第18話 いざ、入学試験! ~実技試験編~
その後、元の教室に戻ると、周囲から同情のような哀れみの視線を感じた。そんな視線を浴びるような見当がつかないのだが、何かしたかと思い出していると試験官が教室に入ってきて目が合った。
「これから実技試験だが、精一杯頑張ればまだチャンスはあるぞ」
その一言で、先程の視線の理由が掴めた。周りの人間には、俺がどうやら頑張り虚しく、不合格になると思われているらしい。そりゃ、真っ先に途中退席したからな。
俺にとっては他人がどう思おうと、知ったこっちゃないからどうでも良いのだが、あまり見下されるのは好きではない。同情するなら金をくれって感じだな。
「それでは、これより実技試験会場へ向かう。みな、付いてくるように。実技試験については向こうで担当官から説明があるので、聞き漏らさないように」
その号令と共にゾロゾロと試験官の後をついていく。暫くすると大きな闘技場のような場所へ着いた。なんか、コロッセオみたいな造りだな。闘技大会とかあるのだろうか?
「おう、集まったな。俺がここの担当官を任されている者だ。試験は、武術と魔法に別れて両方が審査項目に入っている。それにより、どちらに適性があるのか判断するからだ。
現段階でお前らはどちらも低レベルな能力しか持たないだろうが、所詮5歳児なんてそんなもんだ。
もし入学する事が出来たら自分に合った力を伸ばしていけよ。苦手な分野を克服しようなんて馬鹿のする事だからな」
なんか、ムカつくな。完全に人を見下した喋り方をしている。あんなのが教師をしていていいのか? 生徒に悪影響だろうに……
そう思った俺は引率していた試験官に尋ねてみる。
「すみません、あの方は教師なのですか? とても指導できるようには見えないのですが」
「彼は冒険者だよ。人手を集めるのにギルドに依頼するんだけど、たまにああいうのが来たりするんだよ。今年はハズレを引かされた感じだね……
それでも、Aランク冒険者らしくてね、不測の事態にも対応できるとして、実力はあるから仕方なく雇っているのさ」
あれで母さんと同じAランク冒険者なのか? 天と地ほどの差じゃないか。同ランクでもピンキリの差があるってことか?
「じゃあ、試験を始めるぞ。魔法組はそこに並んで、的に向かって得意な魔法を放て、当たればラッキーと思えばいい。
武術組は俺が相手をしてやるから、気兼ねなく本気でかかってこい。お前らがどう本気を出したところで、俺が怪我する事はないからな。
それじゃあ、こっちに来てくれ。場所を移さないと魔法の誤発射の餌食になるからな」
そう言うと半数ずつ別れて、武術組はこことは違うどこかへ向かい試験が始まった。魔法組は淡々とこなしているので、こっちの方が早く終わりそうだな。
「それでは、次の組。そこに等間隔で並んで自分の前にある的を狙うようにして下さい。焦らずに自分のペースでいいですから」
魔法組の担当は引率していた試験官だった。ここの担当官があんな奴だったから、この人がとてもいい人に見えてしまう。
受験者たちは思い思いの魔法を使い、的に当たる者、的から逸れてしまう者と様々だった。
魔法組に振り分けられていた俺の番が回ってきたので、とりあえず試験官に聞いてみる。
「あの的を魔法で壊せばいいのですか?」
「それは、無理ですね。あの的は、試験期間中はずっと使い回すので、壊れない様に出来ているんですよ。だから、安心して全力で撃って構わないですよ」
凄いな……使い回すために壊れない様にするなんて。確かに受験者数が多すぎるから、普通の的だとすぐに壊れて取替えになってしまうからな。
経費削減してその分を臨時の職員募集や食事無料に当てているのかもな。コストパフォーマンスがいいな。
そんな事を考えていると、試験官にふと声をかけられる。
「もしかして魔法は苦手ですか? 先程から魔法を撃つ素振りが見えないのですが……まぁ、それでも構わないですよ。戦士タイプの素質だと魔法は苦手ですからね」
「すみません、考え事をしていまして。今から、撃ちます」
何の魔法にしようか? どうせなら日頃危なくて鍛錬出来ていない火魔法にするか。使える時に使っとかないと、他の属性とのバランスが悪いからな。
そう思い、的に目掛けて魔法を発動する。
『ボム』
次の瞬間、爆発が起こり砂埃に辺りは包まれた。
「……」
全員の沈黙が痛い……
やがて、砂埃が晴れるとそこには何も無かった……
『おかしい……壊れない的じゃなかったのか? 何も残っていないじゃないか』
これって弁償かな? 修理代高そうだし母さんに謝らないといけないな。
『……はぁ。マスター、やり過ぎですよ。壊れるに決まってるじゃないですか。しかも、【ボム】はマスターが作った魔法でしょ? 普通の人は初級魔法を使うんですよ』
『【ボム】だって大した威力はないだろ? 全力は出してないぞ。逆に手加減もしてないが』
『それでも、作る時に《爆弾》をイメージして魔力を相当注ぎ込んだでしょ! そのせいで最低威力が底上げされているんですよ』
なるほど……最低威力が底上げされてるから、手加減していない状況だと確かにやり過ぎのレベルだな。
「……君、今何したのかな? 魔法使ったのかな? 詠唱とかしてなかったように思えるけど……」
あっ!? 詠唱した方が良かったのか! ヤバイ、どうやって誤魔化そう。
「魔法を使おうとしていたら、先程考えていた事が頭を過りまして、暴発してしまったみたいです。まだまだ未熟ですね」
これで何とか誤魔化せればいいが……
「暴発したにしても威力の説明がつかないんだけど……しかも、暴発したにも関わらず的には当てているし」
くっ! ちゃんと見るとこ見ているな。こんな時はあれだ!
『助けてぇ、サナえも~ん』
『無理』
即、拒否られたぞ! どういうことだ! サポナビじゃないのか?
「まぁ、いいや。問題は、壊れるはずのない物が壊れたということだ。予備はあるのだろうか? 君が最後の組で良かったよ。武術組はまだ時間がかかるだろうし、その間に準備しよう」
「大変、申し訳ありませんでした。必要経費は我が家にご請求下さい」
「そこまで気にしなくていいよ。魔法の暴発は毎年あったりするからね。そのために、武術組は場所を移しているのだし。まぁ、的を壊されたのは、今年が初めてだけど……」
毎年あるのか……やはり未熟という回答は、あながち間違ってはいなかったようだ。
試験官が予備の的の準備とかを済ませている間に、武術組が帰ってきたようである。
皆、服が汚れて疲弊しているな。あんな状態でまともに魔法を使えるのか? そうか、先に武術の方に行ったやつが魔法の暴発を起こしているのか。それで毎年あるって言ってたのか。
「よーし、魔法組は終わってるな。それじゃあ、受験者入れ替えて武術を受ける組のやつはついてこい」
それにつられてゾロゾロと担当官の後をついていく。やっぱりこの人は好きになれそうにないな。
しばらく歩いていると、先程のような闘技場へ着いた。一体いくつ闘技場があるのやら。敷地が広いとやりたい放題だな。
「よーし、お前ら誰からでもいい。かかってこい」
担当官が発したその言葉に、受験者達は困惑する。それもそうだ、いきなり「かかってこい」なんて言われて行くやつなんて、後先考えない馬鹿だけだろう。
「あぁ? 来ねぇのか? 試験は始まっているんだぞ。さっきは一人一人相手にしてたから、面倒くさくなっちまってな、纏めてでいいぞ。ほれ、かかってこい」
やはり受験者は困惑するが、何人かは予め選んでおいた得意武器を構えていた。どうやら、やる気みたいだな。
その中で、一人勇敢にも挑みに行ったやつがいたが、軽くあしらわれて吹き飛ばされていた。先程の武術組の服が汚れていたのは、これが原因か。
「ほら、どんどん来い。評価点が0点になっちまうぞ」
その言葉を皮切りに、突っ立っていた他の受験者たちも挑み始めた。流石に0点は嫌なのだろう。合格が遠のくしな。
しばらく担当官と受験者たちのやり取りを眺めていると、動けなくなっているものたちがチラホラ目立ち始めた。1番最初に挑んだやつなんかは、もう立ち上がれず座り込んでいた。
「そろそろ終わりそうだな」
そう言う担当官と目が合ってしまう。
「そういえばお前はまだ1度も来てないな。服が汚れていないじゃないか」
「服の汚れが関係あるんですか?」
「そりゃ、あるだろう。お前たちみたいな坊ちゃん嬢ちゃんに、世間の厳しさってもんを教えこんで無様に晒さないと、俺のストレス発散がままならねぇだろ」
やはりこいつはダメだな。根っからの小悪党だ。よくこんな奴がAランクに上がれたもんだな。
「Aランク冒険者らしくない発言ですね。品位が疑われますよ?」
「品位だぁ? いかにもお金持ちの言いそうな事だな。こちとらスラム上がりで、品位なんざ腹の足しにもならねえもんは、持ち合わせちゃいねぇんだよ!」
そういう事か……スラムで育ってきたもんだから、お金持ちに偏見があり僻んでいるんだな? その上での八つ当たりか。せっかくスラムからのし上がったってのに勿体ないな。
「よくそんなんで、Aランク冒険者になれましたね」
「そんなもんは実績を積めば誰でもなれるんだよ。あいつらは表の出来事にしか眼を向けねぇからな」
「裏では色々したと?」
「当たり前だろう。依頼の横取りや押し付けなんてのを繰り返しゃ、俺の手元に残るのは、依頼達成の証だけだ。奴らは疑いもせず「依頼達成おめでとうございます」なんて言うもんだから、腹抱えて笑いそうになったぜ!」
救いようのない馬鹿だったな。よくもまぁ、ベラベラと喋ってくれたもんだ。
「お前、俺がベラベラ喋ってんのを不思議に思ってんだろ? そんなのは簡単だ。ここにいるやつら全員を2度と俺に逆らわないように、恐怖を滲みこませりゃ、チクるやつなんて出てこないからな」
「そんな事が出来るとでも思っているんですか? ここは学院ですよ?」
「出来るさ。さっきの奴らもボロボロにしたが、誰一人試験官に報告しなかっただろう?」
その場にいた受験者たちは、これから起こる恐怖に身震いした。やれやれ、適度に試験終わらせてのんびりしたかったのに、とんだ災難だな……
「仕方ないな。あんたの様な奴は、放っておくと碌でもない事を仕出かすからな。試験官に突き出すとするよ」
「ハハハハハッ! 笑かすなよガキ風情が。お前如きにどうこう出来るほど、俺は弱くはねぇんだよ!」
「それじゃあ、俺の試験を開始するとしますかね。何もしないままだと本当に0点になるし、ちゃんと評価してくれよ? 担当官さん」
「舐めるな、クソガキがぁ!」
担当官はその言葉と同時に駆け、瞬時に間合いを詰めてくる。
(腐ってもAランクってところか……母さんに比べると遅すぎるが)
担当官の武器はグレートソードだし、剣の間合いだとこちらが不利だな。冷静になられても困るし、ちょっと煽るか。
武器を振りかぶっていたので直前で避けると、袈裟斬りに振り抜かれたその切っ先が地面へと突き刺さる。凄まじい音と共に砂塵が舞い、視界を一時的に塞がれる。
追撃がないようなのでそのまま佇んでいると、晴れていく砂塵の向こうから、奴のニヤニヤとした表情が見えてきた。
「少しは楽しめそうだな。坊主」
「こっちは楽しめませんね。馬鹿だ馬鹿だと思っていたけど、本当に馬鹿ですね。頭の中まで筋肉で出来ているんですか? 脳筋ですか? ただ、剣を振るだけなら、馬鹿にでも出来るって言われてますけど、まさにその通りでしたね。体現して頂きありがとうございます。お手本を確かに見せてもらいましたよ。」
煽り口調ってのは、丁寧語の方が響くって聞いたことがあるんだけど、効果はどうなのだろう? 煽ってるんだから、口調とか関係ないような気もするんだが。
「こんっの、クソガキがぁ!」
うわぁ……効果覿面じゃないか。明らかにブチ切れてるだろ、これ。顔真っ赤にして怒ってるし。
そこからの攻撃は実に読みやすかった。直情型の人で助かったな。何がなんでも斬ってやろうって思いから、剣筋は単調になってるし、動きが大きすぎる。
「当たりませんねぇ、お手本の時間をそろそろ終わりにして欲しいのですが……もしかして、真性の馬鹿なのですか? 馬鹿なフリをしているのではなく? もしそうなら、申し訳ありません。配慮が足りませんでしたね」
担当官の攻撃を避けつつも、煽りを忘れない。ムカつく奴には徹底的に扱き下ろして心を折る!
「ふざけやがってぇ!」
その後も全く当たらない大振りの剣筋が空を切る。飽きてきたし、そろそろ終わらせるか。
「じゃあ、避けるのも飽きてきたから、反撃させてもらうよ」
そう言って瞬時に後ろへ回り込むと、まずは右脚に剣を刺す。
「ぎゃあぁぁ!」
「ちょっと刺されたくらいでうるさいよ」
叫びながらも俺との間合いを取り直すあたりは、長年の経験の賜物か?
「次行くよー」
再び回り込むと次は左腕に剣を刺す。
「痛ってぇぇ!」
それにしてもうるさいな。何とかならんのかね、耳障りなんだけど。あとは、左脚と右腕か。逃げ回られても面倒だし、脚を狙うか。
「ほいっと」
瞬時に間合いを詰めて、左脚を貫く。
「ぐあぁぁっ!」
残るは右腕だけだな。さて、さっさと終わらせるか。そう思い、歩みよると担当官は後退り始めた。
「ひ、ひぃぃっ!や、止めてくれ、俺が悪かった。この通り謝るから、な?」
何故人は謝るからと言って、「ごめんなさい」を言わないのだろう? 「謝るから」が何時からか、「ごめんなさい」の代わりになってないか?
今まで、社畜をやっていた頃に「謝るから」と言って、本当の意味で謝った奴なんかいなかった。
この世界でもそこら辺は一緒なのか? 人の社会だし仕方ないのか……
「これに懲りたら2度と悪さするなよ」
そう言って踵を返すと、後ろから担当官が襲いかかってきた。
「馬鹿がぁっ!」
やはり三下はやる事が変わらないな。これも1つのテンプレってやつか?
「馬鹿はお前だ。無能め。」
そう言いながら振り返り様に、残しておいた右腕に斬撃を浴びせる。その瞬間、グレートソードと共に右腕が宙を舞う。
「ぎゃあぁぁ!俺の、俺の腕がぁぁっ!」
右腕が肩から無くなり、夥しいほどの血が流れる。このまま放って置いてもいいが、母さんに迷惑がかかるだろうしな、処置だけはしておいてやるか。
『ファイア』
肩の部分に火の手があがり焼いていく。皮膚を焼いたおかげで出血は止まったようだな。
もうこれで2度と右腕は元に戻らないだろう。この世界の回復魔法がどの程度効果があるか知らないが。
「熱ぃぃっ!」
こいつは叫ばないと済まない性格なのか? さっきからうるさすぎるぞ。さて、元の試験会場に戻るかな? ここまでしたんだから、俺は不合格だろう。
「おい、お前ら元の会場まで戻るぞ。一応、まだ試験中だしな」
そう言うと辺りで座り込んでいた受験者たちは、無言で何度も頷くのであった。ほとんどの者達は俺の方を見て顔を青ざめさせていた。
恐怖を与えようとしていたのは担当官で、俺の方じゃないんだがな。人生ままならないな。




