鈴屋さんと白毛のアルフィーっ!〈4〉
アルフィー無双です。
まったりゆっくりお楽しみください。
「あー君、あー君」
本日も大変麗しい鈴屋様が、いつもの呼び方でマフラーの右側をクイクイっと引っ張ってくる。
「なぁにぃ~鈴やん~?」
「あの……アルフィーさんじゃなくて、あー君に話しかけてるんです」
「うんうん、知ってた~」
そして、けらけらと笑う。
本当に心底楽しそうで、それはラット・シーの住人らしいといえばそれまでなのだが……
「アルフィー、もう少し声を殺してくれ……バレるから……」
「あーちゃん……なんかソレ……やらしぃん~~」
「なっ、何の話だよっ!」
「あん……声大きいよぅ……もう、あーちゃんったら~」
ぬおぉぉぉぉぉぉ……駄目だ、この人は掛け合いで絶対に勝てないタイプだ。
思わず頭を抱える俺に、鈴屋さんがまたちょいちょいとマフラーを控えめに引っ張る。
「……あー君……」
「あ、はぃ……」
お説教かなと空気を察して、鈴屋さんの方に体を向けて正座をする。
背中越しでアルフィーが声を押し殺して笑っているが、ここで振り向けばまた思う壺だろう。
ここは無視という、勇気ある戦略的撤退をするのだ。
「なんでしょぅ」
「……私はね……まぁ、いいんだけど……」
「鈴屋、それでは駄目です」
むぅと鈴屋さんが艶のある唇を、小さいへの字にする。
なんか久々に、くぁわいぃじゃないですか。
「……あー君……ちょっと……」
「……はい」
「しっかりしなさい」
……お……おぉ……なにこの、心臓を鷲掴みされたかのような緊張感……癖になりそう……
「……あー君?」
「あ、はぃ。ごめんなさぃ」
鈴屋さんが、小さなため息をひとつする。
そして飼い犬をたしなめるかのように、ぽんぽんと頭を叩いてきた。
どうやら許してくれたようだ。
そのひとつひとつの動作が可愛らしく、俺はその感情が顔に出ないよう必死だった。
「鈴屋、それでは駄目なんです」
「……えぇっ!?」
ハチ子の厳しい物言いに、鈴屋さんが目を見開いて驚く。
俺はというと、二人の妙なやり取りを目の当たりにして……え、なにこの状況……って感じだ。
ハチ子が厳しく言うのも珍しいし、それを鈴屋さんにってのもまた奇妙に映る。
「でも、あー君もわかってるみたいだし……」
「……いいですか、鈴屋。ワーラットっていう種族はですね……」
「話終わったん~?」
アルフィーは待ちきれなかったのか、ハチ子の言葉を遮るようにして割って入ってくる。そして、俺の後ろから両手を首に回して抱きついてきた。
断っておくが、背中に胸が当たるなんてラブコメは発動していない。むしろ彼女のスケイルメイルが、ガチガチと当たって痛いくらいだ。
「ちょっと、アルフィーさんっ!」
「あーちゃんさ〜」
そしてこの無視っぷりである。もはや、わざとこの2人を挑発しているのではと勘ぐってしまう。
「……あのぅ、俺は今、反省中なんスけど……できれば、かまわないでもらえます?」
「あーちゃんさ〜、私と子作りしない?」
……脳がフリーズした……
えっと……なに……どういうこと?
「あ……あ……アルフィーさん!」
「鈴屋……だから言ったんですよ。ワーラット族は一夫多妻制で、繁殖意識が異常に高いんです。特に女は誰彼構わず子供を作ろうとするので有名なんです」
「ちょっと~それ酷すぎるん。あたしだって、ちゃんと相手くらい選んで言うてるんよ?」
「あなた方に、そんな基準などないでしょう?」
「あんね〜。あーちゃんはそこそこかっこいいし〜強いし〜見たことない戦い方するし〜強いし〜怒んないし〜強いしぃ〜条件としてはこの上ないと思うんよ〜」
「戦闘民族……強さの血統が欲しいだけじゃないですか」
「それのなにが悪いん。女なら、強い男に惹かれるもんじゃないん?」
「そ、それは……」
「そしたら、その人の子を欲しいと思うんは普通と思うんよ」
ハチ子がむぐっと言葉を飲み込み、真っ赤になってこちらに視線を移してくる。
「ま……待て……待て待て待て。俺はまだ結婚もしないし、子供なんて作らないぞ!」
「え〜……まぁ、結婚はええんけど、子種だけでも欲しいんよ〜」
「ちょっと、さっきから言ってることが無茶苦茶だと思うんですけど。あー君も嫌がってますし……」
さすがの鈴屋さんも、黙っていられないらしい。
少し眉を寄せながら、むっとして答える。
あと、嫌がっていると取ってくれてありがたいです。実際の俺は、ただただ狼狽しているだけだったからな。
「ん〜……さっきからさぁ、お二人はあーちゃんの何なん? 好きなん?」
思わず鈴屋さんと顔を見合わせ、2人して口ごもる。
「あ、あぁ……えぇっと……」
俺が返事に困っていると、ハチ子が大きめのため息をついた。
「……見ての通り、鈴屋とアーク殿は煮え切らない仲です。ちなみに私は、アーク殿の愛犬です」
おぉ……さすがはハチ子。簡潔かつ的確な答えをありがとう。
さりげなく犬から愛犬に昇格してるっぽいのが気になるけど……そこの“犬”って漢字を“人”に変えるだけで色々と話が面倒になるので、ここはあえて触れないでおこう。
「ふ〜ん、つまりあたしにもチャンスあるんね〜」
「いや、俺は鈴屋さんひとす……」
「あ〜あとさぁ〜、その眼帯さぁ~」
やはり絶妙なタイミングで、話を切られてしまう。
「目ぇ、やられたん最近なん?」
「……目?……あぁっと、少し前に怪我をして今は治療中で……」
「治療中ぅ〜〜?」
アルフィーが俺の頬を両手で挟み、強引にぐりんと後ろに向かせる。
そして吸い込まれそうなほど深い水色の瞳が、ゆっくりと近寄ってきた。
「い、いたひ……です……」
「取っていい?」
「……まぁいいっスけど……」
アルフィーが、にかっと笑みを浮かべて強引に眼帯を外す。
後ろで鈴屋さんたちがなにか文句を言っているようだが、俺は今それどころではない。
「いて……いててっ。こら、乱暴にすんなって」
「んんん……」
アルフィーが、さらに目を大きく見開いて覗き込んでくる。
あまりの顔の近さに、俺は思わず口元を右手で覆った。
「なに、あーちゃん」
「……いえ、また奪われないための防衛本能っス」
「そう何回もやらんて~。それよかさぁ、目のまわりは傷あるんけど、目玉には傷ないんよねぇ」
「……んあ……まぁ……」
「ん~~傷はないんに……おかしぃん。あーちゃん、もう目ぇ見えてないんでしょ?」
……なぜ、気づいた!?
その洞察力に、思わず息をのむ。
そして、鈴屋さんの表情を確認したいという衝動に駆られる。
鈴屋さんには経過良好とだけ言ってあるのだ。じゃないと、また泣き出しそうな顔で心配し始めるだろう。
……しかし振り向けない……
いま振り向けば、鈴屋さんに俺の表情を読み取られる。俺のロールなんて、秒で看破されるに決まっているんだ。
「いや……ぼんやりと見えてるし……だんだん治ってきてるよ」
「んんん~……さっきの戦い方、見えてる人のそれとは違うんよねぇ」
「それは片目での戦い方に、慣れてきたってことだろ?」
「ん~そうなんかなぁ~」
納得がいかないのかガラス玉のようにキラキラとした水色の瞳で、じいっと見つめてくる。
「あ~、あとね……あーちゃんさぁ」
「……なんだよ?」
「眼帯焼けしてるよ?」
そして、ぷっぷっぷと吹き出す。
「うえ……まぢで?」
俺は慌てて鈴屋さんの方に顔を向けた。
すると、さっきまでの不機嫌な表情はどこへやら、鈴屋さんがふるふると小刻みに震えて、口元を緩ませていく。
「……ちょ、あー君……こっち見ないで……ふ、ふふっ……もぅ……」
「そんなにひどい?」
「うん、あー君……ちょーダサぃ……」
そして、小さい声で笑いだす。
その笑顔に、少し救われる気がした。
月並みだけど……極めて月並みな台詞だけど、やはり鈴屋さんは、泣き顔よりも笑顔の方が似合っていると思うのだ。
だからやはり、この目の事は言わないでおこうと考えてしまう。
「静かに……アーク殿、あそこ……来ましたよ」
ハチ子が、冷静に水辺を指さす。
「……来た?」
ハチ子がこくりと黙って頷く。その鋭い視線が、緊張感を呼び戻させる。
アルフィーを引きはがし、川の方へと目を向ける。
そこには確かに、体長2メートルは超えるであろう巨大なリザードマンの姿があった。
「……思っていたよりもでかいな……あれがニクスか」
「見るからにボスキャラだね、あー君」
鈴屋さんも、少し緊張した面持ちだ。
ゲーム内でも、あんなでかいリザードマンなんて見たことがない。
「あーちゃん、どうするん?」
「……鈴屋さんは、ここから精霊魔法で奇襲……俺とアルフィーは水辺に出て防衛ラインを作ろう。ハチ子さんは鈴屋さんのそばで後方を注意して、あとは成り行きで動いてくれ」
3人が頷くのを確認し、先ほど同様に属性付与の術式を施す。
「相手は一匹だ。クールに行こうぜ」
俺が緊張を解きほぐすために笑顔を作って見せると、3人がプッと吹き出した。
「……なに?」
「眼帯……忘れてるよ、あー君……っぷぷ」
「あっ、日焼けか」
「アーク殿、ハチ子は別にそれでも……くくっ」
ハチ子まで笑うとは……さすがに恥ずかしくなってきた。
「終わったら返してあげるから、気張んなよ。あーちゃん♪」
「え、待て、いま返せ。すぐ返せ」
しかし何よりも、その反応を楽しんでいるアルフィーに返す気など起きるわけもなく、俺はただただリンゴよりも顔を赤くしてしまうのだった。
次回、やっとニクス戦です。




