134◆水着買い
「はい、ヨハンナさん。痛かったんですからね!」
恨みがましく、そう言われた。
言って、俺に『神授の真珠』を手渡してくれたのは『巫女見習い』ポタテちゃんの『黒幕(『巫女選挙』のお手伝い)』と化している元秘密諜報部員『おトイレのハンナちゃん』改め『ぴょん子ちゃん』改め実は年齢的に結構いってるらしいハンナちゃんだ。
「ごめんあそばせ。ケガが無くて何よりでございましたわ」
俺は一応謝罪した。
『神官女長』のジャイアントスイングによる回転遠心力で、俺の喉からすっぽ抜けて飛んで行った『神授の真珠』は、彼女の広くもないおでこを直撃していたらしいけど……不可抗力だよ。
にしても……やっと、手元に来たか。『神授の真珠』が……。
てか、色々とドタバタしたあげく、最後はハンナちゃんから手渡されたよ。
もう、コレ「神授」じゃねーよ!
「……ぼそぼそ(言葉のニュアンスからすると、『神授』って『神様から授けられる』んじゃなくて、『神殿で授けられる』って意味だと思うんですけど?)」
俺の『黒幕』のカオリちゃんだ。
彼女には、俺の思念が、日本語の文字列と共に雪崩れ込んでいるらしいのだ。
「そして……なにか……黒ずんでる気が……」
受け取った『神授の真珠』は、心なしか……イヤ、はっきりと黒ずんでいた。
これってホントに「ソ○ルジェム」じゃないよな? スゴい濁った色だよ?
まん丸い真珠だから、カタチが全然違うし、指輪にも変形しないだろうけど。
それを言ったら、むしろ「グリー○シード」の真ん中の球体みたいだ。イヤ、そこまで真っ黒じゃないけれども。
他の子のを見た事ないから、知らんけど……全部、こんなに黒ずんでるのか?
ホノカの『神授の真珠(極太)』なんて、鮮やかな「どピンク」だったのに。
「選んだ『神授の食べ物』によっては、その色が多少残ると言われていますよ」
『俺の聖女』シンシアさんが、変にくぐもった声で教えてくれた。
被ってる白いヴェールの折り目が多すぎて、せっかくの美声が遮音されてるのだ。
「あ、あたしのは、淡く緑色がかってましたよ」
ドロレスちゃんが、さくっと言う。
「そうなんですの?」
彼女は、『虹色豆・深緑色』を選んでたしな。
てことは「色移り」したの? そう言う仕様なの?
確かに俺、「ハズレ」引いちゃって、真っ黒い「黒パン粥」の中だったけれども。
てか、何がどういう風に「ハズレ」だったんだ?
……うーむ。色々と釈然としない。
「ところで、何故ゆえに、食べ物と一緒に口の中にふくむ必要があるんですの?」
意味不明なので訊いてみた。
何年かに一度、誤飲事故が起きるような事すんなよ、って言いたい。
「何分慣習ですので、詳しくは……。個人の識別とその登録のためだそうですが……それ以上は」
シンシアさんが、珍しく明快じゃなく言った。
大昔から慣習的にやってる事なので、みんな大した疑問も抱かず、そうしてるっぽい。でも、「識別」とか「登録」とか、有りそうな話だ。電子携帯端末的だ。
口に含むという事は、口蓋のDNAでも採取されてんのかな? 本人登録が済むと他人は使用不可になるのかな? かなかな言ってるけど、毎回水着回アニメのヒロイン「はるか」の中の人も「かな」かな?
「つまり、コレってあたくし専用となりますの?」
「正確には、『終身貸与』です」
「…………」
なら、なんで、ミーヨはそれを失ったんだろう?
俺がそんな事を考えてると、アナベル嬢が首を突っ込んで来た。
「ヘンな事に使っちゃダメよー。ヨハンナちゃん」
「変な事?」
「あ、アナベルさん。それは……」
止めに入ったポタテちゃんを無視して、
「ブルブル、ですねぇ?」
クリムソルダ嬢が、のんびりと言った。
「「「「「…………」」」」」
固まる『巫女見習い』たち。
ブルブル? ああ、バイブ機能ね。何に、どんな風に使うんだろ?
是非みせ…………に行こう! クリちゃんの水着買いに!!
◇
『全知全能神神殿』からまっすぐ南に伸びる『大参道』の舗装が珍しかった。
亀甲紋様だ。
正六角形の固焼き煉瓦が、ズラリと並んでる。
アニメで色々とあるよな。こんな「HEX」のバリアー。
でも、あちこちに隙間が空いていて、砂で埋めてある。
素朴な作りで、規格化されてないっぽい感じだ。そんで、馬車や人の往来で、すり減った部分だけを新しいのと交換してるみたいだ。とにかく、人通りが激しいのだ。ここ。
「これ、初めて見ました。珍しい舗装ですこと」
「ああ、『玉潰し』よ」
アナベル嬢が、恐ろしい事を口走る。俺いま女の子だから安心だけど。
「『玉潰し』? それは一体どのようものなんですの?」
初耳なので訊いてみた。
ひとつのジャンルとして確立してるやつ?
ドMもいいとこだよね。てか、再起不能になるよね。
「えーっと、なんだっけ? シンシア?」
言っといて、知らないらしい。
「まん丸く捏ねて『玉』にした粘土を沢山並べて、そこに板を乗せて圧力を掛けて潰すと、こんなカタチになるそうです。それを窯で焼くんだそうです」
流石に明快なお答えだ。
「「「「「……へー」」」」」
みんなで感心する。
溶岩が六角形に割れる「柱状節理」なら知ってるけど……それとは別か。
◇◇◇
この時は、みんなまだ本当の事を知らなかった。
ずっと後で、ある場所で、『玉潰し』の「玉」が「魂」だと知る事になるのだけれど。
◇
『永遠の道』の『大交差』が描く「X」で四分割された『王都』の、『南の街区』のてっぺんの角に『全知全能神神殿』は存在する。
そこから南へは『大参道』と呼ばれる道があって、その道沿いの、『神殿』に近いあたりを、大雑把に『神前町』と呼ぶそうな。
『神前町』は、大陸各地から訪れる参拝者のための……と言うか、ぶっちゃけ観光地化してるな、ここ。
『前世の記憶』を持つ俺の目には、そんな風にしか見えない。
どっかから来た「お上りさん」相手の、色んな店があるけれど、土産物屋が多い。「聖地」のハズなのに、かなり俗っぽい。ま、どこでも同じか。
店舗の飾りには、『全知神の瞳』と呼ばれる「目玉」のマークが目立つ。
てか、「売り物」としていっぱい売られてる。魔除けのお守りみたいな感じだ。
目玉と言っても、半分閉じた眠そうな「半目」なので、圧迫感や恐怖感は無い。トボケた感じだ。
実際に何度も『全知神』さまの『ご光臨』に立ち会ってる俺から見ると……どうだろう? 似てるような、似てないような。
で、参拝者で賑わう『大参道』を逸れて、小路に入る。
案内役の『巫女見習い』アナベル嬢は、裏道に詳しいらしくて、グイグイ進む。
大参道側とはまったく違う、落ち着いて素朴な感じの商店街に出た。
『神殿』関係者が、こまごました日用品を買いに来るのが、このへんらしい。
『袋専門店』という謎な看板があったので、店先を眺めて見ると、あの『珍獣の珍獣』こと『オタノシミブクロ』が、まるで『お守り』みたいな包みに入って、堂々と売られていた。
1個『月面銀貨』1枚だ。
6250円くらいだ。日本で「オ○ホ」って1個いくらだっけ(笑)?
奥の方でこっそり売られてる中身入りの『秘密の小袋』って、女子がトイレに持ち込む「秘密のポーチ」と同じ物らしい。そんで、俺ってこのまま女体化しっ放しだと「お月様」になるのかな? 不安だ。他のみんなには悪いけど、さっさと男に戻りたい。
先日、シンシアさんが被ってた『髪袋』は、髪の長い女性が、夜寝る時に使うものらしい。朝起きると、髪にいい香りがつくらしい。ちなみに今回、カオリちゃんはついて来てない。他の用があるのだ。
あと、品切れの完売状態だったけど『七人の巫女』手作りの『小物入れ袋』まであるらしい。てことは、ここって『神殿』の直営店かな? 色々手広く商売やってるらしいし。
他にも「絞り出し袋」に「漉し袋」に「腰袋」やら「麻袋」や「ズタ袋」……ホントに袋しかねー。
あ、『この世界』の「胸パッド」であるところの『ニセパイ袋』もある。
中に色とりどりの『虹色豆』が詰まってるヤツだな。かおりちゃん用に買っとこうかな?
さらに見ると、妙齢の女性が放●(気体)の音を誤魔化す(笑)ために持ち歩くと言う『雷神袋』も売られてた。
「『雷神袋』って……高いんですのね」
その正体は単なる「ブーブークッション」なのに、『オタノシミブクロ』と同じ値段だったよ。
「あんたも『聖女』さまみたいに『神官女長』さまに仕掛ける気? グルグル振り回された仕返しに」
アナベル嬢に、そんな事を言われた。
イタズラ好きと名高い『聖女』さまは、そんな事までしてたのか?
直接会うと「素敵なお姉様」なんだけど、噂によると、結構色々と「やらかしてる」らしいんだよな。
「そんな事はいたしませんわ!」
『神官女長』って、実はミーヨの「叔母さん」だし。
「と言いますか、『雷神袋』って何で出来てますの?」
口のところがゴムみたいに震動して、あの放●(気体)音がするんだから、素材はラテックスだと思うんだけど……『この世界』に「ゴムの木」あるのかな?
「ゴロゴロー、ダンゴムシですう」
クリムソルダ嬢がのんびりと言った。
てか、この子がゴロゴロダンゴムシだったら、のそのそしてて捕食者にあっさりと食べられちゃうだろうな。
「そーなんですの?」
「はいー。孵化した後のー、卵のー、殻ですう」
そう言えば、市街地仕様の馬車の車輪に貼られてるゴムっぽいモノも、俺たちが履いてる木靴の靴底も……その正体は「ゴロゴロダンゴムシの脱皮した殻」なのだった。やつらは卵までゴムっぽいのか。それは知らんかった。
「コレですね?」
ドロレスちゃんが、店頭からわざわざ実物持って来やがった。
せっかくなので見せてもらったら、大きさはぜんぜん違うけど『地球』で、風邪の時とかに使う「氷のう」そっくりだった。微妙な感じのニンジンみたいな色で、小銭入れくらいのサイズだった。聞いたら「いい音」が出るように、プロの職人が一個一個削って調律(?)してるらしい。値段の大部分は人件費みたいだ。
ぶビっ
圧すと、例の音だ。
「「「「「ぷっ…………あははははは!」」」」」
日本だと「箸が転がっても可笑しい年頃」とか言うもんな。
●(気体)じゃ大爆笑だよ(笑)。
ぶビっ、ぶビビ、ぶビッ
「「「「「あははははは!」」」」」
調子に乗って連発してたら、お店のおねーさんがやって来て言った。
「ひとつ、『月面銀貨』1枚でーす!」
二回以上鳴らすと「購入する意思あり」と解釈されるらしい。
なので買い取りましたよ。『雷神袋』。
関係ないけど『ブ○ックサンダー』食いたい。
『月面銀貨』1枚だと何個買えるんだろ?
◇
『袋専門店』なのに、袋入りの『虹色豆・クリーム色』があった。やっぱり謎な店だ。
でも、お会計の時に目につくように「お勘定台」に置いてあったので、コンビニのレジ横的な戦略的な商品配置に違いない。
これをよくオヤツ代わり食べてたので、それも買ってみんなでポリポリ食べる。
やっぱり、「節分の炒った大豆」だ。そっくりだ。
お金は、俺が全財産を預けっぱなしのミーヨが出した。つまりは俺だよ。
「そう言えば……『神官女長』が言ってた市ノ瀬加……じゃなくて『大地の背中』って何ですの?」
ついでに訊いてみた。
ドロレスちゃんが選んだ『虹色豆・深緑』を、そんな風に呼んでいたのだ。
イヤ、もちろん声優さんじゃない方で。
「「「「「……」」」」」
みんなが、ぴたっと止まった。あれ? 聞いたらマズかったのかな?
「「「「「……さあ?」」」」」
ただ単に、みんな知らなかっただけか。
「畑の……『虹色豆』の畑の畝の事です。『虹色豆』を育てるには、根っこに沢山の追肥が必要で……どんどん畝が高く盛り上がっていくんです。それに毎年『黒の日々』の終わりには、冬越えのために高く土を盛って、覆い被せるんです」
言ったのはポタテちゃんだった。
「「「「「……へー」」」」」
『虹色豆』って、そんな手間のかかる作物だったのか。『神授の食べ物』なんだから、もっとチョロく育てられると思ってたのに。俺とミーヨが暮らしていたらしい「ボコ村」近辺ではあんまり作ってないらしくて、流石のミーヨも知らなかったような反応だ。
「ですから……『神官女長』様の言っておられた『感謝の気持ち』とは……作り手の苦労に対する労いだと思います」
イヤ、『お米』だって作り手は苦労すると思うけど?
「よくご存知ですね?」
「……私は元・豚耳奴隷で……農奴でしたから」
ポタテちゃんが、沈んだ声で言った。
『獣耳奴隷』が「作り手」として投入されてんのか。
とすると『感謝の気持ち』って獣耳奴隷に対するものか?
『神殿』の聖典になってる『神行集』には、獣耳奴隷について何も書かれてないそうだし、『王都』への旅の途中には『この世界』の神様『全知神』に直接ねじ込んで、そんなのは「でっち上げ」だって確証らしきものもある。
『神殿』関係者は「蒙古斑」が『奴隷の印』ではない――と知ってるのかも?
知ってて、「黙認」してるのかも。
「そして私は、『神授の真珠』の授受式の時に、奴隷の頃に大変な思いをした『神授の食べ物』を避けて、ナーガネギを選んだ覚えがあります」
ナーガネギは緑色の蛇みたいな長ネギだ。
長ネギなのに根元に土を被せないから「白いトコ」がぜんぜん無い。野放図な育て方なんだろうな、ネギ坊主だけに。
「……あた、も、ねこみみ」
現役の猫耳奴隷のセシリアが、自身の猫耳を指差して励ますように言うと、
「……(にこ)」
ポタテちゃんが静かに微笑んだ。
「あい」
てか、『ご主人様』の俺は、この子を奴隷として扱ってないけどな。
猫耳は、可愛いから付けさせてる、みたいな。
「……」
自身は奴隷化を避けるために、「蒙古斑」が消えるまで『東の円』で育てられたというシンシアさんが、神妙な表情だ。獣耳奴隷たちに「後ろめたさ」みたいな気持ちを抱き続けているらしい。
でもな、『奴隷の印』なんてホントに「でっち上げ」なんだし、気にしないで欲しい。
「獣耳奴隷……か。無くなればいいのにね、そんなの」
ミーヨが、セシリアの手を握りながら言うと、
「でもさー、犯罪増えるわよ、きっと。『悪い事したら、奴隷になるわよ!』って叱られ方が無くなるだろうし」
アナベル嬢がそんな事を言う。
彼女の言う通り、獣耳奴隷の「制度」って『この世界』では「犯罪の抑止力」になってるらしいんだよな。
廃止したらしたで、いろいろな方面で影響が出るんだろうな。厄介だ。
なんか解決策があるような気もするけど……俺ってこの手の事には、ホントに無力もいいとこだしな。
とりあえず、景気づけに鳴らそう。『雷神袋』を。
ぷぅぅぅうううううぅぅっ
ソフトに圧してみたら、すんごいリアルな音が鳴ったよ(笑)。
「「「「「……ヨハンナさんたら!」」」」」
「あ、あたくしではありませんわよ?」
◇
「ここよ。さっき『★羽書蝶☆』飛ばしといたから、お昼だけど開いてるハズよ」
アナベル嬢が言いつつ、一軒の店に入って行く。
ここは『神前裏町』ってトコらしい。
何の看板も無いし、ぱっと見フツーの民家みたいなトコだった。
カロンカラン
『女王国』のお店って、何故か必ず「ドアベル」が付いてる。
でも、考えたら「ドアフォン」が無いんだから当然か。
「いらっしゃーい」
奥から声を掛けて寄こしたのは、中年の女性だった。
ぞろぞろとみんなで店の中に入る。内部は、普通に服屋っぽい。
「あら、これはこれは『巫女見習い』のみなさま」
ちなみにメンバーはヨハンナ(中身は俺)。ミーヨとセシリア。シンシアさんとクリムソルダ嬢とアナベル嬢。さらにドロレスちゃんとポタテちゃんだ。『巫女見習い』率75%だ。
「何言ってんの? 自分だって『巫女見習い』だったクセに」
アナベル嬢がそう応じる。
すんごい気安い。知り合いか?
「元よ。元。引退して何年経ってると思ってんの? それで、今日は?」
女性が訊ねる。
「この子の水着。『全知神の三角』ね。それとこっちの子の下着一式を」
クリムソルダ嬢が「この子」で「こっちの子」って俺の事らしい……って、確かに今現在もローブの下はノーブラ&ノーパンだけど、別にいいよ。そんなもの。
「あららら……随分とお胸が大きくていらっしゃるわねー」
女性が……てか、多分この店の店主が、クリムソルダ嬢の「メロンおっぱい」を見て、感心したような声を上げる。
「えへへぇ」
「…………」
照れ笑いするクリムソルダ嬢と、無言になる貧乳のアナベル嬢だ。
16歳だから、今からでも頑張れば育つんじゃないかって気もするけどな。
後で『前世の記憶』から「おっぱい体操」とか教えてあげようかな? うろ覚えで、見よう見まねになるけれど。
「だとすると……二着分ご購入になると思うけど……いいかしら?」
店主が言う。
「え? なんで?」
「『上』をこの子のお胸に合わせると、『下』がゆるゆるのブカブカになりますよ。体格の大きい人用でないと、収まりきらないでしょうから」
「「「「「……ああ」」」」」
クリムソルダ嬢の「メロンおっぱい」を見守る女子全員から、色んな感情がこもったため息が漏れた。
クリちゃん、実はお胸以外はフツーの標準的な体形だしな。
『地球』の「ツーピース」と同じで、上下一組で売ってるようだから、『下』は標準体型用じゃないといけないワケか……。
「……?」
当の本人は不思議そうにしてる。呑気だ。
「祈願! ★滅菌っ☆」
試着前に、水着の方を殺菌するらしい。こんな時『魔法』は便利だ。
◇
「こ……これは……」
「「「「「……ああ」」」」」
水着を試着してみると、大問題が発覚した。
クリームソーダの容器から、クリームが溢れ出ていたのだ(※比喩的表現)。
「クリムソルダさん……ここってお手入れとかは……してないんですよね? 訊くまでもないですよね」
シンシアさんが言いかけて、途中で何かを諦めたらしい。
「なんですかー。どーかぁしましたかぁ?」
どうやら、自身の大きなお胸がジャマで、よく見えてないらしい。クリムソルダ嬢が平和な声だ。大自然の中で、のびのび育った野放図さだ。
「どーすんの? コレ? 『お披露目会』まで、あと四打点しかないわよ?」
アナベル嬢が困惑してる。
でも、四打点(約6時間)もあれば、色々対処できるよ?
てか、この子普段クリムソルダ嬢の近くに居るんだから、気付いてあげられなかったのか?
盛大に、豪快に、クリームがあふれ出てる感じなんですけど?
ソーダ・ファウンテンなんですけど? ちょっと危険な言い回しだけど、シャンペン・シャワーなんですけど?
モンブランの、クリ……じゃなくて栗のクリームが、特盛り過ぎて、ハミ出てるんですけど? マロビ出てるんですけど?
まあまあ、『全知神の三角』って名前の通り、小さい正三角形だしな。
しかも、かなりのローライズだし。
後ろなんて、Tバックで、紐だけだし。
「でも、何とか、何とかしないといけませんわ!」
俺は絶対に『選挙』で「落選」しないといけないのだ。
クリムソルダ嬢が、危険過ぎて棄権とか、止めて欲しいのだ。
「『太陽金貨』の?」
アナベル嬢だ。
『女王国』の女性が使う隠語らしい。どんな意味だろう?
状況から推察すると、思い浮かぶ言葉もあるけど……。
「『もじゃもじゃ藻』は?」
ポタテちゃんだ。
『女王国』の女性が使う隠語らしい。完全に意味不明だ。
俺も女体化してまだ日が浅いから、まったく分かんねー。
「……?」
セシリア(10歳)だ。
うん、まだだもんな。
「あたしには無理ですが、『★点火☆』は?」
ドロレスちゃん(12歳)だ。
あ、知ってる。
物に火を点ける『R15魔法』だ……って、うおおおいっ!
いくら水着から●毛がハミ出てるからって、燃やすのか?
……って、ついつい言っちゃった。てへ。
「「……ぼそぼそ」」
ミーヨとシンシアさんだ。
なんか「ジンくん(さん)がいれば……」とか呟いてる。
そう言われても、そんなもの俺にだってどうにも……って、ああ、『光眼』の「発光」「レーザー脱毛」か!
でも、アレ、めっちゃ時間がかかるぞ。
「天罰モード」を使えば、一気に広範囲の毛根を死滅させる事も出来るけれども……赤く痕が残るしな。女の子の肌にはオススメ出来ない。
てか、ミーヨは、女体化した今の俺には『光眼』が使えないと思ってんのかな?
そんな事はないぞ。
今、俺様の『光眼』は、「受光」「カメラ機能」が絶賛稼働中だぞ(笑)。
「いったん、お胸に合わせた『下』も、着けてみましょうか?」
店主がとりなすように言う。
「「「「「……そ、そうですよね」」」」」
「はいぃ」
クリムソルダ嬢が……うわー、同性同士なんで、恥じらいねー。
脳内効果音が、パシャパシャパシャパシャ騒々しいったらないですわ!
俺、心は男子なのに。それはトップシークレットだけど。
まるで、毎回水着回の『はるかなレ○ーブ』の大○遥みたいに大胆だ(※2話)。そう言えば『はるかな○シーブ』にも、女の子のデリケートな悩みの話があったったけ(※4話)。でも、後頭部にバレーボールが飛んで来そうだから、やめとこっと。
◇
「ふわふわふわー」
クリムソルダ嬢が、退屈そうに大あくびしてる。
「「「「「……うーん」」」」」
水着(下)を換装してみると、問題があった。
なにしろ「体格の大きい人」用なので、布地が大きすぎて、おへそまで隠れてるのだ。しかも紐が余って弛んでるし。全体に、かなり不格好に思える。
「いいんじゃないんですか? きちんと隠れてますし」
シンシアさんが言う。けど……。
「いいえ、シンシア様。お言葉を返すようですが、これでは野暮ったくてイケませんわ。殿方の支持を得られるとは、とうてい思えませんわ!」
ごめんなさい、シンシアさん……心の中で謝りつつ、そう反論した。
「ですが……そもそも『水着審査』は、殿方の支持を得るためではなく、お尻に『奴隷の印』が付いていないのを証明するためであって……」
シンシアさんの言葉には、色々複雑な心境がこもってる感じだ。声もこもってるけど。
「ですが、こんなブカブカの大きな水着では……殿方の不評を買って、『選挙』でクリムソルダさんの得票数に影響が出てしまいますわ」
男どもは大きなお胸を注視して、それ以外のとこは無視されるかも? だけど。
「ふわふわふわー」
クリムソルダ嬢が、まるで他人事のように呑気だ。また大あくびだ。
「競争相手が不利になれば、自分に有利になるんじゃないの? あんた、本気で『選挙』やる気あんの?」
アナベル嬢から突っ込まれた。
うーむ。ここで俺が「落選」狙いで『巫女選挙』に出るとは言えないよな。
「いいえ。あたくしは、他人を貶めたり、相手が不利になるような事をしてまで、勝ちたいとは思わないだけですわ!」
「……そうですね。私が間違っていました。ヨハンナさんの言う通りです」
ああ、そんなつもりで言ったんじゃないんですう。
ごめんなさい、シンシアさぁあん。
「次善の策ではいけませんね。常に最善を求めないと……私の『黒幕』さん!」
え? シンシアさんは黒髪の美少女だけど……黒幕無いよ。俺の「レーザー脱毛」で。
「はい。なんでしょう?」
「あい?」
ああ、ミーヨを呼んだのか?
ついでにセシリアも返事してるけど……二人ともシンシアさんの『黒幕(『巫女選挙』のお手伝い)』だもんな。『黒幕』って、トラブル防止のために、名前や素顔を明かさないんだった。
てか、俺は一瞬,何を想像してしまったんだ?
ごめんなさい、シンシアさぁぁぁあああん。
「……ぼそぼそ(ジンさんとは、連絡がつきませんか?)」
俺?
いるよ。ここに。
今ちょっと女体化はしてるけれども。
「うー……ジ、ジンくん?」
ミーヨが狼狽えてる。
マズい。ボロを出す前兆だ。
「あ、あのー、あたくしにお任せいただければ……そのくらいのハミ出しなら、すぐにツルッツルにして差し上げられますわよ!」
仕方なく、俺は言った。
「「「「「……マジで!?」」」」」
みんな凄い食いつきだ。
◆
重要なポイントは人それぞれ――まる。




