第38話 ケバブ?
あれから1週間が経過し、新たな行方不明者が出た。何でもこっそりと学院を抜け出して、そのまま行方が分からなくなったそうだ。いよいよもって学院も、厳戒態勢を敷き捜索を始めた。
放課後・休日問わず、教師職は学院周辺の巡回をし、不審な者がいないか探し回っているそうだ。教師ごとに巡回するルートが決まっていて、シフトを決めているようだった。
これにより、新たな被害は防げるだろうと、学院側も安心していたのだが、そんな中でもまた1人、行方不明者が出てしまったのだ。
学院側はかなりの手練が、この事件に関わっていると予測し、1名で巡回していたのを2名1組とし、相互にフォロー出来るように変更した。
『サナ、これはどう見ても裏切り者がいるよな?』
『いますねぇ……巡回しているのにも関わらず、攫う事が出来ていますからね』
『学院長は内部の裏切り者に、気付いているのか?』
『どうでしょう? やり手に見えて実は抜けているとか? 入学前の一件以来、あまり凄そうな人には見ていないですから』
『あぁ……あれな。色々と残念な人だった感じがするな』
『サラ様を笑わせる事が出来る道化師、というイメージが拭えませんね』
『変顔のスペシャリストみたいなもんだったしな』
『現状、放っておいていいと思いますよ。実害がないですから』
『実害ならあるだろ。毎日毎日飽きもせずにつけてきているだろ? かなりウザイぞ、あれは。ストーカーの域だろ。実力行使に出てくれれば捻り潰せるのに、ただ見てるだけだぞ。精神的に参る……』
『傍若無人のマスターに、擦り切れる精神があるとは、新たなる発見です』
『サナ……消すぞ?』
『私が間違っていました! 何卒、海より広大な広きお心でお許しください』
『はぁ、もういっそのこと潰すかな?』
『その時は、バレないように路地裏に誘い込んだ方がいいですね』
『よし、今度放課後につけてきたら決行だ。もしもの時はサポート頼むぞ』
『イエス マイロード』
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
――町外れにある、とある倉庫内
ガラの悪い連中が屯している中で、リーダー格の男が昼間から酒を飲んでいた。
「で、いつも見失っているガキの素性は分かったのか?」
「まだわかりやせん」
下っ端らしき男が答えると、リーダー格の男が怒鳴り散らす。
「ああ? ふざけてんのかテメーは!」
「ひぃっ!」
「今日中に攫ってこい。次しくじったらテメェの命はないと思えよ。1人で無理なら、必要なだけ手下を連れて行け」
「へい! 分かりやした」
下っ端らしき男は、そう言って手下数名を引き連れて倉庫を後にする。
「たったこんだけしか集まってねぇのかよ。計画に遅れが出るじゃねぇか」
目を向けた先には手枷足枷をつけられ、猿轡をされた生徒たちが檻の中に閉じ込められていた。
「んーー!」
「うるせー! 黙ってろ!」
リーダー格の男が空いた酒瓶を檻に投げつけ、苛立ちを顕にする。
「そろそろ貴族にも手を出さないと、予定人数に達しそうにないな。仕方がねぇ、打診してみるか」
そう独り言ちながら、新たな酒瓶に手を出すのであった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
放課後になり、ケビンはいつも通り帰ろうと街中を歩いていると、一定の距離を維持したまま、跡をつけてくる者たちがいた。
『おっ、今日はやる気みたいだぞ』
『そうですね。5名ですか……少なすぎますね』
『普通の子供に5名だったら、過剰戦力だろ?』
『マスターは普通じゃないから、過剰戦力になりませんよ』
『いつもの奴もいるし、これでストレス発散できるな』
『では、路地裏に誘い込みましょう』
『ここから近い所で、戦えそうな場所はあるか?』
『そうですね。戦う広さを求めるなら、スラムに行く道がいいでしょうね』
『まぁ、人気がなくて死体処理も楽そうだしな』
『殺すつもりなんですか?』
『うっかりってのもあるだろ? 基本殺しはしないが相手次第だな』
『良かったです。マスターが無差別な殺人鬼になるかと思いました』
『でも、親玉を釣るなら殺した方がいいのか? 中途半端にやって隠れられても困るしな』
『やっぱり攫われた生徒を助けるんですね?』
『いや、そいつ等はどうでもいい。あとから、別のヤツが来てネチネチとストーカーされても、ウザイだけだろ?』
そうして話しているうちに、スラムへ続く路地裏へと辿り着く。周りに人気はなく、静まり返った陰湿な場所だった。
『一気に距離を詰めてきたな』
『誘われてるとも知らず馬鹿ですね』
少し開けた場所に出ると、後ろから声をかけられる。
「ちょっといいかな?」
ニヤニヤとした笑みを浮かべながら、ガラの悪い男が歩み寄ってきた。
「何でしょうか?」
「いやね、おじさん達の目的の為に、攫われてくれないかと思ってね」
「嫌ですよ。面倒くさい」
「あまり調子に乗らない方が身のためだよ。痛い思いはしたくないだろ?」
周りにいた連中もニヤニヤとしている。
「どっちにしても嫌ですね。おじさん達臭そうだし。お風呂にちゃんと入ってる? なんか臭うよ?」
その言葉が頭にきたのか、顳顬をピクピクさせながら、ガラの悪い男は声を荒らげた。
「人が下手に出てりゃ調子に乗りやがって、ガキが調子こいてんじゃねぇぞ!」
「いきなり怒り出すなんて、図星ですか? 嫌ですねぇ、図星を指されて逆ギレだなんて、大人の風上にも置けない」
「ふざけやがって、手足の1、2本は使えなくして連れて帰るぞ!」
戦闘態勢に入った下っ端共が殴りかかってきたので、それを難なく躱して逆に足を引っ掛ける。
「ずべらっ!」
見事な顔面ダイブで地面を舐めていく男A。
「ぷぷぷっ! 『ずべらっ!』って、某世紀末の雑魚キャラですか? どうせなら、ひ○ぶっ! って言って欲しかったなぁ」
『マスター、こいつらにネタを振っても理解しませんよ?』
「何言ってやがる! お前ら、もたもたしてねぇでやれ!」
『ほらね』
「遊び心の分からない人は、いい大人になれませんよ? というか、人攫いしている時点で、いい大人じゃなくなってますけど」
次から次に殴りかかってくる下っ端共に対し、足を引っ掛け転ばしていく。
「もげらっ!」「ちょげらっ!」「ぶびらっ!」
「はははははっ! マジで雑魚キャラじゃん! 残るはお前だけなんだが? 早く殴りかかってこいよ。お前は何て言ってコケるんだろうな?」
「てめぇ、ただのガキじゃねーな。俺をそこら辺に転がっている奴らと同じと思うなよ。これでも昔は冒険者として名を馳せていたんだぜ」
「前口上はいいからさっさと来いよ。弱い犬ほどよく吠える」
「死に晒せやっ!」
「ほいっ!」
「けばぶっ!」
盛大に転んだ自称冒険者は、建物にぶつかりようやく止まった。
「ぶっ! ……はははははっ! けばぶ……けばぶって! 肉料理かよ、お前は! はははははっ! けばぶ…ぶふっ! けばぶーっ! はははははっ! あー腹いてぇ!」
『ツボり過ぎですよ』
『だって、けばぶだぞ! けばぶ! ぶふっ!』
「おい、ふっ……お前は誰の……ふふっ……め、命令で、……ふふふっ、はははははっ! マジ無理! ちょ、腹がねじ切れそう!」
『マスター、幸せですね……』
暫くケビンの笑いが止まらず、全然会話が進まないのだった。人気のない路地裏で笑い声だけが響きわたり、後に《黄昏の道化師》として尾鰭がつき、噂だけが広まり情操教育の一環として使われるのだった。
~ 良い子にしていないと《黄昏の道化師》に攫われるよ。 ~
そんな事になっているのは、当の本人であるケビンには知る由もなく、後に情操教育の話を聞き『異世界の情操教育にも、日本と同じでそんなのがあるんだなー』程度にしか感じていなかった。
ひとしきり笑ったあと、漸くケビンが落ち着きを取り戻したら、コケていた下っ端連中も体勢を立て直していた。
「それで聞きたいんだけど、最近人攫いしているのはあんたらか?」
「お前に教える義理はねぇな。さっきはガキと思って油断したが、今度はそうはいかねぇぞ。お前らも用心してかかれ」
先程とは打って変わって、ニヤニヤした顔つきではなく、真面目な顔つきになっていた。人攫いが真面目なのも変ではあるが。
「武器を使っても構わねぇ、多少傷が残っても使えれば問題ない。死なない程度に痛めつけてやれ」
下っ端連中が武器を構え始める。
「斬ってもいいのは、斬られる覚悟のある奴だけだ」
『今日はテンション高いですね。そんなにストレスが溜まってたんですか?』
『甚振り尽くすくらいにはな。徹夜を3日続けたぐらいのテンションだ。ネタに走りまくるぞ』
『よしなに』
「さぁ来い! 俺を楽しませろよ」
禿頭の男が斬り掛かってくるが、剣筋から見るにそこまでスキルレベルは高くなさそうだ。ここは難なく躱しておく。
「先ずはお前からか……」
「俺からじゃなくて、俺で最後だ。丸腰のガキが、武器を持った俺たちに敵うわけないだろ」
「愚かなる者には、沈黙にまさるものなし」
『ちょっと知的でカッコイイですね』
『だろ? 良い感じに真理を表現出来ているよな』
「くらえっ! 糞ガキが!」
上段から振り下ろされた剣を躱し、軽くボディブローを当てる。
「ぐふぉっ!」
「おじさん、俺が糞ガキならあんたは糞ジジイだね。あーヤダヤダ、歳は取りたくないねぇ」
「舐めやがって……」
「事実、舐めてるんだからしょうがないだろ? 舐められたくないならもっと鍛えなよ。はっきり言って弱すぎるよ」
『マスター、離れる人影が一人』
『大方、仲間を増やすんだろ? 願ったり叶ったりじゃないか』
「おいっ! お前ぇら纏めてかかれ。1人で相手にするな」
「「「へいっ!」」」
3人がかりで剣を振るってきたが、紙一重で躱していく。
『マスター、もっと余裕もって躱したらどうですか? 傷でも残したらサラ様が暴れますよ?』
『当たらなければどうということはない!』
それからも続く敵からの攻撃を、のらりくらりと躱していきながら、ケビンは増援が来るのを待つのであった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
――街外れの倉庫
(バタンッ!)
勢いよく開かれたドアに、皆が注目する。
「ぜぇぜぇ……おい、みんな応援に来てくれ! やられそうなんだ!」
「てめぇ、まさか警邏に見つかって、しくじったんじゃねぇだろうな?」
リーダー格の男が、凄みをきかせながら問いただす。
「ち、違います! ガキが思いの外、腕のたつ奴だったみたいで、素手じゃどうしようもないんです。商品に傷をつけるわけにもいかないので、囲い込む人数を増やそうと思って」
「そういう事か……偶にいやがるからな、訓練大好きなガキが。ちっ、しょうがねぇ、お前ら全員行ってこい。必ずガキを連れてこいよ」
「わかりやした」
ぞろぞろとガラの悪い大人たちが倉庫を後にした。
「大人が素手で敵わないガキか……いい値で買い取ってくれそうだな」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
――路地裏
『マスター、10人ほど此方に来る気配があります』
『漸くご到着か』
「ぜぇぜぇ……」
「もうお終いか? もうすぐお仲間が到着するから、それまではねばってくれよ。暇になるだろ?」
そこには額から汗を流し、肩で息をしている下っ端共がいた。いくら斬り掛かろうとも、避けられて無駄に体力ばかり奪われていたのだ。
「お前、仲間を呼びに行ったのに気づいていたのか?」
「あたり前田のクラッカー!」
『……それは流石に古いですよ……死語判定受けてるんじゃないですか?』
『……』
「相変わらず訳の分からないことをほざきやがる」
「わざと見逃してやったんだよ。ありがたく思え。お前らじゃ今までに溜まったストレスが発散できないからな。主に弱すぎて」
「でかい口が叩けるのも今のうちだ。仲間が来ればお前は手も足も出ないぞ。俺よりも強い奴はまだまだいるからな」
「今から来る10人の中にそいつはいるのか?」
「なっ!」
自称冒険者のやつが驚きに声を上げる。倉庫内で待機していた仲間たちは、リーダーを除けば10人だったからだ。
恐らく全員連れてくると予想はしていたが、組織の事を何も知らない子供に人数を言い当てられて、動揺を隠せないでいた。
「何故、人数を知っている?」
「そんなもん気配探知で分かるだろうが。お前、馬鹿か?」
「くっ!」
(不味いぞ。気配探知が使えるのか!? それなら、今までつけていた事もバレてるって事だ……もしかして、ハメられた!?)
「まさかお前、今頃になって自分達が、ハメられたことに気付いたのか? 頭悪すぎだろ?」
「俺達をハメるって事は……誰に雇われた? 学院の制服を着てるってことは学院か?」
「はぁ? 雇われてるわけないだろ。正真正銘、現役の学院生だよ」
「なら学院の仲間を救う為に、正義のヒーロー気取りか?」
「それも違う。攫われた奴らなんてどうでもいい」
「では何がお前をそこまで駆り立てる?」
「お前が執拗くつけてきたから、ストレス溜まってんだよ。早い話が憂さ晴らし」
「なんだとっ!?」
「最初は雑魚だから放っておいたんだけどな、毎日毎日ストーカーされるこっちの身にもなれってんだよ。ストレスがうなぎ登りだぞ」
「そんな事で……」
「お前にとってはそんな事でも、こっちにとっては、そんな事じゃ終わらせられないんだよ。と、来たな……」
自称冒険者と会話をしている間に、仲間の増援が到着したようだ。ちょうど俺を挟み込むような位置取りで、後ろにぞろぞろと現れだした。




