148◆『とても寒い冬』の犯人[後編]
「『とても寒い冬』を引き起す……あれ? お前、さっきなんて言ってた?」
「『犯人』」
犯人? 「原因」じゃなくて?
人為的に引き起こされてたの? 惑星規模の気候変動現象が?
……それっぽい人物は……というと――
「その『犯人』は、ヘルメス・トリスメギストス(※偽名)だったんだな?」
言ってみた。
「……!? 凄い! 知ってたの? ジンくん」
せ、正解だとう?
まさか『とても寒い冬』を引き起こしたのが、約300年前から「転生」を繰り返して『女王国』の影に暗躍し続けて来た『亡霊』の、元々の正体である「ヘルメスさん(※偽名)」だっただとう? そして、その『亡霊』は、いま現在は『聖女』さまに取り憑いているらしいだとう? なんか説明的だぞう。
イヤ、待て。
コレ……ダメなヤツだ。
適当に当てずっぽうで言ってみたら、一発で正解、とか。
俺が若手芸人だったら、先輩芸人にめっちゃ怒られるヤツだ。
「そっかー、知ってたんだね? じゃあ、わたしからはもう何も……」
「イヤイヤイヤ! 待って待って! テキトーに言ってみたら、たまたま当たってたんだよ。ちゃんと説明してくれよ! 何がどうなって、どんな繋がりで、そうなるのか……まったく、ワケがわかんねーよ!」
必死に訴えたよ。
「そうなの?」
あどけない表情だ。悔しいが、可愛いぜ。
「そうなんだよ、まるでワケが分かってないんだよ」
「じゃあ、どこから話そう? 最初(ん?)」
くちびるに指を当てて、話すのを制止した。
「ミーヨ。ごめんな」
「……何? 聞きたくないの?」
「……(ぶんぶん)」
首を振って、否定する。そして、真実を告げる。
「実は俺、お前が『猫の鳴き真似』してた時には、もう起きてたんだ」
「うー……アレ聞いてたの? ううううっ」
恥ずかしそうだ。
「『おトイレ』に行きたくて、お○っこしたくて、目を覚ましてたんだ」
「……へー、そうだったんだ」
平板な声だ。
「だから、まず、放●(液体)したいんだけど……いいか?」
「わかった。わたしもしたいし」
「じゃあ、行こうぜ!」
「うんっ」
俺たちは仲良く手を繋いで、『おトイレ』に向かった……って、またかよ?
◇
船の舳先のような形をしたバルコニー『南天の星見』から、広間に戻る。
床に毛布を敷いて、吹奏楽の練習……じゃなくて!
床に毛布を敷いて、雑魚寝している『巫女見習い』たちを起こさないように、気を付けながら歩く。
「……んんっ」
扉を開けて、広間から出ようとすると、誰かが目を覚ました。
「……ヨハンナさん? こんな時間に、どちらに?」
廊下側には、常夜灯がついてる。それで、俺の姿が見えたらしい。
さらに推察すると、身に付けている『神授の真珠』の「時計機能」で、日付が変わっているのにも気付いているんだろう。
「『おトイレ』です。お○っこです。もし、よろしければ、あたくしたちと、ご一緒しませんか?」
誘ってみた。
「ええ、よろこんで」
「でしたら、私も」
まさかの、「FISH!」だ。
二人ほど、ついてきた。
しかし……なんなんだ? この展開……。
◇
「「「「「……お、お○っこが赤――いっっ!!」」」」」
『一の小宮殿』の『おトイレ』に、そんな五重唱が轟いた。
「ど、ど、ど、どーして? 血? 血なの?」
ポタテちゃんが、蒼白な顔で個室から出て来た。
「……」
同じくサレイシャ嬢も、深刻な顔で無言だ。
「……?」
ミーヨさんたら、何の事か分かってなさそうな、不思議そうな顔だわ。
平気だったのかしら? 個人差があるっていう事?
「…………」
実は、あたくしも……●(液体)が真っ赤でしたの。
つい先刻、夜空に咲いてるのを見たばかりの、『真っ赤な薔薇』みたいでしたの。
でも、その原因について、思い当たる「ふし」がありますの。
「……さあ、謎を解こうじゃないか」
もちろん、『○子さんの足下には■体が埋まっている』だ。
女体化しないと使えないネタだから、長らく温存してました。それと、もちろん「アニメ版」です。
ゴム手袋は無いけれど……推理のキーになる「骨」は無いけれど……俺は、両手の指先だけを合わせる「○子さんの謎解きポーズ」をとりながら、じっくりと黙考した。
「…………」
目を閉じて、あの「骨の群れ」を思い浮かべる。
ついでに……別アニメのOPの「赤く光る心臓の群れ」まで脳裏に浮かんだよ。
不意に、脳内に雷光が閃いた。
――そうか! そうだったのか……。
「……謎が……解けましたわ!」
今朝方、アルルミナ嬢から聞いた話を思い出した。
『扇子の如き賢者の掌の実』とか言う「サボテンの実」みたいなヤツを食べたせいだ。
『赤茶』の赤い色素と違って、そっちは人間の体内で消化・分解出来ないらしいのだ。それはカオリちゃんからの情報だ。
うん。「推理」でもなんでもねー。
聞いた話を、ただ思い出しただけだよ(笑)。
「「……そういうことでしたか」」
俺が説明すると、二人は安堵の表情を浮かべた。
イヤ、俺自身も本気でどーしようかとビビったよ。
そう言えば「海苔」って、日本人しか「消化」出来ないって聞いたことあるけど……外国の人が食べたら、●(固体)どーなるんだ……?
ガチャリ――
「……そうだったのか? ああ、焦った。腎臓やったのかと思った。血●(液体)かと思ったよ」
「あ、プリちゃん!」
個室から出て来たのは、血のような赤毛の、プリムローズさんだった。
てか、居たの? そして食べたの? あの実。
(思念伝達・接続――ヨハンナさん、ヨハンナさん、聞こえますか?)
カオリちゃんから『★伝心☆』の思念波だ。
一体どこから……?
(同じ『おトイレ』の個室です。わたし今、変装も何もしてなくて……そのまんまなんですけど……出ない方がいいですよね?)
ああ、うん。
いま傍にプリムローズさんがいるから、「プロペラ小僧ジンくん」に出て来られると、ややこしくなる。悪いけど、そのまま個室に閉じこもってて! ただし、俺たちの話だけは聞いてて!
(了解しました)
……まさか、カオリちゃんまで『おトイレ』にいたとはな……。
まるで『おトイレのハンナちゃん』みたいな過酷な任務を与えてしまったぜ……。
あ、そう言えば、カオリちゃん。君はどうだった? 赤かった?
(……)
教えてくれない。でも、この感じだと、違うようだな。
そう言えば、『とても寒い冬』の年には、その「前触れ」のように、空に『真っ赤な太陽』が現れるって話を聞いた事があるな。
ついさっき、俺たちの黄色い●(液体)が、赤色化しように。
そっちの「原因」は……なんなんだろう?
「「あ、私たちはこれで」」
ポタテちゃんもサレイシャ嬢も、さっさと行っちゃったよ。
二人とも、今回は、ただの「合唱要員」だったのか? コーラスさん?
「『とても寒い冬』について、ヨハンナさんに教えてあげてほしいの」
ミーヨが、プリムローズさんに頼み込んでる。
「プリマ・ハンナ様。『真っ赤な太陽』というのをご存知でしょうか?」
訊いてみた。
言っておくが、この期に及んで、筆頭侍女様のお名前を呼び間違えるようなヘマはしないぜ。
「ええ」
「その……『原因』をご存知で?」
「被ってるんだそうです」
……被る? 皮?
(………………)
うおおっ! な、なんだ、この背中が凍りつくような冷気は……?
イヤ、その……「羊の皮を被った狼」とか言うじゃないですか?
あと、「人間の皮を被った悪魔」とか「人間の皮を被った喰種」とか「警察のマスコットのホロスーツを被った捜査官」とか「戦闘機の外装を被ったドラゴン」とか……輸送機や早期警戒機もいたけれども。さらに言うと「警部の皮を被った泥棒」とか「バカモーン! そいつがル○ンだ!」とか。
(……ぷっ)
よし!
それはそれとして、
「『太陽』が、何を被って赤くなるんですの?」
「いまちょうど夜空には『真っ赤な薔薇』が出ているでしょう? その真上に『太陽』が重なる現象が『真っ赤な太陽』なんです」
訊いたら、わりと丁寧に教えてくれた。
元々の俺である「プロペラ小僧ジンくん」相手だと、スゴい雑なのにな。
「あれ? でも……夜空の『真っ赤な薔薇』と……太陽?」
おかしくね?
「あれは夏の星座ですから、今は夜空に見える。けれど、冬には昼の空に現れる」
ああ、惑星『この世界』の「公転」運動か……。
「まあ、普通はほとんど見えませんが、太陽が近づくと、うっすらと赤く見えるんです。位置がちょうど重なると、本当に真っ赤になるそうです。私も人づてに聞いた話で、直接見たことはありませんけどね」
「……そうなんですの」
なんだろう? 太陽の重力が、レンズみたいな働きをしてるの?
「……ぼそぼそ(♪真っ赤に、燃ーえるう)」
なんだろう? プリムローズさんが小声で歌ってる。昭和歌謡?
「それと、『麦わら帽子』の話……憶えてる?」
ミーヨがプリムローズさんに向かって言うと、
「……ぼそぼそ(ああ、懐かしなー。……母さん、あの麦わら帽子)」
プリムローズさんてば、ここではない、どこか遠くを見る表情だ。
「……ぼそぼそ(どこへ行ったんでしょうね?)」
知らんがな。また何か「昭和」の話か? 遠い目のままだよ。
でも、よく考えたら『ル○ン三世 カリ○ストロの城』も「昭和の御世」だよ。
今は……イヤ、待てよ。
年号が変わってるう!?
(『鬼○の刃』ですね?)
ハイ、そうです。
あの「イノシシの頭を被った隊士(?)」です。
「いや、なんの話?」
我に帰って、プリムローズさんが雑に言った。
てか、こっちは何の話だっけ?
「プリちゃんのお父さんたちが、『ボコ村』に居た頃の話」
「? 思い当たら……ああ、『この世界』と『わっか』の関係の話かな?」
「そう、それ!」
『この世界』と『わっか』? 『みなみのわっか』の事か。
言ったら、土星とそのリングみたいなものだろうし……。
ああ、『麦わら帽子』のカタチと……なんとなく似てるか。
「持ってくれば良かった。あの例え話が、いちばん分かりやすかったのに」
ミーヨが、ちょっと後悔してるようだ。
彼女は、俺が『この世界』で目覚めた麦畑の、背の高いオバケムギで編んだ手製の『麦わら帽子』を、何個か持ってるのだ。
でもな……某アニメで『麦わら帽子』って言ったら……思い出すのも、辛いアイテムだしな(泣)。
ちなみに、「アイテム」つっても、別アニメの4人組とは、完全に無関係だ。
でも、ついでに言うと、フ○ンダ好き。あの子のは、黒いベレー帽だっけ?
(ジンさんて、結局、○リなワケよ)
ちげーよ!
それはそれとして――
『麦わら帽子』と聞いて……ワケが解った。
それって、つまりは「日除け」。太陽光を遮るために、被るものだ。
フレン○も、スタングレネードの閃光を防ぐために、ベレー帽を使ってた。ピンク色の耳栓、自分の耳に突っ込んでた。手順逆か? そして、最終的には……(泣)。
(……でしたよね)
とにかく、つい先刻。
『南天の星見』で、ミーヨが指差した先にあったのは……俺が一度死んで生き返り、それをきっかけとして得た『前世の記憶』のせいで、『この世界』が『地球』とは別な異世界だと認識した、『地球』には無い「アレ」だった。
あの時、ミーヨの背後の青空に、うっすらと見えていた白い弧線。
『みなみのわっか』だ。
別な言い方もあるはずだけど、俺の中では「コレ」で定着してしまった。
『土星』の「輪」みたいに、この惑星をぐるっと囲んでるであろう「環」。
そして……今は夏だけど、惑星の公転によって、いずれこの『女王国』のある北半球にも……冬がやって来る。
それって、要因の大半は、惑星の「地軸の傾き」による「太陽との距離の差」が「気温の差」になってるワケだけれども……それを、あの『みなみのわっか』が遮って、地上にその「影」を落としちゃうんだろうな。
『地球』の「皆既日食」を宇宙から見ると、ハッキリと「月の丸い影」が地表に落ちているのが判るしな。
どういうメカニズムかはまだ正確には不明だけれど……12年に一度、『みなみのわっか』によって発生する「日食」が、『とても寒い冬』の「原因」なんだろう。
しかし……それって――宇宙空間の話だ。
『みなみのわっか』が、どの程度の規模で、この惑星を取り巻いているのかは不明だけれど……もしも、かつてあった「衛星」が砕けて、リング状に広がっているとしたら……?
『地球』と『月』の距離って、38万㎞だっけ?
『地球』だと、高度100㎞以上が「宇宙」だっけ?
『日本』の群馬県館林市から『南極』まで、何㎞あるんだ?
オーストラリアまでは、飛行機で行くのか? シンガポール経由で。
それはそれとして、どうやって行くんだよ、宇宙に?
あんなの……どうやって、動かせばいいんだよ?
……はーあ。
俺は途方に暮れた。
◇
「それで……『とても寒い冬』の『犯人』が『ヘルメスさん』とは……一体どういう意味なので?」
俺は、力なく訊ねた。
聞いたところで、結局、どーにもなんねーだろーなあ、と思いつつ。
「約400年前、『この世界』に疫病が大流行したそうなんです」
ああ、以前聞いたな、その話。
「その後、何故か12年周期で、何度も何度も、その『謎の疾病』がぶり返し続けるようになる」
「12年周期?」
「それを防ぐための『盾』として、『アアス』の衛星『ルナー』は、粉々に砕かれて、あの『わっか』になったそうなんです」
「『盾』?」
勇者? それとも、某組織の腕章の紋章?
イヤ、待って。
やっぱり、あったんだな、『この世界』にも『月』が。
てか、『月面銀貨』もあるし。『月の欠片』とか言うのも、聞いた事あるな。
「なんのための『盾』ですの?」
ジャッジメントですの? ……違うだろうな。
「『真っ赤な薔薇』です。アレは大昔には存在しなくて、約400年前の大爆発で誕生したそうなんです。当時は昼でも見えたそうですよ」
見た目は「真っ赤なガス状星雲」なんだよな。
超新星爆発とか、あるいは大きな恒星同士の衝突とか……その「痕跡」が、ああやって見えてるのか。
生命に有害な、ヤバい宇宙線とか素粒子が出てるんだろうな。ガンマ線とか。
「それで……『ルナー』を砕いたのが、今で言う『聖女』……当時はまだ『身の代の巫女』と呼ばれていた『神様にいちばん近い存在』が、我が身を捨てて祈った『最終祈願』の結果なんだそうですよ」
プリムローズさん自身、到底信じていなさそうな口調で、そう言った。
「……我が身を捨てる『最終祈願』?」
例の記憶を消す『暗黒邪法』の「発動句」には、必ず「我が生命を代償に奉げん!」て言葉を入れないとダメなんですけど? 何か関連ありそうで……恐いんですけど。
「それで、その『最終祈願』を行ったのが……」
「……おこなったのが?」
言いかけて、止めないでよ。
「ヨハンナさん」
「……(ぎくり)」
なんだろう?
プリムローズさんの方から話しかけられたよ。
「何でございますの?」
ちょっと警戒気味になってしまう。
「失礼ですけど……現在の段位は五段でしよね?」
そんな事を質問された。
イヤ、質問てよりも確認だ。明らかに知ってて聞いてる。
「ええ」
「実は『神殿』の『伝承庫』に入ろうとしたら断られましてね。なんでも『巫女見習い』五段以上じゃないと、入室禁止だそうで……」
自分が入りたいから、付き添えってコトか……。
「今から?」
「いや、ここは『一の小宮殿』ですし、今夜のところは無理でしょう。ですが、もし時間があれば近々に」
割と図々しいな、プリムローズさん。
でも、その手で『王宮』の『秘書庫』にも入ったらしいんだよな、この人。
「それによって、あたくしにどんな益が?」
「貴女だって知りたいでしょう? 『聖女』さまに取り憑いた『亡霊』の正体」
プリムローズさんは俺にだけ小声で言って、ニヤリと笑った。
「……ああ」
つまり、調べないとハッキリしないのか?
でも、その正体が、なんで『全知全能神神殿』で判明するんだろう?
もしかして、『ヘルメスさん(※偽名)』って……元々は、その『聖女』だったの?
そんで、我が身を捨てて、みんなを助けるための犠牲になって、一度は死んじゃったの?
なら……わりと「いい人」やん。
それなら、『犯人』呼ばわりとか……可哀相だよ。
でもな、死んじゃって「転生」した後の行動が、色々と問題だったんだろうな。
ガチャリ――
「…………」
唐突に、無言で個室から出て来たのは……当代の『聖女』さまだった。
「「「……!?」」」
俺たち、めっさ驚いたよ。
ずっと居たの? 俺たちの話……聞いてたのか?
だが、それならば……「数」が合う。
貴女も実は……お○っこが赤かったんですね(笑)?
◆
後日、書き足すかも? ――まる。




