鈴屋さんと白毛のアルフィーっ!〈5〉
5話目です。
アルフィーさん書いてて楽しいです。
あったかくしてお楽しみください。
リザードマン、ニクス──
身長は二メートルを優に超えている。尻尾まで入れた体長なら、四メートル近いだろう。
尻尾による攻撃はリーチも長く、一撃で致命傷を負いかねない。
全身を覆う強固な鱗は、言わば天然のスケイルメイルだ。ドラゴンほどではないにしろ、ダガーでは効果的なダメージを与えられないだろう。
しかし何よりも注意すべきは、右手に持つツヴァイハンダー……つまり両手剣だ。
ニクスはあろうことか、両手でしか扱えないはずの大剣を、片手で握っているのだ。筋力ペナルティなしで振れるのだとすれば、恐るべき怪力である。
逆の手にはラージシールドを持ち、まさに攻守ともに完璧だ。あんなでたらめな装備、人間には到底真似できない。
「鈴屋さん。リザードマンキングのモンスターレベルってさ、たしか騎士隊長クラスのはずだよね?」
「……そうだね」
「あれ、どう見ても騎士隊長クラスじゃないよね……」
「うん。イベントボスレベルの化け物に見えるね」
俺と鈴屋さんが緊張した面持ちでニクスを注視していると、ハチ子が静かにシミターを抜いた。強敵であることが伝わったのだろう。
「やはり、私も出ましょうか?」
「……いや……」
……たしかに、ハチ子と全力攻撃でもして倒したほうが、いいのかもしれないが……
「あーちゃん、それはあんまり、おすすめしないんよ。あの盾は簡単に通らないと思うん」
アルフィーが、僅かに笑う。
盾の使い手でもあるだけに、何か感じ取れるものがあるのだろう。
「あー君、私が全力奇襲するってのは?」
「いやいや、こんなことで地形を変えるわけにはいかないぜ」
「んん~じゃあ、召喚魔法は使わないで、精霊魔法で魔力の集中をして威力を上げるとかは?」
……おぉ……集中……そんなものあったな、そう言えば……
集中は所得スキルではなく、ゲーム内では誰もが使えるコマンドだ。
用途も色々ある。
防御集中をすれば、攻撃をできない代わりに回避の数値が向上する。相手の魔法に対する抵抗も集中で高められる。
魔法をかける場合は、逆に魔法抵抗の難易度を上げたり、威力を上げたり、範囲を広げたりと応用要素が多い。
特に魔法系は、レベルが上がれば魔法を使用する際の消費精神力が減り、基本魔法攻撃力が上がるため、集中で威力をさらに上げれば、初歩魔法ですらとんでもない攻撃力になってしまうのだ。
何よりも魔法による集中は、精神力を消費する代わりに、効果の倍率を上げられるのが強みだ。
とんでもない精神力の持ち主なら、いくらでも威力をあげられるってんだから、高レベルの魔法使いはまさにボス専用のダメージソースってわけだ。
「そんなもの、すっかり忘れてたぜ」
「あー君は私のこと、ちょっと理解が足りないと思う」
不満気に口をとがらせて、長い耳をぴょこぴょこと動かす。
はい、かわいい。
「まぁ、ボス専用決戦兵器って認識だったのは謝ります……」
かわいいってことだけは、すごく理解してるんですけどね……と、心の中で付け加える。
「じゃあ、奇襲……ちょっと本気気味でいくから、あー君とアルフィーさんは前に出過ぎないようにね」
「鈴やんって、それほどなん?」
「……鈴屋の本気は恐ろしいですよ」
ハチ子が、代わりに答える。
いったいどんな本気を見たのか、今度聞いてみたいものだ。
「じゃぁ、あー君。カウントしてくれるかな?」
「了解。カウントゼロで、鈴屋さんはブッパ。俺とアルフィーは飛び出すけど、距離を詰め過ぎないってことで……いくよ?」
三人が頷くのを確認し、指を三本立てる。
……3
……2
……1
ゼロのタイミングでニクスを指をさし、ハイドクロースから俺とアルフィーが飛び出した。
「集中っ! ストーンブラスト、二十倍っ!」
後ろから精霊魔法の名称と、コマンドが聞こえる。
呪文詠唱なし、精霊語も使用しない非常識っぷりは、この世界の精霊魔法使いにとってチートそのものだろう。
鈴屋さんの場合は、精霊そのものを名指しで呼び出して使役させる、この世界で唯一のスキル『召喚魔法』まで使用できるのだから、レーナでの有名っぷりがとどまるところを知らない。
その可憐さも手伝ってか、ひと目でも鈴屋さんを見ようという『鈴屋観光』なるものが密かなブームとなるほどだ。
それに比べて俺のモブっぷりと言えば、である。
まぁ俺的には、日陰を生きる忍者らしくて大変よろしいのだが、嫉妬心がゼロなわけではない。
もちろん、いろいろな意味で……
このまま順調にストレスを貯めていけば、そのうち『モブ忍者100』の出来上がりだろうよ。
この時も、そうだった。
俺とアルフィーは、鈴屋さんの圧倒的な攻撃力を前に言葉を失ったのである。
「うへぇ〜、鈴やん……半端ないん……」
アルフィーが朽ち果てたニクスを、サーベルの剣先でツンツンとしながら言う。
俺もそれに頷きつつ、ニクスの死亡確認をするために、恐る恐る近寄った。
鈴屋さんが放ったストーンブラストは、精霊魔法の中でも初歩の部類に入る。
対象が個人だが中々に高火力で、燃費がよく射程も長い。
鈴屋さんのレベルなら更に燃費がいいため、二十倍も集中で上げられるのだろうけど……その威力たるや「えげつない」の一言に尽きる。
まず、ストブラのビジュアルが違う。
通常のストブラは、ノームの力を借りて放つ無数の石礫で、平たく言えばショットガンである。
それだけでも、十分高火力であることは『生き物危険ババーン!! キャー』的なゾンビゲーをやっていれば、すぐに理解できるだろう。
しかし先程のは……ショットガンというよりは、ガトリングガンである。
時間にしておよそ十秒ほど、秒間で何発撃ってんだよと言いたくなるような石礫の乱射は、ニクスの巨大な盾を弾き、あっという間に蜂の巣にしてしまったのだ。
「ごめんね、あー君……ここだとMP管理が難しくて……ちょっと精神力を使いすぎちゃったみたい……」
そう言いながら、後方の茂みからハチ子の肩を借りた鈴屋さんが姿を見せた。
ステータス画面がないからな。
MP管理に関しては、俺も苦労している。
「あぁ、そこで座ってて」
俺は笑顔でそう答えると、ニクスの前で両膝を折って座った。
「見てよ、あーちゃん。腹がこんなにえぐれてるん。あとちょっとで貫通なん」
「うげぇ……さすがにグロいぜ……よく平気で見てられるな」
「あ〜……だって、あたしら戦争屋だかんねぇ」
戦争……
そうだ、彼女は凄腕の傭兵だ。
戦場こそが彼らの生業なのだから、言葉では表現できないような凄惨な光景を、いくつも乗り越えてきているのだろう。
「んでも、こんな破壊のされ方は見たことないんよ? うちに欲しいくらいなん」
「やめてくれ、それだけは」
真顔で返す。
鈴屋さんを戦争に駆り出すとか、本当にそれだけはやめてくれ、だ。
「冗談よぅ、あーちゃん」
その笑顔にすら、俺は表情を崩さない。
「あぁ……うん、ごめんねぇ?」
「……ん……」
小さくうなずく。
真剣に嫌だってのが、伝わればいい。
……しかし……なんだ、この感覚……
さっきからなにか……まとわりつくような殺気を感じてならない。
「……ん? どうかしたん?」
アルフィーが首を傾げて、覗き込んでくる。
「……あ、いや……なんかさっきから殺気というか……なにか、前にも感じたことのある気配というか……」
「感じるん?」
……感じる。
覚えている……確かこれは……
「そうだ、これは」
その時だった。
絶命しているニクスの腹の中に、影のようなものが僅かに蠢いた。
そして俺はその気配を……その映像を思い出した。
『……我は、ウイルズ……楔をつけ破壊をする……反乱の槍……』
「なっ!」
確かにそう聞こえた。
それはまさに、幽霊船で倒したはずの魔族ウイルズのものだった。
【今回の注釈】
・モブ忍者100………モブサイコ100です、ごめんなさい。アニメオススメします。OP曲も最高。
・生 き 物 危 険 ババーン!! キャー………バイオハザードです、ごめんなさい。




