に座ったのは幸林だった。え、どういう事?周囲を見回すと席は結構空いている。というかそもそも幸林は別の席に座っていたじゃないか。
「……」
「いや、え〜と」
幸林は何故か俺の隣に座ったまま黙っている。一体どういう事なんだ?
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