第82話 暴かれる強さ
旅の準備が終わった翌日、ケンたちは朝食を済ませると宿を引き払い、ソレイユに向けて出発した。
タミアからソレイユに向けて辿る道筋には、村や街が幾つかあるが今回はケンの旅の目的のために、街道から外れるコースを取った。村や街だけでなく自然も鑑賞出来るように、ガルフたちが図らったのだ。
街道から大きく外れることもないが、確実に遠回りになるコースである。ケンが野営未経験者ということで、経験を積ませるためにあえて村や街から外れたコースとなっていることも理由の1つである。
「それにしても、今日はどこまで進むか悩みどころだな」
「適度に休憩を挟みつつでいいんじゃないかな?」
「やっぱり水源近くとかがいいんじゃないかしら?」
「行ける所まで行く」
旅の話になると未経験のケンとしては、会話に混ざることも出来ずに、後ろからとぼとぼとついて行くだけであった。
あまりにも暇で、狩りをしながら進みたいのだが、経験者からみれば浅はかな考えなんだろうと思い、言い出せずにいた。
(暇だなぁ……)
そんなことを思いながら、青空を眺めつつも遅れないように歩き、何か暇つぶしが出来ないものかと頭を悩ませていた。
タミアを出てからはガルフとロイドが先頭を歩き、その2人の間の後方をニーナが歩き、その右側をティナが歩いている状態だ。ケンは位置的なバランスを考え、ニーナの左後方を歩いている。
よってさっきのような会話があると、ケンの前側4人で話がまとまり、ケンは手持ち無沙汰になるのだった。
タミアまで来るときの馬車での旅は、子供の一人旅が珍しかったのか、同乗者に声をかけられたりして暇をつぶせていたが、冒険者の旅がここまで暇になるとは露ほどにも思わなかった。
ケンとしては魔物を狩りつつ、次の目的地まで進むという予想を立てていたのだが、実際は安全面を考慮し、魔物とはあまり出会わないような道のりを歩いている。
クエストを受けていた時は、明確な目的と魔物を狩っていたこともあり、歩き続けていても苦にはならなかったのだが、こうも何もないと、冒険者の旅というのも考えものだなと感じるのであった。
時おりマップに表示される魔物のマーカーも、位置が遠すぎるせいで狩りにも行けなかった。
恐らく平原を歩いて景色が変わらないことも、暇に思う要因の1つとなっている。
ボケーッと歩いていたら、ふとティナから声をかけられた。
「ケン君どうしたの? 浮かない顔をして」
「そんな顔をしてました?」
「してたわよ。どうしたの? 何か心配事?」
「いえ、心配事はないです」
「だったらどうしたの?」
ケンは言ってもいいのかどうか悩んでいたら、ニーナからも声をかけられた。
「いつもの元気がない」
「そうね」
そこでガルフからも声をかけられる。
「どうした?」
「ケン君が浮かないのよ」
「旅は始まったばかりだぞ? 何が気になるんだ?」
「ケン、僕たちはパーティーなんだから、遠慮しちゃいけないよ。遠慮してたら、パーティーとは言えないからね」
「まぁ、遠慮の無さすぎるやつは願い下げだがな。ケンは、逆に遠慮し過ぎだ」
笑いながら言うガルフとロイドからの後押しもあって、ようやくケンは思っていたことを口にした。
「あの……魔物が出ないからあまりにも暇で。皆さんが未経験である、俺の安全面を考慮して頂いているのはわかるのですが、こうも何もすることがないと、どうしたものかと考えまして」
「そうかぁ? これが普通じゃないか?」
「そうだね。今までもこういう感じだったよね?」
「ケン君って私たちに会うまでは、今までどれくらいの頻度で魔物を狩っていたの?」
「えぇーと、記憶をなくして冒険者になった時、2日間しかクエストを受けてません」
「2日間? それならタミアにいた時の方が、いっぱい狩ってたよな?」
「矛盾?」
「ニーナ、矛盾ってどうしたの?」
「ケンは王都にいた。そこで冒険者になった」
そこでガルフたちは考え込んだ。どこに矛盾があるのかと……
「ケンは今Cランク」
そこで気づいたのか、真っ先にガルフが声を上げた。
「そうか! 王都で冒険者登録をして、お金を稼がなきゃいけないのに、クエストを受けたのが2日間だから、矛盾しているのか!」
「そうなるとその2日間で、FランクからCランクまで上がったことになるよね?」
「ありえない」
「ねぇ、ケン君。その2日間でいったい何をしたの?」
ティナに質問され、思い出しながらケンは答えた。
「えぇーと、初日はゴブリン20体、ホーンラビット30体、フォレストウルフ10体を2時間弱で倒しましたね。それで、その日のうちにDランクに上がりました」
「「「「……」」」」
ケンの初日に達成した成果に、ガルフたちは呆気に取られて立ち止まった。今までは、何年もかけてFランクからCランクまで、頑張って上がったのだろうと思っていたからだ。
ケンもガルフたちが立ち止まったので、歩くのをやめて同じように立ち止まり、続きを話し始めた。
「それで、2日目はDランクになっていたので、クエストの幅が広がって、オークとゴブリンキングの集落とキラーアントのクエストを受けて、序でに見つけたキラーアントの巣の駆除をやりました」
「「「「……」」」」
「そしたら、思いのほか討伐数が嵩んでしまって、解体場の責任者のライアットさんが大変そうだったんで、その日以降はクエストを受けなかったんです。ゴブリンキングの集落が、クエスト内容と違い大規模だったのと、キラーアントの巣の駆除は予定外だったので、どれだけ討伐したか数えてないですね」
あまりにも突拍子もない話に、ティナは慌てて質問をした。
「ちょ、ちょっと待って、ケン君。それを全部ソロでしたの?」
「はい。さすがに2日目は数が多かったので、1日がかりでしたけど。前も言ったと思いますが、子供と組んでくれる大人の冒険者はいませんので、1人でクエストを受けていました。それで、その報酬を受け取りに行った時にCランクに上がったんです」
「ケン、ゴブリンキングの集落は、パーティー推奨クエストだ。それがクエストと違って大規模だったんだよな?」
「はい。ギルドマスターにも謝られちゃいました」
「いったいどんだけ居たんだ?」
「ゴブリン、ゴブリンメイジ、ゴブリンナイト、ゴブリンジェネラル、ゴブリンキングで、王国を築いていましたね。ゴブリンキングは玉座に座っていたんですよ。人語も話していたし、数は把握してないですね。全部討伐して買い取ってもらったので」
「……」
ゴブリンキングの集落の規模を聞いたガルフは、片手を額に当て天を仰いだ。
「僕からも質問いいかな? 確か、キラーアントの巣の駆除はBランククエストで、複数パーティー推奨だったはずだけど」
「そうらしいですね。その時は巣の調査が終わってなくて、クエストが発行されていなかったんですよ。だから複数パーティーが、どのくらい必要かもわからなかったんですけど」
「だいたいどのくらいの巣だったんだい?」
「洞窟に巣を作るって聞いていたんですけど、実際見てみたら土の中に巣を作ってて、凄い広さだったと思いますよ? 討伐したものを解体場に出したら山のようになりましたから」
「クイーンアントは、どのくらいのサイズだったんだい?」
「十数メートルはあったんじゃないんですかね? ゴブリンキングが小さく見えましたので」
「……」
巣の駆除の詳細を聞いたロイドは、遠くの方を見つめて現実逃避した。
「ケン君、どんだけありえないことしたかわかってる?」
「サーシャさんにも、怒られちゃいましたしね」
「サーシャ?」
聞き慣れない人の名前に、ニーナがピクっと反応した。
「ギルドの受付嬢です。冒険者登録の時から、お世話になってるんですよ」
「他には?」
「他とは?」
「他にも受付嬢はいるはず」
「他の受付嬢は知りませんよ。ギルドで知っているのは、ギルドマスターのカーバインさんと、解体場の責任者のライアットさんと、受付嬢のサーシャさんだけですから」
「専属?」
「専属ではないですけど、その人たちとしか、日常的な会話をしてないんです」
「ライバル1人確定」
タミアの前に王都で、年上の女性と知り合っていたことに、ニーナはブツブツと深い思考に潜り込んだ。
「ケン君、もしかして、私たちが思っている以上に強いんじゃないの?」
「どうなんでしょうか? よくわかりません」
そこで天を仰いでいたガルフが復活した。
「そういえば、マジックポーチを持ってないのに、どうやってそれだけの数を運んだんだ?」
「あぁ、それはアイテムボックスを使って。ライアットさんが珍しいものだと言うから、他の人には隠していたんですよ。それで、代わりになるような、大容量のマジックポーチが欲しかったんです」
「それでか……でもアイテムボックスなら、割と使ってるやつはいるぞ」
「はい。ティナさんにバレた時に教わりましたので」
「あぁ、ティナと一緒の部屋だったしな。隠し通せるわけないか。それにしても、魔力量が凄いんだろうな。それだけの討伐数を収納出来るなら」
「そうですね。まだ一杯になった事がないですから」
それに反応したのは、ニーナだった。
「ケン、魔法はどれだけ扱える?」
「どれだけの意味がわかりません」
「……属性は?」
「属性?」
言葉足らずなニーナの問いに、ケンが困っているのを見かねて、ティナが代わりに質問する。
「ニーナが言いたいのはね、ケン君はどの属性を使えるのかってことよ。クエストの時は、ニーナの真似で土属性を使っていたでしょ?」
「そういうことですか……属性って何種類あるんですか?」
「基本的なものだと、【火】【水】【雷】【土】【風】の5属性に、【光】【闇】の2属性があるわ。ちなみに私は【風】と【光】の2属性持ちよ。ケン君は【土】が確定しているでしょ? 他には何かあるの?」
「全部ですね」
「えっ!?」
「今言った属性全部です」
「えぇーと、本当に?」
「はい。昨日一緒に行った教会で、ステータスを確認しているから、間違いないですよ」
ケンの使用出来る魔法系統を知ったニーナは、お返しに自分の系統を教えた。
「私は【火】と【水】と【土】の3属性。ケンはズルい」
「ズルいと言われましても、使えるから仕方ないとしか……」
ここで現実逃避していたロイドが、現実に復帰して助け舟を出した。
「とりあえずケンは、稀に見るオールラウンダーってことでいいんじゃないかな?」
「ケン君の秘密がどんどん明るみに出てくるね。ケン君ばっかり答えても不公平だし、今度教会に寄ったら、私のステータスを見せてあげるね」
「私も見せる」
「いえいえ、ステータスは人に見せるものじゃないですから」
「ケン君は私に興味ないの?」
「それとこれとは話が別と言いますか、ステータスを見たら、全てわかってしまいますので」
「私はケン君になら、全て見られても構わないわよ?」
「私も」
2人の猛攻にタジタジとなるケンであったが、ガルフが要らぬお節介を焼いてしまう。
「まぁ、2人が見せてくれるって言うんだから、見せてもらえばいいじゃねえか。人のステータスなんか見る機会は滅多にねえぞ。冒険者夫婦とかなら見せたりもするだろうがな」
ガルフの言葉に、すかさず反応したのはティナだった。
「私は、ケン君のお嫁さんになるって決めてるから、見てもいいよ」
「私もなる」
「はぁぁ……ガルフさん余計に焚き付けてどうするんですか……」
「ハッハッハッ! まぁ、いいじゃねえか。将来、俺みたいに嫁探しで苦労しなくて済むんだし」
「ケンはモテモテだね」
「ロイドさんまで……」
「よし、立ち話はこのくらいにして、先に進むとするか」
ガルフが締めくくり、スタスタと歩き出したのに釣られ、他のメンバーも歩き出した。
ケンは1人、魔物を狩る話はどこにいったのだろうかと、天を仰ぎながら思った。
「ケンくーん! 遅れてるよー!」
ティナからの呼び掛けに天を仰ぐことをやめ、とりあえず先へと行くメンバーへ追いつくために、急いで歩き出したのだった。




