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136◆グレイゾーン



「へー、ヨハンナちゃんて、あの『プロペラ小僧』君の幼馴染だったんだ?」


 『巫女見習い』アナベル嬢だ。

 そして、「幼馴染」と言うキーワードで、何かを思い出したらしくて――


「……そう言えば、私の幼馴染が『冶金の丘』にいるんだけどね」


 彼女、生まれたのは『冶金の丘』らしい。


「昨日、手紙が届いたんだけど。『プロペラ小僧』君ってば、その子が働いてる『服の仕立て屋』で、素っ裸になってプロペラ踊りしたらしいよ! バカだねー。あははははは」


 アナベル嬢が、笑いながら、そんな事を言いやがったよ。


「「「「「……(半笑い)」」」」」


 彼のご友人の方々が、無言で苦笑していらっしゃるわ(泣)。


 あん時は俺一人だったから、いつものメンバーには見られてなかったのに……こんな形で知られてしまうなんて……。

 たしかにあの店には、俺たちと同い年くらいの「お針子の見習い」みたいな地味で可愛い子がいたけれど……多分その子だろうな。いいけどさ、別に……。


「そろそろ『神殿』に戻りませんか? 昼食もまだですし」


 その時の事情を、まったく知らないポタテちゃんだ。


「ですよね」

「あい」


 ある程度知ってるドロレスちゃんと、全然知らないセシリアも同意する。


「いえ、『昼の二打点』まで『(いち)の小宮殿』にある『巫女選挙運営本部』に集合ですから、『神殿』に戻っていたら、間に合わないと思います」


 シンシアさんだ。

 きちんと、スケジュールを把握している感じだ。


「「「「「「……」」」」」


 みんな考え込んでる。何人かは、そのフリっぽいけど。


 ここから目的地に行くには、道幅10万なの(約100m)以上ある『永遠の道』を越えないといけないので、陸路はややこしいのだ。歩道橋も歩行者用のトンネルもないし。


「だったら、飛ぶ?」

 訊いてみた。


「『協調飛行魔法』ですか?」


 シンシアさんに、そう訊き返された。


 『シ○ニアの騎士』の『掌位(しょうい)』みたいに、輪になって、手を繋いで飛ぶのだ。

 いろいろと「昭和」なプリムローズさんに言わせると「べんとら・べんとら・すぺーすぴーぷる」だそうだ。まったく意味不明だ。


「ぶっつけで? アレって何度か練習すんのよ?」

 アナベル嬢が驚いてる。


「そうだよ。真っ平らなところじゃないと『着地』出来ないんだよ。死んじゃうよ?」


 黒ずくめの『黒幕』姿で、完全に「若い未亡人」にしか見えないミーヨが言うので、不穏当過ぎる。そして、その口調は「ジンくん」に対する時のものだから、もちょっと気をつけろ。


「そうじゃなくて、これ」


 俺は空を指差した。


 ちょうど、そのタイミングで『太陽(ソル)』の光が(さえぎ)られた。


 ひんやりと、涼しい。


 見上げると――


「「「「「……空の浮き船?」」」」」


 そんな呟きが、みんなの口から零れた。


 そう、この飛行船の手配のために、カオリちゃんはいなかったのだ。


「涼しいねー」

 ミーヨが呟く。


 そう、夏の陽射しが(かげ)り、とても涼しい。


 ……って、あれ?

 太陽光を遮られると……気温が低下する?


 当たり前の事と言えば、当たり前の事だけど……。


「『とても寒い冬』の原因って……」


 つい声に出して言うと、耳を丸出しのミーヨが聞いてたらしい。


「わたし、知ってるよ。知りたい?」


 また、そんな事を言われた。


「……(こくん)」

 俺は頷いた。


「実はヨハンナさんが、『神官女長』さまにジンくんのおち……ちがくて、プロペラ星みたいにグルグル振り回されてる時に、思い出したんだけど……」

「…………」


 何を「(キー)」に思い出しとんねん。

 『巫女見習い』ヨハンナ(中身は俺)のジャイアントスイングは、そんなにまでインパクトがあったのか? てか、色々と丸出しだったからな。


「ヨハンナちゃーん! 縄梯子が降りてきたよー」

 アナベル嬢に呼ばれた。


「また、あとでね」

 ミーヨが言う。


 飛行船のゴンドラに乗り込むための、縄梯子に邪魔されたよ。


 でもまあ、他のみんなが揃ってる時に聞かせてもらえば……それでいっか。


 それはそれとして、好機到来だ。


 ホノカオの二人が飛行船の船内(というかゴンドラだ)に居るため、今回は「縄梯子」を上る時に「黒いモヤモヤ」は無いに違いない。


 視界は、すっきり、晴れ晴れだ。


 実は先日(※『白百合の小宮殿』での事)、『全知神』さまから頂いたお言葉やクリムソルダ嬢が使ってた暗視魔法『★猫目☆』をヒントに、密かに開発しておいた『光眼(コウガン)』の新機能がある。

 

 その名も、「高感度カメラ機能」だ。

 ……そのまんまだな。


 とにかく、これによって光学的な画像補正が可能になったのだ。

 暗い場所や、明る過ぎる場所での、ラッキースケベ・イベントにも対応可能になったのだ。


 さらに、「動画」も可能な新機能も追加してあるので、ラッキースケベに限って言えば、俺はもう無敵だ(笑)。


 俺TUEEEEEEEEなのだ(※バカです)。


 決意を込めて、グッ、と握っていた右手を握られた。……誰?


「祈願! ★見えちゃイケナイところがぜんぜん見えなくなる黒いモヤモヤっ☆」


 ……ミーヨさん? 何故、その『魔法』をご存知なので?


「ヨハンナさん、下着買うの忘れてたでしょう? 誰かに見られるといけないし」


 ミーヨが、そんな事を言う。

 そう言えば、俺いま女体化してて、なおかつノーパンなのを忘れてたよ。


 俺自身が、誰かにラッキースケベられる可能性があったのか? ……イヤン。


      ◇


「ありがとう。ホノカさん。カオリさん。ホントにありがとう。ありがとう」

「なんもさ」

「……? はい?」


 俺に感謝されて、単純なホノカは照れくさそうだったけど、カオリちゃんが不審者を見る目だ。


 でも、本当に助かったのだ。

 昼食を食べるのは無理だと思ってたのに、気を利かせたくれたホノカオの二人が、『三角広場』の屋台で売ってるような軽食を色々用意してくれていたのだ。


 みんなして、それを急いで詰め込んでる。


「……ぼそぼそ(角食(かくしょく)は久しぶりだべさ)」


 ホノカが食べながら、何か呟いてる。

 てか、カクショクって何だ? 触角?


「四角い食パンの事です。北海道ではそう呼ぶ人が多いんです」

 カオリちゃんだ。


「……へー、食パンあるんだ。『王都』には」


 呼び名よりも、そっちに驚いたよ。


 『冶金の丘』では有りそうで無かったんだよな。スウさんも作ってなかったし。

 でも、『三角広場』にちなんでるのか対角線で切断されてて、サンドイッチみたいだ……てか完全にサンドイッチだ。先日、体の前後に広告板付けた「サンドイッチマン」見かけたっけ。


「ちょっと、いいべか?」


 ホノカだ。なんだろう?


「……ハイ? なんでしょう?」

「実は、ジンカン……じゃなくてヨハンナちゃんが、『神官女長』のおばちゃんから、電動回転魚干し機のスルメみたくグルグル振り回されてる時に、思い出した事があるのだべさ」


「…………」

 こいつまで……何を「(キー)」に思い出しとんねん。


「何かお話があるのならば、今夜、ご一緒に、お風呂で……どうでしょう?」

 言ってみた。

「わかったべさ」

 ホノカは即座に快諾した。


 ……いいんだ?


 なら、他の子たちも誘ってみようっと。

 ちょうど、クリムソルダ嬢がこっち見てるし。


「クリムソルダさんも、是非是非ご一緒に! お風呂に!!」


 包み隠さず、ぶっちゃけて言うけど、メロンおっぱい見たいし!!

 上下あるのに、またまた「下」を先に見ちゃったし! 上も見たいし!!


「ヨハンナさーん。今夜はぁ、『誓いの夜』ですう。なのでー、ダーメーですう」


 クリムソルダ嬢は、そう言って、自身のお胸くらいある大きな丸パンにかぶりついた。


「……『誓いの夜』?」


 ナニソレ? どんなイベント?


「……(じーっ)」

 女装してるけど、「俺のコピー体」で、肉体的には「男の子」のカオリちゃんが、胸を見られないように両手でガードしながら、俺を睨んでた。


 そう言えば、『袋専門店』で『ニセパイ袋』買っといたから、後で渡そうっと。

 『五の姫』ちゃん(中身はピパ君)みたいに、落とさないように気をつけてね。


      ◇


「……いよいよですね」


 少し緊張した声で、シンシアさんが言う。


「そうですわね」


 俺も同意する。

 飛行船から見下ろすと、『北の街区』の『三角広場』では、『巫女選挙』初日の大型イベント『お披露目会』のための、会場設営の準備が進んでいたのだ。


 他のみんなも、否応なしに緊張感が高まって来てるようだ。

 俺はどうせ、『選挙』の「人数合わせ」のダミー立候補者だから……別にいいけど。


 『巫女選挙』の宣伝のために『王都』上空を巡回飛行中だった飛行船は、前回と違って、かなりの速度で『三角広場』の北辺を占める、東西に物凄く長――い建築物『(いち)の小宮殿』に到着した。


 そこで、またまた「縄梯子」で、傾斜の緩い屋根に降り立つ。

 もちろん、俺がいちばん最初に、だ。


「……ヨハンナさん。見えてましたよ」

 恥ずかしそうに、そう言われた。


 下で「縄梯子」を固定していてくれたのは、『巫女見習い』ポタテちゃんの『黒幕(『巫女選挙』のお手伝い)』と化している元・秘密諜報部員『おトイレのハンナちゃん』改め『ぴょん子ちゃん』改めハンナちゃんだ。改名の意味ねーな、この紹介。


「ごめんあそばせ。眼福でございましたでしょう?」

「いえいえ、プロペラ小僧様の股間ならともかく、女性の(モゴモゴ)」

「お土産ですわ」


 俺は飛行船の中で食べてたパンツ……イヤ、俺は『て○きゅう』の「まりも」じゃない。流石にパンツは食べない。パンをふたつ、彼女の口に突っ込んだ。オヤツ用にローブのポケットに入れといたのだ。


「「祈願! ★見えちゃイケナイところがぜんぜん見えなくなる黒いモヤモヤっ☆」」


 上の方から、ホノカオの声がした。

 いろいろと、察しの良いカオリちゃんの仕業かな?


 てか、俺が降りる前にやってよ!


      ◇


「これから、どんな段取りに?」

 訊いてみた。


 これから、『巫女選挙』初日の『お披露目会』なんだよ。実感ねー。


 そもそも、俺って応援する側のハズだったのに、女体化して『選挙』に出馬する羽目になるとは……人生って先行きの見えないものなのね? ああ……。


「すぐに『巫女選挙運営本部』に行きましょう。他の方々は、もう来ているはずです」

 シンシアさんが先導して、屋根に張り出した三角の「屋根窓(ドーマー)」から、建物の中に入る。


 屋根の上に出るための屋根窓なので、人が出入りし易いように、階段になってる。俺はみんなの安全を確認するため振り返って、時折見える「黒いモヤモヤ」に激しく落胆しつつ、全員を取りまとめてから、最後尾につく。


 てか、この建物内部にぜんぜん詳しくないので、みんなを追尾するしかないのだ。

 俺の目の前にいる黒いドレスのミーヨの腰の部分には、蝶結びにした黒いムチが装備されている。ちょっとドキドキだ。あのムチはどんな風に空気を切り裂き、誰に対して(ふる)われる事になるんだろう?


「遠いねー」


 アナベル嬢がダレたように言う。


 とにかく、長――い建物なので、廊下も長――いのだ。

 なんとなく、『前世の記憶』にある「学校」の廊下を歩いてるような気分になる。


 俺は、右目の『光眼(コウガン)』と元のまんまの左目との、左右の視力のバランスが悪くて、長い直線をまっすぐに歩くのが苦手だ。


 今回はみんなの後を追尾してるので平気だけど……一人きりで無意識に歩くと、必ずどっちかに曲がってしまうので、ちょっとずつ修正しながら歩く必要がある。

 先日、徹底的に魔改造した『光眼(コウガン)』だけど、その欠点だけはそのまま残ってる。


「失礼いたします」


 目的の部屋に着いたらしい。

 シンシアさんが、まるで「職員室」に入るような感じだ。


 ここ、女体化した初日にも来た事のある部屋だな。

 何故か長机だけで、椅子が一脚も置いて無い広間だ。


 ()れ立ての『赤茶(あかちゃ)』の酸っぱい香りがする。冷えてるヤツ飲みたいな。

 そう言えば、ここで紙と(つめ)ペンを「借りた」から、後で返しとかないとな。


「「「「「……(ざわざわ)」」」」」


 運営本部のスタッフらしい『神殿』関係者の男女が、数十人はいた。

 今日が本番初日なので、大幅に増員してるみたいだ。


 着てる服は黒と白と灰色だ。

 『神官女』は黒と焦げ茶を混ぜたようなローブに、長いレースを頭部の乗せたような白いヴェール『ハエ除け』(耳だけ露出してる)。


 男性の『神官』も似たような黒いローブだけど、ウェストの帯が白い。素顔剥き出しだ。頭頂部にちょこんと帽子を載せてる。何色かの色違いになってるようだけど興味ないので、役職とか階級とかの細かいとこはスルーだ。たしかお髭を長――く伸ばしてるのが高位の神官だったハズだ。でも、ここは居ない。下っ端ばっかりみたいだ。


 選挙に出馬する『巫女見習い』たちは真っ白だ。

 そのお手伝い役の『黒幕』さんたちは真っ黒だ。


 問題は、見た事のない灰色の人たちだ。はて?


 ああ、分かった。

 灰色のローブと『ハエ除け』をつけた人たちは、引退した『(さき)の巫女さま』たちらしい。『選挙』の運営側に回るって聞いてるし。

 『巫女』を経験している以上、『巫女見習い』の格好に戻るわけにもいかないし、「正式な結婚(『神殿』で挙式するらしい)」をした『神官女』でもないから、その中間的なグレイゾーンにいる灰色な装い……なのかな?


 この人たちって『乙女神官』とか言う役職名だったはずだけど……てっきり、某アニメの某キャラみたいなピンクのローブ着てるのかと思ってたのに……灰色なんだ。


 『巫女選挙運営委員会』委員長のロザリンダ嬢も灰色だ。

 特徴的な巨乳――左右に開き気味の「ロケットおっぱい」の持ち主なので、すぐ分かる。


 妹のクリムソルダ嬢を確認した後、俺と視線が合って、向こうから目礼された。

 ちょっと戸惑いつつ、返礼。変に思われるからヘンな気を回さないで欲しい。


 ま、ぶっちゃけ彼女の家の、かなりの額の借金を、「プロペラ小僧ジン」くんが肩代わりする事になっちゃってて『巫女見習い』ヨハンナ(中身は俺)は、その代理人的立場なのだ。


 室内には、見覚えのある『巫女見習い』3人が、それぞれに『黒幕』を従えて、緊張した様子で待機していた。


 ――これで立候補者が勢揃いか。


 『七人の巫女』を選ぶ『巫女選挙』の立候補者は8人。


 今年は例外的に少ないらしい。

 12年周期の『とても寒い冬』のせいだ。


 『巫女』に選ばれたとして、その先に待つのは真冬の『神授祭』での「全裸での祈願」なのだ。

 前回の『とても寒い冬』では、『巫女』を寒さから守って2人の『神官女(しんかんにょ)』が凍死したそうな。苛烈で過酷過ぎる。


 本来男である俺が『巫女』に選ばれるワケにも行かないので、ウラで投票数を操作してでも「落選」する予定だけれども、なんか罰当たりな気がして罪悪感も感じるので、その罪滅ぼし的な意味で、今年の『神授祭』では、みんなを寒さから守ってあげるつもりでいる。


 俺に、ちょっとしたアイディアがあるのだ。

 グレネードは使わないけれど……グレネードランチャーの二挺持ちは格好いいけれども。20発とかは絶対無理だけれども。


 ま、それはまだまだ先の話として――ここに同行した面々はともかく、あとの3人の『巫女見習い』たちは、すっぴんの素顔と丸出しだったパンツしか知らない。名前さえまだ知らないのだ。と言っても『巫女』や『巫女見習い』は、家名は名乗らないのが普通なので、出自については「なんとなく察する」しかないらしい。


 てか、その3人の『巫女見習い』の『黒幕』が、なんか必要以上に存在感がある気がしないでもない。

 全身、喪服みたいな黒ずくめだけど、どう見ても高価(たか)そうな布地の高級感がハンパないのだ。細かい刺繍がしてあったり、ところどころ夜空の星のような煌めきがある。日本のお葬式に出たら顰蹙(ひんしゅく)を買いそうな感じだ。


 身分の高い女性が、正体を隠して身内の応援をする場合があるそうなので、その手の人たちなのかもしれない。


 気付くと、いつの間にか、お買い物の同行を辞退していたクリムソルダ嬢の『黒幕』のベコちゃんもいた。

 そう言えば、アナベル嬢の『黒幕』はどうなったんだろ? いなくても構わないらしいけど、居た方が絶対に楽なハズだ。あ、でも俺の『黒幕』のカオリちゃんもいないな。はて?


「昼の二打点です」


 『巫女見習い』ポタテちゃんが、そう言った直後。



      リン、ゴ――ン。リン、ゴ――ン。



 どこかで、鐘の音が鳴った。


 昼の二打点は『地球』の感覚で言うと、「午後2時」くらいかな。

 『この世界』では、「昼の一打点」から始まる約90分間の「お昼休み」が終わる時間だ。


 ポタテちゃんは『神授の真珠』の「時計機能」で時間を感知したらしい。正確だ。

 俺もゲットしたけど、ぽろっと「玉」だけだったので、常時身に付けていられるように、ペンダントネックレスに加工に出してる。カオリちゃんはその件でいないのかな?


 お、『神官女長(しんかんにょちょう)』だ。


 裏でタイミングを計ってに違いない。

 ノックも挨拶もなしに、すーっと入室して来た。


 そして、いきなりこう言った。


「では、『巫女選挙』立候補手続きを開始」


 ん? 当日に? それって直前にやるもんなの?


      ◇


 ま、名簿に、ただ名前を書くだけだったよ。


 俺が書き終えて、最後のハズだったのに……。


「……(ぺこり)」


 見慣れない『巫女見習い』が、もう一人いた。


 彼女は、さらさらと名簿に署名した。

 気になったので、それをチラ見する。


      「  ハンナ  」


 ヨハンナ(中身は俺)も含めると「六人目のハンナ」だ。

 怖い。なんか起きそう!


 てか、こんな子がいるなら、俺が『巫女選挙』に出馬する必要なかったじゃん!


「「「「「……(ざわざわ)」」」」」


 あれ?


 9人目の立候補者の登場が、よほど意外だったらしい。みんなざわついてるぞ。


「『巫女見習い』ハンナ。貴女は何故ゆえここに居るのです? 貴女は今日『巫女見習い』になったばかり、まだ『初段』の貴女に、立候補の資格はありませんよ?」


 『神官女長』が説明的に言った。


 なるほど、なんか一目見て違和感があったけど、『段位』を表す白いヴェール『虫蚋(むしぶよ)除け』が、一段折りだったからか。それって『巫女見習い(初段)』ってコトだもんな。そっかー。

 ……って、最初に「段位確認」とか、俺も染まって来てるな。ちょっとヤだな。


「ええっ? わ、私は先輩の方に『巫女選挙』の手伝いをしろ、と言いつけられて、ここに来ただけなのですが……」


 んん? この声……聞き覚えがある。

 話し方と声のトーンを変えてるけど「演技」だ。


 自慢じゃないけど、俺は声フェチだからな。

 ただ『前世』では似てる声の声優さんたちを、混同して間違えてた事が、何度も何度もあったから、ホントに自慢じゃないけれども……。


 それはそれとして、『巫女見習い』になる子は、あの「チン! チン!」鳴る『嘘発見器』みたいな『神聖術法』の前に、素性を(さら)け出さないといけないから、つまり「ハンナ」って本名なワケか……。


 ただ、どうして……。


「どうして、名簿に記名を?」


 『巫女選挙運営委員会』委員長のロザリンダ嬢に突っ込まれてる。


「な、なんとなく、何かの受付かと思いまして……違いましたか?」


 なにしろ、『巫女選挙』立候補者の受付だしな。名簿だもんな。

 今日『巫女見習い』になったばかりじゃ、何が何だか分からないだろうし、同情の余地はあると思うぞ?

 実は「彼女」は、ヨハンナ(中身は俺)の事を知ってるし、ついついその後ろに並んじゃったのか?


「いいでしょう。知らずにした事なら、(とが)めだてても仕方がない」


 『神官女長』が寛容に言った。そして何かを呟いた。


「……ぼそぼそ(本来なら『逆さ吊り』の刑ですが、今日はもう疲れました)」


 ああ、ありましたもんね。色々と……って、被害者は俺だよ!


 俺も昨日『巫女見習い』になったばっかりなの……に?

 そう言えば、俺って誰かと勘違いされて『巫女見習い』になったんだけど……一体誰と間違われてたんだろう? この子か?


「は、はい。申し訳ありませんでした。……それで、私は何をすれば?」


 新人『巫女見習い』ハンナ嬢が、オドオドしてる。

 オドと言っても、マナと対にみたいな関係にあるやつじゃない。じゃあ、なんなんだ? って訊かれれば、答えられんけど。


「そうですね……。誰か手頃な二段の『巫女見習い』は……」


 『神官女長』が、「教育係」を物色しているようだ。

 とりあえず、俺は関係ないか。


      ◇


「注意事項をひとつ」


 関係者が(そろ)ったので、なんか連絡事項があるそうです。


「例年ですと、『決意表明』があったわけですが、今年から廃止いたします。簡単な自己紹介のみとしてください」


 元『七人の巫女』で、『巫女選挙運営委員会』委員長のロザリンダ嬢だ。


 『お披露目会』の段取りがちょっと変わるらしいけれど……去年の『巫女選挙』なんて知らないしな。


 なーんて、実はコレって、俺がこっそり頼んでおいた件だ。

 上手く廃止の方向に持って行けたようだ。よしよし。


 『巫女見習い』になったばっかの俺に「決意表明」なんて無理だし、『俺の聖女』のシンシアさんに人前で「せくしーぽおず」とかやって欲しくないし、『暗黒邪法』による記憶消去のせいか言動が下品なクリムソルダ嬢が変な事口走るのも阻止出来るし……いいことずくめなのだ。一石三鳥なのだ。


「それは何故なんです?」


 そんな裏の事情を知らない今年の立候補者の一人が、質問してる。

 この子の名前、まだ知らないな。『新・パンツ四姉妹』のうちの一人だ。


「「「「「……」」」」」


 問われた『巫女選挙運営委員会』の面々に、困惑した空気が漂ってる。


「……それは……去年の『決意表明』で、『私に投票したら、おっぱい見せてあげる』と約束した愚かな『巫女見習い』がいたからです」

 ロザリンダ嬢が、渋い表情で言った。


「「「「「……」」」」」


 今度は、『巫女選挙』立候補者たちのあいだに、困惑した空気が漂う。


 この感じだと……去年、本当にそんな事があったらしいな。


「それはどなたですの?」


 今年の立候補者の一人……てか、俺は訊ねた。

 もちろん「おっぱい」と聞いて、黙っていられなくなったからだ。


「「「「「……」」」」」


 『巫女選挙運営本部』ほぼ全員の間に、困惑した空気が漂う。


「その方はどうなったんですの? 落選したんですの?」


 怖いもの知らずとは俺の事だな。空気なんて既読スルーだ。


「それは私です。約束した甲斐あって、『聖女』となれました」

 『聖女』さまだ。


 他の『七人の巫女』は「任期満了」で引退し、グレイの装いをしてるのに、『聖女』さまだけは、まだ白い祭服のままだ。


 そんで、この『聖女』さまは、「イタズラ好き」だって噂は聞いてるけれども……そんな事までやらかした上で、『聖女』になっちゃってるのか?


 パッと見は、ホントに「素敵なお姉様」なんだけどな。

 でも、『聖女』の選出方法からして『選挙』で選ばれた『七人の巫女』で「じゃんけん」して、勝った順に「くじびき」するという「ナニソレ?」なやり方らしいしな。ちょっと説明的だな。


「それで……その約束は、果たされましたの?」


 抑えきれない衝動に駆られて、訊いてみた。


「いいえ。殿方の前で故意に肌を(さら)したら、『戒律』に反しますもの」


 『聖女』さまが、堂々と言った。


「詐欺やん!」


 抑えきれない衝動に駆られて、突っ込んだよ。


「「「「「……」」」」」


 『巫女選挙運営本部』に居たほぼ全員が、いたたまれないような雰囲気に包まれた。


 俺の知る限り、似たような事例が過去にも二件。


 『この世界』の……イヤ、『女王国』の女性は、そんな事で男を操れると思って……るんだろうな。確実に。


 ふざけるな!

 被害者の気持ちを考えたことがあんのか(泣)?


 そこに一人の『神官女』が来て、『神官女長』に何事か耳打ちした。

 さすがに聞き取れない――と思ってたら、俺が呼ばれた。


「……『巫女見習い』ヨハンナ! こちらへ!」


 なんだろ? 新人ちゃんの教育係でもやらされるかな?

 近くまで行くと、グイっと肩を抱かれて引き寄せられ、耳元で言われた。


「貴女の『黒幕』が『灰色』と判定されました。別の人物を任命なさい」


 『黒幕』が「灰色」?

 カオリちゃんが? グレイゾーンって事?


 ああ……そっかー。

 肉体的には「男」だってバレちゃったのか……。


      ◇


「だから言ったじゃないですか! 元々は自分のペ○スでしょう? ちょっとの間くらい我慢して(くわ)えて下さい、って!!」

「無茶言うなよ(泣)!!」


 このやり取り2回目だよ。一応名前は秘してるけど。


「酷い(はずかし)めでしたよ! 沢山(たくさん)の『神官女』にさわ……見られて、なんか、チンチン言う『嘘発見器』みたいなのにかけられて」


 カオリちゃんが半泣きだ。

 ちなみに、「チンチン」はベルの音です。セーフです。

 ちなみに、某アニメの某書記の愛犬ペスのすごく変な芸は何でしょう?


「知ってますよ! 『か○や様は○らせたい』でしょう? チンチ」

「んぎゃー! 言わなくていいから!!」


 ヤケ気味に(わめ)かれるよりも、恥ずかしそうに照れながら、小声で言って欲しいセリフだし。


「……(ギロリ)」

「……ご、ごめん」


 話を聞いたら、『黒幕』全員に対して、「性別チェック」みたいなものがあったらしい。


「でも、『この世界』には、『輪廻転生』……魂の循環があるから、たまに間違った器に生まれ変わってしまう場合があるから……って、最後にはなんか慰められたり、励まされちゃって……」


 なんか、俺の知らないところで色々あったらしい。


「そっかー。いろいろとゴメンな……」

「別に……ジ……ヨハンナさんに謝られても……。それに『黒幕』としてお手伝いするのは不可能になりましたし、こちらこそご迷惑を」


 本来であれば、「男」を『黒幕』にした『巫女見習い』ヨハンナも失格になるところを、例のアレ――『七人の巫女』を選ぶのに立候補者も7人だと選挙が無投票になり、投票券である『銀の円盤』が売れなくなる――という「大人の事情」によって、特例的に『灰色』扱いにしたらしい。もう、失格でもいいのに……。


 さて、困った。

 もう、一気にカオリちゃんを「性転換」させてしまった方が、いいのかもしんない。


「えっ?」


 そして、完全女体化したカオリちゃんを「第2のヨハンナ」に仕立てて、俺と入れ替わり、俺は俺で「プロペラ小僧ジン」に戻る。そんで、めんどくさい『巫女選挙』をカオリちゃんに丸投げにして、俺は投票する側に……どう?


「どう? じゃないですよ。逃げないでください」

「逃げちゃダメ?」

「逃げちゃダメです」

「……ダメかー」


 別に、人類の命運がかかってるとかじゃないのにな。


「ホノカに頼んでみましょうか? 『黒幕』」

「イヤ、シンシアさんの双子の姉にあたる人が、ヨハンナちゃんについたらヘンだから」


「……そうなんですか?」


 カオリちゃんが落ち込んでる。


「いいよ。俺が……じゃねーや。あたくしが後で交渉してみますわ!」


 ネゴシエー……イヤ、ゴネにゴネてやる!


      ◆


 おいおい――まる。

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