表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
97/504

鈴屋さんと取り立て代行っ!〈1〉

年末です。

仕事納めがまだな方も、もう冬休みの方も、ちょっとした合間に読める文量でアップしていきますので、まったりと息抜きにどうぞ。

 ニクス討伐から、碧の月亭に帰ってきたその夜──

 俺たちは疲れが溜まっていたのもあり、食事も早々に切り上げてそれぞれの部屋にもどっていた。

 明日からは、アルフィー達に屋根上での移動術を教えなければならない。

 レビテーションリングが、どれくらいの範囲で使えるのかも調べなくてはならないだろう。


「忙しくなるな……」


 ベッドにうつ伏せで倒れ込み、襲い来る睡魔を快く迎え入れようとそのまま目を閉じる。

 ふわりと睡魔に意識をもっていかれそうになった時、聞き慣れた優しい声がそれを阻止し繋ぎ止めた。


「アーク殿」

「んん……どうしたの、ハチ子さん……」


 目を閉じたまま答える。


「ふふ……もう驚いてもくれないのですか?」

「んん〜……急に現れるのはもう慣れたよ」

「……ふふ……そうですか。ではそのままで……」

「ん〜〜」


 ベッドが軽く揺れる。

 ハチ子がベッドの縁に腰を掛けたのだろう。


「背の傷のことです」


 ……やはりそれか……思ってたよりも早く来たな……


「ハチ子はこの傷は消したくない……です」


 しばし一考し、ため息を交えながら返事をする。


「……そんなものは、俺とのつながりにならないぜ?」

「アーク殿のくせに、今回は鋭いのですね」


 乾いた笑い声。

 それがどこか切なく感じて、俺は彼女の表情を見れなかった。


「なりますよ……つながりに……たしかにアーク殿と一緒に居たという証になります」

「……なるかな……?」

「なります。私がそう思う限り、それはなるんです。だから……」


 すっと背中に、柔らかな重みが生まれる。


「だから……背負わせてください。この背に、あなたとの時間を……」


 これを断れる男はいるのだろうか、と頭の中で言い訳をしてしまう。

 だが、彼女がそれを望むのだ。

 ただそれだけの願いくらい、叶えてやらないでどうするんだ。


「……ん、わかった」

「アーク殿……感謝します」


 すっと重みが消える。


「何なら、お子を宿させてくれたら、それこそ消えない証になるんですけどね?」

「バっ……あのなぁ、俺も雄だからね? そこそこいい加減だし、簡単に流されちゃうからね?」

「ですね。あんなに簡単に奪われてしまうのですから」

「……う……もう油断しません、スミマセン……」

「ふふ……ではまた明日。ゆっくり休んでくださいね」

「お、おう」


 ベッドが軽く揺れ、わずかにあった傾きがなくなる。

 それが妙に名残惜しく、声をかけようかと一瞬迷うが、かける言葉が見つからずにいた。


「……添い寝でもします?」

「バカ、絶対手ぇ出しちゃうから、大人しくもどって寝てください」

「ふふ、了解しました、アーク殿」


 チャッ……と扉が静かに閉められる。

 それからすぐに襲いかかってきた睡魔の侵攻に、俺は為す術もなく陥落してしまった。




 そして、次の日の朝──

 俺はまた、彼女の声で揺り起こされた。


「アーク殿、アーク殿。起きてください」

「ん~ハチ子さん? ……もう朝?」

「朝です。それよりも、また珍客が来てます」

「珍客ぅ〜?」

「はい、いま下で鈴屋が口説かれてます」

「はぃぃ?」


 がばりと跳ね起きる。


「こんな朝から?」

「はい、しかも知った顔です。私も同行します。行きましょう」


 俺は頷くと、ダガーだけを腰に挿し廊下に飛び出す。

 そのまま慌てて一階に降りると、そこにはたしかに見知った珍客がいた。


「あ~~くぅんん~~」


 鈴屋さんが俺を見るなり涙目で助けを求めてきたのは、珍客が苦手なタイプだったからだろう。

 ……そう……

 そこにいたのはアサシン教団のイーグル、黒き風のゼクス・ザ・サード、その人だった。

 金髪に蛇皮のシャツ、黒い革パン……相変わらずの、すかした表情でウイスキーをロックで飲んでいる。


「よぅ。ゼクスさんよ~。朝から鈴屋さん口説きにくるとか、どういうつもりよ」

「赤の疾風……鈴屋を口説くのに、お前からとやかく言われる筋合いはない……」


 ……こ、こいつはぁ……


「本当にそれが要件なんだな?」

「…………」


 ゼクスが、今度はハチ子の方に視線を移す。


「なんですか、視線が気持ち悪いです。こっち見ないでください」


 ……し、辛辣っ!


「なんなんだよ、ハチ子さんのことなら、もう話はついてんだろ?」

「……コートはたしかに回収した……だが、九龍牌はまだだ」


 九龍牌……たしかアサシン教団で、三位までに配られるマジックアイテムだっけな。影渡りが使えるようになるやつだ。


「はい、これでいいですか? はやく帰ってください。気持ち悪いんで」


 ハチ子が何の躊躇もなく、テーブルに九龍牌を置く。

 え、返すの? もったいない……とか思ってしまうが、それよりもえらい辛辣だ。


「たしかに返してもらったぞ」

「……もういいか?」


 しかしゼクスは、ゆっくりと首を横に振る。


「……仕事の依頼がある」

「は? 依頼? 俺たちに?」

「あぁ……」


 そして、たっぷりと間を取って……


「これから、もともと一位だった女……フェリシモから、コートと九龍牌を回収しに行く。手伝ってほしい……」


 などと、とんでもないことを言い出したのだった。

今回の話は短いですよ~

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ