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面倒くさがり屋の異世界転生  作者: 自由人
第2章 王立フェブリア学院 ~ 1年生編 ~
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第17話 いざ、入学試験! ~筆記試験編~

 翌日、朝食を摂り終えると母さんから話があった。


「今日の試験は、一緒について行ってあげられないけど……1人で大丈夫?」


「大丈夫だよ。アレスが学院までは馬車で送ってくれるんだし」


「お母さん心配だわ」


「俺ももう初等部に入る年頃だよ? 1人で出来ないと周りに笑われてしまうよ」


「もしそうなったらすぐに言うのよ? お母さんが根絶やしにするから」


 母さん、いくらなんでも根絶やしは不味いと思うぞ。何かあっても自分で解決できるから、母さんの出番はないだろうけど。


「ケビン様、そろそろ時間です」


 閉じているドアの向こう側からアレスが声をかけてきたので、のんびり母さんと一緒に玄関まで向かった。


「では母さん、行ってきます」


「行ってらっしゃい。アレス、くれぐれもケビンの事はお願いするわね」


「畏まりました」


 馬車に乗り込み、閑静な住宅街を学院に向けて出発する。所々に同じ様な年頃の子供がいるので、試験に向かっているのだろう。


 少しして学院に到着すると、御者をしてくれたアレスに声をかける。


「じゃあ、行ってくるよ。帰りはいつ試験が終わるかわからないから迎えはいいよ。歩いて帰れるし」


「畏まりました。奥様にもそのように伝えておきます」


「よろしく頼むよ」


 そう答えて、ケビンは試験会場へと向かうのであった。


 学院内は広々としており、入学試験会場への案内表示もきちんとされていた。恐らく迷子防止だろう。それぐらいこの学院は広すぎる。さすがは王立と言ったところか。


 会場へ着くと受付が見えたので、そこへ向かい係の者に尋ねると名前を聞かれた。


「氏名を述べて下さい」


「ケビン・カロトバウンです」


「はい、確認しました。こちらが受験札になりますので、右胸に付けておいて下さいね」


 そう言われて渡された札は、円形の札に番号が書かれた簡素な物だった。ちなみに受験番号は《0301》だった。4桁あるって事はそれだけ受験者数が多いのか?


 全員合格するわけじゃないだろうから、1学年の学生はもっと少ないだろうけど。少し気になったので受付の人に尋ねてみた。


「4桁の番号になっているのは、それだけ受験者がいるのですか?」


「そうですね。さすがに1日では消化しきれないので、300人ずつわけているのです。筆記と実技で150人ずつ分けて、午前・午後で入れ替えて1日で300人消化して行きます。それを、全員終わるまで続けると試験期間は終わりですね」


「なんか途方もないですね」


「毎年恒例だから、もう慣れましたよ」


「大変でしょうけど、試験頑張るのでお姉さんも頑張ってください」


「ふふっ。貴方のような受験者は初めてですよ。大抵、受験者は今から受ける試験の事で頭がいっぱいですからね」


「社会勉強の一環として受けに来ているので、そこまで気負っていないんですよ」


「受験理由も変わってるわね。とにかく頑張ってね」


「はい、ありがとうございます」


 それから案内に従って赴いた先は、なんの変哲もないただの教室だった。10クラスあるので1クラス30人になるのか。程々の人数だな。


 自分の番号が書かれた席に座ると、することがない事に気づいてしまった。待ち時間の事まで考えていなかったのだ。


(始まるまで暇だな……)


 周りの生徒は手持ちの本を読みながら、復習しているような感じだった。まさに受験って感じだな。アウェー感が半端ない。


 暫くして試験官らしき人物が入ってきて、教壇の前に立つと試験説明が始まった。


「試験時間は2時間だ。わかっていると思うが、カンニングや不正を働いた者は即失格だ。その後の受験資格も未来永劫剥奪だ。愚かな真似はするなよ?

 途中退席は1時間経過した後から許可する。その時は知らせるので試験用紙を裏返して退出するように。なお、試験中の再入室は禁止だ。再度入ってもいい頃合は、扉を解放しておくので、それを目安にするように。

 それから、午後からは実技に入るので、昼食を摂ったら再度この場にいるように。集まり次第、実技試験場へ案内する。

 では、試験用紙を裏側のまま配るので、開始の合図をするまではそのまま伏せておくように」


 そう言うと試験官は、答案用紙を配りだした。一人一人配っていくあたり、不正に注意しているようだ。開始までは紙にすら触れさせないのか。徹底しているな。


「それでは、始め!」


 その合図とともに一斉に紙を裏返す音は、中々懐かしいものを感じた。それにしても、2時間もあるなんて相当難しい問題なのだろう。当初の予定通り筆記試験は捨てるしかないな。


 そんな事を考えながらボケーっと答案用紙の問題に目を通すと、足し算が書かれていた。


『!!』


 えっ!? 何これ? 足し算だよな? 間違ってないよな? 簡単すぎやしないか? 俺だけ問題用紙間違えてるのか? 周りを確認しようにもカンニング扱いされてしまうし、どうやって確認しようか?


『マスター、それで合ってますよ』


『えっ!?』


『マスターは転生者なんだから簡単で当たり前でしょ。普通の人は、足し算なんてあまり知らずに試験を受けたりするんですから』


 そうだった……普通の6歳児は足し算なんかあまり知らないよな。英才教育を受けてるやつは別だろうが。当たり前の事を忘れてたな。


 まぁ、1枚目は簡単で良かった。これなら、そこそこの点数は取れるだろう。50問もあって飽きそうだが。


 のんびり書いていき50問解き終わってから2枚目に移る。


『……』


 次は引き算だった。何これ? こんなんでいいの? これなら普通に合格しちゃうよ? 仕方ないから、引き算ものんびり解いていく。


 3枚目……掛け算でした。なんだろうこの脱力感……この流れでいけば次は割り算か?


 4枚目……案の定、割り算でした。四則演算は確かに普通の5歳児にしてみれば難問になるのかもしれないが、前世の記憶がある以上、俺には苦痛でしかない。


 悩む要素がないのだ。もうすでに、消化試合と化している。せめて5枚目からは別のに変わってくれ。


 5枚目……絵が書いてあってそれが何か答える問題だった。食べ物だったり、動物だったり、色々と……


 もう、なんか別の意味でやる気をなくしていく感じだ。さすがに絵が書いてあるので15問しか載ってなく50問なかったのだけがせめてもの救いだった。




 そう思っていた時期が私にもありました……


 6枚目……さっきの続きだった。きっちり落としてきたな。希望を持たせやがって。


 7枚目……さらに続く……もう、分かってますよ。次もなんでしょ?


 8枚目……きっちり50問。もう、打ち止めだ。俺はやり切った。


 9枚目……ジャンル的には一般常識か? ようやく頭を悩ませる問題が出てきた。やっと、試験らしく出来るな。


 まずは……この国の名前? まぁ、最初だしな簡単なやつにしたんだろ。次は……国王の名前? 国の名前ときたら次はこうなるよな。まだ序盤だし、期待を持とうじゃないか。


 結局、当たり前の事を聞かれていただけで25問終わってしまった。


 10枚目……予想通り、当たり前の事を残り25問解いただけだった……


 終わった……何だこの脱力感……やり切った感じじゃないタイプの疲れ方だ。そうだよな……6歳児に解かせるんだもんな。大人が解くような問題とか出るわけないよな。


 もう、疲れたから寝よう。開始から1時間もかからなかったし、無駄に問題数が多かっただけで、疲労感が半端ない状態だ。主に心労が……


 机に突っ伏してふて寝した。周りには諦めたと思われてるんだろうが、俺には関係ない。俺は疲れたのだ、寝かせてくれ……


 どうやらスヤスヤと寝ていたらしく、不意に起こされてしまった。


「君、1時間経過したよ。退出するかね?」


「ん……」


 あぁ、そういえば試験中だったか。マジ寝していたみたいだ。ここに居ても仕方がないから出るとするか。


「はい、出ます」


「また、来年頑張りたまえ」


「?」


 試験官にそう言われたが、もしかして試験中に寝てはいけないとか決まり事があったのだろうか。もしそうなら、試験は落ちたな。まぁ、どうでもいいが。


「はぁ」


 俺は曖昧な返事を返しつつ、教室を出たのだった。


 さて、少し早いが気分転換がてら、街にでも出てご飯でも食べるかな。


 校舎を出て街に繰り出そうとすると、受付のお姉さんと出会った。


「あら? 君、試験はどうしたの?」


「1時間経ったので、退席しました」


「難しくてあまり解けなかった?」


「まぁ、そんなところです」


 実は簡単すぎて、寝ていましたとは言えないな、さすがに。


「そうよねぇ、私もあれには苦労したわ。しかも問題数がやたら多いのよねぇ」


「多かったですね。嫌がらせかと思いました。それにしても、苦労したってことは卒業生なのですか?」


「そうよ。今は学院部に在籍しているわ」


「学院部は、仕事をしなきゃいけないんですか? 受付をしていましたよね?」


「違うわよ。毎年恒例で、人手不足という名の面倒くさい仕事の押し付けって感じで、ギルドからクエストが出るのよ。お小遣い稼ぎにはちょうどいいし、暇だったから受けたの」


「ギルドって事は、冒険者の方なのですか? とてもそうは見えないのですけど」


「そっちのギルドじゃなくて、学院ギルドよ。主に生徒からの依頼と学院からの依頼で成り立っているの」


「へぇ、学院内にギルドがあるなんて凄いですね」


「ところで君は今から何をするの?」


「する事がないので街に繰り出して、早めのお昼ご飯でも食べようかと思ったんです」


「そうなの? カフェテリアに行けば無料で食べれるわよ?」


「そうなんですか?」


 タダで飯が食えるならそっちの方がいいかな。でも、カフェテリアってどこだ?


「受験資料に書いてあるわよ。見てないの? 過去にはあなたのように街に繰り出して、午後からの試験に遅れる人が続出したから、学院が方針をかえて、受験者は毎年無料で食べれるようになったのよ」


「受験者は無料って太っ腹ですね。相当な量になると思うんですけど」


「試験が遅れるよりかはマシなんじゃない? 余りにも遅いと不合格になるし。そうなると、後々揉めるのよ」


 遅れてくるやつが悪いのにクレーム付けるのか? なんかしょうもない貴族辺りがしそうな事だな。


「カフェテリアって何処にあるんですか? 行ってみようと思うので」


「私が案内してあげようか?」


「でも、仕事があるのでは?」


「クエストならもう終わってるわよ。受付の仕事だけだし。それに暇だから別に構わないわよ? 未来の可愛い後輩のために、お姉さんが奢ってあげよう!」


「では、よろしくお願いします。でも、受験者は無料じゃなかったでしたか?」


「……こういうのは気持ちが大事なのよ! 気持ちでいっぱい奢るんだから、問題ないわ」


 親切(?)な受付のお姉さんで良かった。若干、天然が入ってそうな気はするが……


 こんな広い敷地を探し回るのは骨が折れるからな。案内してくれる受付のお姉さんに感謝だ。


 そういえば、名前知らないな。受付のお姉さんって呼ぶのもなぁ、クエストの依頼だから一時的なものだし……


「もし、宜しければ名前をお伺いしてもよろしいですか?」


「あらあらぁ、お姉さんを口説こうとしているのかな?」


「いえ、親切にして頂いてるのに、名前も知らないのでは失礼ではないかと思いまして」


「真面目ねぇ……そこは、顔を赤らめつつ、「そ、そんな事ないし!」って否定しないと萌えないぞ」


 えっ!? 萌えない……? もしかしてショタコンか? ショタコンなのか!?


「もし機会があれば、善処したいと思います。ちなみに、私はケビン・カロトバウンと申します」


 まぁ、機会なんてショタコンと分かった時点で、もう訪れることはないだろうが。


「知ってるわ。萌える子は記憶に留めているもの。私の名前はクリスよ。クリス・バージニア」


 危険だ……この人、ちょっと怖いぞ……


「今回はありがとうございます、バージニアさん」


「私を呼ぶ時は、【クリスお姉ちゃん】よ」


「分かりました。クリスさん」


()()()ちゃ()()!」


 もうやだよ……絶対にショタだよ、この人。しかも、期待に満ちた目でガン見してくるし……


「クリス……お、お姉ちゃん……」


「萌えるわっ!」


 おまわりさーん。ここです、ここに居まーす。


「そもそも、なんで呼び方に拘っているんですか?」


「だって君みたいな小さい子に、お姉ちゃんって呼ばれると萌えるじゃない?」


 俺に聞かれてもわかんねぇよ。こちとらノーマルだよ。


「でも年取ると大きくなりますよね?」


「いやーー! やめてっ! それを言わないでぇ!」


「それは、無理ですね。年を取れば成長するもんですし」


「ダメよ! 大きくなることを禁止します!」


 なんて人だ……無茶振りにも程があるだろ!


「もう、いっそのこと路線を変えてみたらどうです? 小さい子を狙っていたら危ない人と思うし、近寄りたくないですよ。せめて、年下に萌えるとか? 年齢で言えば自分より小さいでしょ?」


「……ッ! ケビン君、あなた天才だわ! その手があった! それさえあれば、Yesロリータ Noタッチの精神なんて守らなくてもいいわ。でゅふふっ……(じゅる……)」


 ヤバイ、猛獣に変な知恵をつけさせたかもしれない……未来の犠牲者よ、君たちの幸運を祈る。


 そんなこんなで、話をしているとカフェテリアについたのだった。緑溢れるオープンテラスのある雰囲気のいい店だった。メニューも豊富で飽きそうにない。


「何を食べるか迷った時はオススメが1番よ」


「わかりました。オススメにします」


 食事を受け取り席を探していると、クリスさんもオススメにしたようでこちらにやってくる。


「せっかくだし、テラスの方に行きましょうか? 今日は天気もいいしね」


「はい。お任せします」


 2人でテラス席に座ると、おもむろにクリスさんから質問された。


「ケビン君、実技はどうなの? 筆記がダメだったなら実技で取り返さないと入学は厳しいわよ」


「まぁ、落ちたところでどうということはないんですが。受付でも言ったように社会勉強のつもりで受験しただけですし」


「ダメよ! そこは何としてでも合格して!」


「何故です?」


「私の薔薇色のキャンパスライフが色褪せるじゃない! せっかく年下ならオッケーを貰えたのよ?」


 いやいやいや、俺に対してオッケーは出してないぞ。何考えてんだ、この人……全力で逃げ切ってやる!


「もし、合格しても初等部ですし、会うことはないですよ」


「大丈夫よ!」


 何が大丈夫なんだ? その途方もない自信は何処からくるんだよ。


「授業をサボってでも会いに行くわ!」


 やめてくれ……普通にしそうで怖すぎるんだが。


「授業をサボるような先輩は、普通に尊敬できませんね。軽蔑します」


 すると、モノクロの背景を背負い項垂れていた。それほどか? まぁ、抑止力になったなら好都合だが。


「ケビンくぅん、今のはお姉ちゃんグサッときたよ? もう、立ち直れないかも。明日には、沖に向かって歩いてる気がする……」


 沖って……ここ内陸だぞ。海に行くまで何日もかかるのに、なんで明日には海に着いてるんだよ。やはり後先考えないド天然だな。


「はぁ……わかりましたよ。授業に支障のない範囲内でしたら、会いに来ても構いませんよ。もちろん、合格しているかは知りませんが」


「ッ! やった!」


 立ち直り早ぇな、おい。何だったんだよ、俺の罪悪感との葛藤は。俺の気持ちを返してくれ。


 そんな中、ご飯は食べ終わったのだが、まだ少し時間があるからデザートでも頼むことにして、変な先輩との会話を続けたのだった。


 そんなこんなで、しばらくクリスさんとカフェテリアで過ごしていると、いい時間潰しにもなったし、これはこれでありだろう。


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