表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【原作小説版・完結済】ネカマの鈴屋さん【コミカライズ版・販売中】  作者: Ni:
鈴屋さんと白毛のアルフィーっ!

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
96/536

鈴屋さんと白毛のアルフィーっ!〈7〉

お待たせしました、アルフィー編の完結になります。

少し長めです。

クリスマスの夜長に、まったりとお楽しみください。

 また俺は油断をしてやらかしたのか……と、よもすれば停止してしまいそうな思考を後ろから蹴り飛ばす。


 ……考えろ……どうすれば、全員を助けられる……


 優先すべきはハチ子の治療……村まで連続トリガーで移動するしかない……が、小さな村に司祭や医師がいるとは思えない……

 そもそも、逃してもらえるのか?

 相手がただのリザードマンキング・ニクスなら、わざわざ追っても来ないだろう。

 しかし、魔族であるウイルズの標的は俺だ。

 あいつがどこまでも追ってくるとしたら、やはりここで仕留めるべきだ。


 ……いや、でも……それだと、ハチ子が助からない……


「あーちゃんさぁ〜、もう少しあたしに頼ってほしいんよねぇ」


 いつの間にか俺の隣に、アルフィーが立っていた。


「ちぃとばかし、一人でなんとかしようとしすぎなとこあるん」

「アルフィー……だめだ、逃げよう」

「もぅ〜、さっきの威勢はどうしたん?」


 アルフィーが、白い髪を風に揺らせながら苦笑する。

 そしておもむろに片膝をつき、ハチ子の背中に手のひらを当てた。


「……な……に……?」


 ハチ子が真っ青な顔のまま、視線だけをアルフィーに向ける。


「心配しんでいいんよ」


 その表情は、どこか慈愛に満ちていた。

 そして彼女は小さく祈りを捧げる。


『鋼と戦争の神ジュレオ様、勇ましき戦士に天命の奇跡をお与えください……キュアー』


 軽く目を閉じてそう唱えると、手のひらがふわっと明るく光り、ハチ子の背中の傷がみるみると消えていった。


「……治癒魔法……神官だったのか?」

「んふぅ〜驚いた〜? ジュレオ様は鋼と戦争の神で、傭兵の中には多くの信仰者がいるんよ。刃物の使用を咎めない、戦士のための神様だかんね〜。だからうちの部隊は、ほとんどが神官戦士なんよ」


 にこやかに笑い、逆光を背負いながら立ち上がる。


「じゃ、あれ倒してくるから。今度はあーちゃん達が、そこで大人しく見てるんよ?」

「そこでって、ひとりじゃ……」

「大丈夫、大丈夫〜。あたしら窮鼠の傭兵団は、決して家族を見捨てないかんね」


 そう言いながら愛用のサーベルをくるくると回し、鼻歌交じりでウイルズに向かう。

 そのあまりにも不用意な距離の詰め方に、ウイルズの大剣が容赦なく襲いかかった。

 旋風とも呼べる豪剣が横薙ぎでアルフィーに迫っていくが、彼女は何一つ焦らない。


「相手が剣なら、私は絶対に負けないんよ?」


 余裕すら伺える笑顔を浮かべ、左手に持つスモールシールドでそれを迎え撃つ。

 しかしそれは、どう考えても無謀だった。

 ツヴァイハンダーの大振りを小さな盾で受け止めることなど、できるわけがないのだ。良くて骨折、最悪の場合、腕ごと両断されてしまうだろう。

 しかし彼女の強さは、俺の予想を遥かに凌駕していた。


『鋼と戦争の神ジュレオ様、我が盾に鋼の力をお与えください! セイクリッドシールドぅ!』


 ガッキィィィィンンンン!

 甲高い音が鳴り響き、大剣が真上に弾き返される。

 なんて非常識極まりないパリィだ。

 ウイルズは大剣を弾き上げられ、バンザイをするかのようなポーズでのけぞっていた。


「鈴やん!」

「任せてっ!」


 いつの間にか復活していた鈴屋さんが、元気に手を挙げて応える。

 復活の理由は、すぐに理解できた。

 神聖魔法の『トランスファー・マナポイント』で精神力を分けたんだろう。たしかゲームだとMPを任意の数値分、対象に移せる便利な魔法だ。


『ジンっ!』


 鈴屋さんが必殺の召喚魔法で、風の精霊王『ジン』が体現した瞬間、その勝負は決していた。

 ウイルズは、ほんの一瞬で霧のように細かく切り裂かれ、霧散してしまったのだ。




「魔族の討伐はぁ~私たち冒険者の仕事ですぅ~」


 キリッとした表情で、前を歩くアルフィーが言う。

 隣では顔を真赤にするハチ子と、くすくすと吹き出す鈴屋さんの姿がある。

 俺たちは無事ニクスの討伐を終え、レーナに向かっているところだった。


「あと……阿吽こそが、私とアーク殿の武器です……だっけ? ……ぷぷっ」

「鈴屋さんまで……あんまり虐めてくれるなよ」

「……死んでしまいたい……」


 あぁ〜涙をためてしまうほど恥ずかしいとは……それはそれで、良からぬ情動が生まれちまうのだから、俺はどうかしている。


「いつまでも、あー君に守られてばかりの私じゃないんですよ〜だ」


 水色の髪を揺らせながら、べぇ〜と小さい舌を出してくる。

 ちきしょう、憎たらしいより可愛いのが強いとかずるいだろうよ。


「……んでも、また地形が変わっちゃったろ?」


 そう、鈴屋さんの召喚魔法は調節が難しい。

 先ほどの戦闘でも、風の精霊王『ジン』の力が強すぎて、河原を砂浜に変えてしまっていた。


「助かったんだから、いいじゃない」

「……まぁ、そうなんだけどよ。助かったのは、主にアルフィーのおかげだし……」

「いやいやぁ〜。あたしじゃ、あんな化物を一撃で屠るなんてできないんよ。あたしは、きっちりガードして、大技が当たるスキを作っただけなん」

「そうだよ。ああいうのを作戦通りの連携って言うんだよ、あー君?」


 むぐぐ……ぐうの音も出ないとは、正にこのことだ。


「あれはアーク殿が悪いわけでは……私が腕を切り落とすのに、手間取ったせいで……」

「……いや、もう少し早く退避するべきだった。判断が遅れたのは俺の責任だ」

「そんな……」

「痛かったろ?」

「……いえ」


 綺麗な黒目が、まっすぐと向けられてくる。


 一瞬、無言で見つめ合い……


「あー君」


 そこへ、いかにも気にいらないといった表情で、鈴屋さんが横槍を入れてきた。


「人前ですぐ二人の世界に入るの、どうかと思うの」


 正確には、“私の前で”なんだろう。

 だからといって、見えないところでならいいという訳でもなかろうに……


「そんなつもりは、ないんだけど……スミマセン……あぁでも今度、ハチ子さんの鎧も新調しなきゃな。教団支給の魔法のコートは置いてきちゃったんだろ?」


 ハチ子がこくりと頷く。

 そうなると、今のハチ子の防具は革鎧と、その下に着ていた革のワンピースだけなわけで、ちょっと装備としては心許ない。革鎧は今回の戦闘で完全に壊れてしまったし、買い替え時と言えるだろう。


 ……魔法の防具……普通に売ってりゃいいんだが……

 たしか何が売られているかは、完全にその時の運なんだよな。


「私は、背中の傷も消したげたいかな。南無っちに相談しようよ」


 鈴屋さんの言葉通り、ハチ子の背中にはうっすらと一筋の刀傷跡が残っている。

 アルフィの治癒魔法では、完全には傷跡を消せなかったのだ。


「ごめんね〜どうもあたしの神聖魔法じゃ、駄目みたいなんよ〜。深手だったせいもあるんだけど……司祭様クラスじゃないと難しいかもなん」

「……私は別に……傷が残るくらい問題ないです」

「いや、いいわけないだろ」

「アーク殿、私は本当に……」

「とりあえず鈴屋さんの言う通り、南無子に相談しようぜ?」


 もし司祭クラスに頼んで消えないようなら、俺の傷の時と同じでウイルズの特殊攻撃だったのかもしれない。

 それならば尚のこと、南無子に診てもらった方がいいはずだ。


「……すみません。ありがとうございます」


 深い紺の髪が、さらっと流れ落ちる。

 しかしその表情は、なぜか複雑の面持ちに見えた。


 ……何か思う所があるのか……?


「んでぇ~。あーちゃん、そろそろ教えてくれるん?」

「……んあ?」

「んあ? じゃないん。リザードマンキングの討伐と、あたしらの仕事と、どうつながるん?」

「あぁ~~それはね、この依頼の報酬がさ……」


 俺は、含みをたっぷり持たせた笑顔で返すのだった。




 それから、二ヶ月後の話である。

 昼下がりのレーナ市街地では、明るい声が聞こえていた。


「ちわ〜、安心、快速の白鼠宅急便でぇ〜す!」


 陽気な声で入ってきたのは、窮鼠の傭兵団第三部隊に所属している女傭兵の一人だ。

 薄手の黒いタイツに赤チェック柄のミニスカート、上は黒色の毛糸で編まれたノースリーブ。

 いまアルフィーの部隊は、全員がこの魅力的な制服に身を包んでいる。

 鈴屋さんプロデュース、ラット・シー製の制服はすこぶる可愛い。


「おっ、いいところに来てくれたね。この酒とオマリンエビを、十三街区のロン爺さんに届けてくれよ」

「はぁい、毎度ありぃ!」

「あ、例の特急便で行けるかい?」

「了解でぇす! 特急は追加料金になりますね。毎度どうも!」 


 女はそう言うと、腰の袋から小さな羊皮紙を取り出し、それを二つ折りにして空に投げる。

 羊皮紙は瞬く間に空を飛び、三分もすればまた手元にもどってきた。

 あれで仕事の依頼が来たことを、アルフィーに連絡しているのだ。

 二つ折りにしたのは、特急便でって意味だろう。


 この不思議な空飛ぶ羊皮紙は、アルフィーが持つレビテーションリングによるものである。これこそが、ニクス討伐の報酬でもらったマジックアイテムだ。

 この指輪で羊皮紙を一度叩くと、その羊皮紙は一日限りだが指輪のもとに戻る魔法がかかる。要はアナログなメールみたいなものだ。

 距離に制限はあるが、街中で使う分には問題はない。

 これを使って宅急便まがいのことをしようと、俺は思いついたわけだ。これなら素早く情報をまとめつつ、荷物の運搬の指示が行える。

 加えて、彼女たちは身軽で足が速い。

 俺はそんな彼女たちに、ニンジャスキルで磨き上げた屋根上での移動術を教授し、さらに機動力の底上げをした。

 そんなこんなで、今やレーナの屋根上は、何十人もの可憐なくノ一が飛び交っている。


「んじゃぁ、特急便で行ってきますね!」


 彼女はそう言うと、瞬時にラット化をする。

 昔ならここで嫌悪の目が向けられたものだが、今やこのサービスは定着されつつある。

 そのせいか、そういった差別もかなりなくなっていた。


 ラット化した彼女たちは、俺の教えたパルクールばりの移動術を駆使し、屋根の上を軽やかに駆けていく。

 時にはその移動中に別の仕事の依頼を受け、また羊皮紙を飛ばす。

 しばらくしたら、また別の人員がそこに派遣されてくる。

 今や水着事業を遥かに凌ぐ、一大ビジネスとなっていた。


「あー君は、またここの景色を変えたね〜」


 屋根上で座る鈴屋さんが、ミルクに口をつけながら言う。


「あー君、私に地形を変えるなって言うけど、あー君は景色を変えちゃうよね」

「……そんなつもりは、ないんだけどな。なんか大事になっていくよな」

「いいんじゃない? 悪いことじゃないもん」

「……んだねぇ」


 可憐な白鼠宅急便部隊を眺めながら、エール酒を飲み干す。

 なによりレーナの住人と仲が深まるのは、いいことだろう。


「そうだな、悪い気はしないな」


 笑顔でそう呟くと、鈴屋さんがかるく寄りかかってきた。


「そだね、悪くないね」


 鈴屋さんは、そう優しく微笑んでくれるのだった。

【今回の注釈】


・旋風とも呼べる豪剣………旋風剛拳といえばタン・フー・ルー。昔の格闘ゲーム、餓狼伝説のキャラですね。インパクト大な超必殺技でしたね

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ