96.初詣帰りは江戸城
※本作は空想の歴史を書いたものなので、史実や実在の自称・人物・史跡とは全く色々微妙に異なりますのでゴメンナサイ。
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「では新年を祝って…」
「「「カンパーイ!!!」」」
場所は年中無休の、ちょっとオリエンタル風なチェーンレストラン。
東南アジア風で、広大な店に広大な吹き抜けがある。
時サンはノンアルビールだ…ゴメンナサイ。
「私達も、日本の神仏習合をアレコレ言えないネー」
「色々廻ってみると、解らないもんだネー」
「私にゃミキがラテン語歌ってるのがショックだったよ、キャンプの時と言い」
「え~?日本でもグローリア、インネクシェルシルデーオーって歌うじゃん?」
「その後がスラスラ出て来んのが意外だったよ」
宗教談義に花が咲くなあ。正月らしいなあ。
それは兎に角。
「私達もう来年卒業だよ。
新年の誓いを何か立てようよ!」
「イイネ!」「卒業かあー!」「一生学生でいたいなあ…」
駄目だろスー!!
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「私ね、やっぱり日本で働きたい!」
ランが前向きな発言を繰り出した。
「ほー、経営学科は失敗だったんじゃないの?」
「経営者目線じゃなくて、現場を見たいよ。
タイもアジアで独立を守って成功してきた。でもその先の何があるのか、日本も見て見たいし、台湾も見てみたい。
アジアの良さと弱さを、できれば学びたい!」
正月から凄い熱気だ。
「抽象的だな…結構、困難そうな道だぞラン」
「スーが言うならそーかもネ。
でも、そこに私の国の発展の答えがあるかも、そんな気がするんダ」
あ、時サンが、凄く良い目つきでランを見てる。
でも、何も言わない。
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「私も…似た感じかな?でも取引する物は具体的に詰めたい」
お、流石スー。
「日本には優れた人材が余ってて、世界水準以下の待遇だったり、失業したりしてる。
そういう人をスカウトして国際企業を立ち上げたら、面白いかもね」
スー!恐ろしい子!!
「まあ私もガバガバっちゃあガバガバ…」
「「女の子がそんな事言っちゃダメー!」」
あ、お延さんと被った。
「ゴメンナサイ、ちょっと下品な言い方になっちゃったよ。
ま、最初は日本であんまり流通してないけど、流行りそうな商品や食材を売ったりする辺りから始めようかな、なんてね」
「今日のその服とかも結構いいんじゃな?」
「う~ん。中華街の土産品と被ってもイマイチだしねえ」
色々考えてるんだなあ。
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「次はミキ、ミス・ミカエラ!」
「は!ワタシの番?私…自分一人で暮らせれば、それでいいネって思ってた。
でも、何かしないといけない様な…そんなカンジ?」
「気負わなくってもいいよ!」
あ、なんか叫んじゃった!
「まずは、自分が暮らせることが大事だよ!そっから先はその次だよ!
ミキだったら日本の男も会社もほっとかないよ!」
「エ?ソ、ソウ?リアリィ?」
「まずやりたい仕事を頑張ろうよ!」
「まー、お話好きだし、英語を活かせる仕事カナ?」
「東南アジア狙ってる企業なら引く手数多あるぞ?IT系とかなら大手も狙える」
スー、そこまで調べてる?
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「私も正直、大手企業、出来れば成長の伸びしろがあるIT系に行きたいけど…」
「「「え~???」」」
「司ンのガイドスゴいよかったじゃん!あの才を活かさないのはもったいないヨー!」
「それに教職とか不足してるし、競争率低いんじゃね?」
「生徒と禁断の恋、イーネ!」
「イーネじゃないよ。
ガイドは相当成功しないとサラリーマン並の年収狙い得ないよ?
教師は一時重労働や学級崩壊が騒がれた所為で成り手が無いだけだし、フツーに勤められる会社の方がいいよ」
「学園祭のまとめ方もプロみたいだったヨ!モッタイナイネー!」
「そう言ってもらえるのは嬉しいけどね」
私は人生平穏に過ごしたいんだよー。
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「お延ネー様は?」ランが4姉妹に振った。
「私は今まで通り、孤児院で預かっている子供達をしっかり社会に送り出せる様、頑張りますよ」
「一度見学に行きたいな、おネー様の職場」
「うふふ、そうね。みんないい子よ」あ、胡麻化した。
「デジタル画家に、私はなる!」「もうなってるじゃん」お次さんのボケに突っ込む。
「司ンが学園祭で私とグラシアの絵を使ってくれて、それにSNSで評価してもらったりしてちょっと面白いなって思ってんだ。
これも司ンのお蔭だ、ありがとう!」
珍しくお次さんが熱気を込めて話してくれた。
「応援するネー!」
「うん、日本好きの身内に紹介したいぞ」
「ワタシはオツギみたいに絵を描いて、後トラベローグ(紀行文)も書いて色々日本のイイトコを世界に紹介したいネ」
「流石現代のモンタヌス」「チャンと現地に行って書きマース!」
「えー!読みたい!」
「リンク教えて!」
「あとハポンにもエスパーニャのイイトコ紹介したいデス!」
「そう言いつつグラシア中々国に帰れないなあ」
「じゃー私はグラちゃんのエッセイに美味しい物情報を乗っけるよ!」
「お玉チャーン!うまうまローグ!」「うまうまー!」
「そういいつつちゃんと護児院の世話もきっちりこなすのがお玉の凄いトコだ」
「小っちゃい子はね…好きだから」あ、ちょっとトーンが下がった。
昔の事を思い出したのかな。
「みんなでガンバリますネー!」
「でだ。時サンは?」
「毎年の通りだよ。キレイな女の子に囲まれて、好きな事やってくさ」
「それだけ聞くとサイテーだね」
「待て司ン。それを実現できる財力と時間があるって凄くないかい?」
「ソーネ。時サンって本業、何ナノ?」
「ないしょ」
その時飴ズはそれ以上聞くまい、と直感したみたいだ。
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バスはまたまた埼玉へ。途中、江戸城を横目に見て…
明日の天皇陛下の一般参賀で混雑する宮城前広場を迂回しつつ、大手前を曲がって三之丸二層櫓群と、その奥の二之丸三層櫓群を右手に見る。
その先、竹橋門を左折して本丸北の高石垣と、黒く輝く巨大な天守を眺めながら、更に御三家屋敷を横に見ながら、バスは北へ向かった。
「ヤッパリ江戸城、スゴイネー!」
「今まで土と水の城ばっか見てきたからなあ」
「これがショーグンの本気ネ」
「でもさ司ン。もしこの大きな建物が火事とかで焼け落ちちゃったら、徳川幕府はもう一回建て直したかな?」
スーが中々有り得ない…いや、本当の歴史を知っているとから見ると、実際に在った話を聞いて来た。
「上げなかったかもね。そんな大火事があったら江戸の町も大変だし、そっちに全力向けてたかも」
「じゃあ城は?」
「関東の他の城みたいに、天守は無し。平和でのんびりした城になってたかもね」
早くも傾きかけた西日を受けて、巨大な天守が光っていた。




