第35話 日常
闘技大会も無事に終わり、学院もいつもと変わらぬ日常へと戻っていった。ケビンも相変わらずダラダラと過ごし、変わらぬ日常を満喫しようとしていたのだが、変わった事が1つだけあった。
「それでは、午前の授業はここまでです」
チャイムがなるとジュディさんから終了の言葉が出る。この言葉と同時にケビンは隠蔽系スキルをフル稼働させた。
その瞬間、クラスの誰からも認識されず安全を確保したかに思えたが、いつもの如く徒労に終わるのだった。
(ガラッ)
教室のドアを開け放ち現れたのは、何を隠そうケビンの姉であるシーラだった。その後方には、ターニャもいた。
「ケビン、お昼ご飯を食べるわよ」
そう言い放ち教室内に入って来るが、当の本人は逃げるために、コソコソと背を低くして見つからないように移動を開始していた。
「シーラ、ケビン君は居ないようですわよ」
「いや、いるわ! お姉ちゃんセンサーがビンビンに感じているもの」
「何ですのそれは? ケビン君が絡むとなると、貴女の威厳も無きに等しいですわね」
「そんなもの、そこら辺のモンスターにでも食わせておけばいいのよ」
そう言って教室を見渡すシーラに対して、是が非でも見つかりたくないケビンは、息を潜ませつつ移動を進めるのだった。
あと少しでドアに差し掛かろうとした瞬間、謎のお姉ちゃんセンサーにキャッチされてしまう。
「いたわっ! ケビン、お昼に行くわよ」
何故だ!? 何故いつも発見されてしまう? 隠蔽系スキルは確かに機能しているはずだ。現にターニャさんには効いていた。
「や、やあ、姉さん。今日も来たの?」
見つかってしまえば、大して意味のないスキルは解除して、シーラに受け答えする。いきなりドア近くに現れたケビンに、周りは吃驚するのだが、今は構っている暇はない。
「あら、ケビン君はそんな所にいましたの? 気づきませんでしたわ」
「その反応が正常なんですよ、ターニャさん。隠蔽系スキル全開なのに見つけられる方がおかしいんです」
「貴方も大変ですのね」
「お互い苦労しますね」
1人の人間に振り回されるという境遇を共感し、仲間意識が自然と芽生えるのであった。
「何2人でわかりあってるのよ。ほら、行くわよ」
「ちなみに拒否権は?」
「え? ケビンはお姉ちゃんと一緒にいたくないの?」
今にも泣きだしそうな顔である。だが、心を鬼にして言うしかない。
「偶には一人になりたい事だってあるし。ゆっくり過ごしたいから」
「う……」
「う?」
「うわーん。ケビンに嫌われたぁ」
ターニャに抱きつき泣き始めるシーラに、その光景を見てたじろぐケビン。周りからはヒソヒソと話し声まで聞こえてくる。
(おい、あの氷帝が泣いているぞ)
(完全無敗の女帝が負けた……だと!?)
(氷帝を泣かすなんて、ケビン君は何者なの?)
「はぁ、仕方ないですわね。とりあえずケビン君、お昼に行きますわよ」
「あ、はい。ターニャさん」
(何者なんだ!? あの氷帝を負かしたケビン君を従えているぞ)
(彼女が真の支配者なのか!?)
(お姉さま……ぽっ)
若干1名変なのが混じっていたが、その場に留まっていては、何を言われ続けるかわかったものではないので、ターニャの提案に素直に従ったのだが、裏目に出たようだ。
1人ぐずる姉を引き連れて、ケビンたちは教室を後にする。
「ぐすっ……」
「いい加減泣きやみなさいな。ケビン君が困っているでしょう」
「だって、ケビンが拒否するって……」
「仕方ないですわね。ケビン君、手を繋いで下さるかしら」
そう言われたので、ターニャさんの手を握る。
「いや、私じゃないですわ」
ん? 違ったのか? ターニャさんの顔を見上げてみるが違うらしい。
(なんていう破壊力なのかしら。首を傾げてそんな無垢な目で見られてはたまりませんわ。シーラが没頭するのも頷けますわね)
「ま、まぁ、この手はそのままでいいですわ。反対の手でシーラの手を握って下さる?」
そういう事か……反対の手で今度は姉さんの手を握る。すると、ピクっと反応したので、声をかけてみる。
「姉さん、もう泣き止んだ?」
ケビンの問いに、満面の笑みでシーラが答える。
「ケビンの愛で私復活!!」
(いや、愛はないけど……)
「本当に手のかかる人ですわね。それじゃあ、お昼に行きますわよ」
「ねぇ……ターニャはどうしてケビンと手を繋いでいるの?」
「た、たまたまですわ」
「俺から繋いだんだよ。姉さんだって繋いでいるだろ。仲間外れは良くない」
「ケビンが言うなら仕方ないわね」
(ふぅ、何とか誤魔化せましたわ。まさか、ケビン君の上目遣いにキュンとしたなんて、口が裂けても言えませんわね)
それから、3人はカフェテリアへと向かうのだった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
3人が立ち去ったあとの通路では……
(今日もケビン君とお話ができなかった……)
柱の陰から1人の女性が様子を窺いながら、三人のやり取りを見ていた。何を隠そうクリス本人である。
傍から見たら、ただの変質者と疑われる勢いだが、学院の制服を着ているおかげで、変な人がいるなぁぐらいにしか思われていなかった。
氷帝がいつも会いに来ているので、中々ケビンに声が掛けられないでいた。ケビン自体は既にクリスが来ているのは、気配察知で理解していたが、面倒なので気づかないふりを続けていた。
そんなことも露知らず、ここのところは毎日通っているが、柱の陰から見守る程度で終わっていた。
本人にとっては至って真面目なのだが、周りにいるのは初等部の1年である。
後に《柱女》と不名誉な渾名が、ついたとかつかなかったとか。この時のクリスはまだ知らない……




