第19話 帰宅
元の闘技場へ戻ると、何食わぬ顔して試験官の所へ集合する。魔法組はまだ試験中のようだ。すると、意外にも早く戻って来た俺達が不思議だったのか試験官から質問された。
「早かったですね。何かあったのですか?」
「特に何もありませんよ。担当官が一人一人相手にするのが面倒くさいと言って、纏めて試験を見てくれたのですよ」
「纏めて? 一人一人評価する決まりだったはずですが、やはり臨時雇いの冒険者では、ダメだったのでしょうか。ちゃんと評価してくれていたらいいのですけど」
「そんな決まりがあったんですね。結構、自由に振る舞ってましたよ」
「剣戟になると動いてる者同士、不足の事態に陥りやすいのです。それに、纏めて見ていたら評価しづらいでしょう? 初めて会った人を事細かに覚えていられないですし。だから、一人一人相手にする様になっているのです。それにしても、自由にし過ぎですね……学院長に後で報告をしなければ」
そんな会話をしつつも、今試験中の受験者達に評価を下していくため、評価表みたいなものにペンを走らせていく。
魔法組の試験も終わると、試験官から話しかけられる。
「それにしても、君は服が汚れていないようですが、健闘出来なかったのですか?」
「そんなものですね。やはりまだ未熟だったのでしょう」
格下相手の勝負で一方的だったから、健闘はしていない。嘘は言ってないはずだ。
「そうですか。また来年頑張ってください。ところで、担当官は?」
「向こうの闘技場で休んでいますよ」
これも嘘は言ってないはずだ。動けなくて休んでいるはずだしな。
「自由にされるのもここまでくると……やはり学院長に報告して、担当官を変えて頂きましょう」
なんだ、人事は変えれるのか。今後の試験者の事も考えて、それがいいだろう。どっちみち、あいつはもう使い物にならないが。
「その方がいいでしょうね。私としても困惑する事ばかりでしたから」
「やはり、冒険者を雇う場合は事前に面接をすべきですね。人となりを知ると知らないとでは、全然違いますし」
面接してねぇのかよ。どんだけ適当なんだよ。
「それは、是非ともそうして下さい。最低でも、あのような担当官が雇われることのないように」
「そうですね。しかし、あなたと話していると、とても5歳児と話をしているとは思えませんね。同僚と話しているようです」
「恥ずかしながら、よく言われます。年相応ではないと」
「ふふっ、面白い子供ですね。では、皆さん、今日の試験はこれで終了となります。結果は、後日追って知らせますので、楽しみに待っていてください」
その言葉を皮切りに、次々と受験者たちは帰路へとつくのであった。俺ものんびりと帰ることにしよう。
その後、学院長に報告を済ませた試験官が、担当官を呼びに闘技場へ向かうと、そこで発見された担当官の有り様に、学内は一時大騒ぎとなるのだった。
そんな事が起こっているとは露知らず、夕陽を背にケビンは家に帰りつくのだった。
「ただ今戻りました」
出迎えてくれたのは、マイケルだった。
「お帰りなさいませ、ケビン様。サラ様がリビングにてお待ちです」
「わかりました。リビングへ向かいます」
そのままリビングへ向かうと、優雅にお茶を飲んでいる母さんだけだった。
「おかえりなさい、ケビン」
「ただいま、母さん。今、戻ったよ」
「こっちへいらっしゃい。今日の事を聞きたいわ」
多分、隣に座っても抱きかかえられるのだろうと思い、最初から母さんの膝の上に乗った。
「今日はどんな事があったの? 試験はちゃんと出来た?」
「筆記試験は問題ないと思うんだけど、実技試験はダメかな? 落ちてると思うよ。来年、また頑張るように言われたし」
「あら? そうなの? ケビンなら実技試験は、問題ないと思っていたのだけれど。」
「それが、最初に魔法試験を受けたんだけど、絶対壊れない的を壊しちゃったんだ。壊れないって聞いたから手加減しなかったんだけど。試験官も全力を出しても大丈夫って言ってたし。それでも、全力は出さなかったんだけどね」
「それは、学院の設備が悪いわね。絶対壊れないんでしょ? 壊れた時点で不良品だわ」
やはり母さんはそう答えるよな。あくまで、5歳児が放つ魔法に対しては壊れないって感じだったんだろうけど。
「まぁ、それでみんなが呆然としちゃって、魔法が暴発したって言って誤魔化したんだ。もしかしたら、弁償しなきゃいけないと思って、母さんに謝らなきゃとも思ったし」
「そのくらいいいわよ。ケビンの魔法に耐えられないなんて、たかが知れてるわ。きっと安い的でも揃えていたのよ」
安くはないと思うんだよなぁ。毎年使ってるって言ってたような気がするし。
「で、魔法の暴発って事で処理してもらったんだ。弁償もしなくていいって言われたよ」
「魔法の暴発だと、上手く評価はしてもらえないわね。たまたま暴発先に的があって、当たったって思われるだろうし。その事自体、不思議に思うでしょうけど」
「魔法が暴発したらどうなるの? なった事がないから、誤魔化せるか不安だったんだけど」
「大抵は術者自身の周りに魔力風が起きて大爆発ね。その人の魔力量にもよるでしょうけど。5歳児位だったら、ポンって弾けて終わりよ」
やはり、術者自身に起こるのか。よく納得してくれたな、あの試験官。壊れない的が壊れて慌ててたせいもあるんだろうけど。
「その後は、武術試験だったよ。その担当官が胸くそ悪いやつだったんだ。母さんと同じAランク冒険者だったんだけど、天と地ほどの差があったよ」
「同じランクでも、実力はピンキリだからだと思うわ。お母さんはSランク手前だけど、その人はAランク入口だったんじゃないの?」
「それが、その冒険者はランクアップするのに不正を働いてて、実力が伴ってなかったんだよ。人の達成依頼を奪ったりしてたんだって。代わりに依頼を受けさせたりとか」
「相変わらずそういう事をする輩がいるのね。私が現役の時もいたけど、大抵は三下臭がしてたから、直ぐに分かったわ」
「それは、俺も感じたよ。明らかに人を見下した喋り方をしてたから。あと、スラム上がりらしくて品位もなかったよ」
「そうなのね。でも、スラムの全ての人が、そういう人たちばかりじゃないってことを忘れてはダメよ。中には、真面目に働いてる人もいるのだから」
「わかってるよ。それで、スラムの人を見下したら、最低な人になっちゃうし」
「偉いわね、ケビンは。お母さん、誇りに思うわ」
「それで、その担当官がどうやらストレス発散で、受験者たちをボロボロにしてたんだけどね、俺だけがまだ試験に挑んでないのに気付いて、矛先がこっちに向いたんだよ」
「ケビンだったら楽勝だったでしょう? 私の自慢の子供だから」
「やってみるまでわからなかったけど、戦ってみたら意外と対処できたよ。母さんに比べたらスピードも遅かったし。ただ、パワーだけはあったよ。グレートソードを片手で担いで振り回していたし」
「ありがちな筋肉バカね。グレートソードは、両手で持って初めて真価を発揮するのに。片手持ちは奥の手に使うべきだわ」
母さんの酷評が飛ぶ。まぁ、母さんみたいなスピードタイプに比べたら、パワータイプは格好の的なんだろうけど。
「あっ、それで、母さんに謝らなきゃいけないことがあったんだった」
「何かしら? 今までの話でケビンが悪い事なんて、1つもなかったはずよ?」
「その担当官が、母さんと同じAランクってのも許せなかったんだけど、余りにも人を見下した態度が許せなくて甚振ったんだよね。で、最後に利き手だった右腕を切り飛ばして、そのまま放っておこうかと思ったんだけど、死んだら母さんに迷惑がかかると思って、処置だけはして放置したんだ。もしかしたら、担当官に傷を負わせたって、学院から文句を言われるかもしれないし。ごめんなさい」
「それなら、大丈夫よ。そもそもそんな冒険者を雇った学院側の責任であって、ケビンの責任じゃないわ。それに、試験の大事な時に私の心配をしてくれるなんて、お母さんは嬉しいわ。そんな事になっているんだったら、今頃は学院はパニックでしょうね。不祥事が生徒側に発覚したんだから」
そんな話をしていると、来訪者が来たようだった。




