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鈴屋さんとキャプテン・オブ・ザ・シップ〈5〉

短いですが楽しく書いています。

気軽にお楽しみください。

 鈴屋さんに再びウィル・オ・ウィスプを召喚してもらい、さらに船の中を進む。

 ほどなくして階段を見つけ、俺たちはさらに地下へと足を踏み入れていた。

 相変わらず廊下と船室が続き、やがて広めの部屋に到達する。


「……ここは?」


 ハチ子が両手でしっかりとマフラーを握りしめながら、不安げに声をあげる。


「食堂……かな? ……燭台とかあるし……」


 いかにもな長いテーブルと、何脚もある椅子から予測する。


「何でもいいから、早く終わらせようよ、あー君……」


 まったくもって同感なのだが、なにせ俺も何を探しに来たのか知らないのだ。

 あのフォーチュンテラーの婆さんも、もうちょっと具体的な情報をくれればいいのにと、心の中で悪態をつかねばなるまい。


「うぅ〜ん……この部屋は、何もなさそうだなぁ」


 一通り家具や調度品を確認し、なにか仕掛けはないかと見て回る。

 部屋を調べるのも手分けをすれば速いんだろうけど、この2人は手綱を握ったまま放そうとしない。

 まぁ……シーフの“捜索”スキルを持っているのは、俺だけだしな。

 いずれにしろ、俺が全部見るしかないのだ。


「ぴゃっ……!」


 小さな悲鳴とともに、マフラーの左側がぐいっと引っ張られた。


「な……なに、鈴屋さん?」


 見れば鈴屋さんが顔面蒼白で、大粒のナミダをボロボロとこぼしはじめている。


「あー君……足……足……」


 鈴屋さんは引きつった表情を浮かべて、自らの左足に向けてちょいちょいと指を二度指した。

 自然と視線が、足元へとゆっくり移動していく。

 軽く内股に構えるスカートのスリットから、白くて細いふくらはぎが悩ましくも覗かせている。


 そして……その細い足首を、真っ青な右手が力強く握っていた。


「あぁ……くん……」

「……お、落ち着いて……」


 俺がゆっくりとダガーに手をかける。

 後から考えれば、もっと素早く攻撃すべきだったのだが、このときの俺は、まるで体についたゴキブリを撃退するかの如く、「動くなよ、動くなよ」と注視しながら、ゆっくりと武器に手を伸ばしていた。


「んっ……ひいぃぃぃいぃいいいやぁぁぁあ!」


 鈴屋さんの悲鳴が船内に轟く。

 ライトハンドが、まるで殺気に気づいたゴキブリのごとく、鈴屋さんの左足を登り始めたのだ。

 もはや手付きが、痴漢のそれである。


「いやぁぁ!」


 ぞわわわっと真っ白な足を撫で登り、スリットをも持ち上げていく。

 反射的に俺の右足が閃いた。


「なに勝手にお触りしてんだ、この野郎っ!」


 思わずカッとなり放った俺の蹴りが、ライトハンドを壁まで吹き飛ばす。

 ライトハンドは、小気味良い音をたてて地面に落ちると、そのままひっくりかえりピクピクとしていた。


「ゴキブリかよ、まったく。うらや……腹立たしいっ!」

「アーク殿……」


 ハチ子が、少し呆れているご様子だ。

 たしかに最初から撃退しておけばよかったと、軽く後悔をする。


「もぅやだぁ〜〜」


 びえぇぇぇんと泣き出した鈴屋さんに対しては、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

 こんなクエスト受けて、本当にごめんなさいだ。


「とにかく、ここを離れよう」


 俺は鈴屋さんの肩に軽く手をおいてから、さらに先へと進んだ。

 移動中も後ろからは、ひっくひっくと嗚咽が聞こえてきていて胸が痛む。

 マフラーも、左側だけ妙に弱々しく握られてるように感じた。

 たまらず俺は足を止め、少しでも元気づけようと笑顔を見せる。


「鈴屋さん、ごめんね。きっと、もう少しだから……」


 ……が、振り向いた直後に俺はそのまま固まってしまった。


「おにぃちゃん、どうしたの〜?」


 そこには小学校低学年にしか見えない、水色の髪の幼女がマフラーの端を握って見上げていたのだ。




 落ち着いて整理をしよう。

 俺たちは例のライトハンドに襲われ、これを撃退し先に進んだ。

 鈴屋さんもそこまでは、いつもの美少女エルフだったはずだ。

 しかしその数分後、俺のマフラーを掴んでいた鈴屋さんが、身長120センチの幼女になってしまっていた。

 本人には幼女になっていった過程の自覚はなく、記憶の損失もない。


 ただし……


「あのね、あのね、鈴屋ね、どうして小さくなったのかまったくわかんないの!」


 どこぞの軍服で戦う幼女の喋り方ではなく、本物の幼女のソレである。

 若干、幼児退行しているのかもしれない。


「か……かわいぃ……」


 俺の尊厳を守るために言っておくと、今の発言はハチ子である。


「ねぇねぇ、ハチ子さんは、どうして小さくなってないの?」

「それはわかりませんが……かわいぃぃ……」


 俺にはハチ子の目がハートになって、しっぽをパタパタと振っているようにすら見えてきていた。


「鈴屋、私とアーク殿の子になりませんか?」

「おい……」

「ん〜〜それはむりぃ!」


 ロリ屋しゃんが水色の長い髪を揺らせながら、大きく手でバッテンをつくる。


 ……鼻血が出そうなほど可愛い……


「あのね、私はおにいちゃんのお嫁さんになるの。だから無理なのっ!」

「お……おぉぉぉぅぅぅぅ」


 やだ……ロリ屋しゃんの後ろに花畑が見えてきた。


「この子になら、アーク殿をとられても致し方ない……」

「ごめんね、ハチ子さん。俺は婿の貰い手がみつかったよ」


 幼女を目の前に2人で悶ていると、突然ロリ屋しゃんが「わぁっ」と抱きついてきた。


「おにぃちゃん、鈴屋はどうやったらもとに戻れるの?」

「いいんだよ、そのままで……」

「えぇ……鈴屋は今くらいがちょうどいいです」

「えーっ! あのね、あのね、鈴屋はぁ、もとにもどりたい!」


 ……ちきしょう、天使の姿をした悪魔め……


「わかった、なんとかしよう。きっと、あの右手が犯人だ」


 俺たちは涙をのんで、ロリ屋しゃんをもとにもどすために、先程の食堂に行くことにした。

【今回の注釈】

・あのね、あのね………はたらく細胞の血小板ちゃんより。あの可愛さは狂気

・軍服で戦う幼女………血小板ちゃんとは対極に位置するターニャ・デグレチャフ様です。会話だけで楽しめてしまうほどの素晴らしい台詞回しと声優陣ですね

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