137◆いろいろと処理する回
「ヨハンナさん! 大変です!」
駆け込んで来た人がいた。『巫女見習い』ポタテちゃんだ。
「どしたの?」
「アルルミナさんの『全知神の三角』が、洗ったら縮んだとかで……そのー、ハミ出ちゃってるんです!」
また、ハ○毛かよ(笑)!
てか、誰だって?
「アルルミナさん、とは?」
「同じ『選挙』に出る人のお名前くらい、覚えておいてください」
ポタテちゃんに叱られた。
「無理だよ。聞いてないもん」
◇
案内されたのは『巫女見習い』たちの第1控室だった。
ちなみに、さっきカオリちゃんと話してたのは第3控室だ。
「ぐるぐる、の、おねさ」
「あ、来た来た! ジ……ジョアンナさん!!」
「あたくしの名はヨハンナですわ。シンシア様の『黒幕』さんたち」
俺は飲み物じゃないです。ミーヨさん。
あとセシリア、変な風に呼ぶな。泣くぞ。
「ヨハンナさん、お待ちしてました! 先刻の『神聖術法』をアルルミナさんにも。お願いします」
シンシアさんだ。
『選挙』を戦うライバル同士なのに、エラい親身だ。さすがは『俺の聖女』。
「先刻の『神聖術法』とは?」
「クリムソルダさんから聞きおよんでいます。ヨハンナさんが『お腹』に口づけしたら……あのー、その……下の部分が、あっという間にツルッツルになったとか」
少し明快さに欠ける調子で、そう言われた。
「クリムソルダさんから聞いた?」
「はい。それとアナベルさんと、ポタテさんからも」
……それって、「口止め」に完全に失敗したって事やん。
まったくもーもー。
クリムソルダ嬢の『黒幕』のベコジッタ婆ちゃんが、いつだったか『女王国』の「諺」らしい「女子の口に鍵はかけられん」とか言ってたけれど……まさにこういう事だな。
「そして……『お腹』?」
「ええ。クリムソルダさんはそう言ってましたよ。違うんですか?」
「…………」
あの時、俺は彼女の「いちばん大事なところ(笑)」を狙って,顔面からダイヴした……ハズだったのに、実際には『お腹』だったのか?
俺って、『錬成』の時には「目を閉じてイメージする」のが完全にクセになっちゃってるから……目を閉じたブラインド状態で飛び込んだのは間違いないけど……結果、接触する部位を間違えてたのか?
てことは何?
相手の体に唇を当てさえすれば、部位はどこでもいいのか?
俺の『体外口内錬成』って、そんなに雑なものなのか?
道理で、『戒律』とかにやかましい『巫女見習い』たちが、特に何も言わなかったわけだ。
……なんか、ほっとしたような(20%)、がっかりしたような(80%)。
実を言うと、アナベル嬢とポタテちゃんには、「手の甲」にキスをした。
それでも、あっさりと成功してたからな……。
ただ、「対象となる部位は、隠さず露出しておく必要がある」と説得して、パンツは脱いでもらったけれども(笑)。
「それで、その方はどちらに?」
「こちらです」
シンシアさんが、部屋を区切っていた遮光幕のあいだに潜り込む。
俺は気持ちを切り替え、『光眼』も「受光」「カメラ機能」に切り替えながら、カーテンの隙間に入る。
そこには数人の人間がいたけれど、一人だけ水着姿なので、すぐ分かった。
真っ白い『全知神の三角』と、白いヴェールの組み合わせが、ナニかする直前の「新婚の花嫁さん」というか……ブライダルもの(?)のAVみたいだ。追加で、白いストッキングとガーターベルト希望(笑)。
「アル・ルミナさん?」
「はい」
「アルル・ミナさん?」
「はい。そうですってば」
イヤ、どっちなんだよ?
この子、プリムローズさんみたいな赤毛だ。
水着も肌も白いので、「ファイヤーボール」と言うか「セルフバーニング」してる部分(笑)が、かなり目立つ。
(……お嬢様。よろしいので?)
(……この者……信ずるに足りましょうか?)
(わたし見ておりましたが……ほぼ全裸でグルグルと)
彼女の、お付きの『黒幕』たちから、そんな囁きが起きる。
この様子だと……この子、どっかの「お嬢様」らしいな。
あと、ジャイアントスイングの事は、お願いだから、さっさと忘れて。
◇
とりあえず、その子以外は退出してもらって、二人きりになる。
ロクに話した事は無いし、初対面に近いくらいだけど……やるしかないか。
「これより、あたくしは、『ご光臨』の際に『全知神』様から伝授された『神聖術法』の秘奥義『パイ・パーン』を、貴女に施します……(ぷるぷる)」
なんか「パイ・パーン」って音の響きが「ちちびんた」みたいだと思ってしまったら、噴き出しそうになる(笑)。
ちなみに『ハイス○アガール』によると、かなり昔のシューティングゲームに、「ち○びんたりか」って敵キャラがいたらしいよ。何故かカオリちゃんも知ってたけど、「サンバダンサー」みたいなキャラらしいよ。
それはそれとして――
「そ、そうですってね……(ぷるぷる)」
彼女も小刻みに震えてる。怯えられてる……のか?
「そのためには、貴女の身体の一部に、口づけしなくてはなりませんの」
「そ、そうなんですってね」
ある程度、説明は受けていたらしい。
でも、怖がってるしな。いちばん「無難なところ」にしとこっと。
「――お手を拝借できます?」
「手ですって? お腹ではなくって?」
ちょっと、がっかりしてない?
「ええ、手です」
てか、手で失敗したら、「患部」に直接ぶちゅっ、といきますけどね。
「……どうぞ。お好きになすって」
「失礼」
俺は彼女の手を取り、その甲にキスをする。
なんか騎士が貴婦人にするような仕草だ。ちょっと照れくさい。
(体外口内錬成・パイ○ン化)
し――ん。
あ、失敗した。
あ、原因判明。
「アルルミナさん。下をズラしてくださいな」
「……はい」
素直に脱いでくれました。同性同士っていいな。
……って、うぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおっ!!
なんだよ、お嬢様!
お嬢様のクセに、そこは「お手入れ」してねーのかよ? と一瞬思ったけど……綺麗にお手入れしてあったよ。
赤いハート形に(笑)。
ハートのクイーンか?
イヤ、エースだな。見事な職人技だ。
コレが、これで見納め、撮り納め。無くなると思うと心が痛むな。一応、本人に確認しとこう。
「このハート。無くなりますけど、構いません?」
「ハート? ああ、オトメナスの事ね? 構わなくってよ」
久々登場の「オトメナス」は、切った断面がピンクのハート形をした『この世界』の野菜だ。手のひらサイズだ。
実そのものは可愛いけど、ヘタがもじゃもじゃしてて●毛みたいだ。
なので、必ずヘタを取り除いた状態で食卓に上る。
「それでは、改めまして」
(体外口内錬成・パイ○ン化)
チン!
ポジションは関係ないんだな。ホントに手でもいいのか……。
そして、なんか呆気ないほど、あっとゆー間だ。秒殺だ。瞬殺だ。
前に、一晩かけてシンシアさんに「レーザー脱毛」してあげた事があったけれど……それはそれで、凄く「良い思い出」だから、いいか(笑)。
しかし、またまた出来てしまったな。
見ると、またまた追加効果の「美肌」が発動してるし、ホントに、ツルッツルのスベッスベだ。
俺って、他人の身体にまで干渉を加えて、任意の部位を、ある程度好きなように「改変」出来る……ようだな。
それなりの恐怖と、罪の意識を感じてしまうな。「悪用」しちゃイカンな、コレ。
でも、やってる事は「ムダ毛処理」だしな(笑)。
実は『この世界』にも、『魔法』の美容師「マジカル・エステシャン」みたいなのがいて、その手のエステサロンみたいなお店もあるらしいって話だ。
相手の、健康と美容のために、自身の『守護の星(極小サイズ)』を操って相手の身体に送り込むらしい……って、どことなく『癒し手』と似てるな。
俺って『★不可侵の被膜☆』が無ければ、『癒し手』の「白い光」も発動出来るのかもしれない。
「…………」
……にしても、大人しい。
リアクションが無いので見てみると、アルルミナ嬢は、ずーっと目を閉じていたようだった。
「終わりましたよ」
「え? なんですって? ……まあ! ツルッツル!!」
リアクション大きいよ。カーテンの外まで聞こえたらしいよ。
「ホントに? でしたら、私も」
この子も『巫女選挙』に出る子だな
「「「「「でしたら、私も!」」」」」
またまた『巫女見習い』でもない連中まで、そんな事を言い出したよ。
ま、いいよ。
何人だろうと、カモン・エブリバディー!
そう言えば……某ゲームの新作は、どうなったんだろ?
◇
調子に乗って、来る人拒まずに何人も何人もしてあげた。
その結果、シンシアさんの『黒幕(大)』の人から、本気で怒られた(泣)。
別に「悪いコト」じゃあないのに……。
また、そのあと俺は、『神官女長』らと交渉し、カオリちゃんの「グレイゾーン問題」も解決した。
それはあとで「回想」するとして、諸々の問題を次々と処理した結果――
「ヨハンナさん! 大変です!」
「どしたの?」
「『乙女の道』にウ○コです! 何者かの妨害工作ではないでしょうか?」
「ヨハンナさん! 大変です!」
「どしたの?」
「『乙女の道』で昨夜一晩中、猫たちがケンカしてたそうなんです。何者かの妨害工作ではないでしょうか?」
「ヨハンナさん! 大変です!」
「どしたの?」
「『乙女の道』に動物の毛が散乱してるんですって! 何者かの妨害工作ではないでしょうか?」
「ヨハンナさん! 大変です!」
「どしたの?」
「『乙女の道』に猫がたくさん居るんです! 何者かの妨害工作ではないでしょうか?」
――何故かトラブルが全部、俺んとこに持ち込まれるようになったよ。
「うん、それね。『乙女の道』が、フツーに『猫の集会場』になっちゃってるんじゃあないの?」
俺が言うと、
「「「「……そうでしょうか?」」」」
みんな、どことなく不安気だ。
昨日、『乙女の道』で『オタシミブクロ』による転倒事故(事件かな?)があったせいだろう。色々とナーヴァスになってるらしい。
ある筋からの情報によると、妨害工作を仕掛けて来そうな第一王女殿下は、昨日の転倒事件直後に、滞在中だったここから『王宮』の『おっぱい宮殿』に移動したらしい。
そんで、今夜行われる独身の男女が集まる『お見合い会』の準備に専念してるハズだ。
そもそもが先日の晩餐会の時の『軍団鳥』来襲事件後――『王宮』の広範囲にばら撒かれた『軍団鳥』の亡骸がめっちゃ臭かったらしくて、急遽『一の小宮殿』に移り、一時的に滞在していただけらしいのだ。
とすると、俺にも責任の一端が……イヤ、俺は悪くない。
とにかく、もうあの人は『一の小宮殿』には居ないんだから、大丈夫なんじゃね? って気がする。
それに、俺は『オタシミブクロ』を落とすところを見てたけれど……その場の思い付きで、イタズラ半分に行ったようにしか見えなかった。
プリムローズさんに言わせると、あの人は「瞬間湯沸かし器」的な短絡思考の持ち主だそうだ。
俺も直接面識あるけれど、誰か人を使って妨害工作を続けるような、そんな細かい計画性は持ち合わせていない気がする。
どっちにしろ、やった事はNGなんだけれども。
そう言えば、新しく『愛し人』を見繕うために行う『お見合い会』のハズなのに、その前日に、第一王女殿下は『オタノシミブクロ』なんてエログッズ使って、ナニやってたんだろ?
……ま、深く考えないようにしようっと。
「あたくし、行って確かめてまいりますわ!」
誰かに「安全だから大丈夫」と言って欲しいのかも知れない。
それで、みんなの不安が払拭出来るのならば……てゆーか、俺は昨日『巫女見習い』になったばっかりだから、みんなみたいに『前日稽古』してないので、ちょうどいい。
「「「「「……でしたら、私も」」」」」
また、それかよ?
でも、実は『お披露目会』まで時間あるから、意外とみんなヒマなんだよな。
◇
『乙女の道』とは、東西にやたらと長――い『一の小宮殿』前の、長――い屋根付き「馬車乗り場」の「屋根の上」の事であって、どっかのロードとは無関係だ。
そこでは、『巫女選挙』初日の重要イベント『お披露目会』が行われる。
屋根の上が、ファッションショーのランウェイ兼ステージのように利用されるのだ。
客席は、野球場が2個は入りそうな広い広場――通称『三角広場』だ。
その名の通り、カタチは「▽」だ。
トップスタンドなので、「△」じゃあないのだ。
でも、三角と言いつつ、実は南端に「船の銅像」が設置されているので、先端部が欠けていて「台形」だ。女性用のパンツみたいなカタチだ(笑)。
ちなみに、『お披露目会』を観るためには、「入場料」代わりに、日本円で約6千円する選挙の投票券『銀の円盤・大人券』を買わされるらしい。……やれやれ。
◇
みんなで、『乙女の道』と出入り可能な第2控室に向かう途中――
「お昼のぉ」
『巫女見習い』クリムソルダ嬢がそう言った直後。
リン、ゴ――ン。リン、ゴ――ン。リン、ゴ――ン。
どこかで、鐘の音が鳴った。
「……三打点ですう」
のんびりとした口調だったので、間に合わなかったらしい。鳴り終わってから言った。
「昼の三打点」は『地球』の感覚で言うと「午後3時半」くらいかな?
職場によっては、「おやつ休憩」みたいな事をしてるところもあるそうだけど……残念ながら『神殿』の関係者には、そんなのは無い。
『お披露目会』まで、あと二打点(約3時間)だ。
二段以上の『巫女見習い』は、肌身離さず身に付けている『神授の真珠』の「時計機能」で、正確な時間を把握出来るのだ。
「ヨハンナさん」
あ、カオリちゃんだ。
俺が通るのを、待っててくれたらしい。
交渉の結果、俺の『黒幕』として活動する事にはOKが出たけれども……女子だけの部屋に出入りする事を、自粛していたらしい。別にいいのに。
「……コレを」
何やら怪しげな黒い布袋を手渡された。
紐を解いてみると、常時装備可能なように「ペンダントネックレス」に加工に出していた、俺専用の『神授の真珠』だった。
ただ残念な事に……俺のは、ちょっと黒ずんでる。
イヤ、『神授の真珠』がだよ?
袋から取り出して、手のひらに乗せて、そのままカオリちゃんと握手する。
二人の手の間に、ゴリっとした硬い感触がある。
「? また『★迷子探し☆』とかですか?」
「祈願! ★伝心っ☆」
虹色のキラキラ星が舞い飛ぶ。
よし、発動成功だ。
これで、「双方向の思念伝達」が可能になるハズだ。
『★伝心☆』は、一名『神殿通信』とも呼ばれる超長距離通信用の『神聖術法』だ。
と言いつつ、その実態は『魔法』と同じらしいから、まるで某魔法少女みたいな、テレパシーでの会話が可能になるのだ。
ところで、アレって「キュゥ○え」がいないと出来ないんだっけ?
ネタバレ成分が多く含まれるから、あんまり追求しない方がいいか。
とにかく、『巫女見習い』と、そのお手伝い役の『黒幕』は、コレで細かい意思の疎通を行っている――と他の子たちから教わったのだ。
(どう? カオリちゃん)
(んんっ? これが『神授の真珠』による『★伝心☆』ですか? 凄い……違和感があります……なんか、すごく煩わしいですね)
はて? ホノカとは、やんなかったのか?
『魂の双子』同士には、必要が無いのか?
(これ、お互い任意に、ON/OFFが出来るハズなんだけど?)
(じゃあ、切っておきますね。思念伝達・遮断――――)
……回線切られた。
意思の疎通が……。
ま、いいか。
なんかあったら、呼びかけようっと。
気を取り直して、俺……イヤ、『巫女見習い』ヨハンナ専用として「識別」と「登録」を終えた『神授の真珠』ペンダントバージョンを首からかけて、「玉」を胸元に落とし込む……って長ーよ、紐。「玉」が、ちょうどおへその上だったよ。後で調節しないとな。
◇
第2控室は、本来は『王宮』や『女王国』のお役所からの「公布」やら「広報」に使用される「バルコニー状の演壇」へ出るための部屋だ。
その「演壇」は、帆船の船首みたいに尖っていた。
ここに立った「伝令官」が『拡声魔法』を使って、大事なお知らせを発表するそうな。
なので、それは、東西に長――い『一の小宮殿』のほぼ真ん中辺にある。日当たり抜群だ。洗濯物干すのにちょうどいい感じだ。
そんで、その下は宮殿の「正門」のハズだ。その屋根を兼ねてるのだ。
前にプリムローズさんから聞いた話では、古代ローマにも似たような施設があって、「ロストラ(船の船首)」とか呼ばれてたらしい。たしかロシアのサンクトペテルブルクに不思議な形の燈台があって、それも「ロストラ」だった気がする。
「ここ、正式には『南天の星見』って言うんですって」
俺が某部位をツルッツルにしてあげたアルルミナ嬢が、うっとりと言った。
物干し場みたいな場所なのに、なんかロマンチックな名前がついてるらしい。
その手すりの一部を開けて、板を渡してスロープにすると、馬車乗り場の屋根の上……じゃなくて『乙女の道』に、出られるようになってる。色々便利だろうけれど、防犯大丈夫なの? って訊きたくなる。侵入者を阻止する『魔法』も色々あるようだけど。
で、『乙女の道』は、とっても不思議な、青白い異空間になっていた。
そこには、白くて長――い「遮光幕」が張られていたのだ。
開始までのあいだ、設営準備中の部分を隠しとくためのものらしい。
そんで、最後には、このデッカい布で、下の「馬車乗り場」の部分を、テーブルクロスみたいにして覆ってしまうらしい。
「ホラ、ヨハンナちゃん! こっちこっち!」
『巫女見習い』アナベル嬢が呼んでる。デカい声だ。
「あ、お静かに。音が跳ね返って、会場側に漏れるそうです」
シンシアさんの『黒幕』の大きい方の人が、黒いヴェールの口元に、小指を立てながら言った。
てか、その正体はミーヨ・デ・オ・デコ嬢だ。
それと、『この世界』では「し――っ」のハンドシグナルが小指なのだ。
シチュによっては、「彼女?」って訊かれてるみたいなのだ。
ところで、音が跳ね返る?
……ふと、宮殿の壁面を見ると、そっちも巨大な白い布で、いちめん覆われていた。
青白い、そそり立った「壁」に両側から挟まれてるので、日本の春先の豪雪地帯の山間道路の「雪の壁」みたいな感じだ。
「みなさん、足元にご注意を」
まだ名前を知らない子に言われた。
てか、全員の名前調べて覚えとかないとな。
忠告通り、足元に注意しつつ、スロープを下って、『乙女の道』の上に立つ。
昨日の朝方、他の『巫女見習い』の子たちが、ウォーキングの練習をしてたけど……俺は、この上に立つのは初めてだ。
つっても、『おっぱい宮殿』の「◎首」の上に立った時と比べると、なんの感動も起きないな……。別にどーでもいいわ。
(ところで、カオリちゃん。日本の『乙女○ード』には行った事ある?)
(――――)
……繋がってない。
淋しいです。ちなみに、俺は行った事ないです。
本来なら見えるはずの、広い『三角広場』の様子が、カーテンで隠されて見えないので、上手く空間を把握出来ないような、妙な違和感がある。
屋根の幅は広い。4千なの(約4m)はある。
そして、なんとなく見覚えがある、灰色のタイルみたいなものが敷き詰めてある。
夏なのに、意外に涼しいな。タイルに湿り気があるようなので「打ち水」でもしてあるのかな?
「ああ、居るね。猫がいっぱい」
東西に長――い『一の小宮殿』の西側の端に、背の高い『星葉樹』が影を落としてる木陰があって、そこに猫たちがいた。灰色。茶色。白。黒。白黒。三毛。色々揃ってる。
もう、完全に「猫のたまり場」になってるな。
屋根の上に猫――って、なんかどっかで聞いた事がある気もするけど……なんだっけ? 小説のタイトル? プリムローズさんなら知ってそうだけど……今はラウラ姫と『王宮』のどっかにいるのかな?
夏の午後だし、猫はほっとけば涼しいとこを探して、そこに……って、真ん中にいる態度と図体のデカい茶色い猫に見覚えが――
「ねこちゃ!」
セシリアも「六本指の猫」茶トラ君に気付いたらしい。
「……」
その声で、茶トラ君はうっすらと目を開けた。
「みぃぁぁあ゛あ゛あ゛あ゛」
寝そべっていた茶トラ君が、横から見るとハイヒールみたいな姿勢になる猫独特の背伸びをしてから、偉そうな感じで近づいて来る。
懐かしいな、茶トラ君!
いつ以来だ? イヤ、色々とドタバタ多いから、遠い昔みたいに感じるけど、一昨日会ってるよ。たった一日ぶりだよ。
「みぃぃぁぁあああ゛あ゛あ゛」
でも、女体化した『巫女見習い』ヨハンナちゃんとしては初対面だよ?
なのに何? その馴れ馴れしさは?
男だった時には、大して懐いてない感じだったのに……めっちゃ擦り寄って、甘えて来てやがるぜ。
「なあぁぁあ゛あ゛あ゛」
Mの字模様の「ひたい」を俺の両足に、ぐりんぐりんと擦り付けて「俺んだ!」と言わんばかりにマーキングしてやがるぜ。可愛いやつよ。
「その猫。ヨハンナさんの猫なんですか?」
ポタテちゃんが、どことなく羨ましそうに言った。
「……いいえ、そーゆーわけではありませんわ」
何か動物的な嗅覚的な、野生的な勘的なヤツで、俺の正体を「プロペラ小僧ジン」だと見破ったのかな?
イヤ、見破ってたら、こんなに懐かない気がする。
てか、動物にめっちゃ好かれるとか……『巫女見習い』ヨハンナちゃんは「ヒロイン気質」なのか? 中身は俺だけど。
「この子。三角広場にふらりと現れて、ここの『総長猫』になったっていう茶色のトラ猫君でしょう?」
まだ名前を知らない『巫女見習い』の子だ。
『総長』……って、ちょっとアレだけど、「ボス猫」の事だろうな……いつの間に?
「昨夜、ここで一晩中猫のケンカ騒ぎがあって、『巫女選挙運営委員会』のみなさん方は睡眠不足なんですって」
夜中に「ボス猫決定戦」みたいなのやったのか? 近所迷惑な。
さっきミーヨも言ってたけど、「遮音」って『魔法』で行うのが難しいらしいのだ。
プリムローズさんは得意らしいけれど……彼女は『前世の記憶』で「音」の正体が「空気の振動」だと知ってるから、『創作魔法』として、上手いことイメージ出来るらしいし、何よりも本人が無秩序な騒音が大嫌いなので、本気で独自の「遮音魔法」を開発したそうな。
「すごい、騒がしかったんですって。私たち『神殿』泊まりで良かったわよね?」
俺個人は、『巫女選挙運営委員会』の委員長その他3人から、『巫女選挙』出馬を強要されて、寝不足だけどな。
「それにしても、こんなにたくさん毛が散乱しちゃって」
なお、この子の名前は知っている。
先刻、俺の秘奥義『パイ・パーン』で、某部位をツルッツルにしてあげた『巫女見習い』アルルミナ嬢だ。
彼女の「赤い心臓(※比喩的表現)」は、何に奉げられたんだろ?
「みぁぁぁあ゛あ゛あ゛」
「あー、よしよし、わかった。わかった」
茶トラ君の甘えっぷりがパない。
「こんなに懐いてるんですし、『お披露目会』が終わるまで何処かに行くように頼んでもらえませんか? ヨハンナさん」
ポタテちゃんが無茶を言う。
でも、ちょっと試してみよう。
俺はしゃがみ込んで、茶トラ君の前脚を握った。意外に肉球がひんやりしてる。
「祈願! 猫と ★伝心っ☆」
『巫女見習い』ヨハンナ(中身は俺)と茶トラ君との間に、虹色にキラキラ光る『守護の星』によるキズナが、確かに見えた。……でも、どうなんだ? 成功したのか?
(茶トラ君。茶トラ君。応答願います)
呼びかけてみた。
(&%♀+♂◎)
ナニソレ? 言わんとする事が、まるで判らない。
……猫との意思の疎通は不可能だったよ。
ま、フツーに人間みたいな思念が伝わってきたら怖いから、別にいいけど。
「ふみぎぁぁぁあ゛あ゛あ゛」
「ねこちゃ、こ、づく、り、がんば、てる、いてる」
何故か、茶トラ君の鳴き声を言葉として理解出来る猫耳奴隷のセシリアだ。
でも、俺は彼女の「ご主人様」なのに、今ひとつ言ってる事が理解不能だ。
ここには、彼女の言葉を「意訳」出来るヒサヤがいないしな。
あ、カオリちゃんも意訳できるハズだけど……?
(――――)
……回線は切れっぱなしだ。
「ここは邪魔だから、他のところに移動してくださいな」
言うだけは、言ってみた。
「なごぉぉぉお゛お゛お゛」
「ねこちゃ、おうせ、まま、に、いてる」
セシリアが言うけど……何?
逢瀬? ママに? イってる?
(猫ちゃんは『仰せのままに』と言ってるそうですよ)
カオリちゃんから、久しぶりに思念が届いた。
「んなぁぁぁあ゛あ゛あ゛」
嘘みたいな話だけれど……ホントにボス猫の茶トラ君が、その子分と情婦たち(?)を引き連れて、立ち去ってしまった。言ってみるもんだな。
◇
とりあえず猫たちの撤収作戦が完了したので、反対側に向かう。
「向こうに猫のウ○コが……」
この子も、まだ名前知らないな。
後でカオリちゃんに調査してもらおうっと。
「このまま放置しておくと、いくら『王都』とはいえ、ダイオウフンコロガシが飛来するかもしれないわ」
「うええっ! そ、それはイヤです。わたしが片づけます!」
シンシアさんの『黒幕』の人(大)だ。
ミーヨが大の苦手にしているらしいダイオウフンコロガシが飛んで来る可能性があるらしい。
俺、見た事ないから、逆に見たいけどな。
ミーヨが、勇敢にも「猫のウ○コ」に近づくと、意外な人がそれを止めた。
「あ! ダメですよ、猫の○ンには『トキソプラズマ』っていう病原性の微生物が居て、妊婦さんが触ったらダメなんです!」
カオリちゃんだ。
彼女が持つ『前世の記憶』から、危機意識が働いて、とっさにそんな事を言わせたんだろう。
「あ、病原性の微生物って言うのは、『この世界』で言うところの『目には見えない恐怖』のコトです」
カオリちゃんも、自分が転生した異世界について、色々と情報収集して、勉強しているらしい。
俺は『目には見えない恐怖』って初めて聞いたよ。
てか、俺の『光眼』の拡大鏡モードでなら、見れるかも……でも、そんなの別に見たくはないな。
「そうなんですか?」
ミーヨが立ち止まって、確認してる。
「ええ、ダメです。触れないでください」
でも……どうなんだろう?
『地球』由来の生物が『この世界』に「コピー&ペースト」された時に、そんな微生物や細菌のレベルまで「再現」されたのかな?
……イヤ、待って!
大事なトコを、スルーしそうになってるぞ。
――妊婦さん? 誰が?
「うー……でも猫のを片付ける『魔法』って何かある?」
ミーヨが?
誰の子供……って俺のだな。めっちゃ身に覚えあるし(笑)。
てか、よりにもよって俺が「女体化」してる最中に、そんな事を知ってしまっても……。
……どないせーちゅーねーん。
「それならー、いーほーほーがー、祈願! ★密封ぅ☆」
クリムソルダ嬢が言うと「良い方法」が、謎の言葉に聞こえる。
彼女は動物専門の『癒し手』だから、いつもこんな風に始末してんのかな? 犬の散歩ん時便利そう。
「ヨハンナちゃん、準備出来たよ! これなら手で持てるわよ!」
アナベル嬢が無邪気に言う。
悪意も悪気もないようだけど、彼女は俺をからかうのが好きみたいだ。別にいいけど。
「……見た目がそのまんまですのね?」
『魔法』の被膜で包まれてる、って言っても……ほぼほぼ透明だし。
「あー、ヨハンナさーん。あんまりぃ、強くー、握るとー、ぴゅっっ、って出ちゃいますからぁ」
クリムソルダ嬢が、無自覚にエロい事を言ってるし。
こっちも身に覚えがあるけど……俺いま女体化してるから……じゃなくて、モノがモノだけにエロくはないか。
「そーっとですう」
そう言えば「中身」が壊れるほどの衝撃や圧力を加えると『★密封☆』の『魔法』はハジケ飛ぶらしいんだよな。なので『★密封☆』するんなら硬い金属容器に入れてから『★密封☆』した方がいいらしいのだ。
ともかく、クリムソルダ嬢の忠告通りに、そーっと摘まんでみる。
「……(むにゅっ)」
まだ、あったかい。そして柔らかい。
猫のって水分が少なくて、硬いイメージがあるけど、「これ」をした子は、ちょっとお腹がゆるかったようだ。
微妙に半固体的な柔らかさがあって、それに合わせて『★密封☆』の被膜もうすうすだ。
男性用避妊具のいちばん極薄のヤツみたいな「オイオイこれで本当に大丈夫なのか?」的な頼りなさだ(笑)。
そう言えば、あの黄色い『オタノシミブクロ』は、元々避妊具だったらしいけど、『★密封☆』って避妊具代わりにならないのかな? その場合の「中身が壊れるほどの衝撃や圧力」ってどれくらいだろ? 想像するのも怖いな……。
(思念伝達・接続! ホノカから聞いたんですけど、『★密封☆』は対象全体を包み込む『魔法』ですから、生き物にはかけられないそうですよ)
カオリちゃんと繋がった。非物理的に。
てか、なんで俺が思ってた事が分かったんだ?
……まさか、ずーっとダダ洩れだったのか?
ON/OFF出来るのは、カオリちゃんからだけ?
(みたいです。距離を置くと伝わらないんですけどね……)
イヤそうな思念だ(泣)。
(ところで避妊具の話の後で、こんな事訊くのもアレだけど……ミーヨが妊婦ってホント?)
思念で質問してみると、
(わたしの思い込みかもしれませんから、直接本人に確認してみてください)
突き放された。
とりあえず……いま現在の問題に取り組もうっと。
「片付け終わりっ! すべて問題解決ですわ! 『乙女の道』が安全である事を、ここに宣言します!!」
「「「「「おおっ!」」」」」
見守っていたみんなから拍手と歓声があがった。
これで今夜の『お披露目会』も、つつがなく行えるだろう。みんな女の子だし。
めでたしめでたし。
「……で、これをどうしましょう?」
俺は『★密封☆』された「猫のウ○コ」を手にしたまま、みんなに訊いてみた。
ノープランだったのだ。
「「「「「…………」」」」」
みんなもノープランだった。
どうすんだよ? この「ウ○コ爆弾」。
これを手に、みんなを追いかけ回して、キャーキャー言いながら逃げ惑う姿を楽しむ……なんて事はしないよ?
「いちばん近い『おトイレ』ってドコ?」
この状態で転んだりしたら、大惨事だな。
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文中、ちょっと不自然な点の謎は、次回判明――まる。




