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面倒くさがり屋の異世界転生  作者: 自由人
第5章 交易都市ソレイユ
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第83話 初めての見張り

 あれから他愛のない話を続けながらも歩き続け、夕日が差し迫ったということもあり、そろそろ野営の準備に取り掛かることとなった。


「今日はここで野営するか。ケンはテント買ってきたか?」


「はい。ニーナさんが選んでくれた上に、パーティー入りと冒険のお祝いとしてプレゼントしてくれました」


「ニーナも太っ腹だな」


「問題ない」


「それならテントは今まで通りで使えそうだね」


「その必要はない。4人用を買った」


 ニーナの言ったテントの使用人数を聞いて、ロイドは聞き返した。


「4人用?」


「ケンとティナと私で4人用」


「ニーナ、グッジョブよ!」


 ニーナの思い切りに、苦笑いを浮かべるロイドであったが、ティナはニーナの働きを賞賛した。


「仲のよろしいことで。それなら、見張りはこっちとそっちの2組で分けるか」


「それだと見張り時間が多くならないかい? 僕たちは慣れてるから平気だけど、ケンには辛いんじゃないかな?」


「それもそうだが……」


「俺なら平気ですよ」


 前世で社畜をしていたケンにとっては、睡眠時間が削れることなど何とも思わなかった。むしろちゃんと睡眠できることの方が、不思議と思えるくらいには毒されていた。


「本当に大丈夫か? 見張りは慣れていないと辛いぞ」


「大丈夫です。どっちみち野営は初めてで、興奮して中々寝付けないと思いますので」


 前世のことを語るわけにもいかず、ケンは適当に誤魔化すことにしたのだった。


「そういうことなら、ケンたちを先に見張りにつけるか。やっと寝付けたところで起こすのも悪いしな」


「そうしようか。僕たちが先に休んで、夜中に交代としよう」


 見張りの話も無事にまとまり、火元を挟んで向かい同士でテントを張ることになった。


 4人用のテントを収納から出すと、ロイドさんに教えてもらいながら無事に組み立てることができた。出来上がったテントは思いのほか大きくて、中は広々とした感じの箱型タイプになっている。


 テントを組み立てている間に、ティナさんとニーナさんは薪を探しに森に入って行ったようだ。


 ガルフさんは自分たちのテントを1人で組み立てていた。やはり大人と子供の違いで、1人でも楽に組み上げていた。こちらは基本的な三角タイプだった。


 テントを組み上げたあとは、することがなかったので、竈の作製に取り掛かった。土魔法を使い簡易的な竈を作ると、ロイドさんに喜ばれた。


 やはり器用なロイドさんが料理担当であったらしい。他の3人も作れるのは作れるが、肉を焼いて塩をかけるぐらいのレベルで、ロイドさんからしたらそれは料理とは言えないそうだ。


 その時に女性2人は「これも立派な料理!」と反発したそうだが、安易にその光景が想像できてしまい笑ってしまった。


 そんな話をしていると、女性2人が戻ってきて薪に火をくべた。戻ってきた2人は竈が出来ていることに驚いて、ニーナさんは土魔法が使えるので作り方を教えて欲しいと迫られ、教えることにした。


 ロイドさんが料理を作っている間、ニーナさんと俺は支障のない場所で竈作りの鍛錬を重ねていた。


 細かい作業は【魔力操作】のスキルが必要で、聞いてみたらニーナさんは持っていなかった。その時にまた「ズルい」と言われて、苦笑いするしかなかった。


 夕食を食べ終わると、ガルフさんたちは少しでも睡眠時間を確保するために、まだ寝るには早い時間だがテントに入っていった。いつでも休めるようにするのは冒険者の嗜みらしい。


 そんな中、竈の火が絶えないように気をつけながら、3人で他愛のない話をする。


「ケン君は、探知スキルを今も使っているの?」


「はい。街中ではないので使ってます」


「それなら安心ね。本来は魔物の気配を探り続けるから、意外と神経を使って疲れちゃうのよ」


「楽ちん」


「やはり気を張ってしまうから疲れるんですね」


「そうなの。だから、あの2人はさっさと寝たのよ。身体が持たなくなっちゃうから」


「今まではどうしてたんですか?」


「1人で見張り」


「心細くないですか?」


「最初だけ。あとは慣れる」


「今回、1人配置にならなかったのは、俺がいるからですかね?」


「そうね。ケン君が慣れたら1人配置で組んで、ケン君は誰かと一緒のペアになると思うよ」


「それでも、俺は誰かと一緒になるんですね」


「そこは仕方ないよ。経験の差が出てしまうから」


「ケン1人だと、何かあっても1人でやりそうで危ない」


「あはは……理解されすぎてバレてますね」


「もう、ケン君が強いのはわかるけど、パーティーなんだから、1人でやっちゃダメだよ」


「パーティーは助け合い」


 タミアに来るまでは1人でやっていたために、中々他の人を頼るということに慣れなくて、1人でやってしまおうとするのだが、今回はいい機会だと思い、他の人にも頼ることが出来るように心掛けるようにした。


「今更ながら不思議よねぇ。初めて会った時は、こうなるとは思わなかったわ」


「何がですか?」


「ケン君とこうしてパーティーを組んで、旅をすることよ」


「同意」


「確かにそうですねぇ。あの時は、ティナさんが母親と嫁宣言しましたからね。ビックリしましたよ」


「私もビックリしたわよ。気づいたら言葉にしてたんだもの」


「ほぼ勢い」


「確かに……今思えばそうかも知れないわね」


「同情的な部分も、過分にあったと思いますよ」


「確かにね。ケン君の境遇を聞かなかったら、感じのいい子で終わってたかも知れないわね」


「それはある」


「だけどね、私は後悔してないよ。始まりは、同情的な部分もあったかも知れないけど、今では純粋にケン君が好きだから」


 そう言って薪をくべるティナさんの横顔は、とても素敵に見えた。


「私も好き」


 そう言うニーナさんに、ふと疑問に思ったことを口にした。


「そういえば、ニーナさんはいつ好きになったんですか?」


「ケンの初討伐のとき。剣術がカッコよかった。毒マジロに魔法を使った時は完全に堕ちた」


「あぁ、あの時ですか」


「あの時のケン君はカッコよかったわよねぇ。消えたかと思ったら倒してるんだもの。特にあの血を払う姿! 様になってたなぁ」


「むしろそこしか見れなかった」


「そうよねぇ。速すぎて見えないのよねぇ」


「その点、魔法の時はしっかり見えた」


「いつ詠唱するのかと思ってたら、しないんだもの。ビックリしたわ」


「反則級」


「そのうちニーナさんも出来ますよ」


「頑張る!」


 拳を握りしめ決意を語るニーナさんにも、いつか【詠唱省略】を成功させる時がくればいいなと思ったのだった。


 その後も他愛ない話を続けていたら、交代の時間がやってきて、ガルフさんたちを起こした。


 ガルフさんに何も問題がないことと、今のところ近くに魔物は探知出来ないことを伝えると、見張りを交代してテントに入った。


 テントの中はやはり広くて快適に過ごせそうだと思ったが、ニーナさんがいるのでどうしても落ち着かなくなる。


「やっぱり4人用だと広いわね」


「狭苦しくなくていい」


「そこはこれを選んだニーナに感謝ね」


「ケンと一緒に寝たかった」


「やっぱりね。宿屋だと私と一緒の部屋だったしね」


「ティナはずるい」


「次、宿屋に泊まる時は、3人部屋にすればいいじゃない」


 その会話を聞いて、今後はずっと3人で寝ることになるのかと思うと、ケンは先行き不安になるのであった。


 2人が会話を楽しんでいる間に、防具を外しラフな格好になった。今日は剣も使ってないし、手入れは不要だろう。


「ケン君、こっち来て」


「何ですか?」


「防具外すの手伝って」


 そんなハニートラップには、引っかかるまいとケンは言葉を返した。


「いつも1人でやってるでしょ。騙されませんよ」


「けちー」


「私も手伝って」


「いやいや、ニーナさんは脱ぐだけでしょ。そもそも防具を付けてないんだから」


 ティナさんに釣られてか、ニーナさんが暴走し始めていた。そんな事を思っていたら、少し移動したティナさんが、いつも通り目の前で着替え出した。


 慌てて後ろを振り向くが、振り向いた先にはニーナさんが着替えていた。絶体絶命のピンチだ。


 ティナさんはわかっててやっているので問題ないが、ニーナさんには素直に怒られようと覚悟を決めたら、思いもよらぬ出来事が起きた。


 ニーナさんがこともあろうか、服を脱いだままの裸の状態で抱きついてきたのだ。


「ちょ――!」


「気持ちいい?」


 何が起こっているのか、頭が混乱し過ぎてパニック状態だ。そんな状態の俺に追い討ちをかけるように、後ろから更に抱きつかれた。


「ケン君、気持ちいい? 今日は初日を頑張ったご褒美だよ」


「ん。ご褒美」


 いったいいつの間に話を示し合わせたのか謎だが、もしやティナさんが少し移動して着替えだしたのは、振り返った先にニーナさんが来るように誘導した……? これが孔明の罠か!


 巧妙な罠にハマってしまった俺は、この2人に対して、抵抗など無意味なのだと思い知らされた。


「いつ話し合ったんですか?」


 その質問には、後ろから抱きついているティナさんが答えた。


「薪を拾いに行った時よ。ちょうど2人っきりだったしね」


 すると目の前のニーナさんも答える。


「恥ずかしかったけど勇気出した」


 顔を覗きこむと、頬が赤らんでるようであった。


「実はね、ケン君がおっぱい大好きなのは、ニーナも知ってるのよ」


「ティナさんがバラしたんですか?」


「違う。最初から知っていた」


「最初から?」


「視線がティナの胸を追っていた」


(Nooooh!)


 何故だ! 再び黒歴史を作ることになってしまったのか! ティナさんに言われた時もショックだったが、まだ明るく陽気に振る舞ってくる分、救いがあった……


 しかし、いつも大人しいニーナさんに言われると、堪えるものがある上に、心にグサッとくる。


 抑揚のない声で言葉数が少ない分、余計にダメージが入るのだ。一部界隈では「ご褒美です!」とか言われそうだ。


「お恥ずかしいかぎりです」


 とりあえず否定せずに肯定しておこう。もう、これしか思いつかない……


「別にいい。ケンのこと好きだから、問題ない」


「そうよ。ケン君だから抱きついたり、見せつけたりするのよ」


「何故なんでしょう?」


「私たちはケン君のことが好きだからよ。それに、慌てる姿が可愛いからね。ケン君はすぐ顔に出るから」


 何っ!? ポーカーフェイスが出来ていないのか!? 自分では冷静に対処出来ていると思ったのに……


 これが世間一般で言う、手のひらで転がされる感覚か!


「さ、今日はゆっくり3人で寝ましょ。もちろんケン君は真ん中ね」


「あの……拒否権は……?」


「ケン君は、私たちと寝るのが嫌なの?」


「いえ、そういうわけでは……」


「なら問題ないわね。今日はニーナの方を向いて寝てね」


 それからティナさんは、テキパキと毛布を出しては、寝床の準備をせっせとしている。


 その間、俺はニーナさんに抱きつかれたままだ。向き合っている分、かなり恥ずかしいのだが。


「できたわ」


 俺は、ニーナさんに手を引かれて寝床に入った。ニーナさんの方を向くのは恥ずかし過ぎるので、天井を眺めることにする。


 野営用といっても、そこまで毛布の質は悪くないようだ。適度にフワフワしてて気持ちいい。


「あの……2人ともいい加減、服を着ないんですか?」


「さっきも言ったでしょ? ご褒美よ。ケン君も柔らかい肌触りの方がいいでしょ?」


 その柔らかい感触を腕に感じて、落ち着かないから言ったのですが……


「いや、明日の朝、起こされる時に見られますよ?」


「それなら大丈夫よ。男性冒険者は絶対に、女性冒険者のテントには立ち入らないから。暗黙のルールね。決まりを破った冒険者は、社会的に抹殺されるわ。それにテントの外から声をかけられるから平気よ」


 社会的に抹殺!? 何それ、怖い……


「耐えれそうにないのですが……」


「触りたくなったら触っていいわよ? 生ではまだ触ったことないでしょ?」


「我慢しているのに、誘惑しないで下さい」


「我慢しなくてもいいのに」


 この流れはよくない。絶対にティナさんが仕掛けてくるパターンだ。ニーナさんは静かだけど、もう寝たんだろうか? 俺もニーナさんに倣って寝るとしよう。


「それでは、おやすみなさい」


「おやすみ、ケン君」


「おやすみ、ケン」


 あ、ニーナさん起きてたんだ。静かだからてっきり寝てると思ってた。恥ずかしいって言ってたし、照れて喋れなくなったんだろう。


 ……うん、予想通りティナさんが、イタズラを仕掛けてきたな……



◆ ◇ ◆ ◇ ◆



 それからしばらく乳くりあって会話を楽しんだあとは、明日に備えて寝ることになった。


「ケン君、おやすみのキスして?」


 キスをねだるティナさんに、右手をニーナさんから抜き、体勢を変えてティナさんに覆い被さると、顔を近づけて優しく口づけする。


「……」


 唇を離すと、はにかんだ顔のティナさんに言葉をかける。


「おやすみなさい、ティナさん」


 ティナさんにして、ニーナさんにしないわけにもいかず、今度は左手をティナさんから抜き、ニーナさんに覆い被さる。


 ニーナさんは、どこか期待した目をしていたので、ちょっとからかいたくなった。


「ニーナさん、おやすみなさい」


 そのまま、何事もなかったかのように戻ろうとすると、ニーナさんの瞳が潤みだした。


「どうしたんですか?」


「ケンがいじわるする」


「俺は何もしていませんよ?」


「何もしないのがいじわる」


「何かして欲しいんですか?」


 うるうるした瞳でこちらを見つめながら、ニーナさんが答えた。


「……キス……」


「やっぱり可愛いですね、ニーナさんは」


 そのまま顔を近づけて、優しく唇を重ねる。


「……」


 唇を離して様子を窺うと、ニーナさんの瞳から雫がこぼれた。それを指で拭い、優しく問いかけた。


「どうしたんですか?」


「……嬉しい」


「ニーナさんとは初めてのキスですしね。俺も嬉しいです。いじわるしたお詫びにもう1度しますね」


 再び顔を近づけると、少し長めに口づけした。少し目を開けてみると、ニーナさんの瞳からは、ポロポロと涙がこぼれていた。


「……」


 顔を離したあとは、涙で濡れた目元を拭って、ニーナさんの顔を見つめながら声をかけた。


「泣かないでください。可愛い顔が台無しですよ?」


「……ケン、大好き!」


 不意にガバッと抱きつかれて、むにゅっとした感触を感じてしまい、ドキドキしてしまったことは内緒である。


「ケンくーん、ニーナだけずるい。私にも、もう1回して欲しい」


「わかりましたよ」


 それから、ティナさんにもう1度キスをしてから、2人は眠りについた。2人は腕枕より腕抱き枕を選んだみたいで、腕に感じる柔らかな感触が心地よく、中々寝付けなくて苦労した。


 こんなことなら袖なしではなく、袖ありの部屋着にすればよかった。


 悶々とした中、俺はようやく眠りについたのだった……


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