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134◆水着買い


「はい、ヨハンナさん。痛かったんですからね!」


 恨みがましく、そう言われた。

 言って、俺に『神授の真珠』を手渡してくれたのは『巫女見習い』ポタテちゃんの『黒幕(『巫女選挙』のお手伝い)』と化している元秘密諜報部員『おトイレのハンナちゃん』改め『ぴょん子ちゃん』改め実は年齢的に結構いってるらしいハンナちゃんだ。


「ごめんあそばせ。ケガが無くて何よりでございましたわ」

 俺は一応謝罪した。


 『神官女長』のジャイアントスイングによる回転遠心力で、俺の喉からすっぽ抜けて飛んで行った『神授の真珠』は、彼女の広くもないおでこを直撃していたらしいけど……不可抗力だよ。


 にしても……やっと、手元に来たか。『神授の真珠』が……。

 てか、色々とドタバタしたあげく、最後はハンナちゃんから手渡されたよ。


 もう、コレ「神授」じゃねーよ!


「……ぼそぼそ(言葉のニュアンスからすると、『神授』って『神様から授けられる』んじゃなくて、『神殿で授けられる』って意味だと思うんですけど?)」

 俺の『黒幕』のカオリちゃんだ。

 彼女には、俺の思念が、日本語の文字列と共に雪崩れ込んでいるらしいのだ。


「そして……なにか……黒ずんでる気が……」


 受け取った『神授の真珠』は、心なしか……イヤ、はっきりと黒ずんでいた。


 これってホントに「ソ○ルジェム」じゃないよな? スゴい濁った色だよ?

 まん丸い真珠だから、カタチが全然違うし、指輪にも変形しないだろうけど。

 それを言ったら、むしろ「グリー○シード」の真ん中の球体みたいだ。イヤ、そこまで真っ黒じゃないけれども。


 他の子のを見た事ないから、知らんけど……全部、こんなに黒ずんでるのか?

 ホノカの『神授の真珠(極太)』なんて、鮮やかな「どピンク」だったのに。


「選んだ『神授の食べ物』によっては、その色が多少残ると言われていますよ」

 『俺の聖女』シンシアさんが、変にくぐもった声で教えてくれた。

 被ってる白いヴェールの折り目が多すぎて、せっかくの美声が遮音されてるのだ。


「あ、あたしのは、淡く緑色がかってましたよ」

 ドロレスちゃんが、さくっと言う。


「そうなんですの?」


 彼女は、『虹色豆・深緑色』を選んでたしな。

 てことは「色移り」したの? そう言う仕様なの?


 確かに俺、「ハズレ」引いちゃって、真っ黒い「黒パン粥」の中だったけれども。

 てか、何がどういう風に「ハズレ」だったんだ?


 ……うーむ。色々と釈然としない。


「ところで、何故ゆえに、食べ物と一緒に口の中にふくむ必要があるんですの?」

 意味不明なので訊いてみた。


 何年かに一度、誤飲事故が起きるような事すんなよ、って言いたい。


「何分慣習ですので、詳しくは……。個人の識別とその登録のためだそうですが……それ以上は」

 シンシアさんが、珍しく明快じゃなく言った。


 大昔から慣習的にやってる事なので、みんな大した疑問も抱かず、そうしてるっぽい。でも、「識別」とか「登録」とか、有りそうな話だ。電子携帯端末的だ。


 口に含むという事は、口蓋(こうがい)のDNAでも採取されてんのかな? 本人登録が済むと他人は使用不可になるのかな? かなかな言ってるけど、毎回水着回アニメのヒロイン「はるか」の中の人も「かな」かな?


「つまり、コレってあたくし専用となりますの?」

「正確には、『終身貸与(たいよ)』です」


「…………」


 なら、なんで、ミーヨはそれを失ったんだろう?


 俺がそんな事を考えてると、アナベル嬢が首を突っ込んで来た。


「ヘンな事に使っちゃダメよー。ヨハンナちゃん」


「変な事?」


「あ、アナベルさん。それは……」

 止めに入ったポタテちゃんを無視して、

「ブルブル、ですねぇ?」

 クリムソルダ嬢が、のんびりと言った。


「「「「「…………」」」」」


 固まる『巫女見習い』たち。


 ブルブル? ああ、バイブ機能ね。何に、どんな風に使うんだろ?


 是非みせ…………に行こう! クリちゃんの水着買いに!!


      ◇


 『全知全能神神殿』からまっすぐ南に伸びる『大参道』の舗装が珍しかった。


 亀甲紋様だ。

 正六角形(ヘキサゴン)の固焼き煉瓦が、ズラリと並んでる。

 アニメで色々とあるよな。こんな「HEX」のバリアー。


 でも、あちこちに隙間が空いていて、砂で埋めてある。

 素朴な作りで、規格化されてないっぽい感じだ。そんで、馬車や人の往来で、すり減った部分だけを新しいのと交換してるみたいだ。とにかく、人通りが激しいのだ。ここ。


「これ、初めて見ました。珍しい舗装ですこと」

「ああ、『玉潰し』よ」

 アナベル嬢が、恐ろしい事を口走る。俺いま女の子だから安心だけど。


「『玉潰し』? それは一体どのようものなんですの?」

 初耳なので訊いてみた。


 ひとつのジャンルとして確立してるやつ?

 ドMもいいとこだよね。てか、再起不能になるよね。


「えーっと、なんだっけ? シンシア?」

 言っといて、知らないらしい。


「まん丸く()ねて『玉』にした粘土を沢山並べて、そこに板を乗せて圧力を掛けて潰すと、こんなカタチになるそうです。それを(かま)で焼くんだそうです」

 流石に明快なお答えだ。


「「「「「……へー」」」」」


 みんなで感心する。

 溶岩が六角形に割れる「柱状節理」なら知ってるけど……それとは別か。


      ◇◇◇


 この時は、みんなまだ本当の事を知らなかった。

 ずっと後で、ある場所で、『玉潰し』の「玉」が「魂」だと知る事になるのだけれど。


      ◇


 『永遠の道』の『大交差』が描く「X」で四分割された『王都』の、『南の街区』のてっぺんの(カド)に『全知全能神神殿』は存在する。


 そこから南へは『大参道』と呼ばれる道があって、その道沿いの、『神殿』に近いあたりを、大雑把に『神前町』と呼ぶそうな。


 『神前町』は、大陸各地から訪れる参拝者のための……と言うか、ぶっちゃけ観光地化してるな、ここ。


 『前世の記憶』を持つ俺の目には、そんな風にしか見えない。

 どっかから来た「お上りさん」相手の、色んな店があるけれど、土産物屋が多い。「聖地」のハズなのに、かなり俗っぽい。ま、どこでも同じか。


 店舗の飾りには、『全知神の瞳』と呼ばれる「目玉」のマークが目立つ。

 てか、「売り物」としていっぱい売られてる。魔除けのお守りみたいな感じだ。

 目玉と言っても、半分閉じた眠そうな「半目」なので、圧迫感や恐怖感は無い。トボケた感じだ。


 実際に何度も『全知神』さまの『ご光臨』に立ち会ってる俺から見ると……どうだろう? 似てるような、似てないような。


 で、参拝者で賑わう『大参道』を逸れて、小路に入る。


 案内役の『巫女見習い』アナベル嬢は、裏道に詳しいらしくて、グイグイ進む。

 大参道側とはまったく違う、落ち着いて素朴な感じの商店街に出た。

 『神殿』関係者が、こまごました日用品を買いに来るのが、このへんらしい。


 『(ふくろ)専門店』という謎な看板があったので、店先を眺めて見ると、あの『珍獣の珍獣』こと『オタノシミブクロ』が、まるで『お守り』みたいな包みに入って、堂々と売られていた。


 1個『月面銀貨(ルナー)』1枚だ。

 6250円くらいだ。日本で「オ○ホ」って1個いくらだっけ(笑)?


 奥の方でこっそり売られてる中身入りの『秘密の小袋』って、女子がトイレに持ち込む「秘密のポーチ」と同じ物らしい。そんで、俺ってこのまま女体化しっ放しだと「お月様」になるのかな? 不安だ。他のみんなには悪いけど、さっさと男に戻りたい。


 先日、シンシアさんが被ってた『髪袋』は、髪の長い女性が、夜寝る時に使うものらしい。朝起きると、髪にいい香りがつくらしい。ちなみに今回、カオリちゃんはついて来てない。他の用があるのだ。


 あと、品切れの完売状態だったけど『七人の巫女』手作りの『小物入れ袋』まであるらしい。てことは、ここって『神殿』の直営店かな? 色々手広く商売やってるらしいし。


 他にも「絞り出し袋」に「漉し袋」に「腰袋」やら「麻袋」や「ズタ袋」……ホントに袋しかねー。


 あ、『この世界』の「胸パッド」であるところの『ニセパイ袋』もある。

 中に色とりどりの『虹色豆』が詰まってるヤツだな。かおりちゃん用に買っとこうかな?


 さらに見ると、妙齢の女性が放●(気体)の音を誤魔化す(笑)ために持ち歩くと言う『雷神袋(らいじんぶくろ)』も売られてた。


「『雷神袋』って……高いんですのね」


 その正体は単なる「ブーブークッション」なのに、『オタノシミブクロ』と同じ値段だったよ。


「あんたも『聖女』さまみたいに『神官女長』さまに仕掛ける気? グルグル振り回された仕返しに」

 アナベル嬢に、そんな事を言われた。


 イタズラ好きと名高い『聖女』さまは、そんな事までしてたのか?

 直接会うと「素敵なお姉様」なんだけど、噂によると、結構色々と「やらかしてる」らしいんだよな。


「そんな事はいたしませんわ!」

 『神官女長』って、実はミーヨの「叔母さん」だし。


「と言いますか、『雷神袋』って何で出来てますの?」


 口のところがゴムみたいに震動して、あの放●(気体)音がするんだから、素材はラテックス(ゴム)だと思うんだけど……『この世界』に「ゴムの木」あるのかな?


「ゴロゴロー、ダンゴムシですう」

 クリムソルダ嬢がのんびりと言った。

 てか、この子がゴロゴロダンゴムシだったら、のそのそしてて捕食者にあっさりと食べられちゃうだろうな。


「そーなんですの?」

「はいー。孵化(ふか)した後のー、卵のー、殻ですう」


 そう言えば、市街地仕様の馬車の車輪に貼られてるゴムっぽいモノも、俺たちが履いてる木靴の靴底も……その正体は「ゴロゴロダンゴムシの脱皮した殻」なのだった。やつらは卵までゴムっぽいのか。それは知らんかった。


「コレですね?」

 ドロレスちゃんが、店頭からわざわざ実物持って来やがった。


 せっかくなので見せてもらったら、大きさはぜんぜん違うけど『地球』で、風邪の時とかに使う「(ひょう)のう」そっくりだった。微妙な感じのニンジンみたいな色で、小銭入れくらいのサイズだった。聞いたら「いい音」が出るように、プロの職人が一個一個削って調律(?)してるらしい。値段の大部分は人件費みたいだ。


   ぶビっ


 ()すと、例の音だ。


「「「「「ぷっ…………あははははは!」」」」」


 日本だと「箸が転がっても可笑しい年頃」とか言うもんな。

 ●(気体)じゃ大爆笑だよ(笑)。


    ぶビっ、ぶビビ、ぶビッ


「「「「「あははははは!」」」」」


 調子に乗って連発してたら、お店のおねーさんがやって来て言った。


「ひとつ、『月面銀貨』1枚でーす!」


 二回以上鳴らすと「購入する意思あり」と解釈されるらしい。

 なので買い取りましたよ。『雷神袋』。


 関係ないけど『ブ○ックサンダー』食いたい。

 『月面銀貨』1枚だと何個買えるんだろ?


      ◇


 『(ふくろ)専門店』なのに、袋入りの『虹色豆・クリーム色』があった。やっぱり謎な店だ。

 でも、お会計の時に目につくように「お勘定台」に置いてあったので、コンビニのレジ横的な戦略的な商品配置に違いない。


 これをよくオヤツ代わり食べてたので、それも買ってみんなでポリポリ食べる。

 やっぱり、「節分の炒った大豆」だ。そっくりだ。

 お金は、俺が全財産を預けっぱなしのミーヨが出した。つまりは俺だよ。


「そう言えば……『神官女長』が言ってた市ノ瀬(いちのせ)()……じゃなくて『大地の背中』って何ですの?」

 ついでに訊いてみた。


 ドロレスちゃんが選んだ『虹色豆・深緑』を、そんな風に呼んでいたのだ。

 イヤ、もちろん声優さんじゃない方で。


「「「「「……」」」」」


 みんなが、ぴたっと止まった。あれ? 聞いたらマズかったのかな?


「「「「「……さあ?」」」」」


 ただ単に、みんな知らなかっただけか。


「畑の……『虹色豆』の畑の(うね)の事です。『虹色豆』を育てるには、根っこに沢山の追肥(ついひ)が必要で……どんどん畝が高く盛り上がっていくんです。それに毎年『黒の日々』の終わりには、冬越えのために高く土を盛って、覆い被せるんです」

 言ったのはポタテちゃんだった。


「「「「「……へー」」」」」


 『虹色豆』って、そんな手間のかかる作物だったのか。『神授の食べ物』なんだから、もっとチョロく育てられると思ってたのに。俺とミーヨが暮らしていたらしい「ボコ村」近辺ではあんまり作ってないらしくて、流石のミーヨも知らなかったような反応だ。


「ですから……『神官女長』様の言っておられた『感謝の気持ち』とは……作り手の苦労に対する労いだと思います」


 イヤ、『お米』だって作り手は苦労すると思うけど?


「よくご存知ですね?」

「……私は元・豚耳奴隷で……農奴でしたから」

 ポタテちゃんが、沈んだ声で言った。


 『獣耳奴隷』が「作り手」として投入されてんのか。

 とすると『感謝の気持ち』って獣耳奴隷に対するものか?

 『神殿』の聖典になってる『神行集(しんぎょうしゅう)』には、獣耳奴隷について何も書かれてないそうだし、『王都』への旅の途中には『この世界』の神様『全知神』に直接ねじ込んで、そんなのは「でっち上げ」だって確証らしきものもある。


 『神殿』関係者は「蒙古斑」が『奴隷の印』ではない――と知ってるのかも?

 知ってて、「黙認」してるのかも。


「そして私は、『神授の真珠』の授受式の時に、奴隷の頃に大変な思いをした『神授の食べ物』を避けて、ナーガネギを選んだ覚えがあります」


 ナーガネギは緑色の蛇みたいな長ネギだ。

 長ネギなのに根元に土を被せないから「白いトコ」がぜんぜん無い。野放図な育て方なんだろうな、ネギ坊主だけに。


「……あた、も、ねこみみ」

 現役の猫耳奴隷のセシリアが、自身の猫耳を指差して励ますように言うと、

「……(にこ)」

 ポタテちゃんが静かに微笑んだ。

「あい」


 てか、『ご主人様』の俺は、この子を奴隷として扱ってないけどな。

 猫耳は、可愛いから付けさせてる、みたいな。


「……」

 自身は奴隷化を避けるために、「蒙古斑」が消えるまで『東の(つぶら)』で育てられたというシンシアさんが、神妙な表情だ。獣耳奴隷たちに「後ろめたさ」みたいな気持ちを(いだ)き続けているらしい。

 でもな、『奴隷の印』なんてホントに「でっち上げ」なんだし、気にしないで欲しい。


「獣耳奴隷……か。無くなればいいのにね、そんなの」

 ミーヨが、セシリアの手を握りながら言うと、

「でもさー、犯罪増えるわよ、きっと。『悪い事したら、奴隷になるわよ!』って叱られ方が無くなるだろうし」

 アナベル嬢がそんな事を言う。


 彼女の言う通り、獣耳奴隷の「制度」って『この世界』では「犯罪の抑止力」になってるらしいんだよな。


 廃止したらしたで、いろいろな方面で影響が出るんだろうな。厄介だ。

 なんか解決策があるような気もするけど……俺ってこの手の事には、ホントに無力もいいとこだしな。


 とりあえず、景気づけに鳴らそう。『雷神袋』を。


   ぷぅぅぅうううううぅぅっ


 ソフトに圧してみたら、すんごいリアルな音が鳴ったよ(笑)。


「「「「「……ヨハンナさんたら!」」」」」


「あ、あたくしではありませんわよ?」


      ◇


「ここよ。さっき『★羽書蝶☆』飛ばしといたから、お昼だけど開いてるハズよ」

 アナベル嬢が言いつつ、一軒の店に入って行く。


 ここは『神前裏町』ってトコらしい。

 何の看板も無いし、ぱっと見フツーの民家みたいなトコだった。


   カロンカラン


 『女王国』のお店って、何故か必ず「ドアベル」が付いてる。

 でも、考えたら「ドアフォン」が無いんだから当然か。


「いらっしゃーい」

 奥から声を掛けて寄こしたのは、中年の女性だった。

 ぞろぞろとみんなで店の中に入る。内部は、普通に服屋っぽい。


「あら、これはこれは『巫女見習い』のみなさま」

 ちなみにメンバーはヨハンナ(中身は俺)。ミーヨとセシリア。シンシアさんとクリムソルダ嬢とアナベル嬢。さらにドロレスちゃんとポタテちゃんだ。『巫女見習い』率75%だ。


「何言ってんの? 自分だって『巫女見習い』だったクセに」

 アナベル嬢がそう応じる。

 すんごい気安い。知り合いか?


(もと)よ。元。引退して何年経ってると思ってんの? それで、今日は?」

 女性が訊ねる。

「この子の水着。『全知神の三角』ね。それとこっちの子の下着一式を」

 クリムソルダ嬢が「この子」で「こっちの子」って俺の事らしい……って、確かに今現在もローブの下はノーブラ&ノーパンだけど、別にいいよ。そんなもの。


「あららら……随分とお胸が大きくていらっしゃるわねー」

 女性が……てか、多分この店の店主が、クリムソルダ嬢の「メロンおっぱい」を見て、感心したような声を上げる。


「えへへぇ」

「…………」


 照れ笑いするクリムソルダ嬢と、無言になる貧乳のアナベル嬢だ。

 16歳だから、今からでも頑張れば育つんじゃないかって気もするけどな。

 後で『前世の記憶』から「おっぱい体操」とか教えてあげようかな? うろ覚えで、見よう見まねになるけれど。


「だとすると……二着分ご購入になると思うけど……いいかしら?」

 店主が言う。


「え? なんで?」

「『上』をこの子のお胸に合わせると、『下』がゆるゆるのブカブカになりますよ。体格の大きい人用でないと、収まりきらないでしょうから」


「「「「「……ああ」」」」」


 クリムソルダ嬢の「メロンおっぱい」を見守る女子全員から、色んな感情がこもったため息が漏れた。


 クリちゃん、実はお胸以外はフツーの標準的な体形だしな。

 『地球』の「ツーピース」と同じで、上下一組で売ってるようだから、『下』は標準体型用じゃないといけないワケか……。


「……?」

 当の本人は不思議そうにしてる。呑気だ。


「祈願! ★滅菌っ☆」


 試着前に、水着の方を殺菌するらしい。こんな時『魔法』は便利だ。


      ◇


「こ……これは……」


「「「「「……ああ」」」」」


 水着を試着してみると、大問題が発覚した。


 クリームソーダの容器から、クリームが溢れ出ていたのだ(※比喩的表現)。


「クリムソルダさん……ここってお手入れとかは……してないんですよね? 訊くまでもないですよね」

 シンシアさんが言いかけて、途中で何かを諦めたらしい。


「なんですかー。どーかぁしましたかぁ?」

 どうやら、自身の大きなお胸がジャマで、よく見えてないらしい。クリムソルダ嬢が平和な声だ。大自然の中で、のびのび育った野放図さだ。


「どーすんの? コレ? 『お披露目会』まで、あと四打点しかないわよ?」

 アナベル嬢が困惑してる。

 でも、四打点(約6時間)もあれば、色々対処できるよ?


 てか、この子普段クリムソルダ嬢の近くに居るんだから、気付いてあげられなかったのか?


 盛大に、豪快に、クリームがあふれ出てる感じなんですけど?

 ソーダ・ファウンテンなんですけど? ちょっと危険な言い回しだけど、シャンペン・シャワーなんですけど?

 モンブランの、クリ……じゃなくて栗のクリームが、特盛り過ぎて、ハミ出てるんですけど? マロビ出てるんですけど?


 まあまあ、『全知神の三角』って名前の通り、小さい正三角形だしな。

 しかも、かなりのローライズだし。

 後ろなんて、Tバックで、紐だけだし。


「でも、何とか、何とかしないといけませんわ!」


 俺は絶対に『選挙』で「落選」しないといけないのだ。

 クリムソルダ嬢が、危険過ぎて棄権とか、止めて欲しいのだ。


「『太陽金貨(ソル)』の?」

 アナベル嬢だ。


 『女王国』の女性が使う隠語(スラング)らしい。どんな意味だろう?

 状況から推察すると、思い浮かぶ言葉もあるけど……。


「『もじゃもじゃ()』は?」

 ポタテちゃんだ。


 『女王国』の女性が使う隠語らしい。完全に意味不明だ。

 俺も女体化してまだ日が浅いから、まったく分かんねー。


「……?」

 セシリア(10歳)だ。


 うん、まだだもんな。


「あたしには無理ですが、『★点火☆』は?」

 ドロレスちゃん(12歳)だ。


 あ、知ってる。

 物に火を点ける『R15魔法』だ……って、うおおおいっ!

 いくら水着から●毛がハミ出てるからって、燃やすのか?

 ……って、ついつい言っちゃった。てへ。


「「……ぼそぼそ」」


 ミーヨとシンシアさんだ。


 なんか「ジンくん(さん)がいれば……」とか呟いてる。

 そう言われても、そんなもの俺にだってどうにも……って、ああ、『光眼(コウガン)』の「発光」「レーザー脱毛」か!


 でも、アレ、めっちゃ時間がかかるぞ。

 「天罰モード」を使えば、一気に広範囲の毛根を死滅させる事も出来るけれども……赤く痕が残るしな。女の子の肌にはオススメ出来ない。


 てか、ミーヨは、女体化した今の俺には『光眼(コウガン)』が使えないと思ってんのかな?

 そんな事はないぞ。

 今、俺様の『光眼(コウガン)』は、「受光」「カメラ機能」が絶賛稼働中だぞ(笑)。


「いったん、お胸に合わせた『下』も、着けてみましょうか?」

 店主がとりなすように言う。


「「「「「……そ、そうですよね」」」」」


「はいぃ」

 クリムソルダ嬢が……うわー、同性同士なんで、恥じらいねー。

 脳内効果音が、パシャパシャパシャパシャ騒々しいったらないですわ!


 俺、心は男子なのに。それはトップシークレットだけど。

 まるで、毎回水着回の『はるかなレ○ーブ』の大○(はるか)みたいに大胆だ(※2話)。そう言えば『はるかな○シーブ』にも、女の子のデリケートな悩みの話があったったけ(※4話)。でも、後頭部にバレーボールが飛んで来そうだから、やめとこっと。


      ◇


「ふわふわふわー」

 クリムソルダ嬢が、退屈そうに大あくびしてる。


「「「「「……うーん」」」」」


 水着(下)を換装してみると、問題があった。

 なにしろ「体格の大きい人」用なので、布地が大きすぎて、おへそまで隠れてるのだ。しかも紐が余って(たる)んでるし。全体に、かなり不格好に思える。


「いいんじゃないんですか? きちんと隠れてますし」

 シンシアさんが言う。けど……。


「いいえ、シンシア様。お言葉を返すようですが、これでは野暮ったくてイケませんわ。殿方の支持を得られるとは、とうてい思えませんわ!」

 ごめんなさい、シンシアさん……心の中で謝りつつ、そう反論した。


「ですが……そもそも『水着審査』は、殿方の支持を得るためではなく、お尻に『奴隷の印』が付いていないのを証明するためであって……」


 シンシアさんの言葉には、色々複雑な心境がこもってる感じだ。声もこもってるけど。


「ですが、こんなブカブカの大きな水着では……殿方の不評を買って、『選挙』でクリムソルダさんの得票数に影響が出てしまいますわ」


 男どもは大きなお胸を注視して、それ以外のとこは無視されるかも? だけど。


「ふわふわふわー」

 クリムソルダ嬢が、まるで他人事のように呑気だ。また大あくびだ。


「競争相手が不利になれば、自分に有利になるんじゃないの? あんた、本気で『選挙』やる気あんの?」

 アナベル嬢から突っ込まれた。


 うーむ。ここで俺が「落選」狙いで『巫女選挙』に出るとは言えないよな。


「いいえ。あたくしは、他人(ひと)(おとし)めたり、相手が不利になるような事をしてまで、勝ちたいとは思わないだけですわ!」

「……そうですね。私が間違っていました。ヨハンナさんの言う通りです」


 ああ、そんなつもりで言ったんじゃないんですう。

 ごめんなさい、シンシアさぁあん。


「次善の策ではいけませんね。常に最善を求めないと……私の『黒幕』さん!」


 え? シンシアさんは黒髪の美少女だけど……黒幕無いよ。俺の「レーザー脱毛」で。


「はい。なんでしょう?」

「あい?」


 ああ、ミーヨを呼んだのか?

 ついでにセシリアも返事してるけど……二人ともシンシアさんの『黒幕(『巫女選挙』のお手伝い)』だもんな。『黒幕』って、トラブル防止のために、名前や素顔を明かさないんだった。


 てか、俺は一瞬,何を想像してしまったんだ?

 ごめんなさい、シンシアさぁぁぁあああん。


「……ぼそぼそ(ジンさんとは、連絡がつきませんか?)」


 俺?


 いるよ。ここに。

 今ちょっと女体化はしてるけれども。


「うー……ジ、ジンくん?」

 ミーヨが狼狽(うろた)えてる。

 マズい。ボロを出す前兆だ。


「あ、あのー、あたくしにお任せいただければ……そのくらいのハミ出しなら、すぐにツルッツルにして差し上げられますわよ!」

 仕方なく、俺は言った。


「「「「「……マジで!?」」」」」


 みんな凄い食いつきだ。


      ◆


 重要なポイントは人それぞれ――まる。


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