鈴屋さんと白毛のアルフィーっ!〈6〉
次の話が思いついたので、早く書き上げてしまいたいという衝動にかられています。
あと2話くらいで終わるかなぁと思っております。
それではアルフィー編、ワンドリンク片手にお楽しみください。
「アルフィー!」
俺は咄嗟に彼女の名前を叫び、華奢な肩に手をかけた。
「あーちゃん?」
彼女は少し驚いた表情を見せるが、まだ背後の脅威に気づいていないようだった。
しかし、説明をしている時間はない。
俺はそのまま力任せにアルフィーを引き寄せると、体を入れ替えるようにしながら、右手に持つニンジャ刀をニクスの腹に突き立てる。
しかし、横たわるニクスの腹から見覚えのある真っ赤な鉤爪が生えると、俺の突きをたやすく弾き返した。
「な……なんなん、そいつ……」
俺の胸に身をあずけるようにしながら、アルフィーが声を震わせて言う。
「わりぃ、俺の客だわ……」
安心させようとして見せた笑顔は、さぞや引きつっていることだろう。
なにせ目の前で立ち上がろうとしているリザードマンキング・ニクスの中身は、倒したはずのあの悪魔なのだ。
「アーク殿っ!」
振り向かずに頷く。
ハチ子なら、それだけで俺の考えを理解するだろう。
「あれ、俺の目をやった相手でね。名をウイルズってんだよ。倒したはずなんだけどな」
「あーちゃん……ほんとに……」
「カカカ……何者なんだろぅねぇ」
見上げてくるアルフィーの頭に手を置き、乾いた笑いを返す。
そしてゆっくりと立ち上がりながら、左手でダガーを逆手持ちで抜く。
アルフィーも立ち上がり、武器を構えようとする。
しかしその剣先が、ほんの僅かだが震えているように見えた。
「状況が変わった。アルフィーは、鈴屋さんの前でパリィしててくれ。俺とハチ子さんでやる」
「あーちゃん、あたしは大丈……」
「あなたは下がっていてください。魔族は初めてなのでしょう?」
すっと、隣にハチ子が現れる。
「……舐めないでほしいんね。私は窮鼠の傭兵団の……」
「舐めてないさ。アルフィーの防御は完璧だ。だから、今は動けない鈴屋さんを頼む」
アルフィーが、俺とハチ子を交互に見て言葉を飲み込む。
「魔族の討伐は、私たち冒険者の仕事です。ここは私とアーク殿にお任せを。それよりも、鈴屋が半分気を失っています。後衛で彼女を守ってください、シールドマスター」
「……作戦はあるん?」
「カカッ、そんなもの……な?」
隣に立つ相棒に、視線を移す。
「えぇ。そんなものは、ただ一つ。阿吽こそが、私とアーク殿の武器です」
「そう、成り行き任せのな」
忍者刀の剣先をウイルズに向けて構えると、ハチ子が忍者刀の棟の部分に青白く光るシミターを軽く当ててくる。
その剣先に、震えはない。
「いつでも……アーク殿」
あの夜のことを思い出し、高揚感が高まる感じがした。
「よぅ、ウイルズ。てっきり滅んだのかと思ってたんだが……しつこいな」
“……反乱の槍……楔の者を……討つ……”
ひどくしゃがれた声だった。
前回の骸骨の時もそうだが、リザードマンの声帯でどうやって喋ってるんだ。
まぁ、とりあず悪魔だし、その辺は何でもありなのかもしれない。
「その意味深なワードの意味、ぜひとも教えてほしいね」
“……滅せよ……”
「あぁ、そうかよっ!」
マフラーを上げて駆ける。
同時にウイルズの腹から、人と獣を混ぜたような真っ赤な腕が2本生えてくる。
その手には、禍々しい鋭い鉤爪が鈍い光を放っていた。
……呪いの一撃……ハチ子に行かないよう注意しなきゃな……
「フッ!」
俺は体を大きくひねり、一回転するようにして左手のダガーを振り落とす。
ウイルズはそれを鉤爪で滑らせるようにして受け流す。
しかし俺は、そのまま駒のように回転し、右手の忍者刀を縦に振り落とす。
視界からウイルズが見えなくなっても、かまうことなく回転し、そのままダガーから忍者刀へとつなげる三回転の斬り技を放つ。
ニンジャの上位戦闘スキル『颶風・回転斬り』だ。
肉を斬る確かな手応えを感じつつ、身をかがめるようにしながら着地をする。
それとほぼ同時に、ハチ子が俺を飛び越してシミターで斬りかかった。
影渡りも使わずについてこれているのだから、驚きを通り超してもう笑ってしまうレベルだ。
攻撃と同時に斬撃の結界を張るのは、いかにも彼女らしい堅実的な戦い方だ。
俺はその間に体制を立て直し、距離をとりながら再び構えに入る。
同時に、右隣へとハチ子が戻ってきた。
一瞬、視線を合わせる。
……なんとまぁ嬉しそうな表情を見せているんだ……
きっと本人も気づいていないんだろう。
出会う順番が違っていたなら……なんて言葉は失礼なんだろうな……
「アーク殿?」
「……ふぇ?」
どうしたのかと、ハチ子が小さく首をかしげる。
「あ……いや……ちょっと見惚れて……」
「ふぇっ!? ……なっ……あっ……やっ……せっ、戦闘中ですよ!」
「お、おぅ!」
慌ててウイルズへと、視線を戻す。
「あ……あの鱗は相当に堅固です。できれば、鈴屋が開けた大穴を狙いましょう!」
「そ、そうだな。あのやばそうな腕が邪魔だけど、あれを狙おう!」
「そうしましょう!」
「そうしよう!」
二人して声が、うわずっている。
いや、ほんとに鈴屋さんがダウンしていてよかった。
目の前で、こんなベタなラブコメ見せられないぞ。
“……穿つ……”
ラブコメモードの、お邪魔虫が動き始める。
ウイルズは、やっと攻撃モードに入ったようだ。
となると、あの両手剣と盾が機能するのか……あまり時間はかけたくないな……
「ハチ子さん、速攻でいこう。飛ぶぞっ」
深い黒の瞳が瞬きもせず、こちらに向けられる。
そして凛とした表情を崩すことなく、こくりと頷いた。
本当に理解が早くて助かる。
俺がテレポートダガーを構えると、ハチ子が控えめに右手を握ってきた。
すぅと一呼吸を置いて、ウイルズの頭めがけてダガーを投げつける。
しかしウイルズは、巨大な盾で難なくダガーを弾いてしまう。
「トリガーっ!」
瞬間後、空中に弾かれたダガーの元へと転移をし、そのまま颶風・回転斬りをウイルズの真っ赤な腕めがけて放つ。
まるで回転のこぎりのような攻撃が、どす黒い血しぶきを掻き分けるようにしながら腕を切り裂き、一気に両断する。
「っしゃぁ!」
着地と同時に顔を上げると、ハチ子がもう一方の腕を斬り落とそうと残像のシミターを振り下ろしていた。
とどまる残像が弾けば、両断できそうだが……
「ハチ子さんっ!」
俺の視界の左側から、強烈な殺気が生まれる。
リザードマンキング・ニクスの大剣が、ハチ子を横斬りで薙ぎ払おうとしていたのだ。
「ハチ子さん、無理だ! 下がるぞ!」
「あと少しっ……あと少しでっ」
留まる残像が、真っ赤な腕に食い込んでいく。
しかし、これまでだ。
「駄目だ、飛ぶぞっ!」
俺はそう叫ぶと、右手でハチ子の肩をつかんで後方にダガーを投げつけた。
「トリガーっ!」
剣風を背中に感じながら転移をし、ウイルズの攻撃範囲からギリギリで逃れる。
ウイルズは大剣を空振りし、大きく体勢を崩しているようだ。
「あっぶね……間一髪だ。ハチ子さん、大丈夫か?」
「……す、すみません……」
がくん……と、右手の重みが増す。
「ハチ子さん?」
「……大丈夫……です……」
ハチ子が顔を真っ青にして、僅かに口元を緩ませる。
そしてそのまま崩れるようにして、倒れてしまった。
「ハチ子っ!」
倒れたハチ子の革鎧は、肩から腰までの部分で完全に切り裂かれ、その奥にある白い肌までもが見えてしまっていた。
そしてその背中からは、鮮やかな血が勢いよく流れだしていたのだ。
【今回の注釈】
・颶風・回転斬り………月風魔伝というレトロゲームにあったジャンプ回転斬りです。回転中は無敵という高性能。回転斬りができるゲームはたくさんありますが、そのほとんどが高性能ですね。




